ChatGPTをはじめとした生成AIの普及によって、生成AIのビジネス活用が企業の大きなテーマとなりつつあります。簡単な指示でさまざまなデータを生み出せる生成AIですが、デメリットを感じる、あるいは実際の業務でどのように活用すべきか、具体的なイメージが持てない方も少なくありません。本記事では、メリット・デメリットを踏まえ、生成AIがビジネスにおいてどのような改善効果を生み出すのかについて活用例とともに紹介します。
生成AIの基本的なメリット・デメリット
まずは生成AIの機能や、その機能が生み出す基本的なメリット・デメリットを確認していきましょう。
生成AIのメリット
生成AIとは、何らかの指示を与えることで、事前に学習した情報から「指示に応える新たなデータ」を生成できるAIを指します。生成できるデータはテキストや画像、動画など、AIの種類によってさまざま。生成AIのメリットとして、主に以下の2点があげられるでしょう。
時間の節約
人間がデータを生成する際には、調査時間・思考時間・入力時間が必要ですが、生成AIのデータ生成に要する時間は基本的に数秒〜数分程度。生成するデータが多く、複雑になるほど、時間の節約効果は大きくなります。
クオリティの担保、均一化
生成AIが生み出すのは、膨大な学習量から導き出す最適なデータです。生成AIを利用することで、制作経験がない人でも一定のクオリティのデータを生み出せるうえ、作業者による品質のばらつきも抑えることができます。
生成AIの抱えるデメリット
一見すると非常に便利な生成AIですが、次のようなデメリットも抱えています。
指示の難しさ
生成AIは抽象的な指示や背景にある意図を100%理解できる訳ではないため、具体的な指示をしなければ目的に沿ったデータを得ることはできません。たとえば、「AIについて説明する文章の作成」という指示において使途や目的を提示しなかった場合、小中学校の授業で使用したいにも関わらず、専門的で難解な文章が生成される場合があります。
誤りの発生
仮に適切な指示でデータを生成しても、データに誤り（ハルシネーション）が含まれる事例が後を絶ちません。生成AIが学習したデータを組み合わせる過程において、事実と異なる内容や矛盾した内容を混同してしまうことでこのような現象が発生します。
独創性の欠如
生成AIのアウトプットは学習した情報に依存します。したがって、ChatGPTのように一般公開されている生成AIを多数の企業が利用した場合、基盤となる情報が同じである以上、生成できるデータにも大きな差はありません。仮に独創性のあるデータを生み出そうとした場合は、生成AIに自社独自の情報やノウハウを追加で学習させる必要があります。
生成AIの効果的な活用方法
それでは、このようなメリットやデメリットを踏まえてなお効果的に生成AIを活用するためには、どのような方法が考えられるのでしょうか。
効率的な記録・要約ツールとしての活用
生成AIは、特に独自性が求められない記録・要約作業において大きな力を発揮します。
たとえば、会議の議事録を作成する場合を考えてみましょう。人間が議事録を作成するには、会議の内容を聞きながらメモを取り、後で整理して文書にまとめる必要があります。時間や手間がかかりますし、記録漏れや誤記のリスクも避けられません。
しかし、生成AIを用いることでこの作業をほぼ自動化できます。生成AIを音声認識→文字起こし→文章要約という流れで活用することで、会議の内容を簡潔にまとめた正確かつ客観的な議事録の自動作成が可能です。
アイデア創出の「たたき台」としての活用
独創性のあるデータを作成したい場合、生成AIが生み出したデータをそのまま使用するのではなく、アイデアのベースとなるデータを提示させる活用法が考えられます。
たとえば、商品名やキャッチコピーなどを決める場合を考えると、まず候補を列挙し、吟味したうえで最終的な案を作成する流れは珍しくありません。そこで生成AIを活用することで、一定の品質の候補を短時間で複数生成することが可能です。それらの候補をベースにさらに人の手を加えることで、案出しの労力を省きつつ、ハルシネーションのリスクや独創性をカバーすることができます。
社内利用に特化した問い合わせ窓口としての活用
生成AIの機能が最も活きるのは、チャットボットをはじめとした「問い合わせ窓口」としての活用です。社内でよくある質問や要望に生成AIが迅速かつ正確に対応できれば、人的リソースを費やす必要がありません。
実際にChatGPTは、専門知識がない方でも気軽に利用し、情報を得ることができます。同じように利用できるヘルプデスクが社内にあれば、その都度担当部署に問い合わせる必要がなくなりますし、多少の精度の粗さが大きな問題になることも少ないでしょう。
生成AI導入によるビジネス改善効果
生成AIの「メリット」を踏まえた活用によって、企業が受けられる「ベネフィット（恩恵）」は計り知れません。実際にどのような改善効果が見込めるのか紹介していきましょう。
作業の効率化によるコスト削減・生産性向上
記録や要約、検索を中心とした単純作業を自動化することで、各々が本来注力すべき業務に費やす時間を確保できます。
