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多能工化とは? 進め方やメリット/デメリットを事例とともに完全解説

多能工化とは? 進め方やメリット/デメリットを事例とともに完全解説

多能工化は製造業の業務効率化と従業員のスキル向上を目的とすることから注目を集めています。失敗しないためのポイントは適切な目標設定や、教育・報酬制度。本記事では多能工化の進め方やメリット、デメリットを事例とともに解説します。

製造業において、従業員のスキルセットを拡大し、柔軟な業務対応を目指す多能工化は、生産性の向上を主な目的として関心を集めています。しかし、多能工化は単に「さまざまな業務を教え、経験させる」だけで成功するものではありません。

また、メリットが先行しがちな多能工化にも注意すべきデメリットは存在します。本記事では、多能工化の意味から進め方、メリット・デメリットまでを事例をもとに詳しく解説します。

 多能工化とは何を意味する?

そもそも「多能工」という言葉は、一人で様々なスキルや知識を持ち、複数の業務や役割をこなせる従業員、いわばゼネラリストを指しています。そして多能工化とは文字通り、従業員を多能工へと育成することです。

従来の日本の製造業においては、一人が1つの役割を担当する「単能工」のチームにより、製造ラインを構築することが一般的でした。しかしながら単能工は、特定の業務のスペシャリストとして高度なノウハウを持ち、高いパフォーマンスを発揮する一方、他の業務に関する知見が薄いため、ある従業員しかその業務を担当することができない「属人化」を招きやすいといった特徴があります。

また、技術革新による製造業のDX、すなわち製造の自動化や、製造工程の一元管理が進む中では、製造ライン全体でノウハウやデータを共有し、生産性や品質を向上する考えが主流です。このような環境では1つの業務に特化した単能工よりも、複数の業務に精通した多能工が力を発揮するため、多能工化への関心が広がっている背景があります。

 多能工化で実現できること

多能工化により、多くの従業員はさまざまな業務や状況に迅速に対応可能となります。これにより人員の配置転換や生産調整がスムーズに行えるようになるため、組織の最適化や効率的な生産が期待できるでしょう。

加えて、昨今広がりを見せている多品種少量生産も多能工化で実現できることの一つです。単能工を中心とした製造ラインは小品種大量生産においては効率的ですが、多品種少量生産においては商品の種類とその工程ごとに従業員を配置することとなります。多能工が増えれば、一人で複数の商品やその製造工程を担当できるため、少ない人員でも十分な生産性を維持することができます。

 多能工化の対義語・類義語

多能工化の対義語としては前述したような「単能工化」、あるいは従業員の「専門化」や「特化」があげられます。特定のスキルや知識領域に焦点を絞り、それに特化した業務を行う単能工は育成コストが抑えられることもあり、特定の品目を大量生産する製造拠点で今なお主流として活躍しています。

多能工化の類義語としては、「マルチスキル化」や「多技能化」といった表現が用いられる場合があります。いずれも、幅広い領域や業務工程においてノウハウを持ち、対応できる人材を育成するという意味では違いはありません。

 多能工化の進め方

多能工化を成功させるための進め方は組織や業務内容、状況によって異なりますが、以下に基本的な手順とポイントを解説します。

 目的と目標の設定

多能工化の取り組みを開始する前に、多能工化を行う目的と具体的な目標を明確に設定することが重要です。

目的の例としては、「属人化の解消」や「生産性の向上」、「省人化」などがあげられるでしょう。目的が違えば、多能工に求められる対応可能領域の広さや、各業務で備えるべきスキルレベルも異なるものです。

目標は「1年後には全従業員が2つ以上の業務に対応可能になる」といったように、具体的な数値目標や期限を併せて設定することで、取り組みの方向性や進捗、達成率を明確にできます。

 業務やノウハウの棚卸し

現在ある業務を担当している従業員が、具体的にどんな作業を行い、どのようなノウハウを持っているのかを漏れなく把握するようにしましょう。

製造業においては多くの場合、マニュアルにより業務内容や作業工程を管理しているため、マニュアルの確認が業務棚卸しの第一歩です。しかし、マニュアルがあっても活用されていない、あるいは十分な管理や更新がなされてない企業も少なくありません。

作業者に業務の工程や作業に付随するノウハウのヒアリングを行うと同時に、マニュアル管理ツールやナレッジマネジメントツールを活用し、その後の業務や教育に活きる「ナレッジベース」を構築することが多能工化をスムーズに進めるポイントです。

関連記事:AIで業務マニュアルや手順書を作成管理!方法やメリット、注意点は?

