目次
食料システム法の概要と成立背景
食料システム法は、従来の食品等流通法を改正・拡充した新たな法制度です。この法律は、持続可能な食料システムの構築と、生産から消費に至る各段階での合理的な価格形成を実現することを主要な目的としています。法律成立の背景には、世界的な食料価格の高騰、気候変動による生産リスクの増大、国内農業の担い手不足といった深刻な課題があります。
旧食品等流通法からの主な変更点
従来の「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律」と比較すると、食料システム法では対象範囲が拡大し、食料の持続的な供給を実現するための仕組みが新たに整備されました。旧法が主に流通段階を中心としていたのに対し、新法では食品産業全体の持続的な発展を視野に入れ、合理的な費用を考慮した価格形成と取引の適正化を一体的に推進しています。
また、農林漁業者との安定的な取引関係の構築を支援する「計画認定制度」が導入され、融資などの支援措置を受けられるようになるなど、従来と比べて事業者にとってより実効性の高い制度設計となっています。
食料安全保障の強化と国内生産体制の重要性
近年の国際情勢の不安定化により、食料安全保障の確保が国家的課題となっています。食料システム法では、輸入依存度の高い食料品について、世界的な情勢不安や災害などによる供給リスクを踏まえ、輸入依存による脆弱性を軽減し、国内での安定的な生産体制の確保を重視しています。
この方針により、国産原料の活用促進や地産地消の推進、食料品の安定調達に向けた取引関係の構築などが事業者に求められることになります。特に大企業においては、サプライチェーン全体での持続可能性確保が重要な経営課題となっています。
食料システム法制度の構成と事業者への影響
食料システム法の制度設計は、「持続可能な食料システムの確立」と「合理的な費用を考慮した価格形成」という2つの柱で構成されています。これらの柱は相互に関連し合い、食品事業者の事業運営に多面的な影響をもたらします。
第一の柱である持続可能な食料システムの確立では、環境負荷の低減、生産性の向上、食料自給率の向上などが重視されます。第二の柱である合理的な価格形成では、原材料費や労務費の上昇を適切に反映した価格設定と、それを支える取引関係の構築が求められます。下記の表も参考にしてみてください。
| 制度の柱 | 主要な取り組み内容 | 事業者への具体的要求 |
|---|---|---|
| 持続可能な食料システム | 環境負荷低減、 生産性向上、 自給率向上 | 省エネ設備導入、 地産地消推進、 技術革新 |
| 合理的な価格形成 | コスト適正反映、 安定取引関係構築 | 価格交渉の透明化、 長期契約推進 |
持続可能性への具体的な取り組み要求
持続可能な食料システムの構築に向けて、事業者には具体的な環境配慮行動が求められます。これには、温室効果ガスの削減、廃棄物の最小化、水資源の効率的利用、生物多様性の保全などが含まれます。
特に製造業においては、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの活用など、設備投資を伴う環境対策が重要な評価項目となります。
これらの取り組みは、認定制度における評価基準としても活用され、支援策の対象となる重要な要素となります。
価格形成における透明性と公正性の確保
合理的な価格形成を実現するため、事業者間の価格交渉プロセスにおける透明性と公正性の確保が重要視されています。従来の慣行的な価格設定から脱却し、原材料費、労務費、輸送費などの変動を適切に反映した価格形成メカニズムの構築が必要です。
また、優越的地位の濫用を防止し、取引当事者間の対等な関係構築が促進されます。フードGメンの配置により、現場での監督体制も強化され、不適切な取引慣行の是正が積極的に進められることになります。
事業者が取るべき具体的な対応策
食料システム法の施行に向けて、食品事業者は契約内容の見直しや価格設定プロセスの改善、取引関係の再構築など、幅広い対応が求められます。2026年4月の施行まで残された時間は限られており、自社の規模や取引関係を踏まえて優先順位を明確にし、計画的に準備を進めることが重要です。あわせて、関連法規や政省令の動向を継続的に確認し、最新情報に基づいた対応を心がける必要があります。
契約内容の全面的な見直し
食料システム法では、価格条項だけでなく、契約期間、支払い条件、返品・交換条件、品質基準、納期設定など、契約内容全体の見直しが求められます。従来の口約束や慣行に依存した取引から、明文化された契約条項による取引への移行が必要です。
特に重要なのは、原材料価格や人件費の変動に対応できる価格調整メカニズムを契約に組み込むことです。
固定価格による長期契約ではなく、定期的な価格見直し条項、および一定の変動幅を超えた場合の自動調整機能を設けることで、持続可能な取引関係を構築できます。
コスト構造の透明化と価格根拠の明確化
合理的な価格形成を実現するため、自社のコスト構造を正確に把握し、価格設定の根拠を明確化する必要があります。原材料費、製造コスト、物流費、管理費などの内訳を詳細に分析し、価格交渉において説明可能な体制を整備しておきましょう。
また、取引先に対してコスト上昇の根拠を適切に説明し、理解を得るためのコミュニケーション能力の向上も必要です。データに基づいた客観的な説明により、相互利益の関係を構築しながら適正な価格転嫁を実現することが可能となります。特に、次のような点を明確にしておくことで、価格根拠の説明力を高めることができます。
- 原材料費の詳細な内訳分析と変動要因の把握
- 製造工程における各段階でのコスト計算
- 物流・保管コストの正確な算定
- 品質管理・安全対策にかかる費用の明確化
- 環境対策・持続可能性確保のための投資コスト
安定的な取引関係の構築
