目次
GMPの基本的な概要
GMPは製造業者にとって必須の規範であり、製品の信頼性向上や取引先との信頼関係構築に貢献します。ここでは、用語の定義と目的、そして求められる背景について解説します。
GMPの定義と目的
GMPは「Good Manufacturing Practice」の略称で、日本語では「適正製造規範」または「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」と訳されます。製造工程における品質と安全性を保証するための包括的な管理基準であり、原材料の受け入れから製造、保管、出荷に至るまでのすべてのプロセスを対象とします。
GMPの最大の目的は、製品の品質を製造工程全体で一定に保つことです。医薬品や食品は人の健康に直接影響を与えるため、たった一度の製造ミスや汚染が重大な健康被害につながる可能性があります。そのため、GMPでは製品の最終検査だけでなく、製造プロセスそのものを管理・検証することで、不良品の発生を未然に防ぐアプローチを採用しています。
GMPが求められる背景
GMPが世界的に重視されるようになった背景には、1960年代のサリドマイド事件など、医薬品の品質管理不備による健康被害が深刻な社会問題となった歴史があります。この事件を契機に、各国で医薬品の製造管理を法的に規制する動きが加速しました。現在では医薬品だけでなく、健康食品や化粧品など幅広い分野でGMPの考え方が導入されています。
日本では1976年に薬事法(現在の医薬品医療機器等法)においてGMP省令が施行され、医薬品製造業者に対して製造管理および品質管理の基準遵守が義務付けられました。以降、段階的に適用範囲が拡大され、現在では医薬部外品や一部の健康食品製造にもGMPの考え方が適用されています。
GMPの適用範囲と対象製品
GMPが適用される製品は国や地域によって異なりますが、主な対象は以下の通りです。
- 医薬品(錠剤、注射剤、外用薬など)
- 医薬部外品(薬用化粧品、育毛剤など)
製造業者にとってGMPへの対応は、法令遵守のみならず、製品の信頼性向上や取引先からの評価向上にもつながる重要な取り組みとなっています。特に大企業においては、サプライチェーン全体での品質保証が求められるため、取引先に対してもGMP準拠を要求するケースが増えています。
GMP省令とISO規格の違いとは?
GMPに関連する基準として、GMP省令とISO規格があります。これらは目的や適用範囲、法的位置づけが異なり、それぞれの基準に従うことが求められる場面が異なります。企業がどの基準に従うべきかを判断するためには、それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが重要です。ここでは、GMP省令とISO規格の違いを明確にし、実務での使い分けや併用について解説します。
GMPとISOそれぞれの特徴
GMPに関連する基準として、GMP省令とISO規格がありますが、これらは目的や適用範囲、法的位置づけが異なります。現場でどの基準に従うべきかを判断するためには、それぞれの特徴を正しく理解する必要があります。
| 項目 | GMP省令 | ISO規格(ISO22000、ISO22716等) |
|---|---|---|
| 法的位置づけ | 日本の法令(医薬品医療機器等法)に基づく義務 | 国際的な任意規格(認証取得は任意) |
| 適用対象 | 医薬品・医薬部外品の製造業者 | 食品(ISO22000)、化粧品(ISO22716)など業界別 |
| 認証機関 | 厚生労働省(都道府県による許可制) | 第三者認証機関による審査・認証 |
| 管理範囲 | 製造管理・品質管理に特化 | マネジメントシステム全体(経営層の関与含む) |
| 更新 | 法改正に応じて義務的に対応 | 規格改定時の移行は任意だが推奨される |
GMP省令は日本国内の医薬品製造において法的に遵守が義務付けられているため、対象企業はこれに従わなければ製造許可が取り消される可能性があります。一方、ISO規格は国際標準化機構が策定した任意の規格であり、認証取得は義務ではありませんが、国際取引や顧客からの信頼獲得のために取得する企業が増えています。
GMP省令の特徴と適用範囲
