人間では処理が難しいデータを解析し、さまざまな形で情報資産としてアウトプットできるAIのビジネス活用が進んでいます。その強みは数値や言語データを迅速に処理できる、画像や映像などの定量化しづらいデータをも高い精度で取り扱える点にあると言えるでしょう。実際にAIを用いた画像解析技術の発展は著しく、さまざまなシステムやサービスがリリースされています。
しかしこれらの領域においては類似する用語や呼称が複数あり、それぞれの特徴や違いがイメージしにくい方も少なくないでしょう。「AIビジョン」という呼称もその一つ。そこで本記事では、AIビジョンの基礎知識や類似する技術との違い、活用方法などを中心に解説します。
AIビジョンとは?
AIビジョンとは、カメラやセンサーを通じて取得した画像や映像を人工知能(AI)によって解析し、その結果を基にした判断やフィードバックを提供する仕組みやシステムを指します。複雑な画像データから有用な情報を抽出する画像解析はもちろん、そこから得た情報と学習済みのデータを組み合わせる、あるいは新たに学習することを通じて、自律的な判断やフィードバックを提供できる点が最大の特徴です。
AI画像処理/画像解析との関係
AIビジョンを通じて実行される一連のプロセスは「AI画像処理」や「AI画像解析」と呼ばれる場合があり、「AI画像解析システム」といった呼称でサービスとして提供している企業も存在します。
これらのシステムとAIビジョンは同じような技術を指しているものの、AI画像処理やAI画像解析は、画像や映像のデータから情報を抽出し、何らかの判断を下す「プロセス」にフォーカスして使われることが多いのに対し、AIビジョンはこれらの処理や解析を実現するための技術的な枠組みや、そのような技術を備えた一連のデバイスやソフトウェアを総称する際に使われる傾向がある点が違いとしてあげられます。
関連記事:画像解析/画像認識とは?仕組みやAIとの関係、活用事例を解説!
実際にAIビジョンはカメラやセンサーだけでなく、タブレット、スマートフォン、ARグラスなどさまざまなデバイスと連携して機能します。このような携帯可能なデバイスによりリアルタイムでの画像解析結果が確認できることで、現場においても即座に行動に移すことが可能な点は大きな特徴です。
たとえばARグラスを通じて、AIビジョンが解析した情報を直接視界に表示し、より効率的に作業を進めるといった仕組みも実現されています。製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、すなわちデジタル化を通じた業務プロセス、あるいは組織の変革の中でも、より現場目線で効率化を進められる可能性を秘めていると言えるでしょう。
製造業における主要なビジョンシステムとの違い
前述した画像処理/画像解析においてはAIビジョンに限らず、さまざまなイメージング技術が存在し、品質管理や生産効率の向上、安全性の確保などその活用の幅も広がっています。ここでは、製造業における主要なイメージング技術としてコンピュータービジョン、マシンビジョン、ロボットビジョン、そして3Dビジョンを取り上げ、それらの特徴とAIビジョンとの違いにあたる点を解説します。
ただしこれらの用語には一律の定義があるわけではなく、場合によって意味や含める領域に若干の違いがある点は留意しておきましょう。
コンピュータービジョン
コンピュータービジョンは、カメラやセンサーから得られる画像や映像データを解析し、その中に含まれる情報を取得するための技術であり、画像に含まれる物体や風景の識別、分類をはじめとしたさまざまな解析を自動化することができます。人間の目を用いて行う画像の分析を機械に置き換えたこの技術は、カメラの画質やシステムの解析能力の向上によって今なお発展を続けている分野です。
AIを組み合わせたコンピュータビジョンも存在しているため、AIビジョンと重なる部分は大きいのですが、コンピュータービジョンという呼称は「情報の取得や解析」を主な目的とする場合に用いられる場合が多く、取得した情報による機械の制御などを伴う場合には後述するマシンビジョンと呼ばれる傾向が見られます。
マシンビジョン
マシンビジョンはコンピュータービジョンの一種であり、特に製造業における機械や製造ラインの制御に特化して設計されたシステムです。マシンビジョンの目的は品質検査や設備保全といった業務プロセスを自動化する点にあり、画像の解析により得られた情報により何らかの判断を下し、その判断をもとに機械を制御する機能をもつ場合にしばしばこの呼称が用いられます。AIビジョンと「AIを搭載したマシンビジョン」はほぼ同じものを指していると考えて良いでしょう。
