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技術継承において企業が抱える課題と解決方法、成功事例を紹介

技術継承において企業が抱える課題と解決方法、成功事例を紹介

技術継承は生産性の維持向上や事業の安定化において重要な取り組みでありながら、多くの企業が課題として抱えており、その背景にはさまざまな要因が潜んでいます。本記事では、技術継承における課題点やその解決方法、実際の成功事例について解説します。

IoTやAIをはじめとしたデジタル技術の発達により、多くの企業が業務の自動化や品質改善、コスト削減に成功しています。しかしその一方で、デジタル技術以上に重要である独自のノウハウがうまく継承されず、事業継続の危機に瀕している企業があることをご存じでしょうか。

本記事では、事業の継続や発展において求められる技術継承について、企業が抱える課題や解決方法、技術継承の成功事例について紹介します。

技術継承とは

技術継承とは、熟練した従業員が持つノウハウを、後継者にあたる若手従業員に受け継ぐことを指します。特に製造業においては「職人技」という言葉があるように、ある業務に長年従事したベテラン従業員のノウハウによって生産性や品質が支えられている場合が少なくありません。技術継承の大きな目的は、ベテラン従業員の離職に伴う生産性・品質低下の防止と、若手従業員のスキルアップによるさらなるノウハウの発展、事業の成長にあります。

企業が抱える技術継承の課題と背景

技術継承は一見、入社時の研修や日々の業務で自然と進むものだと感じられるかもしれません。しかし実際には技術継承に課題を抱えている企業が多く、その背景にはノウハウというものの性質が関わっています。

製造業におけるノウハウは、一般的に「技術」と「技能」に分けて考えられます。「技術」は業務における「方法」や「手段」であり、図面や設計、文章などによって表現できる客観的な情報として、「知識」と言い換えることができます。例えば、ある製品の設計や製造工程、製造時の機械の操作方法が技術にあたり、設計書や業務マニュアルといった形で記録し、継承することができます。

一方で「技能」は業務における実際の行動を左右するもので、経験に裏打ちされ人に内在する主観的な情報、すなわち「能力」と呼ぶことができます。これらの能力は感覚やコツとして捉えられていることが多く、言語化して継承するのが難しい、あるいは相応の期間がかかるのが特徴です。

これら2つの言葉は混同して使われる場合もありますが、厳密には技能の継承がボトルネックとなっている企業が多く、厚生労働省の調査によれば約80%の企業が技能継承に不安を抱えています。なお本記事では、技術や技能といったノウハウの継承(承継・伝承)、あるいはそのための活動を総じて「技術継承」と表記します。

参考:厚生労働省 平成30年度 ものづくり基盤技術の進行施策「概要」 p.5

技術継承不足によって生じる問題

技術継承が十分ではない状況でのベテラン従業員の離職が、生産性や品質に悪影響を与えることは容易に想像できます。しかし、技術継承不足によって生じる問題やリスクはこれだけではありません。

事業の継続困難

業務に対する十分なノウハウをもつ従業員が1人もしくは数人しかいない場合、その従業員が離職した段階でノウハウは断絶し、取り戻すのは難しくなるでしょう。結果として、生産性や品質の大きな低下から採算が合わない、ある商品の製造自体が出来ないといった形で、事業の継続が困難になるリスクがあります。

離職率の上昇

若手社員にとっては、技術継承により早期から多くのスキルを身につけ、業務を円滑に進められることがモチベーション向上につながる場合もあるでしょう。逆に技術継承が十分でなく、スキルがなかなか身に付かないと、業務における肉体的・心理的なストレスの増加やモチベーションの低下から早期離職を招く懸念があります。

対外的な競争力の低下

技術継承が不十分なであっても、設備投資や人員の増加で生産性を維持できるかもしれません。しかしながら、加速度的に技術が進歩している現代において、現状維持だけでは不十分です。積み重ねられたノウハウに新しい技術を組み合わせることが技術革新につながり、国内での、あるいは世界的な競争力を高めます。その基盤となるノウハウが継承できていなければ、企業の競争力低下は避けられません。

なぜ技術継承ができないのか?

