【プラントDXの最前線】設備保全の革新とスマート保安の実践例を紹介

2025.02.27

安定したプラント運転を維持するには、老朽化が進む設備への確実な保守や、熟練技術者の退職が相次ぐ中での効率的な作業体制づくりが重要です。近年はQRコード※を用いた情報管理やAI分析による設備故障リスクの低減など、デジタル技術を活用した保全手法が注目を集めています。この記事では、プラントDXが求められる背景から具体的な保守事例、そして設備やデータの“見える化”がもたらす可能性を詳しくご紹介し、現場で実践できるポイントをお伝えします。 ※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

プラントDXが求められる背景

プラント各所での設備保全にDXが必要とされる理由には、複数の要因が影響しています。ここでは、高経年化や人員の課題に焦点を当てつつ、その解決策に向けた方向性を概観しましょう。

老朽化と安定稼働への課題

1970～80年代に稼働を始めたプラントが多く、配管や機器の老朽化が深刻化している現場があります。劣化した部品を放置すると大規模な故障や安全上の問題になりかねません。そこで、事前の状態監視や定期的な交換・補修を検討するためにDXが活用されはじめました。AIによる劣化診断やセンサーデータの収集は、予防保全や予知保全への移行を促し、プラント稼働の継続を支援してくれます。

人材不足と技術継承の難しさ

プラントの熟練技術者は設備配管や制御システムに精通しており、突発トラブルへの対処にも長けています。しかし、ベテラン世代の退職が進み、現場を支える人材が不足しています。そこで、保全作業のデジタル化が注目され、タブレットやウェアラブル端末を活用することで新人でも素早く情報を把握できるようになってきました。作業手順書や点検リストを電子化することで、個人の勘と経験に頼らないスムーズな引き継ぎが期待されています。

図面管理と改造履歴の混乱

長期運用のプラントでは、改造履歴が適切に図面へ反映されていないケースがあります。現場作業員が最新情報を把握できないまま修理に入ると、誤った配線や部品を使用してしまう恐れがあります。これを防ぐために、3Dスキャンやデジタルツインを用いてプラントの現状を正確に記録する取り組みが注目されています。最新状態の三次元モデルを共有すれば、作業員同士で現場の状況を可視化しやすくなるでしょう。

脱炭素への対応

省エネルギー化や排出ガス低減の要請が強まったことで、プラントの運転効率を見直す必要性が生じています。燃料の選択や余熱利用など、多角的な手段を検討する際にもDXが役立ちます。運用データを集計・分析して省エネ対策を立案し、実際の効果を検証できるまでを一貫して管理する仕組みづくりが不可欠です。これにより、環境にも配慮した次世代型の生産体制が構築しやすくなっていきます。

設備保全の基本と変遷

施設を長期間安定して動かすためには、故障に対する保守計画が重要です。データ活用の余地が広がる今、これまでの保全手法を見直す良い機会といえるでしょう。

事後保全の特徴

事後保全は、設備に不具合が起きた時点で修理や交換を実施する方法です。必要のない修繕コストを抑えられる利点もありますが、故障発生から復旧までのダウンタイムが長期化するリスクがともないます。生産が急停止すると経営面へのダメージも大きいため、大規模プラントでは防止策を検討することが多いです。

予防保全への取り組み

予防保全では、計画的に部品交換やオーバーホールを行い、設備の故障を未然に防ぎます。定期点検による安全性の確保が非常に大切であり、外観検査や性能試験を定期的に実施してリスクを低減します。ただし、点検頻度が多すぎるとコストがかさむため、データ連携による最適化が課題となります。

予知保全へのシフト

センサーやAIを活用し、設備の振動や温度などをリアルタイムで監視しながら故障兆候を把握するのが予知保全です。従来の予防保全と比べて、部品交換のタイミングをより柔軟に調整できます。異常兆候をいち早く捉えることで作業計画の立案がしやすくなり、コストや人件費の削減につながる可能性があります。

“組み合わせ”による効果

事後保全、予防保全、予知保全を状況に応じて組み合わせることで、設備の特性や運用条件に合わせた最適な保全計画が立てやすくなります。ある機器は事後保全でも問題ない一方、重要度の高い機器は予知保全で運用リスクを徹底的に下げる、といった柔軟な運用が注目されています。DXツールを活用することで、こうしたマルチ戦略がさらに効率化されるでしょう。

見える化がもたらすメリット

プラント運用では、情報の集約や共有が重要です。設備ごとにバラバラだったデータを可視化し、現場と管理部門の双方で理解を深める取り組みが進んでいます。

リアルタイムデータの活用

センサーから取得する温度や圧力、振動などの情報を監視システムに集約し、ダッシュボードで見える化する手法が一般化してきました。異常値が検知された際には即時にアラートが発報され、担当者が対策を検討しやすい環境が整います。運転データを蓄積してAIが異常を予測する仕組みも普及しつつあり、計画外の停止を減らす効果が期待されています。

QRコードでの情報管理

設備の各所にQRコードを貼付し、点検担当者がスマホやタブレットで読み取る仕組みが広がっています。これにより、点検項目や写真が自動的にひも付けされ、口頭や紙ベースでの報告ミスが減少します。クラウド上にデータが集約されるため、遠隔地の管理者もリアルタイムで状況を把握できることが特徴です。

設備カルテの一元化

設備の稼働時間や故障履歴、交換部品の在庫状況などを“設備カルテ”としてまとめると、保全戦略の透明性が高まります。特定の設備で部品故障が多発している場合、その原因を分析し、別の部品に切り替えるなどの改善策を検討しやすくなります。こうしたデータの一元管理は、長期的な保全コストの最適化につながるでしょう。