食料システム法では、短期的な利益追求よりも、長期的で安定した取引関係の構築が重視されています。特に、農林漁業者と食品製造業者、卸売業者と小売業者など、サプライチェーンの各段階における連携強化が求められます。
安定的な取引関係の構築には、相互の事業計画の共有、技術的な協力関係の構築、共同でのマーケティング活動などが有効です。また、災害や国際情勢の変化などのリスクに対応するため、複数の調達先確保や代替手段の準備も重要な対応策となります。
計画認定制度と支援策の活用方法
食料システム法では、持続可能な食料システム構築に取り組む事業者を支援するため、計画認定制度が新設されています。この制度により認定を受けた事業者は、金融・税制上の支援や、設備利用、債務保証などの特別措置を受けることができます。
認定申請の要件と手続き
計画認定を受けるためには、持続可能な食料システムの構築に資する具体的な取り組み計画を策定し、農林水産省に申請する必要があります。計画には、環境負荷低減の目標設定、生産性向上の具体策、地域農業との連携方針などを明記することが求められます。
認定申請においては、定量的な目標設定と実現可能性の高い実施計画の提示が重要な評価ポイントとなります。
また、計画の実施体制や進捗管理方法についても詳細に説明し、確実な実行能力を示すことが認定取得につながります。
認定によるメリットと支援策の詳細
認定事業者が受けられる支援策は多岐にわたり、事業規模や取り組み内容に応じて最適な組み合わせを選択することができます。日本政策金融公庫による長期低利融資では、通常よりも有利な条件での資金調達が可能となり、設備投資や技術開発の資金確保が容易になります。
税制特例措置では、環境関連設備の導入や研究開発投資に対する優遇措置が適用され、投資負担の軽減が図られます。また、国有施設の利用支援や債務保証制度により、事業展開に必要な基盤整備も支援されます。
以下の表は、これらの支援策の種類と内容を示しています。
| 支援策の種類 | 具体的な内容 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 融資制度 | 日本政策金融公庫による長期低利融資 | 設備投資、技術開発資金 |
| 税制優遇 | 環境関連設備の特別償却・税額控除 | 省エネ・環境保全設備 |
| 債務保証 | 信用保証協会による保証枠拡大 | 運転資金、設備資金 |
| 施設利用 | 国有施設・研究機関の優先利用 | 研究開発、実証実験 |
継続的な計画実施とフォローアップ体制
認定取得後は、計画に基づいた着実な取り組み実施と定期的な進捗報告が求められます。農林水産省では、認定事業者に対する継続的な支援とモニタリングを実施し、計画の確実な実行を支援する体制を整備しています。
また、フードGメンによる現場での指導・助言も受けることができ、実務面での課題解決や制度活用のノウハウ習得が可能です。認定事業者同士のネットワーク構築や情報交換の場も提供され、ベストプラクティスの共有や協業機会の創出も期待されます。
今後の準備スケジュールと相談窓口
2026年4月の食料システム法施行に向けて、食品事業者は段階的かつ計画的に準備を進める必要があります。法施行直前の対応では十分な効果を得にくいため、早めの着手が重要です。特に設備投資や契約条件の見直しを伴う場合は、十分な検討期間と調整時間を確保し、政省令など最新情報を踏まえて現実的な計画を立てることが求められます。
段階別準備スケジュールの策定
効果的な準備を進めるため、2024年から2026年にかけての段階別スケジュールを策定することが重要です。2025年には具体的な対応策の実施と認定申請準備を進めておくことをおすすめします。2026年前半には最終調整と施行対応を完了させる計画が望ましいでしょう。
特に認定申請については、審査期間や必要書類の準備期間を考慮し、遅くとも2025年中には申請を完了させることが推奨されます。また、取引先との契約条件見直しについても、相手方の都合や業界全体の動向を踏まえ、十分な調整期間を確保することが必要です。
農林水産省および関連機関の相談窓口
食料システム法に基づく計画認定や支援措置に関する相談は、農林水産省および各地方農政局に設置された相談・申請窓口で受け付けています。申請者の所在地を管轄する地方農政局等で、制度の詳細説明や申請手続きに関するアドバイスを受けることが可能です。
また、日本政策金融公庫による融資制度や、食品等持続的供給推進機構による債務保証制度を活用する場合には、各機関の担当窓口に事前相談することが推奨されています。特例措置(農研機構設備の供用、税制優遇など)を検討している場合は、農林水産省新事業・食品産業部 食料システム連携推進室が窓口となります。また、以下の機関で提供されている支援制度に関しては、事前相談が推奨されています。
- 農林水産省 食料システム連携推進室:制度全般および特例措置に関する相談
- 地方農政局:地域別の相談・申請受付
- 日本政策金融公庫:長期低利融資に関する相談
- 食品等持続的供給推進機構:債務保証制度に関する相談
まとめ
食料システム法は、食品関連事業者にとって事業運営の根本的な見直しを迫る重要な法改正です。2026年4月の施行に向けて、契約内容の全面的な見直し、価格形成プロセスの透明化、持続可能性への取り組み強化など、多岐にわたる対応が必要となります。
しかし、この変化は単なる負担ではなく、認定制度による支援策の活用や、持続可能なビジネスモデルの構築による競争力強化の機会でもあります。早期からの計画的な準備により、法施行を事業発展の契機として活用することが可能です。
成功のポイントは、現状を正しく把握し、目標を明確にしたうえで、段階的に計画を実行していくことです。また、最新情報を取り入れながら柔軟に対応する姿勢も欠かせません。農林水産省などの支援をうまく活用し、持続可能で競争力のある食料システムをともに築いていくことが大切です。
