少子高齢化をはじめとした複数の原因によって、国内のさまざまな産業で人手不足が叫ばれています。もちろん、製造業においても人手不足の解消は喫緊の課題です。しかし、製造業は安定した品質と高度な技術が要求されるうえに、属人化せざるを得ない仕事もあり、効率化や人手不足の解消が難しいケースも多いのではないでしょうか。
特に製品の仕上がりや不良の有無をチェックする検査工程は、肉体的な負担に加え小さなミスも見逃せないプレッシャーから、非常に精神的不可の高い作業です。また、熟練の検査者はチェックを行う際のポイントを理解していますが、新人が同等の精度で検査を行うことは難しいでしょう。
このような属人化しやすく負荷の高い作業を効率化する手法の1つとして、近年注目されているのがマシンビジョンです。本記事ではマシンビジョンの仕組みや導入するメリットに加え、活用例を解説していきます。
マシンビジョンとは
マシンビジョンとは、カメラなどのセンサー類から取得した画像データやビデオを解析し、人間が視覚を使って行うような認識や理解をコンピューターが行う技術です。すなわちマシンビジョンとはコンピューターに「観る」能力を与えることだと言い換えられます。
マシンビジョンが注目される理由
マシンビジョンの歴史は意外にも古く、1970年代にはバーコードの読み取りを行う、初歩的な技術が完成していました。従来は画像処理や画像解析の技術が未発達であり、一部の業務でしか活用できていませんでしたが、AIやIoTを始めとした技術の進歩により、高度な判定機能が実用化し、精密な検査を要する品質管理部門でも利用できるようになりつつあります。
そして特に負荷が高く、精度が求められる検査工程にマシンビジョンを導入できれば、作業者の負担を軽減し、人的リソースを最大限に活用できます。すなわち、検査精度の向上に加え、労働力不足の解決策にもつながる可能性があるため、マシンビジョンが注目されているのです。特にマシンビジョンによって取得した画像データを用いて行う検査は、画像検査とも呼ばれています。
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コンピュータビジョンとマシンビジョンの違い
コンピュータビジョンとマシンビジョンとの違いは「読み取ったデータにもとづいた出力で、機械の制御を行うか否か」です。コンピュータビジョンは、正確な画像認識を行うシステムのことを指します。そのため、マシンビジョンとは異なり、機械の制御などは行えません。
マシンビジョンを導入する3つのメリット
それでは、マシンビジョンの導入によって、どのようなメリットが生まれるのかを見ていきましょう。
業務効率化による生産性向上が期待できる
カメラなどを用いて読み込んだ情報にもとづき、コンピューターが判断と結果の出力を行うため、人間が検査するよりも素早い検査が可能です。そして、マシンビジョンを導入した検査工程においては、人的リソースの確保が行いやすくなります。そのため、検査者のワークライフバランスの向上や、工場全体の労働力不足の解消につながります。
微細な異常を見逃さず、品質アップにつながる
人間の目視検査では、肉眼では判別が難しい製品の異常を見落とす恐れがあります。しかし、マシンビジョンでは高解像度のカメラを用いることで、極めて正確にOK/NGの判断を下せるため、目視検査よりも高い精度が期待できます。製品のチェック項目を増やす、より厳格に検査を行うといった対応も実施しやすく、さらなる品質のアップが期待できます。
業務を標準化でき属人化を解消できる
定められた判断基準を100%守った検査が行えるのも、マシンビジョンのメリットです。人間による検査は同じ作業者であっても体調や感覚のムラによって判断が変わってしまう場合があります。また、熟練者と新人では検査精度が異なることも珍しくありません。しかし、マシンビジョンでは検査精度がバラつくことがないため、精度の向上はもちろん、検査の属人化の解消にもつながります。
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マシンビジョンを導入するうえでの課題
人手不足解消の決め手となりうるマシンビジョンですが、導入するうえでの課題もあり、最も大きな課題は導入コストです。製品のデータを読み込ませたり、出力結果を反映させたりする機械など、マシンビジョンの導入に際してはさまざまな設備機器が必要になるため、マシンビジョンの導入には一定の初期投資が避けられません。
また、技術的な要求水準が高いため、既存の設備やシステムによっては後付けでの組み込みが難しい点も課題にあげられます。もちろん、マシンビジョン導入後システム構築や運用を行う難易度が高いことはいうまでもありません。
しかしながら、このような課題も徐々に解消されつつあります。安価で導入できる機器や、一連の業務に対応できるように開発されたパッケージシステムも増加しているため、マシンビジョン導入の敷居は徐々に下がっていると考えても良いでしょう。
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マシンビジョンの構成要素
マシンビジョンは、大きく分けると4つの要素から構成されています。それぞれ、どのような役割を果たしているのかを見ていきましょう。
カメラ
