自社で稼働している生産設備が適切な能力を発揮するためには、日頃の保全活動が欠かせません。細やかな保全活動を行えばこそ、初めて大きな事故やトラブルを起さず、生産計画にもとづいた稼働が実現するため、なにを基準とし、どの程度の間隔で実施するかのプランニングはあらゆる企業が頭を悩ませます。
一方で、むやみに保全活動の回数を増やすことも、コストやリソース面での負担が発生します。そこで本記事では保全活動の中でも、コストや信頼性の面から注目を集めている予知保全についてご紹介します。
関連記事:設備保全とは?種類や課題、保守との違い、IoT・AIの活用方法を解説
設備の予知保全(予兆保全)とはどのような手法?
予知保全とは設備の稼働状況から、故障などのトラブルになり得る可能性を事前に察知し、必要なメンテナンスを行う方法であり、予兆保全とも呼ばれています。設備は突然トラブルを起こすわけではなく、異常な音や温度、作業精度の低下など、何らかの兆候が見られるものです。設備の稼働状況をリアルタイムでモニタリングすることでこれらの兆候を逃さず察知し、致命的なトラブルが発生する前にメンテナンスを実施するのが予知保全の基本的な考え方です。
IoTの発達により、設備側から提供される稼働ログ以外にも、カメラやセンサーを通じて稼働データを取得できるようになりました。取得できるこれらのデータはリアルタイムで膨大な量が蓄積されるため、人力で分析し、保全活動へと活かすことは困難でしたが、さらにAIの進化によりこのようなビッグデータの処理・解析技術が発展したことで、メンテナンスに最適なタイミングを把握できるようになりました。
従来の設備保全といえば、故障が発生した際に保全活動を行う「事後保全」や、時間や設備の状態について、一定の基準を定めてメンテナンスを行う「予防保全」が主流でしたが、予知保全はこれらの手法に対してコスト面でも、リソース面でもメリットが大きい手法として注目されています。
予防保全と予知保全の違い
前述した通り、トラブルを未然に防止する保全活動として予知保全ではなく「予防保全」いう手法を目にすることが少なくありません。予防保全と予知保全は同じく「故障が起こる前にメンテナンスを行う」活動を指すため混同されやすいのですが、実際にはメンテナンスを実施するまでのプロセスが大きく異なります。
予防保全とは一定の時間・日数や、設備の稼働回数・状態など一定の基準を定めた上で、定期的に対応を行う保全活動のことを指します。過去のデータが不十分であっても一定のトラブル防止効果が期待できる手法ですが、トラブル発生のリスクを抑えるためにメンテナンス頻度を高めればコストやリソースに無駄が生じ、頻度を落とせばトラブルが発生しやすくなる点が課題となっていました。
これに対し予知保全では、設備トラブルの前兆が見られた際、つまりメンテナンスの無駄が生じず、致命的なトラブルにもならないタイミングを知ることができるため、コストやリソースの効率化とトラブル防止効果を高いレベルで両立できます。ただし導入するためにはIoTやAIによる設備稼働データの収集と分析が必須で、これらが十分でない場合にはたとえ導入しても十分なパフォーマンスを発揮できない可能性があります。
関連記事:予防保全とは?目的やメリット、予知保全・事後保全との違いを解説
予知保全の構成要素と導入の進め方
予知保全の考え方について説明しましたが、ここからは予知保全が具体的にどのような要素から構成されているか、そして導入にはどのようなステップが必要か進め方について紹介します。
センサー等IoTによる設備稼働データの取得
予知保全の基盤を担うのは設備稼働データの収集・蓄積の仕組みです。設備機器から稼働ログを取得できる場合はそれらのログを、稼働ログが得られない設備や、設備間を接続する箇所などのデータを集積する場合にはカメラやセンサー等を用いてデータを収集する仕組みを構築します。この際、アナログメーターのようにデジタルデータ化が難しい部分に対してはAI画像解析などのシステムを組み合わせてデータ化します。
関連製品:Solomon META-aivi
これらに加えて複数の拠点におけるデータを統合管理する場合には、データ収集箇所の近辺で素早くデータを処理するエッジコンピューティング技術や、全てのデータをインターネットで集積するクラウド技術などを組み合わせます。
AIによる分析(ビッグデータ処理・機械学習等)
次に集積したビッグデータをAIによって処理します。「正常な稼働状態」を理解し、異常なログやデータが見られた場合にそれが「トラブルの兆候」であると正しく判断するには、機械学習やディープラーニングの仕組みが必要不可欠です。設備管理システムやデータを蓄積したクラウドにAIを組み合わせることで、これらの分析体制を整えます。