GMP省令は医薬品製造に特化した基準であり、製造所ごとに製造管理者や品質保証責任者の配置が義務付けられています。製造所は定期的に都道府県の査察を受け、基準への適合性が確認されます。
省令では、製造設備の構造設備基準、製造管理の方法、品質管理の方法、出荷判定の手順などが詳細に規定されています。また、製造記録や試験記録は法定保存期間が定められており、トレーサビリティの確保が厳格に求められます。
ISO規格の特徴と活用方法
ISO規格は、GMPの考え方を基礎としながらも、組織全体のマネジメントシステムとして設計されています。例えばISO22000では、食品安全マネジメントシステムとしてHACCPの原則を組み込み、リスクベースアプローチによる継続的改善を重視しています。
ISO規格の利点は、国際的に認められた基準であるため、海外取引先からの信頼を得やすい点です。また、認証取得のプロセスを通じて、組織全体の品質マネジメント能力が向上し、経営層のコミットメントも明確になります。食品分野では法的義務ではないものの、大手取引先から認証取得を求められるケースが増えています。
省令とISO規格の使い分けと併用
医薬品製造業者はGMP省令の遵守が法的義務であるため、まずこれを満たすことが最優先です。その上で、国際展開を視野に入れる場合や取引先の要求に応える場合には、ISO規格の認証取得を検討します。
食品製造業者の場合、法的にはHACCPの制度化への対応が義務ですが、より高度な品質管理を実現したい場合や輸出を目指す場合には、ISO22000の認証取得が有効です。両者は矛盾するものではなく、ISO規格はGMPの考え方を包含しているため、併用することで相乗効果が期待できます。
GMP三原則について
GMPの運用は、製造現場における品質管理の根幹をなす「三原則」に基づいています。これらの原則は、製品の品質を保証し、製造プロセス全体で一貫した基準を維持するための基本的な考え方です。GMP活動のすべては、この三原則を実現するために設計されており、各企業がこれを実務に落とし込むことで、製品の品質向上や安全性確保を実現します。ここでは、GMP三原則の詳細とそれに基づく実務対応について解説します。
GMP三原則の詳細と実務対応
GMPの運用は「三原則」と呼ばれる基本的な考え方に基づいています。この三原則は、製造現場における品質管理の根幹をなすものであり、すべてのGMP活動はこの原則を実現するために設計されています。
| 原則 | 内容 | 主な実務対応 |
|---|---|---|
| 人為的誤りの最小化 | 作業者のミスや判断ミスを防ぐ | 標準作業手順書(SOP)の整備、ダブルチェック体制、教育訓練 |
| 汚染・品質低下の防止 | 外部からの汚染や交差汚染を防ぐ | 清浄区域の設定、動線管理、清掃・消毒手順の確立 |
| 高品質保証システムの設計 | 品質を保証する仕組みを構築する | バリデーション、逸脱管理、変更管理、文書管理システム |
これらの原則は相互に関連しており、一つの原則だけを遵守しても十分な品質保証は実現できません。次に、各原則の詳細と実務的な対応方法を解説します。
第一原則:人為的誤りの最小化
製造現場では、作業者の経験や知識に依存した管理ではなく、誰が作業しても同じ品質を実現できる仕組みづくりが求められます。これは標準作業手順書(SOP)の整備と徹底した教育訓練によって実現されます。
SOPは作業の各ステップを詳細に記述し、作業者が迷わず正しい手順を実行できるようにする文書です。重要な作業にはダブルチェック体制を導入し、一人の判断ミスが製品に影響しないようにします。また、定期的な教育訓練とその記録保管により、作業者の力量を維持・向上させます。
第二原則:汚染および品質低下の防止
製品の汚染や品質低下を防ぐためには、製造環境の管理が不可欠です。製造区域を清浄度に応じてゾーニングし、人や物の動線を管理することで、外部からの汚染や異なる製品間の交差汚染を防ぎます。
具体的には、空調システムによる陽圧管理、エアロックの設置、専用の作業着や履物の使用、定期的な清掃・消毒の実施などが含まれます。また、原材料や中間製品の保管条件を厳格に管理し、温度・湿度・光などの環境要因による品質低下を防止します。
