昨今のデジタル技術の進歩は著しく、AIをはじめとしたさまざまな先端技術がビジネスに大きな恩恵をもたらしています。画像解析や画像認識と呼ばれる技術もその一つですが、一口に画像解析といっても、実際にどのような仕組みで実現されているかをイメージするのは難しいのではないでしょうか。
本記事では、画像解析の仕組みを中心に、その中でAIがどのように関係し、どのような場面で活用されているかに焦点を当てて解説します。
画像解析/画像認識とは
画像解析/画像認識は、画像データをコンピューターによって解析し、その画像に関する情報を識別・分析する技術です。具体的には被写体の色や形、大きさ、それが何であるかといった表面的な情報をはじめ、被写体がどんな素材で出来ており、どのような特性をもつかといった内面的な情報や、その画像がどのような要素で構成され、どんな意味を持つかといった文脈的な情報を読み取ります。
私たちは日常生活において、目から得た視覚情報を無意識に処理・理解していますが、この工程をコンピューターで行うとイメージするとわかりやすいでしょう。画像解析技術は未だ発展途上であり、人間ほどの高度な処理や理解ができない場合もあるものの、感度の高いセンサーやカメラにより被写体を細部まで捉えることで、人の目では見落としてしまうような細かな情報も取得し、解析できる点が特徴と言えます。
画像解析と画像認識の違い
「画像解析」と「画像認識」という言葉は混同して使われることも多いのですが、一般的に「画像解析」は画像から内面的・文脈的な詳細を読み取る場合に用いられ、「画像認識」は画像に写っているものが何であるか、どのような特徴があるかといった表面的な情報の識別において使われる傾向にあります。本記事においては以降、これらを「画像解析」と統一して説明します。
画像解析の仕組み
画像解析では、画像を構成するピクセルデータの色、形、パターン、テクスチャなどの特徴を認識することで画像を識別します。その過程で画像に対し行われているのが、以下をはじめとした処理です。
画像補正 | 画像の色や明るさ、コントラストを補正することで、画像を鮮明化します。 |
画像加工 | ノイズの除去やエッジ(物体の輪郭)の強調などを通してコンピューターが認識しやすい形へと加工します。 |
画像分類 | ピクセルの特徴とその並びから、画像に写っている物は何かを分類します。 |
画像検出 | 画像分類に基づいて特定した物体が、画像のどの部分にあるかを検出します。 |
画像セグメーション | 画像における被写体と背景の境界など、あるものを写した領域がどこからどこまでなのかの境界線を認識します。 |
画像解析で用いられる手法の一例
画像解析においては画像がもつ定性的な要素を、数学的、あるいは科学的な手法で定量的な情報へと変換する場合があり、その手法の一部を以下に紹介します。
フーリエ変換
フーリエ変換は、画像を「周波数の集まり」へと変換することで、画像の特徴やパターンを数学的に解析する方法です。画像の中の細かい模様や、被写体の輪郭、境界線などをコンピューターが理解しやすい定量的な形へと変換でき、画質を落とさずに画像を圧縮する、画像のノイズを除去するといった場合に役立ちます。
フラクタル次元による画像解析
フラクタル次元とは簡単に言えば、物体や構造の複雑さを数値で表した指標です。このフラクタル次元を用いることで、同じような構造やパターンを持つものの違いを定量的に捉え、より客観的に判断できるようになります。
赤外線
赤外線を利用して物体を撮影することで、物体の熱を検出できます。サーモグラフィが代表例ですが、温度の分布から物体の形状や特性、状態を分析できるのに加え、暗闇や視界不良の状況でも利用可能なため、物体の内部の調査に役立つほか、セキュリティや医療の分野においても重要な役割を果たしています。
AI・機械学習による画像解析の進化
近年飛躍的な成長を遂げているAI、あるいは機械学習との組み合わせにより、画像解析も進化を見せました。大量の画像からパターンを学習するAIにより画像解析の精度が向上し、未知のパターンに対しても柔軟かつ高い精度で解析できる点が大きなポイントです。
古くから用いられている画像解析の例としては、バーコードリーダーがあげられます。バーコードに対してリーダーの光を当てることでパターンを読み取り、対応する商品を認識しますが、バーコードが汚れたり擦り切れたりしてうまく読み取れず、人力でデータを入力することが珍しくありません。このように未知の情報を読み取った場合や、イレギュラーが発生した場合に、従来の画像解析では対応が難しく、それゆえに知識や経験から一定の判断を下せる作業者の存在が欠かせませんでした。
しかしAIに過去のデータを学習させておけば、イレギュラーが発生した場合であってもある程度人に近い判断や処理ができます。人的リソースを費やす必要がなくなりつつあるため、AIを用いた画像解析は、業務の自動化を実現する大きな一歩だと言えるでしょう。
画像解析技術を用いた設備や機器の例
今や画像解析技術はAIと共に多くの設備や機器に組み込まれており、製造業をはじめとした様々な産業、あるいは日常生活において重要な役割を果たしています。
防犯カメラによるセキュリティ・保守点検
防犯カメラの中には画像解析により、カメラが捉えた風景を撮影、録画するだけでなく、特定の人物の顔や行動を識別できるものがあります。このような防犯カメラを活用することで、監視エリア内で不審な人物や活動を検出した場合に自動でセキュリティチームに通知する、あるいは警察や警備会社へ早急に通報するといった対応が可能です。
防犯以外では、設備の保守点検への活用もなされています。監視エリア内で設備の異常な動作を検知した場合に管理者へ通知することで、設備不良を予防、あるいは早期発見できる仕組みとなっています。
検査機器による品質検査の自動化
