技術の進展にともなってコンピューターの計算能力と表示能力が日々向上しているなか、AR技術への期待値もますます高まっています。
なかでも注目度が高いのが、ウェアラブルアイテムとしても人気のある「スマートグラス」です。
本記事では、スマートグラス ができることや、単眼式および両眼式の具体的な製品情報などについて解説していきます。
スマートグラスとは
スマートグラスとは、メガネやサングラスに対してさまざまな機能を実装したものです。その多くはレンズ部分にディスプレイ機能を持たせたり、レンズ越しの視界に小型のディスプレイを配置することで、画像や文字、記号などを表示させて実世界の視野情報を拡張してくれます。
時間の確認のみならず心拍数のセンシングや電子マネーでの決済などができる「スマートウォッチ」と同様に、スマートグラスもウェアラブルアイテムの一つとして、ビジネス界隈のみならず一般消費者からの注目度が高まっています。
スマートグラスができること
スマートグラスでは、以下のような機能を楽しむことができます。
ディスプレイの視聴
基本的な機能として、スマートグラスのディスプレイ部分に投影される映像を見ることができます。
パソコンやテレビのような据え置き型のハードウェアや、スマートフォンのような手による操作や固定が必要なハードウェアと異なり、スマートグラスはかけているだけでそのまま視聴することができるので、ハンズフリーで寝転がりながらの視聴などが可能です。
写真や動画の撮影
スマートグラスのなかには、搭載されているレンズを通じて写真や動画を撮影する機能が備わっているものもあります。
スマートグラスをかけたまま、ハンズフリーで主観ショット(POV)を撮影することができるので、タイミングを逃さずスピーディーに被写体を撮影することができます。
生体情報のモニタリング
センシング機能が実装されたスマートグラスの場合、眼球の動きや身体の傾き具合などの生体情報を取得してデータとして蓄積することもできます。
これによって、たとえば学習時の集中度合いや覚醒時間等のバイオリズム、脈から確認できるリラックス状況など、日常生活におけるさまざまな身体の状況をデータで見える化することができます。
AR/MRグラスとしての機能
上記のほかに、ARやMRグラスとしての機能を享受できるスマートグラスもあります。
そもそも、スマートグラスとAR/MRグラスは同一のものとして見られがちですが、AR/MRグラスは「ARやMRを見る」という目的のために開発されたデバイスです。Microsoft社によるHoloLensなどがAR/MRグラスの代表的なもので、メガネやサングラスとしての機能に主軸があるスマートグラスと比較すると、よりビジネス寄りのものであるといえます。
とはいえ、スマートグラスのなかにはARやMRを表示する機能を搭載したものもあり、グラスを通じた世界にデジタルコンテンツ等を重ねて楽しむことができます。
スマートグラスの必要眼数
世のなかにはさまざまなスマートグラス がありますが、大別して、必要眼数の違いで区別することができます。以下、両眼式と単眼式のスマートグラスについて、それぞれの特徴をみていきます。なお、VR領域ではこの他に「双眼式」のディスプレイもありますが、スマートグラスでは該当する製品がほぼないため、本記事では言及しません。
両眼式
両眼式スマートグラスとは、両目の前面に位置するレンズにディスプレイ機能をもたせ、それぞれの目に別々の視野経路を設けたものです。
立体的な画像や映像を写すのに適しており、奥行き知覚の提供に優れています。一方で、実機能として提供するためには光学系の位置合わせが困難だというデメリットもあります。
単眼式
単眼式スマートグラスとは、左右どちらか片目の前面に位置するレンズにディスプレイ機能をもたせ、そこに視野経路を設けたものです。つまり、反対の目はいつも通りの現実世界のみが見える形になります。
デバイス設計として最も組み込みやすく、両眼式に比べて位置合わせがしやすいことが特徴です。一方で非対称な設計が前提になるため、片側に重量負荷がかかり、低いコントラストの物体に対する認識が低下するリスクがあります。
両眼式スマートグラスの製品例