技術継承が業績や事業の継続にも関わる重要な取り組みであるにもかかわらず、多くの企業でうまくいっていない背景にはさまざまな要因が潜んでいます。

若手従業員の不足

技術継承はノウハウを受け継ぐ従業員がいなくては成り立ちませんが、製造業は全体の就業者数に加え、若年就業者も減少している人手不足の状態にあります。厚生労働省の調査によれば、2002年〜2021年にかけての約20年間で製造業の就業者数は157万人、34歳以下の若年就業者数は121万人減少しています。

参考:2022年版 ものづくり白書(令和3年度 ものづくり基盤技術の進行施策)「概要」 p.4

従業員のコミュニケーション不足

ベテラン従業員と若手従業員は世代や年代の違いから、業務におけるコミュニケーションが不足しがちです。世代や年代が違えば、働き方や業務に対する心構えも違うもの。ベテラン従業員は「ノウハウは経験を積んで身につけるもの/人を見て吸収するもの」と考える傾向がある一方で、若手従業員は「ノウハウは会社やベテラン従業員から教えてもらうもの」と考える傾向があります。このような中では技術継承につながる積極的なコミュニケーションは生まれないでしょう。

業務の自動化による意識の希薄化

人的な作業が発生する限り、ノウハウが不要な業務はありません。たとえ機械を用いた作業の自動化が進んだとしても、設備のオペレーションや、設備トラブルの予測、速やかな復旧にはノウハウが必要です。とはいえ、作業の自動化が進めば若手従業員であっても一定の生産性や品質を担保できることから、技術継承に対する意識が希薄化している側面もあります。

ベテラン従業員への負担

ベテラン従業員にとって、本来の業務と並行して技術継承を担うことは大きな負担となります。したがって、業務をベテラン従業員に依存してしまっている状況では十分な技術継承は期待できません。その場合は人員配置から見直す必要があります。

また、誰からも教えられることなく、長年の経験でノウハウを積み上げてきたベテラン従業員は、「教える」ことに苦手意識を感じ、技術継承において心理的な負担となる場合もあります。

短期的/直接的な利益の重視

技術継承を含む長期的な人材育成より、短期間でダイレクトに業績を改善するための施策を重視する企業もあるでしょう。対外的な信用や財務面で考えると、短期的な業績は確かに重要です。しかしベテラン従業員の高齢化が進んでいる以上、技術継承を後回しにすることは長期的なリスクを増加させることに他なりません。

技術継承を促進する方法・取り組み

さまざまな要因が絡み合い、多くの企業の課題となっている技術継承ですが、促進するためにはどのような方法が考えられるのでしょうか。

技術継承を促す社内制度の整備

まずは技術継承をする側/される側の双方にとって無理なく、メリットのある社内制度が必要です。具体的には、次の3つの視点がポイントとなります。

技術継承の機会創出

ノウハウは実際の業務において磨かれるものですが、従業員にとってはミスなく業務を遂行することが最優先。業務に対して試行錯誤し、理解を深める余裕がない…といったこともあるでしょう。このような場合は、定期的なフォローアップ研修や、業務に対するフィードバックなど、技術継承を目的とした機会を積極的に設けることが求められます。

技術継承への取り組みを評価する制度

技術継承は長期的な施策となり、足元の業績や成果としては見えづらい場合もあります。そのため定量的な成果だけでなく、事業継承に対する取り組みを評価や給与として反映することで、技術継承をする側/される側双方のモチベーションアップを図るべきです。

一例としては、資格取得の支援や報奨金制度があげられます。ここでの資格は、国家資格や民間資格に限りません。ノウハウだけでなく、技術継承への意欲や教育スキルを独自の社内資格として認定し、手当を付与することで、すでに複数の資格を保有しているベテラン従業員にとっても事業承継の意義を感じられる制度となるでしょう。