 現在のスキルセットの把握

従業員の現在のスキルを客観的に把握することで、どのような教育や育成が必要かを明確にすることができます。主な方法は次の3点です。

 スキルアセスメントの実施

従業員のスキルや能力を評価するアセスメントツールを用いて、従業員の知識や習熟度を把握できるスキルマップを作成しましょう。このスキルマップをもとに、どの従業員がどの分野で強みを持っているのか、また弱点や育成が必要な部分は何かを明確にします。

 フィードバックセッションの導入

直属の上司やチームメンバーから従業員へのフィードバックを収集するセッションを定期的に行うことで、外部からでは把握することが難しい現場における業務遂行能力や、定性的な能力、気質などを把握できます。

 セルフアセスメントの活用

従業員自身に自らのスキルや能力を評価させるセルフアセスメントを導入するのも良いでしょう。従業員の自己認識と、客観的な評価とのギャップを把握することで、より具体的な教育や育成の計画を立てることができます。

 多能工化に向けた教育・育成の実施

従業員のスキルセットを広げるためには、継続的な教育と育成が不可欠です。具体的には次のような方法が考えられます。

研修・OJT

新たなスキルの習得や既存スキルのブラッシュアップのためには、研修やOJT(On-the-Job Training)が効果的です。マニュアルに基づく業務知識の教育と、経験豊富な従業員からの指導、そして業務経験の積み重ねにより、実践的な知識や技術を習得できます。これらは多能工化のみならず、熟練作業員のノウハウを若手作業員へと引き継ぐ「技術継承」の役割も果たす作業です。

関連記事:技術継承において企業が抱える課題と解決方法、成功事例を紹介

資格の取得

特定のスキルや知識を証明する資格の取得は、従業員の知識と技術が十分な水準に至ったことの裏付けです。資格取得を奨励し、そのための時間を確保する、あるいは表彰などの形でフィードバックすることで、従業員のモチベーションを高め、将来的なキャリア形成にもプラスの影響を与えることができます。

ジョブローテーション

ジョブローテーションを実施することで、従業員が定期的に異なる部署や業務を経験することができます。これにより、組織全体の業務フローや役割を理解し、幅広い視野を持つことが可能です。

 社内制度(評価や年収、単価)の整備

多能工化の鍵は、適切な社内制度にあるといっても過言ではありません。新たなスキルを身につけるにあたって適切な評価制度や報酬制度を設けることで、各従業員が能動的にスキルアップに取り組むよう促せます。

スキルを身につける側を対象とした給与や単価アップはもちろんですが、スキルを教える側の取り組みを適切に評価し、給与に反映する視点も重要です。

 多能工化のメリット/デメリット

多能工化の取り組みには数多くのメリットがある一方で、デメリットや失敗に至るケースも存在します。多能工化を進める際には、これらの点をしっかりと理解し、適切な戦略を立てなければなりません。

 メリット

 生産性の向上

従業員が複数の業務をシームレスに担当できることで、無駄なコミュニケーションコストやアイドリングタイムを削減し、生産性を高めることができます。また、自身の担当業務を効率化するだけでなく、製造ライン全体を効率化する視点が生まれることで、さらなる業務の改善や効率化が期待できるでしょう。

 柔軟な業務対応

急な業務変更や突発的なトラブルに対応しやすいのもメリットです。代表的な例として、欠勤や退職により人員が不足した場合に別の従業員が対応できることで、業務の遅滞を最小限に抑えることが可能となります。

 業務負担の平準化・軽減

単能工を中心とした製造工程では、特定の作業員に負担がかかる一方で手を余す作業員もいる…といった場面が珍しくありません。多能工化により機動的な人員配置が可能となれば、適切な業務配分により作業員の業務負担を平準化する、あるいはすでに作業が集中している作業員の負荷を軽減するといったアクションがより取りやすくなります。

 デメリット/失敗例

 スキルの中途半端な「器用貧乏」になりかねない

担当する全ての業務に対して高度なスキルを習得するのは難しく、相応の期間を要します。そのため、簡単な教育だけで複数の業務を担当させてしまうと、中途半端なスキルセットを持つ「器用貧乏」な従業員が増えるリスクがあります。このようなことを避けるためにも、従業員のスキルの習熟度を定期的に確認し、管理者側が把握できるシステムや体制を構築しなければなりません。