品質検査であれば、製品画像から得られた情報を元に良品/不良品を判別し、不良品を製造ラインから取り除くよう設備を制御できる、設備保全であれば従来目視で行っていた点検を画像により実施し、異常が見られた場合に設備を一時停止する、あるいは管理者にアラートを通知できるといった仕組みのもとにマシンビジョンという呼称が用いられています。
関連記事:マシンビジョンとは?導入するメリットや仕組み、3つの活用例を紹介
ロボットビジョン
ロボットビジョンは、ロボットに取り付けられたカメラやセンサーを通じて、周囲の環境を認識し、それに応じてロボットを操作・ナビゲートする技術です。前述したマシンビジョンをロボットに搭載したものだと言えるでしょう。
いわゆる産業用ロボットは人間との協働が前提となっており、その制御においては極めて高い安全管理が求められます。ロボットの適切な動作と高い安全性を両立することがロボットビジョンの大きな役割であり、こちらもAIの導入が進んでいます。
3Dビジョン
3Dビジョンは従来の2次元的なビジョンシステムとは異なり、物体の三次元的な形状や位置を捉えられる技術です。複数のカメラにより撮影した画像を組み合わせて処理することで、立体的な形状や大きさ、物体間の距離といった3Dの情報を解析します。2Dの画像解析より多くの情報を取得できることはいうまでもなく、3Dマシンビジョンや3Dロボットビジョンも存在します。
このように○○ビジョンと呼ばれる技術はさまざまなバリエーションが存在し、呼称だけで全てを判断できるものではありません。したがってこれらの導入を検討する際には、機械の制御に重きを置いたものなのか、取得する画像が2Dなのか3Dなのか、そしてAIが搭載されているかどうかを確認することが最適な技術を採用するための第一歩と考えておきましょう。
AIビジョンでできること
前述した通りAIビジョンはさまざまな設備機械やデバイスに搭載されており、広く応用可能な技術です。それでは実際にAIビジョンによりできることの代表例を以下に3つ紹介します。
画像の認識と判断
AIビジョンシステムの基本的な役割の一つが、画像に写っている物体を認識し、その特性や状態を判断することです。たとえば人物の画像を解析する場合であれば、写っている人数、個人の特徴、表情などを識別できます。また監視カメラにより特定の場所の状況をリアルタイムで監視し、異常や問題があるかどうかを判断することが可能です。このように被写体そのものを詳細に解析することはもちろん、撮影風景全体から得られる情報を解析することで、セキュリティの強化や安全性の向上、拠点全体の状況把握などを実現できます。
物体の形状や状態の識別
被写体の解析についてはもう少し深掘りして説明しましょう。特に製品検査や品質管理の分野では、AIビジョンの精度と効率性が特に価値を発揮します。製品の画像をAIにより解析することで、形状やサイズを正確に測定できることはもちろん、表面の傷や汚れ、製品間の微細な差異までも見分けることが可能です。
人の目でも目視できるようなレベルの違いや不良であれば、必ずしもAIを活用せずとも、事前のアルゴリズム設定により測定・判別することが可能です。しかしAIであれば過去のデータから「通常とは異なる状態」をもれなく識別できるため、人間が目視できないレベルの差異や、これまでにない新たなパターンの差異が生じた際にも識別できる点が特徴だと言えます。
処理結果のフィードバック
AIビジョンシステムは、解析結果をリアルタイムでユーザーや他のシステムにフィードバックする機能を備えているため、速やかに対応しなければ致命的な問題を引き起こしかねないトラブルに迅速に対処する際に活躍します。
たとえば、製造ラインで欠陥品が検出された場合、システムはその情報を直ちにオペレーターや管理システムに通知し、生産プロセスに調整を加えることで、不良品の大量発生を未然に防止するといったことが可能です。
AIビジョンの活用例
さまざまな役割を果たすAIビジョンは業務プロセスにおいてさまざまな形で応用され、効率化や自動化、生産性の向上といったメリットをもたらしています。具体的にどのような形で活用されているのかを見ていきましょう。
高精度かつ自律的な品質検査
従来の目視による品質検査に代わり、AIビジョンを活用した画像検査システムの導入に踏み切る企業は少なくありません。目視検査は検査員の肉体的・心理的な負担が大きいことから多くの企業において課題となっていますが、AIビジョンによりこれらを自動化できるとともに、肉眼では確認が困難な微細な欠陥までも検出するといった精度の向上も実現できます。
さらに、AI技術により良品の特徴を学習し、不良品を自動的に判別できるようになったことから、従来必要であった検査機器の事前設定の負担が大きく軽減されました。多種多様な製品の品質検査に柔軟に対応できることから、昨今増加する少量多品種生産のニーズに対応しやすく、よりスムーズに運用できるように進化を遂げています。
関連記事:画像検査とは?仕組みや種類、AI活用などの基本を徹底解説!
