GAFAの一角である「Facebook」が「Meta」へと社名を変更し、「メタバース」が一躍トレンドとなった2021年は、その他バーチャル・テクノロジーへの関心も高くなった1年だといえます。それでは2022年はどのような展開が予想されるのでしょうか。
「バーチャル・トランスフォーメーション(VX)」の概念を提唱した株式会社アイ・ティ・アールのマーク アインシュタイン氏(以下:アインシュタイン氏)と、アウトソーシングテクノロジーにてDX領域推進のコンサルティング支援に従事する峯尾岳大(以下:峯尾)が対談を行いました。
xR技術への関心が高まった2021年
――まずは2021年のxR業界を振り返って、どのような年だったでしょうか。
アインシュタイン氏
「2021年はxR業界にとって興味深い年でした。COVID-19のパンデミックにより、遠隔地や模擬環境で物事を行えることがより重視されるようになった点は確かです。
そのため、ゲームやエンターテインメントだけでなく、企業の会議やイベント、旅行や観光など、さまざまなBtoBアプリケーションといった分野への注目も高まっています。
Facebookが最近Metaへ企業名を変えたことで、全世界をxRで体験できる『メタバース』というコンセプトが主流になりつつあります」
峯尾
「xRについての認知度の高まりを受け、産業界でのニーズが顕在化してきていることを実感しています。
特に、フィジカルのモノを扱う業界において、遠隔支援や技術継承、生産性の向上などの課題についてのご相談が多かった印象です。具体的には、製造業、建設業などです。
オペレーションの媒体が紙であったり、資材、製品、装置といったフィジカルのモノを扱う業務であるが故にデジタル化が遅れてきた領域で、xR技術がブレイクスルーの強力な要因になっているものと理解しています。
ユーザーの中では、PCやスマホ等のデバイスでは解決できなかった課題が、xR技術の発展やウェアラブル型のデバイスの性能や利便性の向上によって、解決の兆しが見えてきていると期待が高まってきているのではないでしょうか」
2022年は有力企業のデバイス・サービスリリースが期待される
――2021年はエンターテインメントに留まらず、産業界におけるxR技術の需要が高まった年だったと。それでは2022年は、xR業界でどのような変化が予測されるでしょうか?
アインシュタイン氏
「2021年における世界のVRヘッドセット販売台数は約600万台で、スマートフォンの販売台数とは比較にならないほど少なく、xRデバイスの普及は全体的に進んでいません。そのため、業界が直面する最大の課題は2022年も続くと思われます。
xR技術へ開発者の注目と投資を集めるためには、販売台数を増やす必要があります。AppleがxRに関する製品をリリースした場合、非常に大きな助けとなる可能性がありますが、それが2022年になるかもしれません。
ソフトウェア開発も課題の一つであり、xR環境のレンダリングは非常に手間がかかるため、開発プロセスにAIを組み込むことが2022年には非常に重要になります」
峯尾
「2022年には、グローバルの有力企業がxRに関する様々なデバイスやサービスのリリースを予告しています。産業界におけるxR技術の活用においても、ソリューションの選択肢が広がり、実質的な効果創出の事例も出てくると期待できます。
新しい技術を自社のオペレーションに取り入れる上で重要となるPoC(Proof of Concept:概念実証)やスモールスタートから領域拡大のノウハウも各組織の中で溜まってきていると考えられます。
自社に適したソリューションを見極めるためのPoCプロジェクトをクイックに実施し、本格的な大規模利用に到達する事例も創出されていくことを期待しています。『未来の技術』だったxR技術が、『当たり前の選択肢』に変わっていくのではないかと考えられます」
5Gやデジタルツインに加え、VPSにも注目
――xRの拡大を推進する上で、注目されているテクノロジーがあれば、教えていただけますでしょうか。
アインシュタイン氏
「xR領域でより大きな役割を果たす技術は数多くあります。
5Gは、広帯域で低遅延であるため、ケーブルが不要になり、2022年にはより多くの5G対応xRデバイスが市場に出回ることになります。
デジタルツインもxRでますます利用されるようになり、重工業などの従来の分野を超えて、建設、農業、さらには高度なAIによって支援されるBtoCアプリケーションなどの分野にも進出しています。
あまり議論されていないxR技術として、GPSを使わずに位置情報をもとにユーザーを特定できる『VPS(Visual Positioning System)』があります。 この技術によって、さまざまな新しいアプリケーションやビジネスモデルが現れるでしょう」
峯尾
「xR技術を活用する上で5Gやユーザーニーズを捉えたデバイスの登場はもちろんですが、もう一つ、xRを拡大するうえで欠かせないのが、xRを扱える人材の育成だと考えています。これに関連して、e-Learning や EdTech といった教育・訓練にかかわるテクノロジーが重要な役割を果たすと考えています。
単に知識を取り入れるだけの教育だけでなく、実際に自身がアプリケーションを作成したり、手を動かすことによって、xRを取り扱うための技術を習得していく必要もあると考えています。
専門的なエンジニアだけでなく、非エンジニアにも技術を扱えるような、人間工学、UI設計、ゲーミフィケーションといったユーザー視点の技術の発展と実装にも注目をしています。
また、産業界の現場では、作業の属人化の課題が顕著です。新しい技術を取り入れる際に、現状のやり方にとらわれず、あるべき姿を構想し、新しい技術の特性を生かした業務プロセスを設計するための技術もxRと関係の深い領域です」
日本の産業界でのxR活用には、他の国よりも牽引力のある分野がある
――先ほどお話いただいた通り、日本でのxR活用はこれまでエンターテインメント領域が中心でしたが、今後は産業界での活用が期待されます。具体的には、どういった業界・シーンでの活用が期待できるでしょうか。
アインシュタイン氏
「xRは、エンターテインメントとゲーム以外の分野でも、すでに世界レベルで大きく拡大しており、この流れは今後も続くでしょう。
特に注目したいのは、『会社の会議・イベント』と『教育』の2つの分野です。 国内外を問わずオンライン会議への移行は順調に進んでいますが、”Zoom疲れ “という言葉があるように、よりインタラクティブな会議が望まれており、xRはそれを実現することができます。
教育分野も、教室をオンライン化することが難しいため、xRで充実した教育を提供することが重要視されています。 また、日本には、xRを使った企業研修、高齢者向けサービス、生産技術の効率化など、他の国よりも牽引力のある分野があります」
峯尾
「冒頭にも申し上げた通り、今後はますます、フィジカルのモノを扱う業界においてxRのユースケースが多様化することが期待できると考えています。また、アナログだった業務オペレーションの中にxR技術がデジタル化の風穴を開けることで、その周辺の業務でもxRのデータと連携した自動化の取り組みが広がっていくと期待しています。
特に日本においては、今後、生産労働人口の著しい減少が見込まれています。その影響が深刻になると考えられるのは、日本を下支えする中小企業です。xRのユースケースが多様化していく中で、中小企業の現場でも活用できるようなパッケージ製品が開発されていくことは、市場での切実な課題だと考えられます。
日本企業の現場において、xR技術を活用したフィジカルとデジタルの融合により「バーチャル・トランスフォーメーション」が推進されることは、今後の日本の産業界に大きなインパクトをもたらす変革になると捉えています。 この大きな変革を牽引できるよう、当社としてもチャレンジを続けていきたいと思います」