結果として、人的コストの削減や生産性の向上はもちろん、多くの企業が抱える「人手不足」という課題を解決することができます。
人にはできない高度な分析や表現
過去のデータや経験から有益な情報を抽出し、誰にでもわかる形で表現するにはさまざまなスキルが求められます。そのため対応できる人が少ない、あるいは少数の人に負担が集中するケースが少なくありません。
生成AIを適切に用いることで、人の手では処理しきれない膨大なデータを分析し、その結果を誰にでも理解できる、すぐに活用できる形でアウトプットできます。市場動向や顧客ニーズの分析から最適な商品やサービスを考案する、競合他社の戦略や弱点の把握から差別化要因を発見するといった難易度の高い業務に誰もが取り組めるようになりますし、業務負担を分散する効果もあるでしょう。
社員同士のコミュニケーションの円滑化
生成AIが社内における単純なやり取りや質問への回答を担うことで、応対する部署が感じていた「無駄な問い合わせによるストレス」が大きく軽減されます。
このことと前述した「作業の効率化」によって、社員に業務的・心理的な余裕が生まれ、人間関係やビジネスを改善するコミュニケーションが生まれやすい環境を作る効果もあるのです。
生成AI導入のリスク・注意点
もちろん、ビジネスへの生成AI導入は恩恵だけでなくリスクも伴います。生成AI導入にあたってのリスクや注意点については、以下を押さえておきましょう。
スキルアップの機会を奪う可能性がある
生成AIに依存してしまうと、スキルアップの機会を失うことになりかねません。
たとえば、資料作成を生成AIに任せ続けると、調査、思考、執筆、デザインする機会がなくなり、それらのスキルを磨く機会がなくなります。
そのため、ある業務で生成AIを活用する際は、人力でも対応できるレベルの知識を身につけたうえで、あくまで補助的なツールとして用いることを心がけましょう。
逆に最低限の知識を身につけた上で生成AIを活用すれば、生成AIの回答から逆算して新たな知見を得たり、生成AIの活用それ自体のスキルを身につけられるとも言えます。
根拠や責任の所在が不明確
先に述べたように、生成AIが生み出したデータは必ずしも正しいとは限りません。また、生成されるのは結果だけであり、思考のメカニズムや根拠を人の手で説明することは困難です。データの正確性の確認やファクトチェックは必須と考えておきましょう。
また、生成AIが利用されるようになってから日が浅いため、生成AIの活用に係る法律が十分に整備されているとは言えません。何らかのトラブルが起きた場合に、使用者である企業の責任が問われる場合も十分に考えられるため注意が必要です。
参考：AIにより他人に損害を与えた場合の責任を弁護士がわかりやすく解説 | TOPCOURT LAW FIRM
情報漏えいのリスク
生成AIは使用できる企業の範囲によって、公開ツールと非公開ツールに分類できます。
- 公開ツール：誰もがインターネット上で使えるもの（ChatGPTやDeepLなど）
- 非公開ツール：特定の組織や個人だけが使用できるよう開発・提供されたもの。
公開ツールは入力した情報やフィードバックが生成AIの学習に使われてしまう恐れがあるため、企業秘密や顧客情報などを入力することがすなわち「情報漏えい」となります。そのため、生成AIの活用推進にあたっては、機密情報の入力を禁止するガイドラインが必要です。
また、仮に独自のノウハウを学習させることが前提となる場合は、他社に利用されないような非公開ツールを選ばなければなりません。
法律や社会倫理的な問題
生成AIが生み出したデータが既存のデータと類似してしまった場合、知的財産権や産業財産権を侵害するリスクが生じます。たとえば、生成AIが生み出した商品名がすでに商標登録されていた…といった可能性が捨てきれません。
また、社会倫理的に好ましくない表現がなされる懸念もあります。生成AIによって作られたコンテンツが事実と異なっていたり、誤解を招く表現であれば、企業の信頼性や評判を損なうことになるでしょう。
生成AIが生み出したデータを使用する際は、法律や社会倫理に適合するかどうかを確認し、必要に応じたリーガルチェックを実施しなければなりません。
一定のコストが必要
生成AIは便利なツールですが、導入には利用料や開発費といったコストが発生します。また、ここまでに述べたリスクを抑制するためには、活用体制や社内制度の整備、AI開発の要件などを考慮しなければなりません。生成AIのメリットや導入効果に対し、デメリットやリスクマネジメントのコストも踏まえたうえで、導入を検討するようにしましょう。
生成AIはメリット/デメリットを踏まえて活用を
生成AIにはさまざまなメリットがあり、デメリットも活用方法によって十分にカバーすることができます。それゆえにビジネスへの導入によって大きな改善効果を期待できますが、リスクや注意点、それらを踏まえた使用体制や間接的なコストも考慮が必要です。
本記事においては最低限押さえておくべきポイントを紹介しましたが、実際の業務内容や生成AI導入の目的によっても重視すべき点は異なります。生成AIの導入は、AI開発業者や専門機関と連携しつつ進めるのが良いでしょう。
