関伸一の「ものづくりDX研究所」連載
【第1回】ものづくりDXを机上の空論にしない
皆さん、はじめまして。関ものづくり研究所の関と申します。製造現場に関わって40年以上が経ちますが、まだまだその道を究められてはおりません。その理由は私自身の力量不足もありますが、世の中の技術がすごい勢いで変化しているという側面もあります。つまりものづくりに終わりはないと言えるのです。
本コラムでは今現在様々な場で取り上げられている「DX」をテーマにこれからものづくり、特に製造現場がどうあるべきかを私の視点でお話ししていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
(執筆:関伸一/関ものづくり研究所)
DXって何だっけ
DXという言葉が世の中に広く認知されるようになってからもう6年近くが経つでしょうか。では、DXとは何でしょう? もちろん「デラックス」ではなく、「Digital Transformation」の略で、経済産業省では以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
「変革」という言葉が2度出てきます。そこで私は「DX=デジタル変革」と訳すことにしています。これを分かりやすくまとめたのが図1です。
つまりDXは概念であり、その目的は企業の競争力向上ということになります。ここをしっかり理解しておかないと、企業内でDXを進めようとした場合にベクトル合わせが難しくなります。図1の「デジタル技術」の部分に小さく「IoT」と記してありますが、「IoT=Internet of Things」は2015年頃に新しい考え方として(実際は1989年に発表されています)一世を風靡し、私も数多くの講演や執筆を依頼されました。
しかしDXという表現が広がるとともに、IoTという言葉が徐々に聞かれなくなりました。これは私の予想通りで、日本人は新たな言葉、特に3文字アルファベットに飛びつき、2、3年でそれを忘れていく傾向にあります。飛びついて、それを取り入れて役立てていればまだしも、結局何もせずにその言葉を忘れていくのでは悲しすぎます。
IoTはデジタル技術の1つであり、手段です。今まで「IoTが、IoTが」と騒いできたのに、いきなりDXという範囲の広い概念に世の中の話題が飛んでしまったのですから、混乱、困惑するのも分からないではありませんが、変化についていき、対応する力がなければ企業経営はできません。
製造業におけるDXの2極化
図2は中堅・中小を中心とした製造業のDXの取り組みの現状です。赤い線の上をAゾーン、下をBゾーンとしましょう。
この図の通りまさに2極化で、「DXなんてうちには関係ないよ」そんなBゾーンの企業は間違いなく存続に危機に陥るでしょう。Aゾーンの企業もその進め方に日々迷い、苦労していることと思います。これはIoTが大ブームになった時と同じ構図です。新しい概念、手法、仕組みをどう活用するのか。まずはやってみなければ何も始まりません。いわゆる「スモールスタート」で、出来そうなところ、お金があまりかからないところから始めてみて、失敗したらやり直し、成功するまで続ければよいのです。
「今までやっていなかったけど、今からやろう!」でOK
こんなことを書いている私ですが、後悔をしていることがあります。それは2008年に創設された「ふるさと納税」です。開始当初、どうもよく仕組みが理解できなかったことと、丁度サラリーマンを辞め個人事業主として独立した時期と重なり、そのメリットが全く生じないこともあって、結局手を出しませんでした。しばらく前に知人の勧めもあり、再度制度の仕組みを調べてみたところ、今の私にはメリットしかないことが分かり、ようやく2年前から始めることにしました。独立5年後からはそれなりに所得税を納め続けているので、10年弱そのメリットを享受できなかったことになります。しかし2年前からでも始めれば節約効果(節税ではありませんよね)は大きなものがあります。「今までやっていなかったから、やらない」のではなく、「今までやっていなかったけど、今からやろう!」が正しい判断なのではないでしょうか。
何だかおかしなたとえになってしまいましたが、残念ながら現在は図2のBエリアに属すると判断せざるを得ない経営者、エンジニアの方々にはどうやってAエリアに行くのか。既にAエリアにいらっしゃる方々にも、机上の空論ではなく実例を中心にDXの考え方、DXへの取り組み方を私なりに分かりやすく解説してまいります。次回以降をお楽しみになさってください!
執筆者プロフィール
関ものづくり研究所代表。株式会社Fiot代表取締役。株式会社エコム社外取締役、株式会社桜井製作所社外取締役、国立静岡大学大学院客員教授。
ローランド ディー. ジーにて製造部長として勤務していた時代には、完全一人完結セル生産「デジタル屋台生産システム」を開発。その成果が新聞・雑誌やテレビ番組などで報道されて話題に。ミスミグループ本社では、製造子会社の駿河精機 本社工場長、生産改革室長、環境・品質推進室長を兼務し、業務改善を推進した。
自身の専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、経営に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築にもかかわる。