第三原則:高品質保証システムの設計
品質を保証するシステムとは、製造プロセスが常に意図した通りに機能していることを検証し、問題が発生した際には迅速に対応できる体制のことです。これはバリデーション、逸脱管理、変更管理、文書管理といった要素で構成されます。
バリデーションでは、製造設備や手順が期待通りの結果を一貫して生み出すことを科学的に証明します。逸脱管理では、標準から外れた事象が発生した場合の原因究明と是正措置を体系的に行います。変更管理では、製造プロセスや設備に変更を加える際の影響評価と承認手続きを明確にします。
医薬品分野における実務対応
医薬品製造におけるGMP管理は、厚生労働省が定めるGMP省令に基づき、非常に厳格に運用されています。製造現場では、品質保証を確立するために複数の管理ポイントが日常的に実施され、製品の品質を維持します。ここでは、医薬品製造における主要なGMP管理ポイントについて解説し、品質保証活動がどのように展開されているのかを具体的に説明します。
医薬品分野でのGMP管理ポイント
医薬品製造におけるGMP管理は、厚生労働省が定めるGMP省令に基づき、極めて厳格に運用されています。製造現場では、以下の管理ポイントを中心に日常的な品質保証活動を展開します。
- 原材料の受入・保管管理
- 製造工程の管理と記録
- 製造環境の清浄度管理
- 試験検査とバリデーション
- 逸脱・変更管理
- 教育訓練と文書管理
これらの管理ポイントは相互に関連しており、一つでも不備があれば製品全体の品質保証が崩れる可能性があります。次に、各ポイントの具体的な管理内容を解説します。
原材料の受入・保管管理
医薬品の品質は使用する原材料の品質に大きく依存するため、受入時の試験検査と適切な保管管理が不可欠です。原材料は受入時に規格適合性を確認し、合格したものだけを製造に使用します。
保管では、原材料ごとに定められた温度・湿度条件を維持し、ロットごとに明確に区分して管理します。また、先入れ先出し(FIFO)の原則を徹底し、期限切れ原材料の使用を防止します。原材料の供給者に対しても定期的な監査を実施し、供給品質の安定性を確認します。
製造工程の管理と記録
製造工程では、各作業ステップでの条件(温度、時間、圧力など)を厳格に管理し、すべての作業を記録します。製造記録は製品の品質を証明する重要な文書であり、作業者の署名と確認者の署名が必要です。
製造設備は定期的に校正・点検を実施し、正確な制御が行われていることを確認します。また、製造ロットごとに製番を付与し、原材料から最終製品までのトレーサビリティを確保します。異常が発生した場合には逸脱報告を作成し、原因究明と是正措置を文書化します。
製造環境の清浄度管理とバリデーション
医薬品製造では、製品の種類に応じた清浄度管理が求められます。無菌医薬品の製造ではクリーンルームを使用し、空気中の微粒子数や微生物数を定期的にモニタリングします。
バリデーションは、製造プロセスや設備が期待通りの結果を一貫して生み出すことを科学的に証明する活動です。プロセスバリデーション、洗浄バリデーション、分析法バリデーションなど、各種のバリデーションを計画的に実施し、その結果を文書化して保管します。
まとめ
GMPは医薬品や食品の製造現場において、製品の品質と安全性を保証するための体系的な管理基準です。人為的誤りの最小化、汚染・品質低下の防止、高品質保証システムの設計という三原則に基づき、原材料管理から製造工程、出荷に至るまでのすべてのプロセスを対象とします。
GMP省令は医薬品製造において法的に義務付けられており、厳格な遵守が求められます。一方、ISO規格は国際的なマネジメントシステム規格として、任意ながらも取引先や消費者からの信頼獲得に有効です。両者は矛盾するものではなく、目的に応じて使い分けや併用が可能です。
医薬品分野では原材料管理、製造工程管理、バリデーション、逸脱管理など高度な管理が求められ、食品分野では衛生管理とトレーサビリティを中心に実務的な対応が必要です。最新の法規制動向を把握しながら、現場に根ざした品質保証活動を展開することで、製品の安全性と企業の競争力を高めることができます。
参考文献
https://kaminashi.jp/media/gmp
