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スマート保安とは?メリットや普及への取り組み、具体的な事例を紹介    

スマート保安とは?メリットや普及への取り組み、具体的な事例を紹介    

本記事では、スマート保安の概要やメリット、普及への取り組みや事例について解説します。スマート保安という概念が注目を集めている背景には先端技術の活用だけでなく、国民と産業の安全の確保や、経済社会構造の変化があることを知っておきましょう。

インフラ業界や製造業を中心とした産業においては、売上や利益を求める姿勢だけでなく、事業の継続と安全性を保つ仕組みが大切です。このような産業保安の意識改革を推進する概念として、近年「スマート保安」という言葉が注目を集めています。

なんとなく「さまざまな技術を用いた保安」をイメージさせるこの言葉ですが、その意味や背景を深く理解できている方は少ないのではないでしょうか。本記事では、スマート保安の概要やメリット、事例について紹介します。

スマート保安とは

スマート保安は、国民と産業の安全の確保を第一に、技術革新と経済社会構造の変化に追随できるよう、保安規制の適切化や産業振興を目指して官民が行う一連の取り組みを指す言葉です。

具体的には、経済産業省をはじめとした行政機関がIoT・AI・ドローン技術・ビッグデータなどの先端技術に対応した保安規制や制度の見直しを行い、民間企業が先端技術を用いて保安業務をデジタル化・効率化することで、保安力と生産性の向上を目指しています。

経済産業省/スマート保安官民協議会により推進

スマート保安は、2020年より経済産業省と大手企業の連携により発足した「スマート保安官民協議会」がその推進を担っています。

参考: スマート保安官民協議会 (METI/経済産業省)

それでは、なぜスマート保安が推進されるようになったのでしょうか。主な理由として以下の5点があげられます。

  • 設備機械の老朽化・高経年化
  • 保安人材の高齢化・若年層の不足
  • 技術伝承力の低下
  • 災害発生・感染症の流行によるシステムダウンのリスク
  • デジタル社会の進展

少子高齢化をはじめとした社会情勢の変化によって、既存の社会構造が抱える問題が表面化するケースは珍しくありません。そこで注目されたのがデジタル技術の導入です。

同協議会では官民それぞれのアクションプラン策定のほか、民間企業のIoT、AI活用や人材育成、国の各種規制制度の機動的な見直しを通してスマート保安の発信普及を推進しています。

参考:スマート保安推進のための基本方針

インフラ業界・製造業で発達している

スマート保安は国民と産業の安全確保を目的とすることから、国民生活の基盤ともいえるインフラ業界で急速に発達しています。そしてその発達は、インフラ業界と密接に関わる製造業にも波及している状態です。

例えば、カメラ機器とセンサーの設置で変電設備の巡回・監視業務を遠隔化する「スマートキュービクル」は、代表的なスマート保安技術のひとつです。この技術は保守点検の効率化や給電の安定化を実現するものですが、設備の巡回・監視技術は多くの製造業にも応用できることから、製造業においても近しい技術が導入されつつあります。

スマート保安のメリット

それではスマート保安を導入によりどのようなメリットがあるのかについて、具体的に見ていくことにしましょう。

作業の管理強化・品質向上

人力での保安業務をスマート保安でデジタル化、あるいは自動化することで、作業や点検の履歴を電子データとしてリアルタイムに記録、共有できるようになります。このことは、保守作業の管理強化や、チェック漏れや入力漏れといったヒューマンエラーの防止に効果的です。

もちろん、電子管理できる内容は作業や点検の履歴だけではなく、保守作業時に注意すべきポイントや、トラブル発生時の対応なども該当します。このような熟練作業員のノウハウや、過去のトラブルシューティングのデータを蓄積し、素早く参照できる仕組みの構築が、作業員のスキルアップや業務品質の向上につながります。

設備監視や故障予測の強化

スマート保安で自動化・遠隔化された点検システムを用いることで、24時間365日の設備監視が可能になります。また、人力では見えない、あるいは危険を伴う場所においても十分な保守点検が可能です。

前述したスマートキュービクルであれば、カメラやセンサー機器が異常を自動検知するため、作業員が現場へ出向く必要がなく、なにより感電といった事故の危険がありません。

収益性向上

業務品質と監視体制が強化されれば、設備のエネルギーロスやダウンタイムが抑制され、収益性が向上します。また、点検・管理業務が遠隔化・自動化されることで、人的コストを削減しつつ、高効率な設備稼働を実現することができるでしょう。

スマート保安普及に向けた官民の取り組み

スマート保安の普及に向けて、スマート保安官民協議会は「スマート保安推進のための基本方針」を始めとするさまざまな施策を定めています。

アクションプランの制定

「スマート保安推進のための基本方針」によると、電気保安や高圧ガス保安などの分野に応じて、スマート保安の実践に向けた官民のアクションプランを策定する旨が記されています。

例えば、電気設備の保安力と生産性の向上を将来像とする電気保安分野のアクションプランは以下の通りです。

出典:電気保安分野におけるスマート保安導入に係る進捗状況のフォローアップについて

スマート保安導入支援事業費補助金

政府は産業保安に携わる企業を対象に、スマート保安の導入にかかる費用の一部を援助する「スマート保安導入支援事業費補助金」の制度を設けています。

補助の対象となる事業計画には以下のものが例としてあげられます。

  • スマート保安実現に向けた調査・課題解決ツールの開発・提供
  • 産業保安人材の育成支援プログラムの開発・提供
  • インフラ分野が活用するIoT・AI型のパッケージソリューションの開発・提供
  • 保安維持を目的としたIoT・AI型のパッケージソリューションの開発・提供

