製造業や小売業をはじめとした業界において定期的に発生する棚卸し業務ですが、誰もが一度は「面倒だ」と感じたことがあるのではないでしょうか。平時の業務を一時中断して実施する場合も多いことから、効率的な棚卸しは企業の競争力を左右します。だからこそ時間と労力を要する従来の方法ではなく、最新テクノロジーを活用した棚卸しの効率化の重要性は高いと言えるでしょう。
本記事では、ステップごとに効率化の手法を解説するとともに、バーコードシステムからクラウド型在庫管理システムまで、棚卸しの効率化につながるツールを紹介します。
棚卸とは?その目的と重要性
棚卸しとは、企業が保有する商品や資材の数量や状態を定期的に確認し、記録する作業を指す言葉です。在庫を含む正確な資産管理、および損益計算の精度を高めるために不可欠であり、企業運営の根幹を成す重要なプロセスだと言えるでしょう。また、在庫の過剰や不足を防ぎ、適切な商品の発注や販売戦略の策定にも寄与します。
企業が利益を正確に報告し、信頼性を高めるためにも、正確な棚卸しは欠かせない要素です。その一方で、棚卸しは定期的な実施が必須であり、従業員のリソースを大量に消費する側面もあることから、効率化が強く求められる業務でもあります。
棚卸を効率化するメリット
棚卸し効率化のメリットとしてまずあげられるのが、リソースの節約です。在庫管理を徹底し、棚卸しを迅速に実施できれば、棚卸しに伴う稼働停止時間を抑え機会損失を防ぐ、あるいは他の重要な業務にリソースを割くことが可能です。
また、棚卸しに伴うヒューマンエラーの減少も期待できます。棚卸しの効率化は、作業プロセスの明確化や、自動化ツールの導入が主な手段となりますが、これらは同時に人的な作業を定型化する、あるいは削減することで、ヒューマンエラー発生の発生を防止する側面もあります。結果としてより正確な在庫管理、ひいては財務状況の正確な把握が可能となり、全体的な企業運営の効率化につながるのです。
棚卸効率化のための前提作業
棚卸しの効率化を成功させるためには、実際の棚卸しに先立ち前提となる作業が必要です。計画立案から物品の整理整頓、そして効果的な日程設定まで、各ステップは棚卸作業のスムーズな進行と正確性を確保する上で欠かせません。ここでは、効率的な棚卸作業を実現するための具体的な前提作業について解説します。
棚卸しの計画立案
まず、棚卸しに対して明確な目標を設定し、棚卸しの目的と目指す結果を全員が共有することが重要です。次に、全スタッフの役割を明確にし、誰が何を担当するのかを記した計画書を作成します。これにより、作業がスムーズに進行し、混乱を避けることが可能です。
また、必要な人員、時間、機材の見積もりを行い、実行可能な計画を立案します。詳細な作業マニュアルと見取り図を用いて、作業の標準化を図るのも良いでしょう。これにより、どのスタッフも一貫した品質で棚卸作業を実行可能です。
このように計画的に棚卸作業を行うことで、作業時間の短縮、コスト削減、作業精度の向上が図られ、効率的で精密な棚卸しが実現します。
物品の整理整頓
棚卸しにおいて「対象となる物品が見つからない」「類似する物品を混同してカウントしてしまう」というトラブルはつきものです。物品を保管する際は、カテゴリー分けとラベリングを通じて、迅速に対象の物品を見つけ、カウントができる状態を心がけます。ポイントは、類似する物品であっても明確に識別でき、容易に取り出せる状態を作ることです。物品を種類別に整理し、各アイテムに明確なラベルを付けることで、棚卸時に発生する混乱を最小限に抑えることができます。
また、カウント速度を向上させるためには、物品を効率的に配置することが重要です。同じ種類の物品を近くに配置し、一目で数量が把握できるよう商品を整理することで、作業者が短時間で正確なカウントを行える環境を作ることができます。また、棚卸しの動線を確保するために、床に物を置かず、通路することも重要です。
棚卸しの日程設定
在庫量やスタッフ数に応じた適切な時間計画により、コストを削減できる側面もあります。物品のカウントやデータ入力作業は、過去の棚卸しのデータから全物品にかかる時間を推定できますが、推定した時間を生産計画と照らし合わせれば、通常業務への影響が最も少ないタイミングで棚卸しを実施するといった対応が可能です。
棚卸作業は予期せぬ遅延が発生することがあるため、余裕のあるスケジュールを設定することが重要です。これにより、計画外のイベントが発生した場合でも、全体のスケジュールに大きな影響を与えずに済みます。また、作業者が快適に作業できるように休憩時間も適切に配分することが、効率的な作業進行には不可欠です。
棚卸しのステップと効率化の工夫
棚卸作業を効率化するためには計画的な進行が必要であることは説明しましたが、実際の作業に際しても効率化につながる工夫が考えられます。
