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食品トレーサビリティとは?メリットや課題、工場での運用ポイントを事例と一緒に紹介

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食品トレーサビリティとは?メリットや課題、工場での運用ポイントを事例と一緒に紹介

食品事故や偽装問題が社会問題化する中、消費者の食の安全・安心への関心は年々高まっています。食品製造業においても、製品の履歴を正確に管理・追跡できる仕組みの構築が経営上の重要課題となっています。食品トレーサビリティは、原材料の調達から製造、流通、販売に至るまでの過程を記録・追跡する仕組みであり、食品事故発生時の迅速な対応や品質保証、法令遵守において不可欠な要素です。本記事では、食品トレーサビリティの基本的な定義や仕組みから、導入によって得られるメリット、直面しやすい課題、さらには工場現場での具体的な運用ポイントや実際の導入事例までを詳しく解説します。

食品トレーサビリティの基本と仕組み

食品トレーサビリティにより、問題が発生した際には迅速に原因を特定し、影響範囲を把握して適切な対応を取ることが可能になります。ここでは、具体的な定義と目的、HACCPとの違いについて説明します。

食品トレーサビリティの定義と目的

食品トレーサビリティは、食品の安全性確保と品質保証を実現するための根幹となる管理手法であり、原材料の調達先から製造工程、出荷先までを一元的に把握できる体制を指します。この仕組みは「いつ、どこで、誰が、何を、どのように」という5W1Hの情報を正確に記録することで成立します。主な目的は、食品事故や不良品が発生した際の迅速な原因究明と被害拡大の防止、消費者への正確な情報提供、そして食品業界全体の信頼性向上です。

食品安全基本法や食品衛生法などの法令においても、食品事業者にトレーサビリティの確保が求められており、特に牛肉やコメなど特定の食品については法律で記録保管が義務付けられています。グローバルな食品流通が拡大する中、国際基準への対応や輸出入時の要件としても、トレーサビリティの整備は必須となっています。

トレーサビリティの2つの方向性

トレーサビリティには、追跡の方向性によって2つの種類があります。それぞれが異なる目的を持ち、両方を統合することで完全なトレーサビリティシステムが構築されます。

一つ目は「トレースフォワード」と呼ばれる順方向の追跡です。これは原材料から製品がどこに流通したかを追跡する仕組みで、問題が発覚した際に影響を受ける可能性のある製品や顧客を特定するために使用されます。二つ目は「トレースバック」と呼ばれる逆方向の追跡で、最終製品から原材料までさかのぼって原因を特定する仕組みです。不良品が発見された際に、どの原材料ロットやどの製造工程に問題があったのかを迅速に突き止めることができます。

HACCPとの違いと関係性

食品安全管理において、トレーサビリティとよく混同されるのがHACCP(ハサップ)です。HACCPは製造工程における危害要因を分析し、重要管理点を定めて継続的に監視・記録する衛生管理手法であり、製品の安全性を確保するための予防的なアプローチです。

一方、トレーサビリティは製品の履歴を記録・追跡する仕組みであり、問題発生後の対応に重点を置いています。HACCPが「予防」であるのに対し、トレーサビリティは「事後対応と透明性確保」という位置づけです。実際の運用においては、HACCPで記録された製造工程のデータをトレーサビリティシステムに統合することで、より包括的な品質管理体制を構築することができます。両者は相互補完的な関係にあり、食品安全マネジメントシステムの両輪として機能します。下記は、項目ごとにHACCPとトレーサビリティを比較した表です。

HACCPトレーサビリティ
主な目的製造工程での危害防止・予防製品履歴の記録・追跡
対象範囲製造工程の重要管理点原材料調達から販売まで全工程
アプローチ予防的管理事後対応と透明性確保
記録内容温度・時間・検査結果など
工程管理データ
ロット番号・仕入先・出荷先など履歴データ