補助金は毎年申請期間が設定されています。受付期間はおよそ1ヶ月と短いため、定期的に経済産業省のホームページをチェックしましょう。

参考:スマート保安 (METI/経済産業省)

スマート保安プロモーション委員会の設置

スマート保安の中でも、特に電気保安分野については、公正な第三者評価機関として新たなスマート保安技術の技術的妥当性や保安水準を評価する「スマート保安プロモーション委員会」が設置されています。

同委員会は(独)製品評価技術基盤機構(NITE)が事務局を担っており、妥当性が確認された技術についてカタログ化し公表することで、保安技術の見える化とスマート保安の促進、政府に対する規制見直しや基準策定を提案しています。

参考:スマート保安プロモーション委員会 | 国際評価技術 | 製品評価技術基盤機構

諸外国との技術連携

近年、諸外国との間でスマート保安に関するビジネスや技術交流を中心とした連携が進んでいます。一例としてあげられるのが、タイとの連携である日タイスマート保安コンソーシアム(TJ-SISC)です。

同コンソーシアムは、主に次のような事業を行っています。

  • 人材育成・教育プログラムの開発・提供
  • ビジネス交流・技術交流会の開催
  • 関連制度設計の検討や政策提言
  • 日タイ連携を基盤とした海外展開  

参考:日タイ スマート保安コンソーシアム

スマート保安の事例・事例集

スマート保安で実際に用いられる技術への理解を深めるために、分野別のスマート保安の導入事例を見ていきましょう。

インフラ業界(電気・ガス等)における事例

まずは電気やガスなどインフラ業界におけるスマート保安の導入事例を2つ紹介します。

会社名実施内容
株式会社 西島製作所発電所内需要設備における機械故障を未然に防止するため、振動と温度の異常を検知する小型無線式振動データ収集機器を設置。収集データはクラウドで管理し、機械故障を早期発見できるようにした。
株式会社 三和テスコ石炭やバイオマス燃料等を扱うベルトコンベアにおけるローラ軸の損傷を検知するため、トルクセンサを設置。ベルトコンベアの損傷箇所を早期に特定、安全なメンテナンス体制を可能にした。

インフラ業界においては設備の故障や損傷を検知するセンサーやカメラを設置し、収集データを故障の早期発見や予測に役立てるケースが多く見られます。特に電力保安におけるスマート保安技術の事例は、スマート保安技術カタログとして集約、公開されています。

参考:スマート保安技術カタログ(電気保安)-第9版-

製造業における事例

続いては、製造業における事例を2つ紹介します。

無線型振動系を活用した設備監視システム_住友化学株式会社

住友化学株式会社は石油化学誘導品工場において、設備異常判断の属人化防止や監視・点検業務負荷の解消のため、無線型振動系によるデータ収集と、収集したデータの解析システムを導入しました。

同社においてはこれまで、設備稼働データは数ヶ月に1度の定期的な設備診断で取得しており、日常的な点検は作業員の五感によるチェックにとどまっていました。

しかしながら振動センサーの導入により、設備の速度データや加速度データを1時間に1回取得、さらに過去のデータと比較し、設備異常の予兆を同期に把握できるシステムを構築しています。

参考:スマート保安先進事例集 p11-13

コークス炉におけるAI炉温管理_JFEスチール株式会社

鉄鋼業を手掛けるJFEスチール株式会社千葉地区コークス工場は、炉体損傷による爆発トラブルを防止するため、炉温管理システムにAI技術を導入しました。

本事例では、無線温度センサーを各燃焼炉の設置しデータを収集、AIによるガス投入量と装入タイミングの最適化等により炉体損傷と省エネの両立に成功しています。

また、暑熱環境下での有人点検をセンサーにより代替し、従業員の負担を軽減。炉温調整は従業員の経験則にて行われていましたが、過去のデータからAIにて炉温調整方法をガイダンスで指示できるようになりました。

参考: スマート保安先進事例集 p46-48

スマート保安先進事例集について

前述した事例も含めた各分野におけるスマート保安の事例は、スマート保安先進事例集として公開されています。特徴的な取り組みや期待される効果、課題や解決策が記載されていますので、確認して損はありません。

参考:スマート保安先進事例集

スマート保安はさまざまな企業で活用できる概念

デジタルテクノロジーで産業保安の安全性と生産性を両立するスマート保安の考えは、規模を問わずさまざまな企業に適用できるものです。

設備トラブルの予防にはこまめな点検や広範囲のメンテナンスが必須ですが、安全面やコスト面の問題は避けられません。しかし、スマート保安の事例に見られるようなカメラやセンサー、ドローン技術を活用すれば、高効率かつ安全性の高い保守点検が可能です。

「日々の点検にコストやリソースを割かれている」「危険スポットの点検が多く安全面のリスクを感じている」といった場合は、スマート保安技術を参考に、先端技術やシステムの導入を検討してはいかがでしょうか。

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