初期段階:棚卸しリストの作成
在庫確認の初期段階においては、事前に正確な在庫データを把握し、棚卸しリストとして用意しておくことをおすすめします。このリストは物品の特定、数量確認、欠品確認などを行ううえで重要で、商品の仕様変更や梱包・外装の変更など、棚卸しに影響を与えうる補足情報まで記載できているとなお良いでしょう。
また、数量の記入や入力時に迷わないよう、想定されるカウントの順序に沿っている、あるいは隣接して保管されている物品が一続きでリスト化されているなど、細かいながらも効率化につながる工夫が考えられます。
中間段階:物品のカウント、リストとの照合
棚卸しの中間段階では、物品のカウントとリスト照合が主な作業となります。効率的かつ正確に作業を進めるためにも、2人以上での実施が望ましいでしょう。
またリストと実際の在庫の照合においては、数量の誤りはもちろん、物品を混同してカウントするトラブルがしばしば発生します。異なる物品を明確に区別して保管し、リスト化することも重要ですが、バーコードスキャナーやRFIDリーダーなどにより物品を識別できると理想的です。
最終段階:結果の分析、報告書の作成
棚卸しの最終段階では、入力した在庫データに対して在庫状況が適切であるか、過剰在庫が発生していないかの分析と報告が必要となります。在庫数の把握や物品のリスト化自体はエクセル等ツールにおいても不可能ではありませんが、売上動向に対して物品の在庫量が適切であるかどうか、直近の生産計画に対して在庫が不足していたり、過剰になっていないか、そして在庫の長期滞留が発生していないかなど、適切な分析は人力では難しい部分もあるため、在庫管理システムを導入が鍵となるでしょう。
棚卸し効率的につながるシステムやツールの詳細
最後に、棚卸しの効率化につながる具体的なシステムやツールを3つ紹介します。一部は棚卸しのステップにて紹介しましたが、実際にこれらの技術でどのようなことができるのかを理解したうえで導入を検討しましょう。
バーコードシステム
バーコードシステムは、商品に貼られたバーコードをスキャナーで読み取ることで、自動的に数量をカウントし、データを入力するシステムです。商品を識別する手間や、データ入力の手間を解消できます。
製造業や物流、小売業においては比較的導入が進んでいるシステムではあるものの、バーコードに破損や汚れがあると読み取りエラーを招く、あるいは物品によってはバーコードがそもそも付与されていないなどの課題もあり、保管場所に読み取り用のバーコードを後付けするといった現場レベルでの工夫を前提に運用すべきシステムでもあります。バーコードスキャナーや適切なソフトウェアの選定、従業員へのトレーニングが不可欠である点も注意が必要です。
RFID(無線周波数識別)システム
RFID(無線周波数識別)は、アイテムに取り付けられたタグから情報を読み取る非接触型の自動認識技術です。このシステムは、一括して多くの物品のデータを収集でき、物理的な接触や直接の視認を必要としないため、棚卸し作業の効率化に大きく貢献する可能性を秘めています。
しかし、バーコードと比較してもタグの付与に要する単価が高価で、十分なコストパフォーマンスが得られるかどうかが製造数や製品の単価に依存する側面もあります。
クラウド型の在庫管理システム
在庫管理システムは、在庫情報をリアルタイムで一元管理できるシステムです。その中でもクラウド型の在庫管理システムはインターネットがあればどこからでもアクセス可能なため、場所を選ばずに在庫状況を把握、更新できるなど、とりわけ製造業において利便性の高い仕組みを備えています。一例として、複数名がタブレットを携行し、カウントした在庫数を各々システムへと直接入力するといった運用が可能です。
また前述した通り、本質的な在庫管理には売上動向や生産計画など、さまざまなデータを組み合わせて分析することが求められます。当然導入・運用コストは必要となりますが、これらのデータ連携においては在庫管理のデジタル化が必須となるため、在庫管理システムを導入するメリットは大きいと言えるでしょう。
棚卸効率化にはテクノロジーが不可欠
本記事では計画立案から整理整頓、日程設定、実践的な作業ステップまで、棚卸しを効率化するポイントを紹介しました。
とはいえ、事前の準備と計画で作業を円滑に進めたとしても、「対象となる物品を見つけ、1つ1つ数え、そのデータを入力する」といった基本的な手間が残っている限り、効率化にも限界があります。だからこそ、このような作業自体を省略する、あるいはその後の分析・報告をいかに効率化するかが焦点となり、その鍵を握るのがバーコードシステム、RFID、クラウド型在庫管理システムなど技術の活用です。
作業効率とデータの正確性を向上し、棚卸しを経営判断へと活かすためにも、このようなシステムを検討してみてはいかがでしょうか。