食品トレーサビリティ導入のメリット

食品トレーサビリティを導入することで、企業は多面的なメリットを享受できます。単なる法令対応にとどまらず、経営全体に好影響をもたらす戦略的な取り組みとなります。

食品事故発生時の迅速な対応と被害最小化

トレーサビリティシステムが整備されていれば、食品事故や不良品が発見された際に、該当製品の特定と回収を数時間から数日で完了でき、被害の拡大を大幅に抑制できます。従来、製品回収には原因究明だけで数週間を要することも珍しくありませんでしたが、正確な履歴管理により問題のあるロットを即座に特定し、流通先を把握して迅速な回収指示を出すことが可能になります。

また、影響範囲を正確に絞り込めるため、不必要な大規模回収を避けることができ、経済的損失を最小限に抑えられます。消費者や取引先への説明責任を果たす際にも、客観的なデータに基づいた正確な情報提供ができるため、企業の信頼性を維持しやすくなります。特に大企業においては、広範な流通網を持つため、迅速かつ正確な対応能力が企業価値を左右する重要な要素となります。

消費者・取引先からの信頼獲得とブランド価値向上

トレーサビリティの確立は、透明性の高い企業姿勢を示すことにつながり、消費者や取引先からの信頼獲得に直結します。原材料の産地や製造工程を明確に開示できることは、食の安全に対する真摯な取り組みの証明となり、ブランドイメージの向上に貢献します。

特にBtoB取引においては、大手小売チェーンや外食産業からの要求水準が年々高まっており、トレーサビリティの整備が取引条件となるケースも増えています。グローバル市場への進出や輸出を視野に入れる企業にとっては、国際基準に準拠したトレーサビリティの確立が必須要件です。消費者向けには、QRコードやWebサイトを通じた製品情報の開示により、商品選択時の差別化要因となり、リピート購入率の向上にもつながります。

業務効率化とデータ活用による経営改善

トレーサビリティシステムの導入は、記録作業のデジタル化と自動化を促進し、現場業務の効率化をもたらします。手書き帳票や紙ベースの記録管理から脱却することで、記録ミスの削減や検索時間の短縮が実現し、管理部門の業務負担が大幅に軽減されます。

さらに、蓄積された履歴データを分析することで、製造工程のボトルネック特定や在庫最適化、需要予測の精度向上など、経営判断に活用できる知見が得られます。ロット管理の精度が向上することで、原材料の無駄を削減し、廃棄ロスの低減にもつながります。IoTセンサーやAI技術との連携により、温度や湿度などの環境データをリアルタイムで記録・監視できるようになれば、品質管理のさらなる高度化も期待できます。

法令遵守とコンプライアンス強化

食品表示法や食品衛生法などの法令では、食品事業者に対して適切な記録保管や情報提供が求められています。トレーサビリティシステムの整備により、これらの法的要件を確実に満たすことができ、行政監査や第三者監査への対応もスムーズになります。

万が一、食品事故や法令違反が疑われる事態が発生した場合でも、正確な記録と迅速な情報提供により、企業の誠実な姿勢を示すことができます。罰則リスクの低減だけでなく、社会的責任を果たす企業としての評価向上にもつながり、長期的な事業継続性の確保に貢献します。下記はメリット一覧です。

  • 食品事故時の原因特定と影響範囲の迅速な把握
  • 消費者・取引先への透明性の高い情報提供による信頼獲得
  • 業務プロセスのデジタル化による効率化とミス削減
  • 蓄積データの分析による経営判断の高度化
  • 法令要件の確実な遵守とコンプライアンスリスクの低減
  • ブランド価値向上と取引機会の拡大

食品トレーサビリティ導入・運用における課題

食品トレーサビリティには多くのメリットがある一方で、導入や運用にあたってはいくつかの課題に直面することも事実です。これらの課題を事前に理解し、適切な対策を講じることが重要です。

初期投資とランニングコストの負担

トレーサビリティシステムの構築には、バーコードリーダーやRFIDタグなどのハードウェア購入費用、システム開発・導入費用、既存システムとの連携費用など、数百万円から数千万円規模の初期投資が必要となります。特に、大規模工場や複数拠点を持つ企業では、全拠点への展開に多額の費用がかかります。