システム等を通じて異常を通知する
実際にトラブルの兆候が見られた際には、設備保全の担当者にアラートを検知したり、稼働を続けることが危険な場合には一時的に設備を制御したりといった対応を行います。アラートの出し方は予知保全のシステムによってさまざまで、システムに接続しているPC等の端末上にアラートを表示させるに止まる場合もあれば、異常を検知した場合、指定したメールアドレスにアラートを通知してくれるシステムもあります。そのため、保全活動の体制や方針に応じて、最適な通知方法を搭載したシステムを選ぶとよいでしょう。
予知保全のメリットや効果
ここまでの内容でも一部触れていますが、改めて予知保全にはどのようなメリットがあるのか、細かく見ていくことにしましょう。
保守コスト・リソースの節約
予知保全では定期的な保守作業が不要となり、同時にメンテナンスや部品交換によるコスト・リソースを節約できます。一定の時間経過や使用回数などの基準を設定せずとも、蓄積されている稼働データとAIの分析によって部品の寿命が十分残っているかを確認できるため、部品交換や人員の出動回数を減らすことができるでしょう。寿命が残っていても交換されていた部品を最後までしっかりと使えるという意味で、環境負荷を軽減しているとも言えます。
トラブル等のリスクを最小限に抑えられる
たとえば「外部要因など何らかの問題により著しく設備の消耗が早い」といった場合、時間や使用回数を基準とする予防保全ではトラブルにつながりますが、予知保全であればリアルタイムのデータから前兆を察知できる可能性があります。さらに、AIによって複数のデータの相関関係を分析することで、異常の根底にある本質的な原因を見つけ出すこともできます。その結果トラブルの発生を防ぐとともに、起こってしまった際の影響度を最小限に抑える、あるいは同じようなトラブルを繰り返さないといったように、設備保全の水準を徐々に高めることもできるでしょう。
設備保全の技術継承が進めやすい
人の感覚に頼った設備保全では、設備の状態を把握するのに経験や知識が必要となり、これらは単なる教育だけで身に付くもののではありません。設備を知り、さまざまなトラブルと向き合うことでのみこのような技能を習得できますが、予知保全ではこのような「経験や感覚が必要とされる部分」をIoTやAIで代替するため設備保全の属人化を防止できるのに加え、保全担当者はメンテナンス作業に集中できるため、技術継承が容易になるといったメリットをもたらします。
関連記事:技術継承において企業が抱える課題と解決方法、成功事例を紹介
予知保全のデメリット・課題
コストやリソースの節約につながり、技術継承も容易となる予知保全ですが、デメリットも存在します。
質の高いビッグデータが必要
正常と異常を正しく判断するには、大量の「正確なデータ」が必要です。そのためには、データの収集・蓄積はもちろん、データに含まれるノイズは極力取り除く必要があります。振動やセンサーに付着した汚れなどのわずかな外的要因であっても、設備の情報としてビッグデータに組みこまれてしまう恐れもあるため、設備やカメラ・センサー周辺の環境を整えた上で、正確に設備と連携する必要があります。
イニシャルコストが生じる
設備の稼働データ取得の仕組みや、AI分析などのシステム導入に要するコストは少なくありません。そのため、導入時には費用対効果の検証が求められるでしょう。しかし、予知保全システムは、実際に設備で稼働させてみなければ、正確な効果やコストパフォーマンスはわかりません。そのため、故障のリスクが低い、影響度が小さいといった設備の場合は予知保全を導入せず、予防保全や事後保全に留める方が費用対効果に優れる場合もあります。
予知保全は難易度が高いものの導入の効果は大きい
予知保全の導入には、設備に対する知識や経験とともに、予知保全そのものへの理解やその根幹を担うIoT/AI技術に対する理解が欠かせません。IoTやAIを活用した予知保全は、従来の保全活動とは一線を画すもので、正確に導入すれば大きなメリットが得られるでしょう。実際に公的機関がこのような保全活動を支援する動きもあり、このような一連の取り組みが「スマート保安」として知られています。
関連記事:スマート保安とは?メリットや普及への取り組み、具体的な事例を紹介
しかし、コストや技術的難易度の高さもあり、全ての企業が導入に前向きかといえばそうではないでしょう。そこで導入を効率的にすすめるには、専門の企業へ相談を行う方法が考えられます。導入事例が豊富であり、拠点の状況に合わせて最適なシステムを選定できるシステムベンダーやSIerといった存在は強力なパートナーとなってくれるでしょう。