データサイエンティストとの連携

AIや統計解析を有効に活用するには、保全担当者とデータサイエンティストの協力が不可欠です。プラントの専門知識を持つ現場技術者の知見を取り入れつつ、データの特徴量抽出やモデル構築を行うと、より精度の高い異常検知が可能になります。両者の連携によって新しい知見が得られ、トラブルを未然に防ぐ手法の開発が進むと考えられます。

スマート保安が生む革新

IT技術を活用した安全確保の方法は、「スマート保安」と呼ばれています。プラントや工場などでの設備保全と生産性を同時に高めるため、官民での取り組みも活発化しています。

IT技術と安全性の強化

作業員の視野を広げるスマートグラスや、危険箇所の巡回を支援する自律型ロボットなどは、現場の安全性向上に寄与します。転倒やガス漏れなどのリスクをAIで早期に察知できれば、従来以上に迅速な避難や対策が可能です。設備保全の効率化と並行して、安全確保の仕組みを統合的に運用することが重視されています。

リーダー人材育成講習会

スマート保安を推進するためには、現場のリーダー層がデジタル技術の導入意義を理解し、チームを牽引する力が欠かせません。そのための勉強会や講習会では、実際の投資効果を定量的に説明する手法や、真の課題を洗い出す手順を学ぶことができるでしょう。新技術を単に導入するだけでなく、具体的な成果につなげるために「何が必要か」を把握することがポイントです。

投資効果の定量化

スマート保安関連の設備やシステムを導入するには、一定の初期投資が必要です。社内で導入を検討する際には、保全コストの削減や生産効率向上など、定量的に示せるメリットを数値で押さえることが説得材料になります。初期費用こそかかりますが、長期的に生産停止リスクが減るなどの利点を考慮すれば、十分に導入価値はあるでしょう。

業務効率改善のポイント

スマート保安では、技術導入と同時に業務フローそのものの見直しが求められます。例えば、巡回点検のルートを最適化したり、定期点検項目を絞り込んだりすることで、作業時間の短縮や人的エラーの削減にもつながります。技術だけでなく、組織カルチャーの変革をともなった総合的な取り組みこそが成果を最大化する近道と考えられています。

AIを活用したメンテナンス計画

最近では、AI技術を使ったメンテナンス計画が各所で注目を浴びています。予知保全の精度向上や適切な投資判断のタイミングを導き出す仕組みについて見てみましょう。

コンディションベースの管理

従来の時間ベース点検から一歩進んで、機器の状態をリアルタイムで監視しながら点検や部品交換を行う「コンディションベースメンテナンス」が注目されます。AIがデータを解析し、異常兆候を早期発見すると同時に、部品在庫の確保などを自動化する試みも進行しています。結果的に、不要な点検や交換を減らしてコスト最適化を図ることができます。

無線センサーとリアルタイム監視

一部の現場では、無線センサーを設備各所に設置して状態を常時モニタリングする手法が実践されています。無線センサーを用いることで山間部等へ実際に行く必要がなくなり、人件費の削減にもなるでしょう。定期点検以外の時期にも、設備の状態を把握しやすくなるため、突発的な停止リスクを低減できるでしょう。

適切なタイミングでの投資

AIを活用して、修理や交換を最適な時期に実施できると、稼働停止による損失を最小限に抑えられます。部品交換サイクルや寿命推定をデータにもとづいて検討すれば、運用コストの大幅削減が期待できます。現場DXを進めるうえでは、“いつ投資するか”を見極めることが効率化のカギとなるでしょう。

スマート保安の事例紹介

スマート保安による最先端の取り組みはさまざまな企業で実施されています。ここでは実践的な活用例を挙げながら、作業効率向上へのアプローチを具体的に見ていきましょう。

スマートデバイスの活用

A社では、従来の巡回点検業務をタブレット端末で最適化しています。点検ルートが自動で表示され、チェック結果を画面上で即時登録できるため、紙の記録を回収する手間がなくなりました。さらに点検済みエリアを色分けする機能により、見落としを減らす効果も出ています。

無線センサーの導入

B社は、リアルタイム監視体制の構築を目指し、無線センサー網をプラント全体に張り巡らせました。センサーのバッテリー寿命や信号強度に留意しつつ、異常時には管理システムにアラートを発報させる仕組みを構築しています。これにより、異常検知の迅速化とスタッフの負担軽減を両立させています。

ドローンでの省人化

C社では、高所や狭小空間の調査をドローンで実施することで、作業者が危険な場所に立ち入るリスクを減らしています。実際に映像と温度計測機能を搭載したドローンを使えば、配管の亀裂や熱異常を遠隔から把握可能です。定期的に飛行ルートを設定してデータを蓄積し、長期的な変化も追跡しています。

防爆ロボット

D社では、ガスや粉じんが漂う危険区域にも対応可能な防爆仕様ロボットを導入しました。作業員と遠隔で連携しながら巡回し、温度や振動をモニターして異常を検知します。作業スペースの確保が難しい場所でもロボットが自律走行し、状況を撮影して安全性の高い保守作業を進められるようになりました。

デジタルツインの管理

E社では、プラント全体を3Dスキャンして作成したデジタルツインを使い、改修工事の検討やシミュレーションを実施しています。現地調査を複数回行う必要がなくなり、リスク箇所の把握や作業工程の策定がスムーズになりました。大きな改造計画でも、事前にシミュレートして安全面や費用対効果を検証でき、予期せぬトラブルの回避につながります。