 従業員の負担増

従業員にとって、多能工化の過程で通常の業務と学習・研修を並行して行うことには負担が伴うでしょう。教える側にあたる熟練作業員と、受ける側にあたる若手作業員双方の労力をいかに軽減できるかが重要です。

教える側の負担を軽減する方法としては、自身の持つ知識やコツといったノウハウを素早く言語化し、若手従業員に共有できる生成AIの活用が例としてあげられます。受ける側の負担を軽減するには、ナレッジベースの構築をはじめとした「ノウハウの学習や検索、振り返りを容易にするツール」が役に立つでしょう。

関連記事:AI活用がナレッジベース構築やナレッジマネジメントを加速させる理由

 コストや時間を要する

多能工化においては、育成の過程でかかる時間やコストはもちろん、多能工化が実現した後の人件費や、多能工化を前提とした採用コストも加味しなければなりません。生産性の向上による利益予想や、多能工の増加による省人化で削減できるコストなどを事前に想定したうえで、多能工化のコストパフォーマンスを評価する必要があります。

製造業における多能工化の事例

ここまでに説明した進め方やメリット・デメリットを踏まえたうえで、実際に多能工化に取り組み成功した企業の事例を見ていきましょう。

 名北工業株式会社

岐阜県美濃加茂市で冷間圧造用鋼線の二次加工を行っている名北工業株式会社では、従来のOJTを中心とした教育を改め、社内研修会、社外研修、資格取得支援などの取り組みを開始しました。

また、月8時間は教育時間に充てるという目標を設定し、各部門で業務を効率化。結果として月平均10時間の教育時間を確保していることも特徴です。

スキルアップに伴う個々人の目標設定や振り返り、そしてさまざまな評価・奨励制度を導入することで、優れた品質管理を実施している企業に贈られる「デミング賞」を受賞するなどの成果をあげています。

参考:第1部第2章第1節 労働生産性の向上に向けた人材育成の取組と課題:2018年版ものづくり白書(METI/経済産業省)

 坂西精機株式会社

東京都八王子市の坂西精機株式会社は、減速機の製造や精密部品全般の加工・組立を行う企業です。従来は各従業員の能力を管理者が把握できておらず、人員配置や部署間のスキルレベルがアンバランスとなっていました。

そこで全従業員のスキルマップを作成し、管理者が従業員の能力を適切に把握できるような取り組みを開始。スキルマップはあえて人事考課には用いず、管理職と従業員のコミュニケーションツールとする一方で、管理職がねぎらいの言葉をかけるなどの関係性の強化によって、従業員のモチベーションを高める形をとっています。

結果として適正な人員配置と業務分担が可能となり、対応できる業務の幅が広がることで、多能工化が実現できている事例です。

参考:第2部 深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 2 多能工化・兼任化の効果

 三州製菓株式会社

埼玉県春日部市に本社を置く三州製菓株式会社は、高級米菓および菓子製造の老舗ですが、254名の従業員のうちパートタイム従業員が179名と約7割を締めています。

同社では「一人三役」をモットーとした多能工化の取り組みを実施しました。定期的な業務の棚卸しと効率化、業務習熟度の整理と社内への見える化、適切な人事評価への反映といった施策が代表例です。

これらの取り組みにより、ワーク・ライフ・バランスを実現した柔軟な働き方を実現しているとともに、多数の業務から得たノウハウとアイデアを組み合わせた新商品の開発など、新たなヒット商品や技術革新が生まれる企業風土を生み出しています。

参考:第2部 中小企業のライフサイクル 3 まとめ

組織全体で長期的に取り組むべき多能工化

多能工化は、企業の柔軟性と生産性を高めるための戦略の一つとして注目されており、その実現のためには、明確な目的と目標設定、継続的な教育・育成、適切な報酬制度の整備が不可欠です。

その実現に当たっては生産性の向上や機動的な対応、人員配置が可能といったメリットがある一方で、スキルの中途半端な習得や従業員の過度な負担などのデメリットも考慮する必要があります。多能工化を成功させるためには、組織の特性や業務内容と従業員のスキルを適切に把握し、継続的な取り組みを続けることが重要です。

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