製造ラインの監視や制御
監視カメラなどを通じて得られる画像データの解析が、ライン全体の状況把握や設備制御に活用されています。監視カメラの風景を人が目視し、異常が見られた場合に現場へ連絡する体制は多くの企業が採用していますが、AIビジョンによる解析は大量の映像を漏らすことなく解析できる、24時間365日休まず稼働できる、設備と連携して自動的に動作を制御できるといったが強みです。
また、映像から細かい異常やトラブルの原因を見つけ出すには現場の状況や作業内容に精通している必要があり、経験が豊富な監視員でないとその役割は務まりません。このように、ベテラン従業員でないと務まらない役割をAIビジョンにより代替することで、属人化の防止や技術継承の円滑化といったメリットももたらしています。
このようにIoTやAIを活用した保安の仕組みは「スマート保安」とも呼ばれ、官民一体となってその推進が取り組まれている領域であることも知っておきましょう。
関連記事:スマート保安とは?メリットや普及への取り組み、具体的な事例を紹介
設備の予知保全
予知保全は、設備の稼働データを解析し、トラブルの予兆を捉えることで、事前のメンテナンスを可能にする手法です。AIビジョンは、特にアナログメーターや従来のセンサーだけではデジタル化が困難だった情報を、視覚データとして捉え、解析することで大きな役割を果たします。メーターの読み取り値をデータ化し、異常な値を検出することで、潜在的なトラブルや必要なメンテナンス時期を予測することが可能になります。
これらの活用例は、AIビジョンが製造業界における革新の一翼を担っていることを示しています。AIビジョンによる高度な画像解析能力は、品質管理の精度を高め、製造プロセスの効率化を実現し、設備の運用を最適化することで、より持続可能な製造業の発展に貢献しています。
関連記事:予知保全とは?IoT/AIを用いた進め方やメリット、予防保全との違い
AIビジョンをポータブル・ウェアラブルに活用できる「SOLOMON META-aivi」
AIビジョンにより行われる画像解析によりさまざまな業務が効率化・自動化できることがわかりましたが、それでも完全に自動化できない業務は少なからず存在します。たとえば機械やロボットにはできない精密な作業においては最終的な処理は人に委ねられますし、時にはAIが下す判断よりも熟練した従業員が経験や感覚から導き出した判断の方が正しいこともあるでしょう。このことから、AIビジョンは人間との協働により真の力を発揮すると考えることができます。
人間との協働を考えると、どのような場所においても活用できる携帯性も求められますが、これらを備えたAIビジョンとして「SOLOMON META-aivi」があげられます。SOLOMON META-aiviはスマートフォンやタブレット、ARグラスに適合したAIビジョンであり、本記事で紹介した品質検査や設備監視、予知保全へと場所を選ばず活用できるシステムです。
関連製品:SOLOMON META-aivi
高度な画像解析能力と幅広い活用性を備えたAIビジョンは製造業のあらゆる現場において活躍できることは間違いありません。アウトソーシングテクノロジーでは他にもさまざまなAIビジョンや画像解析システムを取り扱っておりますので、お気軽にご相談ください。