ここからは、実際に市場へと展開されているスマートグラスを紹介していきます。まずは両眼式のものから見ていきましょう。
MOVERIOシリーズ(セイコーエプソン株式会社)
セイコーエプソンによる「MOVERIO」シリーズは、スマートグラスのなかでも初期の頃から製品提供されているデバイスの一つです。
なかでも個人用モデルのデバイスとして開発された「MOVERIO BT-300」では、グラスとつながった小型ハンドコントローラーを使って操作をすっる仕様となっており、画面全体に広がる映像を鑑賞したり、ARを応用したアプリやコンテンツを手軽に大画面で楽しめるなど、エンタメコンテンツを意識したものといえます。
もちろんエンタメのみならず、ブラウザを表示させて検索やクラウド型メールソフトの起動など、ビジネスシーンで利用することも可能です。
AceReal One(サン電子株式会社)
サン電子による「AceReal One」は、現場作業に最適化されたスマートグラスです。屋内外のフィールド作業に耐えうるように、IP54準拠の防塵・防滴規格に対応しており、ヘルメット装着にも対応し、40°Cの高温環境でも使えるように設計されています。
またこちらは、ソフトウエア開発者キットである「AceReal SDK」と、クラウド形式で利用できる業務支援アプリケーション「AceReal Apps」がセットになって提供されており、たとえば本社から作業現場への遠隔支援や、機器メンテナンス時のマニュアル表示などを、ハンズフリーで実施することができます。
単眼式スマートグラスの製品例
次は単眼式のものを見ていきましょう。
<h3>Glass Enterprise Edition 2(Google社)
単眼式スマートグラスの代表格といえば、Google Glass(グーグルグラス)です。同デバイスをかけながら、「Ok, Glass〜(オーケー、グラス)」と話しかけた経験のある方も多いのではないでしょうか。
GlassはGoogle X Labにて開発されているもので、まだ一般消費者向けには提供されていません。あくまで開発者向けのデバイスとして提供されているものです。
GlassはAndroid上に構築されているため、開発者にとっては身近な環境であり、また企業にとっても既に使用しているサービスとAPIを統合することができます。
M400 Smart Glasses(Vuzix社)
米国のVuzix社は、ウェアラブル・ディスプレイ・テクノロジーのサプライヤーとして、ARやVRに関する複数のプロダクトを開発・提供しています。
そのなかでも「M400」は産業向けスマートグラスとして、ウェアラブルデバイスに適したQualcomm社製のCPUを採用しており、一般的なスマートフォンやタブレットなどとほぼ同様の機能をもっています。
また、過去のM300系モデルと比較して、より屋外利用のための防水・防塵機能が充実しているからこそ、遠隔での作業支援はもとより、倉庫でのピッキングや空港での荷物搬入など、動きの多い屋外作業での使用にも耐える作りとなっています。
RETISSA DisplayⅡ(株式会社QDレーザ)
日本の株式会社QDレーザが提供する「RETISSA DisplayⅡ」は、網膜上に映像を描き出すレーザ網膜走査技術「VISIRIUM テクノロジ」を採用したスマートグラスです。
片眼の視野中心部に、HDMI端子で接続できる機器からのデジタル映像を網膜に直接投影することになるので、近視、遠視、乱視、老眼を問わず、眼鏡やコンタクトレンズなどの矯正手段を用いずに投影画像を見ることができます。
また、ピント位置の影響なく視野に映像が重なるため、背景と投影映像のピントずれがないAR体験が可能となります。
スマートグラスだからこその体験創出へ
以上の通り、ディスプレイ技術や眼球への投影技術の発達によって、スマートグラスでできることは年々飛躍的に向上しています。
一方で、まだ開発者キットの域を出ず、社会実装前のPoC段階に留まっているプロダクトも多数あります。その背景には、スマートグラスが爆発的に普及するトリガーとなるキラーアプリが、まだ見つかっていないことが挙げられるでしょう。
スマートグラスだからこその体験の創出が、これからの普及のポイントになるでしょう。