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幾何公差記号の基礎知識
幾何公差記号とは、部品の形状や位置の精度を図面上で指定するための標準化された記号体系です。「形状」、「姿勢」、「位置」、「振れ」の4種類に対して全部で15種類の記号が存在します。JIS B 0021やISO 1101などの国際規格に基づいて定められており、世界共通の言語として機能しています。
幾何公差と寸法公差の違い
幾何公差は部品の形状・姿勢・位置の精度を制御するのに対し、寸法公差は部品のサイズ(大きさ)の精度を制御します。
例えば、φ20mmの穴の場合、寸法公差は穴径が19.9~20.1mmの範囲に収まることを保証しますが、幾何公差は穴が真円であることや、他の部位との位置関係が正確であることを保証します。両者は独立して機能し、それぞれ異なる品質要求に対応しています。
公差記入枠の構成要素
幾何公差は公差記入枠という特殊な枠内に記載されます。この枠は左から順に、幾何特性記号、公差値、データム記号(必要な場合)の順で構成されています。
公差記入枠から引出線で指示対象となる形体に矢印を向けることで、どの部位に対してどのような精度要求があるかを明確に示します。矢印の向き方によって、表面に対する指示か、軸や中心線に対する指示かが区別されます。
以下の表は、公差記入枠の構成要素とその順序、記載内容を示しています。
構成要素 | 配置順序 | 記載内容 |
---|---|---|
幾何特性記号 | 1番目 | 制御する幾何特性の種類 |
公差値 | 2番目 | 許容される誤差の範囲 |
データム記号 | 3番目 | 基準となる形体の指定 |
形状公差記号の基礎知識
形状公差は、個々の形体がどの程度理想的な形状から逸脱してよいかを制御する公差です。データム(基準)を必要とせず、形体単独で評価される特徴があります。
真直度記号の特徴と応用
真直度記号(—)は、直線がどの程度まっすぐであるかを制御します。軸の曲がりや平面上の直線の歪みを規制する際に使用され、特に長尺部品や精密な案内面で重要な役割を果たします。
真直度は測定方向によって異なる値を示すため、図面上では測定方向を明確に指定することが重要です。
平面度記号の活用場面
平面度記号(□)は、平面がどの程度平らであるかを制御するために使用されます。特に重要なのは、機械の据付面や密封面など、面と面が密着する部位です。このような部位では、微細な不均一性でも機能や密封性能に影響を与えるため、平面度の精度が求められます。
平面度の測定は、3点以上の基準点を設定し、その基準点からの最大偏差を評価します。これにより、部品が所定の基準に対してどれだけ平らであるかを正確に測定できます。適切な平面度の制御が行われることで、組み立て精度や機能性が向上し、最終製品の品質が確保されます。
真円度と円筒度の違い
真円度記号(○)は断面の円形度を、円筒度記号(⌭)は円筒全体の形状精度を制御します。真円度は特定断面のみの評価ですが、円筒度は軸方向全体の形状を総合的に評価する点で異なります。
以下は、真直度、平面度、真円度と円筒度の違いです。
記号 | 名称 | 制御内容 | 主な用途 |
---|---|---|---|
⏤ | 真直度 | 直線の曲がり | 軸、案内面 |
⏥ | 平面度 | 平面のうねり | 据付面、密封面 |
○ | 真円度 | 円の歪み | 軸受面、シール溝 |
⌭ | 円筒度 | 円筒の総合形状 | 精密軸、シリンダ |
姿勢公差記号の基礎知識
姿勢公差は、形体が基準に対してどのような角度や方向を保つべきかを制御する公差です。必ずデータム(基準)を必要とし、相対的な位置関係を規定します。
平行度記号の設定方法
平行度記号(∥)は、指定した形体が基準面に対してどの程度平行であるかを制御します。工作機械のテーブル面や、組立時に平行を保つ必要がある部品面で頻繁に使用されます。
平行度は基準面からの距離変化を制御するもので、基準面との実際の距離は寸法公差で別途管理する必要があります。
直角度の記号の重要性
直角度の記号(⊥)は、指定形体が基準に対して垂直であることを保証します。この記号は、機械部品の取付面や、精密な位置決めが必要な部位で不可欠な公差です。例えば、機械のフレームや構造部品の組み立て時に、部品間の直角度が正確でなければ、後の工程で問題を引き起こす可能性があります。
測定は基準からの角度偏差で評価され、一般的に角度または距離で表現されます。特に、精密機器や組立精度が求められる製品では、直角度を厳密に制御することで、部品同士の干渉や動作不良を防ぎ、製品の品質を確保します。このため、直角度の記号は非常に重要な役割を果たします。
傾斜度記号の特殊用途
傾斜度記号(∠)は、指定した角度を基準に対して保つことを要求します。テーパ面や傾斜した取付面など、特定の角度を維持する必要がある部位で使用されます。角度の基準値は別途寸法として指定され、傾斜度はその角度からの偏差を制御します。
以下が、平行度・直角度・傾斜度それぞれの役割です。
記号 | 名称 | 制御内容 | 制御内容 |
---|---|---|---|
