「ものづくりDX推進コンサルの現場から」では、DX/IoTビジネスモデル構築のコンサルティングなどにかかわる筆者が、これまで自分自身が見てきた現場の実情や課題を交えながら、ものづくりDX推進の方法論などを語ります。第2回は、DXのための組織改革についてお話しします。
(執筆:高安篤史/合同会社コンサランス代表 中小企業診断士)

デジタル化が進むと、コミュニケーション不足になるのか?
極端な例ですが、DXを推進し、全体最適を実施するためには、従来からの部門の考えをなくし、フラットな組織を作ることが早道になる場合もあります。また、会議の方法も「バーチャル会議」――いや、デジタル化による情報共有をすることで会議自体が不要になるという考え方も重要になります。
デジタル化が進むと、人と人とのコミュニケーション(意思疎通)が不足するという人もいますが、私は逆だと思います。データ(この場合は「情報」と言った方がよいと思いますが)共有により、人や組織の結び付きは必ず強くなります。DXにより、組織の結び付きを強くし、全体最適を図ることが重要となるのです。
「三現主義」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「現場」「現物」「現実」の3つの現を重視する考え方ですが、DX時代もここは変わりません。ただ、この「現場」「現物」「現実」を一番良く表しているのはデータ(情報)です。この意味が理解できない組織は、未だに過去の経験から定性的な判断で方針を決め、データの有効利用の意味さえ理解できていません。
組織改革は「全社一丸」で!
組織改革のための早道は、2つあります。
1つ目は、経営者(トップ)自ら、データをもとにした判断をすること、そうすれば自ずと組織が変わります。
2つ目は、データをもとにした場合、従来と判断が変わり、そのことで成果があがる成功体験をすることです。成功体験のためには、スモールスタートが良く、大掛かりなことを実施するとかえって失敗します。
政府や官庁、行政におけるデジタル化の遅れは、国家の最重要課題です。2021年のデジタル庁新設も、組織改革の一環のようです。DXの推進において、それ専門の部門を新設すること自体はよいことです。しかし上手くいかない組織では、「その部門に任せればよい」という他力本願な雰囲気が生まれてしまうことにあります。DXを進める体制は、「全社一丸」であるべきです。政府や官庁、行政においても、縦割りの打破が課題となっています。
また新設部門の役割は、当初はリーダーとしての方向性作りや指導的な部分になりますが、軌道に乗った後は、逆に支援部隊として下支えに徹するくらいにした方が上手くいきます。
DX時代の組織の考え方
DXの推進において、必須の項目は、「企業が変わる」「組織が変わる」「個人も変わる」です。この3つの前提条件がないと、いつまでたっても過去の延長であり、目先の改善に追われ、変革まではたどりつきません。
DX時代の組織の考え方に必須なことは下記(1)~(4)と考えます。
(1)オープン
DXの時代は、自前主義では限界があります。あらゆる企業との連携(技術共有、データ共有など)や経験者採用(キャリア採用)などの人材活用を促進すべきです。私が講師を担当する複数の企業が参加するセミナーでも、他社の企業の方と議論することで、自社の不足している部分を気づいてもらう演習を必ず取り入れています。
(2)アジャイル(迅速)
DX時代では、方針の変更を頻繁に実施することは重要です。変化をデジタル情報でいち早く検出し、AI(人工知能)なども駆使することで、対応をアジャイルに実施します。さらに言うと、この経営および業務の推進を「リアルタイムマネジメント」と呼び、いかに早く方向転換できるかがキーポイントであると説明しています。
(3)トライ(失敗の許容)
何事もトライしないと始まりません。ただし、誤解があってはいけませんので説明すると、曖昧な方針や想定がないままのトライでは何も生まれません。また、失敗というと日本では否定的な考え方になりがちなので、“失敗”ではなく、“アジャスト(調整)”と言い換えてもらった方がよいかもしれません。
(4)全社一丸
DXは、一部の部門や一部のメンバーでの推進では成功しません。トップダウンでの進め方は重要であるものの、経営陣の掛け声が空回りしている企業も多数あります。全社一丸で進める理由は、従来と異なり、“つながる世界”により、全ての担当者があらゆる情報を見て改善や改革を推進できること、全体最適を考えるためには、1人の役割だけでは限界があることです。従来は、「顧客から言われた製品を作っていれば良かった」、あるいは「上司から指示があったことだけをやっていれば良かった」かもしれません。しかしDX時代は、全ての担当者が価値創出を意識した業務改革を実施しないと競争に勝てません。特に欧米や中国企業が相手では、完全に負けてしまいます。
日本企業の経営者が抱える課題
日本の場合、社長の人選が密室で実施されることも多く、従来同様、業務のオペレーションができるだけで社長になるケースも多いことも問題です。この時代では社長自身がDX戦略を検討できなければ、会社を正しい方向に舵取りすることはできないでしょう。オペレーションに長けた人材と戦略策定に長けた人材は別と思った方がよいでしょう。
また、日本は経営責任も海外に比べ曖昧です。日本では、業績不振になっても社長を辞めることで責任を取ることが多いですが、海外では処罰などが適用されることもあり、この経営責任の甘さも企業の戦略的推進に大きく影響していると考えられます。
執筆者プロフィール
合同会社コンサランス 代表/中小企業診断士。
https://www.consulance.jp/
早稲田大学理工学部工業経営学科(プラントエンジニアリング/工場計画専攻)卒業後、大手電機メーカーで20年以上に渡って組込みソフトウェア開発に携わり、プロジェクトマネージャ/ファームウェア開発部長を歴任する。DFSS(Design for Six Sigma:シックスシグマ設計)に代表される信頼性管理技術/プロジェクトマネジメントやIoT/RPAやDXのビジネスモデル構築に関するコンサルタントとしての実績 及び 自身の経験から「真に現場で活躍できる人材」の育成に大きなこだわりを持ち、その実践的な手法は各方面より高い評価を得ている。
IPA(情報処理推進機構)SEC Journal掲載論文(FSSによる組込みソフトウェアの品質改善 IPA SEC journal25号)を始め、執筆論文も多数あり。 2012年8月 合同会社コンサランスの代表に就任。
- 中小企業診断士(経済産業大臣登録):神奈川県中小企業診断協会 所属
- 情報処理技術者(プロジェクトマネージャ、応用情報技術者、セキュリティマネジメント)
- IoT検定制度委員会メンバー (委員会主査)
■書籍
- 2019年に書籍『知識ゼロからのIoT入門』が発売
- 2020年に共同執筆した「工場・製造プロセスへのIoT・AI導入と活用の仕方」が発刊
- 2021年10月に創元社より、やさしく知りたい先端科学シリーズ9として、書籍「IoT モノのインターネット (モノ・コト・ヒトがつながる社会、スマートライフ、DX推進に活用中)」が発売
- 日刊工業新聞社「工場管理」 2021年10月臨時増刊号「ゼロから始めるモノづくりDX」で執筆
- 2022年4月に共同執筆した書籍(プラントのDX化による生産性の向上、保全の高度化)が発刊
