製造業のサービス化、サービタイゼーションとは?時代はモノからコトへ
サービタイゼーションとは、製品や商品をサービスとして捉え、顧客に提供することで収益を出すビジネスモデルです。近年、顧客は製品そのもの以上に、製品によってもたらされる付加価値を重視する傾向になりつつあります。今回は、こうした傾向に対応するヒントとなるサービタイセーションについて、定義やIoTとの関係、企業事例について解説します。
近年、技術革新によって製品自体の差別化が難しくなる「製品のコモディティ化」や、モノを所有せずに他人と共有する「シェアリングエコノミー」という概念が世の中に浸透してきています。
すなわち、顧客は製品そのもの以上に、製品によってもたらされる付加価値を重視する傾向になりつつあるのです。
今回は、こうした傾向に対応するキーワードとなる「サービタイゼーション」というビジネスモデルについて、定義やIoTとの関係、企業事例について解説します。
サービタイゼーションとは?
サービタイゼーション(Servitization)とは、製品や商品をサービスとして顧客に提供することで、売り上げを出すビジネスモデルです。
このモデルは、「モノ」と「モノによる付加価値(コト)」を分離して、それぞれを収益化しようという考えが根底にあります。
自動車で例えると、モノである車両本体に対し、「行動範囲が広がる」「憧れのモデルを所有している」といった付加価値は性質が全く異なります。
すなわちサービタイゼーションにおいて、付加価値は顧客ニーズを満たす無形のサービスとして提供し、物質であるモノはその媒体として扱うのです。
製造業でのサービタイゼーションは目新しいモデルではなく、以下のようなビジネスとして広く認知されています。
製品販売後のアフターサービス
本体製品に使う付属品(プリンターに対するインクなど)の販売
近年では、月額制で特定のコンテンツや製品が使い放題になる「サブスクリプション」もサービタイゼーションの一種と呼べるでしょう。
このように、サービスは無形であるがゆえに、ビジネスに発展するあらゆる可能性を秘めています。そして同時に考えるべきは、近年目覚ましい発展を遂げる情報技術(IT)の存在です。
つまり、現在はサービスの可能性がITによってさらに拡張される過渡期にあります。今回は、これからのサービタイゼーションに必要な要素に焦点を当て、解説を進めていきます。
今後のサービタイゼーションに欠かせないのはIoT
今後のサービタイゼーションには、データを起点とした価値の提供がカギとなります。
その根拠となる時代背景を紐解くと、世界の製造業が現在実現を目指す「第4次産業革命(インダストリー4.0)」の存在が関係してきます。
インダストリー4.0とは、従来以上にコンピュータの活用に重点を置いた製造業のあり方を示す、ドイツ主導の国家プロジェクトです。
その中心にあるコンセプト「スマートファクトリー」は、機械と人間の間で相互に通信するデータを解析・活用し、新たな価値の追求やオートメーションによる生産プロセス効率化を実現させます。
製造業ならびにサプライチェーンには、生産の進歩や在庫情報、需要情報などさまざまなデータが行き交います。インダストリー4.0の推進やスマートファクトリーの拡大といった時代の潮流とともに、製造に関するデータをサービスの源泉とする発想は合理的と言えるでしょう。
したがって、今後のサービタイゼーションには、大量のデータを収集するIoT、収集したデータを解析するAIといった先進技術が重要となってくるのです。
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製造業のサービタイゼーション事例
これからの時代に求められるサービタイゼーションのイメージを具体的につかむために、企業の成功事例を4つご紹介します。
エンジンの状態把握から多様なサービスを展開
イギリスのロールス・ロイス社では、自社が製造する航空機エンジンの出力と移動時間に応じて、エンジン利用者(航空会社や軍隊)に利用料を請求するサービス「Power by the Hour」を展開しています。
同サービスの基盤となるのは、エンジンに取り付けたセンサーから得られるデータによって利用状況を把握するIoTシステムです。
これにより、エンジン自体を商品として売るのではなく、エンジンの推力と利用時間のみを抽出して販売するビジネスが成立するのです。
さらにエンジンの状態把握は、整備のタイミングや部品・整備士などのリソース割り当ての最適化を可能にし、同社は優れた保守サービスへの発展にも成功しています。
参考:
「Rolls-Royce celebrates 50th anniversary of Power-by-the-Hour」Rolls-Royce
全世界の空調稼働状況を把握するネットワークを構築
空調機器の総合メーカーであるダイキン工業株式会社は、全世界の空調機器をインターネットに接続するIoTプラットフォーム「Daikin Global Platform」を活用しています。
このプラットフォームは、最大で500万台の接続機器数を想定しており、客先で接続された空調設備の稼働状況に関するデータを収集・分析して、販売・施工・運用・保守といった製品ライフサイクルを広範囲でカバーするサービス提供を可能にしました。
参考:
「サーバーレスアーキテクチャで実現する グローバル空調IoTプラットフォームへの挑戦」ダイキン工業株式会社
ARとIoTで設備点検作業を高度化
モバイル通信事業を営むコネクシオ株式会社は、ドイツの重機メーカーであるシュナイダーエレクトリック社と提携し、製造現場向けのサービス「Smart Ready IoT AR設備保全ソリューション」の提供を2019年8月に開始しました。
同サービスは、PLCやセンサーを用いた設備稼働状況のIoTデータ連携と、AR(拡張現実)を活用したデータの可視化によって、設備点検作業を高度化することを目的としています。
これを導入することで、例えば作業員がタブレットを対象機器にかざすと、その機器の稼働状況がわかりやすく可視化されます。熟練者でなくても、タブレットからマニュアルや手本となる動画を閲覧して作業できるため、難易度のハードルも下がります。
したがって、点検時のミス防止やペーパーレス化、ノウハウの効率的な伝達が可能となるのです。
参考:
「AR設備保全ソリューション」コネクシオ株式会社
農機とデータ連携して作業記録や収量を管理
世界的な農機メーカーの株式会社クボタは、農作業に関する情報や営農情報などをクラウドと連動させ、統合的に管理するサービス「KSAS(クボタ スマートアグリシステム)」を提供しています。
同サービスは、圃場(田畑や農園)の位置情報や農機とのIoT連携を活用し、顧客である農家の作業計画や進捗管理、肥培管理から作物の収量・品質管理までを全面的にサポートします。
KSAS対応の農機を専用アプリに登録すれば、パソコンやスマートフォンから機器の状態をユーザーが直接管理でき、トラブル発生時の保守作業も迅速に対応しやすいため、保守の観点でも優秀です。
参考:
「KSAS クボタ スマートアグリシステム」株式会社クボタ
製造業の価値はモノからコトへ
今回ご紹介したように、すでに世界中の製造業では、自社の提供する製品に関するデータから多様なサービスを展開しています。
同時にIT業界からも、IoTソリューション用ブラットフォームが数多くリリースされており、サービスを提供あるいは利用する立場のいずれにおいても、サービタイゼーションの土壌が形成されてきていると言えるでしょう。
つまり製造業において、サービスの伴わない「製品売り切り型」のビジネスはもはや過去のものとなりました。また、技術革新による製品のコモディティ化や、シェアリングエコノミーという概念の浸近から鑑みても、これからの製造業に求められる価値は、モノからコトへと移行していくのは間違いありません。
時代の潮流に適応できるよう、サービスに重点を置いたビジネスモデルの変革や、IT投資を積極的に検討していくのが望ましいでしょう。