高齢従業員の継続雇用

技術承継のボトルネックとなっている人材不足の解消や、それに伴う組織改革は一朝一夕で進められるものではありません。そのため、高齢従業員に対して再雇用や延長雇用の制度を定め、継続して勤務してもらうことも検討の価値があります。継続雇用にあたっては、教育を中心とした業務内容とし、体力的な負担を軽減することで、勤務を受け入れてもらうといった工夫も必要です。

技能の可視化

ノウハウの中でも言語化が難しい技能を継承するためには、映像や画像、文章など、客観的に理解できる形への変換(可視化)が必要です。主な方法としてはベテラン従業員の業務を録画する、ヒアリングを通して技能を言語化するなどが考えられます。このような可視化は、後継者がいない状態でも取り組める点を押さえておくべきでしょう。

また、場合によってはAIの活用も有効です。ベテラン従業員の業務風景の分析や、言葉にしづらい感覚の言語化はAI、特に画像認識AIや生成AIの得意とする領域です。事前に可視化したノウハウを蓄積、共有できる仕組みはナレッジベースとも呼ばれますが、昨今ではAIを組み合わせたナレッジベース構築システムが技術継承に課題を抱える企業の注目を集めています。

関連記事:AI活用がナレッジベース構築やナレッジマネジメントを加速させる理由

技術継承の仕組みを構築した事例

株式会社内野製作所

東京都八王子市に本社を構える株式会社内野製作所は、自動車・自動二輪車のレース用歯車の製造を行っていますが、一時期製造現場の平均年齢が50歳を超えるなど、従業員の高齢化に課題を抱えていました。

そこで従業員のキャリア形成を手厚くサポートする人事制度や、従業員のスキルアップを目的とした能力開発機会の提供、高い技術力をもつベテラン従業員の再雇用に加え、外部研修や資格取得に伴う費用を全額会社が負担するといった制度を整えることで、人材育成と技術継承に成功。多くの国内自動車・自動二輪車メーカーと取引を行うまでに成長しています。

参考:経済産業省 2023年版ものづくり白書(PDF版) p56

株式会社ワールド山内

株式会社ワールド山内(北海道北広島市)は高い精密さが求められる航空宇宙産業や新幹線、自動車など幅広い分野の部品加工を強みとしていますが、加工機械と生産管理システムの連携や全作業工程のシステム化、マニュアル化など、積極的にDXを進めている企業です。

中でも特徴的なのは、工場内のWebカメラによる作業者の動きの分析や、トラブル対応時の振り返りなどIoT技術を駆使した従業員教育。しかしながら決してシステムに依存することなく、人材育成の教材は同社の山内社長が自ら作成し、毎月研修を実施しています。研修は新入社員の他、若手やベテラン社員を問わず誰でも参加が可能。入社2〜3年目の社員にも講師を担当させることで、ノウハウの言語化とプレゼンテーションスキルの向上を図っています。

参考:経済産業省 2020年版ものづくり白書(PDF版) p.156

株式会社キャステック

埼玉県加須市に位置し、自動車用ダイカスト金型の部品を製造する株式会社キャステックが新入社員教育やOJTにかける期間は約1年。多品種少量生産を主とする同社ではノウハウが品質に大きく影響することから、資格受験費用の全額負担や合格者の表彰と報奨金の支給制度を定めています。また、前年度の受験者が今年度の受験者に指導を行うといった形で、技術継承に求められるコミュニケーションスキルを高めていることも特徴です。

参考:経済産業省 2019年版ものづくり白書(PDF版) p.227

技術継承は企業や業務の改革に通ずる

企業にとって、自社が持つ独自の技術や、その上に従業員が積み上げてきた技能は貴重な資産です。しかしながら多くの企業においては従業員の高齢化やそれに伴う人手不足により、これらの資産が失われる、ひいてはさらなる経営危機を引き起こすリスクに直面しています。

唯一の解決策である事業承継を円滑に進めるために重要なのが組織の変革と技能の言語化。そしてAIをはじめとしたデジタル技術も鍵を握っています。本記事を参考に、自社における技術継承の取り組みを見直してみてはいかがでしょうか。

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