また、システム導入後も、保守・メンテナンス費用、サーバーやクラウドサービスの利用料、データバックアップ費用、システムアップデート費用などのランニングコストが継続的に発生します。これらのコストに見合う効果を得るためには、単なる記録システムとしてではなく、業務効率化や品質改善など、幅広い経営効果を生み出す戦略的な活用が求められます。投資対効果を明確にし、段階的な導入計画を立てることが重要です。

現場作業員の負担増加と抵抗感

トレーサビリティの運用には、製造現場での詳細な記録作業が不可欠です。原材料の受け入れ時、製造工程の各段階、製品の出荷時など、あらゆるタイミングでデータ入力や記録が必要となり、現場作業員の業務負担が増加します。

特に、長年紙ベースの記録に慣れた現場では、新しいシステムやデバイスの操作に対する抵抗感が生じやすく、定着までに時間がかかることがあります。記録漏れやミス入力が頻発すると、システムの信頼性が損なわれ、トレーサビリティの目的自体が達成できなくなります。現場の理解と協力を得るためには、トレーサビリティの重要性や自分たちの作業がどう役立つかを丁寧に説明し、使いやすいシステム設計と十分な教育訓練を実施することが不可欠です。

複数システム間の連携とデータ標準化の困難

食品製造業では、既に生産管理システム、在庫管理システム、販売管理システムなど複数のシステムが稼働していることが一般的です。トレーサビリティシステムをこれらの既存システムと連携させるには、データフォーマットの統一やAPI連携の開発など、技術的なハードルがあります。

また、原材料の仕入先や製品の納入先など、サプライチェーン全体でのデータ連携を実現するには、取引先企業との調整やデータ標準化への合意が必要となり、調整に多大な労力を要します。業界団体が定めるデータ標準規格の活用や、クラウドベースのプラットフォーム型システムの採用により、連携の負担を軽減できる場合もあります。長期的な視点でシステムアーキテクチャを設計し、拡張性を確保しておくことが重要です。

データ管理とセキュリティ対策の必要性

トレーサビリティシステムには、原材料の仕入先情報、製造ノウハウに関わるデータ、取引先情報など、機密性の高い情報が大量に蓄積されます。これらのデータが外部に流出すれば、企業の競争力低下や取引先との信頼関係の毀損につながります。

サイバー攻撃やランサムウェアによるデータ破壊のリスクにも備える必要があり、適切なアクセス権限管理、暗号化、定期的なバックアップ、セキュリティ監査などの対策が求められます。また、個人情報保護法や各種業界ガイドラインに準拠したデータ管理体制の構築も必要です。クラウドサービスを利用する場合は、提供事業者のセキュリティ体制や国内法への対応状況を十分に確認することが重要です。下記は、システム導入や運用に関する課題と対策をまとめた表です。

課題具体的な問題対策のポイント
コスト負担初期投資・ランニングコストの高さ段階的導入、
ROIの明確化、
補助金活用
現場負担記録作業の増加、
システム操作の複雑さ
使いやすいUI設計、
十分な教育訓練、
目的の共有
システム連携既存システムとの統合、
データ標準化
拡張性のある設計、
業界標準の活用
データ管理セキュリティリスク、
バックアップ体制
アクセス管理、
暗号化、
定期的な監査

食品トレーサビリティの導入事例

食品トレーサビリティの導入を考えている企業にとって、実際に取り組んでいる企業の事例を参考にすることは非常に有益です。特に、アナログ的な管理方法では到底対応できない規模になった場合、ITシステムを導入して管理を効率化することが鍵となります。ここでは、実際の事例を3つ紹介します。

仕入時のロット管理効率化の事例

まず、仕入れ時のロット管理を効率化した事例です。多くの企業にとって、仕入れ時に商品にロット別で現品ラベルを貼る作業は大きな負担となっていました。この企業では、発注時に現品ラベルを必要枚数分送付し、仕入れ先でラベル貼付をしてもらってから納品する方法を採用しました。現品ラベルをハンディーターミナルで読み込むことで、棚入れ作業時にロット在庫の管理が可能となり、作業効率が向上しました。