とりわけ製造業においては、画像解析を用いた検査機器が注目を集めています。受入検査や工程検査、最終検査といった品質検査において、製品の不良や微細な傷を人の目で検出するには大変な時間と労力を要するため、人手不足や業務効率化のボトルネックとなっていることが少なくありません。
画像解析が可能な検査機器を導入することで、原材料や製品の不具合を自動かつ正確に検出できるため、検査の大幅な負担軽減と品質の向上、そしてコストの削減など数多くの改善効果を期待できます。
ドローンによる保守点検・調査
ドローンによる撮影と画像解析を組み合わせることで、人の目での確認が難しい、あるいは危険が伴う場所であっても、安全な保守点検や調査が可能です。具体的には高所や高温の区域の点検においては、ドローンの活用で落下や熱中症といったリスクを限りなくゼロに近付けられます。
また屋外でドローンを使用すれば上空から広域を撮影できるため、製造業以外にも農業での作物のモニタリングや、建設業における現場管理、あるいは自然災害発生時の状況把握などさまざまな分野で利用されています。
光学文字認識(OCR)
光学文字認識(OCR:Optical Character Recognition)は、文書や書籍、標識などの文字情報をデジタルデータに変換する技術であり、文字からデータへの変換において行われているのが画像解析です。特に経理をはじめとしたバックオフィス業務において導入が進んでおり、書類のデータ化やシステムへの自動入力、データベースへの格納など、紙を中心とした業務のデジタル化や業務の効率化、DX実現において重要な役割を担っています。
画像解析のメリット
画像解析はそのオールマイティさにより、ビジネスシーンにおいて多くのメリットを生み出しています。
業務の自動化によるコストの削減
画像解析を活用することで、従来は人間の手に頼っていた多くの業務が自動化できます。前述したセキュリティや品質検査、保守点検の他にも、工場内画像の解析による在庫管理や生産管理、店舗画像の解析による来客・需要の予測といった業務の自動化がその一例。業務を自動化できれば人件費をはじめとしたコストを削減できますし、ヒューマンエラーの抑制により損失を抑制できる側面もあります。
分析・処理の精度向上
人間の目では見落としがちな細かい違いであっても、画像解析であれば高い精度で捉えることができます。検査の精度が向上すれば不良率が低下し、企業としての信頼度を高められるうえ、不良品対応のリソースやコストの抑制によって利益率の改善も見込めるでしょう。
データの蓄積と活用
画像解析によって収集されたデータは日々蓄積され、さらなる分析のために活用できます。特にAIによる画像解析であれば、日々蓄積されたデータにより学習の精度が向上し、それに伴いより正確かつ高度な解析が可能となります。
画像解析を導入した企業の事例
前述したような活用例は数多くの企業において見られ、実際に大きなコスト削減や作業の効率化を実現できている事例も少なくありません。ここでは3社の事例を紹介しますが、より多くの事例を知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:製造業において画像解析/画像認識技術を活用している企業7社の事例
ダイキン工業株式会社
エアコン製造を行っているダイキン工業株式会社の滋賀製作所では、工場内の設備点検にドローンを導入しました。
元々は災害発生時の工場周辺の調査手段としてドローンを検討したものの、その多機能性から天井付近の設備点検や、高所に設置されたコンベアの点検、酸欠の恐れがある地下ピットの点検といった作業を4K対応のカメラを搭載したドローンによって行うことで作業工数を大幅に削減。数百万円のコスト削減効果に加え、ドローンの操縦という新たな技術によって、従業員のモチベーションが高まり、コミュニケーションが活発になるといった副次効果もみられています。
参考:一般社団法人日本経済団体連合会 最新技術を活用した 労災防止対策事例集 p.13-15
墨田加工株式会社
プラスチックの加工を主な事業とする墨田加工株式会社では、AIを用いた外観検査機器を導入し、1ヶ月に12時間かかっていた目視検査の時間を7.7時間まで削減しました。
具体的には同社で製造する円筒状のプラスチック加工品の検査において、1ヶ月あたり約4,320個の製品を検査員2名が3日間をかけて実施していたところ、外観検査機器の導入によって前述の通り大幅に作業時間を削減しました。約15万円と、比較的低コストで導入できている点もポイントです。
参考:経済産業省 AI導入ガイドブック 外観検査(部品、良品のみ) p.10-11
六甲バター株式会社
食品メーカーである六甲バター株式会社では、チーズの製造においてAIを用いた最終製品検査システムを導入し、生産性の向上のみならず、食品製造において最も重要である「食の安全」の担保を実現しました。
同社では1分間に500個、アルミ包材に包まれたチーズが製造ラインを流れており、目視検査には相当の熟練度と労力が必要でしたが、AIを活用したカメラ画像の分析により不良品を排出するシステムによって検査を自動化、省人化しています。
参考:経済産業省 近畿経済産業局 ビジネスの現場に役立つAI導入・活用事例集と契約実務・知的財産の手引き p.8-9
DXの第一歩として最適な画像解析
画像解析の裏側にはさまざまな処理や仕組みがありますが、技術の進歩した現代においてはそのことを感じさせないほどに、高速かつ精度の高い処理が実現されています。したがって今や画像解析は企業の生産性向上やコスト削減において必須だと言っても過言ではないでしょう。
この記事にたどり着いた方の多くは、業務のデジタル化やDXに関心を持っているかと思いますが、それらの第一歩として、画像解析の導入を検討してみてはいかがでしょうか。