∥ | 平行度 | 基準面に対する平行性 | テーブル面、組立面 |
⊥ | 直角度 | 基準面に対する垂直性 | 取付面、構造部品 |
∠ | 傾斜度 | 基準に対する指定角度の精度 | テーパ面、傾斜取付面 |
位置公差記号の基礎知識
位置公差は、形体が基準に対してどこに位置すべきかを制御する公差です。部品間の組付け精度や機能的な位置関係を保証するために使用されます。
位置度記号の測定原理
位置度記号(⊕)は、穴や軸などの形体が理論的に正確な位置からどの程度ずれてよいかを制御します。円形の公差域で表現され、X-Y方向の位置偏差を総合的に評価できる利点があります。
位置度は最大実体公差方式(MMC)と組み合わせることで、部品の互換性を保ちながら製造コストを抑制できる効果的な公差設定が可能です。
同心度と同軸度の使い分け
同心度記号(◎)は、円形断面の中心位置を制御するために使用されます。この記号は、円形の部品がその断面において正確に中心に位置することを要求します。一方、同軸度記号(◎)は、軸全体の軸心位置を制御するために使用されます。これは、部品の軸方向に沿って、全体的な中心位置がどれだけ整っているかを評価します。
これらの記号は使用される部品や目的によって使い分けが必要です。例えば、軸受部品や回転体では、軸全体の位置が重要となるため、同軸度が選ばれることが一般的です。逆に、特定断面の中心位置を厳密に制御したい場合、同心度が選択されます。このように、同心度と同軸度はそれぞれ異なる制御対象に適用されるため、目的に応じた選択が重要です。
対称度記号の特殊性
対称度記号(⌯)は、形体が基準の中心線や中心平面に対して対称であることを要求します。キー溝や対称形状の部品で使用され、左右のバランスや中心位置の精度を保証します。
以下は、対称度記号を含む幾何公差の主要な記号とその制御対象です。
記号 | 名称 | 制御対象 | 公差域の形状 |
---|---|---|---|
⊕ | 位置度 | 点・軸・面の位置 | 円形・円筒形 |
◎ | 同心度/同軸度 | 中心・軸心の位置 | 円形・円筒形 |
⌯ | 対称度 | 中心線/平面に対する対称性 | 平行2平面 |
振れ公差記号の基礎知識
振れ公差は回転する形体の動的な精度を制御する公差です。実際の回転状態での測定が特徴で、機械の回転部品や軸受部で重要な役割を果たします。
円振れ記号の測定方法
円振れ記号(↗)は、指定した断面で形体を1回転させたときの振れ量を制御します。測定は固定した測定子で行い、ダイヤルゲージなどで振れ量を読み取ります。各断面が独立して評価されるため、軸の各部位での振れを個別に管理できます。
円振れは回転軸に対する局所的な振れを制御するため、全振れよりも緩い公差値を設定できることが多く、コスト効率の良い公差設定が可能です。
全振れ記号の包括的評価
全振れ記号(⌰)は、形体全体を通じた振れを一括して制御します。この記号は、軸方向にも測定子を移動させながら評価するため、より厳しい精度要求となります。全振れは、部品が回転しているときに生じる振れを総合的に評価するため、機械的な動作精度に大きな影響を与える要素です。
このため、高精度回転軸や精密機械の主軸など、非常に高い精度が求められる部品に使用される重要な公差です。例えば、航空機や自動車のエンジン部品、精密測定機器などでは、この公差が特に重要であり、微細な振れがシステム全体の性能や信頼性に大きく影響します。
振れ測定時の注意点
振れ測定では、データムとなる軸受部の精度が測定結果に大きく影響します。測定治具の精度管理と、回転速度の一定化が正確な測定のために不可欠です。また、測定子の接触力も振れ量に影響するため、標準化された測定条件での実施が重要です。振れ測定時の注意点は以下のとおりです。
- 適切な測定治具の準備と精度確認
- 一定の回転速度での測定実施
- 測定子接触力の標準化
- 複数点での測定による信頼性向上
円振れと全振れの違いを理解し、部品の使用目的や要求精度に応じて適切な公差を指定することで、回転体の性能や信頼性を効果的に保証することができます。
記号 | 名称 | 制御内容 | 主な用途 |
---|---|---|---|
↗ | 円振れ | 回転時の局所的な振れ | 軸の断面ごとの振れ |
⌰ | 全振れ | 回転体全体の総合的な振れ | 主軸、精密回転体 |
まとめ
幾何公差記号は、現代の製造業において部品の品質と機能を保証するための不可欠なツールです。形状公差、姿勢公差、位置公差、振れ公差の4つのカテゴリーに分類される記号それぞれが、特定の幾何学的特性を制御し、製品の性能要求を満たすために機能しています。
適切な幾何公差の指定と読み取りは、設計意図の正確な伝達と品質管理の向上に直結します。JIS規格に基づいた標準的な記号体系を理解することで、より効果的な図面作成と品質管理が実現できるでしょう。
今後も技術の進歩とともに幾何公差の応用範囲は拡大していくことが予想されます。本記事で解説した基礎知識を土台として、実際の設計・製造現場での実践を通じて、より深い理解と技術向上を目指していただければと思います。
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