運用のポイントは、下記のとおりです。

  • 仕入れ先と事前に現品ラベルの準備について調整し、ラベル貼付の負担を軽減
  • ハンディーターミナルでの読み込みによる迅速なデータ入力を運用に組み込む
  • 受け入れ時の確認作業を標準化し、ミスを減らすためのチェック体制を強化

現品ラベルが貼れない工程での対応事例

次に、熱処理や工程外注などによって現品ラベルが貼れない場合の対応事例です。このようなイレギュラーな状況にも対応するため、システムを活用した運用方法を工夫しました。

1つ目は、ラベルを剥がして製造ラインに投入し、熱処理を施した後に再びラベルを貼り付ける方法です。製造ライン付近にホワイトボードを設置し、剥がしたラベルを製造ラインと同じ配置に貼っておくことで、熱処理後にラベルを再貼付する際に誤りを防ぐことができます。

2つ目は、2種類の原料を投入し、自動運転の製造ラインで処理する場合です。原料投入順にロットを先入先出方式で管理し、製品ロットが仕上がると、それを元にロットを自動で発行する仕組みです。この方法により、ラインを停止することなく運転を継続できるようになりました。

運用のポイントは、下記のとおりです。

  • ラベル剥がし・再貼付の手順を事前に作業標準化し、製造ラインでの混乱を防止
  • ホワイトボードでのラベル管理を実施し、製造工程内での視覚的なトレーサビリティを維持
  • 自動化されたロット管理を運用することで、生産ラインの停止を最小限に抑えつつ、トレースを確実に行う

ダイレクトマーキングへの対応事例

次は、製品に直接ロットを特定するバーコードや文字列を印刷するダイレクトマーキングの導入事例です。ダイレクトマーキングを採用することで、現品ラベルの貼付作業が不要になり、製造品の管理が大幅に簡素化されました。

システム導入後、ダイレクトマーキングが可能となり、専用機器でバーコードを読み込むことにより、トレース情報の収集が自動化されました。この結果、品質管理や長期保守管理の精度が向上し、管理作業の効率も大きく改善されました。

運用のポイント

  • ダイレクトマーキングを製造ラインに組み込むことで、現品ラベル貼付作業の省略を実現
  • 専用機器を使用したバーコード読み取りの運用を標準化し、トレース情報を自動的に収集
  • 長期保守管理に対応するため、マーキングの耐久性と識別精度を運用段階で確認

これらの事例は、食品トレーサビリティを確実に実現するためには、システム導入だけでなく、その後の運用が非常に重要であることを示しています。各企業が直面する課題に応じて、運用面での工夫を積み重ねることが成功に繋がることがわかります。

まとめ

食品トレーサビリティは、食の安全確保と企業の信頼性向上において不可欠な仕組みです。原材料から製品までの履歴を正確に管理することで、食品事故発生時の迅速な対応が可能になり、被害を最小限に抑えることができます。また、消費者や取引先からの信頼獲得、業務効率化、法令遵守など、多面的なメリットをもたらします。

一方で、導入には初期投資やランニングコストの負担、現場の作業負担増加、システム連携の困難さなどの課題も存在します。これらの課題を克服するには、経営層の強いコミットメント、現場の実態に合ったシステム設計、十分な教育訓練、段階的な導入計画が重要です。成功事例に学びながら、自社の規模や体制に適したアプローチを選択することで、効果的なトレーサビリティ体制を構築できます。

食品業界を取り巻く環境が厳しさを増す中、トレーサビリティは単なる法令対応ではなく、企業価値を高める戦略的投資として位置づけるべきです。本記事で紹介した運用ポイントや事例を参考に、自社に最適なトレーサビリティ体制の構築を進めてください。

参考文献
https://www.hitachi-solutions-west.co.jp/products/industry/kit3/column01/vol05/index.html

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