デジタル機器に画像を入力するために必要な要素です。マシンビジョンが行うタスクに応じたカメラ選びが重要で、一例として製品の色のチェックを行う場合と製品の形をチェックする場合とでは、カメラに求められる性能が異なります。また、対象物の検査範囲や撮影範囲を通過する速度によっても、必要となってくるカメラの性能は変わります。
フレームグラバー
カメラから送られてくるアナログ信号をデジタル信号に変換してくれる装置のことを指します。また、カメラから送られてきたデータを、パソコンで画像処理できる形式にするのもフレームグラバーの役割です。
一方で、フレームグラバーが不要となるカメラの規格も存在します。しかし、その場合はフレームグラバーが担当するべき処理をソフトウェアが行うため、使用する場合と比較して大きな負荷が発生する可能性がある点は注意が必要です。
照明
対象物の正確な撮影や測定には、適切な照明選びが必要不可欠です。明るければよいわけではなく、採用しているカメラのタイプや検査対象の種類に加え、検査項目によっても求められる性能は異なります。適切な照明が選ばれていなければ、マシンビジョンは十分な性能を発揮できません。
ソフトウェア
パソコンに取り込まれた画像データに一定の処理を行った上で、定められた基準を超えているか否かの判断を行います。全ての検査に1種類のソフトウェアが対応しているわけではありません。文字入力と表計算でアプリケーションが分かれているように、検査内容に応じたソフトウェア選びが重要です。
マシンビジョンの処理プロセス
複数の要素から構成されるマシンビジョンですが、実際にマシンビジョンを通して取得した画像に対し、何らかの判断を下すまでの出力プロセスを見ていきましょう。
ステップ1:画像取得
最初のステップでは、必要な画像データを取得します。カメラを使用して、「人間の目」のように写ったものを認識します。しかし、マシンビジョンが人間と異なるのは、人間の目には写らないものも、データとして取得が可能な点です。たとえば、X線カメラを使えば、対象物の外側からでは発見できない不良の検査が可能です。
ステップ2:画像処理
カメラで撮影した画像を目的に応じたさまざまな方法で処理します。代表的な処理方法は、対象物の輪郭を検出するエッジ検出や、白黒に変換した画像を用いるしきい値設定などがあげられます。また、対象物に印刷されているバーコードの読み取りも画像処理の一環です。
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ステップ3:判断とその出力
ステップ2で得られた情報にもとづき、定められた基準に対しての合否判定を行います。そして、判定の結果をさまざまな形で出力します。たとえば、基準を超えるサイズの対象物を検知した場合は、アラームを鳴らしたり、ロボットアームによって取り除いたりするなどのアクションが出力されます。
マシンビジョンの3つの活用例
それでは、マシンビジョンの具体的な活用例を3つ紹介します。なお、マシンビジョンにより実現できるのが画像解析/画像認識ですが、これらの事例についてはぜひ下記の関連記事もご覧ください。
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活用例1:製品の外観・寸法検査
代表的なマシンビジョンの活用例が、大量に生産されている製品の外観および寸法検査です。同じ製品が大量に生産されている場合、合否判定の基準を定めておくことで、マシンビジョンが自動的に判断を行っていきます。さらに判断の結果、不良品となった製品を取り除くところまで自動化できます。
活用例2:設備点検
マシンビジョンは、工場設備の点検にも活用され始めています。たとえば、稼働中の設備の故障を検知した場合に自動メールアラートを通知する機能、設備の状況をリアルタイムで把握した報告書の作成などがあげられます。マシンビジョンが工場設備の点検に導入されることで、さらに効率的な稼働や作業工数の削減が期待できます。
活用例3:自動運転技術
自動運転を行う上で、マシンビジョンは必要不可欠な技術です。なぜなら、自動車が走行する車線の検出に加え、道路標識や周囲の人や車を認識した上で、適切な判断を行う必要があるからです。さまざまな情報をもとに、必要に応じてブレーキをかけたり、進行方向を調整したりする行為は、まさにマシンビジョンが必要とされている分野です。
マシンビジョンの導入で検査の効率化とDXを実現
マシンビジョンの導入によって、人的負担の大きい検査工程の効率化が期待できます。さらに、導入するマシンビジョンの種類によっては、従来は不可能とされていた細かい検査まで実施できる可能性を秘めていると言えるでしょう。そのため、効率化だけではなく、品質や工場全体の生産性の向上が見込めます。
また、効率化以上に重要な点が人的リソースの削減です。作業負担の軽減は人員配置の改善といった組織単位でのメリットにくわえ、働き方改革といった形で作業員個人にも大きなメリットをもたらします。デジタル化だけでなく、組織や働き方を変革するのがいわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の本質です。
今後の製造工程の効率化、あるいは工場のDX化を実現する上で欠かせないのがマシンビジョン。ぜひこの機会に導入も検討してみてはいかがでしょうか。