人手不足の解消や生産性向上をもたらす産業用ロボット。産業用ロボットによる作業自動化は、ロボットの小型化や高性能化によって、中小企業でも実現可能になりました。しかし、導入を検討していても、「実際にどのくらいのお金がかかるのか」「投資金額をどのくらいの期間で回収できるのか」がわからなければ、実際に意思決定するのは難しいでしょう。
今回は、産業用ロボットを導入する際にかかる金額の目安や、投資金額を回収するまでの期間を試算する方法などを解説します。
作業自動化にかかる初期費用は、ロボット本体だけじゃない
産業用ロボットの初期投資でかかる費用を、設備項目毎にまとめた表が以下になります。
ロボット本体 | 垂直多関節ロボット | 800万円※ |
---|---|---|
ロボット関連装置 | ロボットハンド | 400万円※ |
ロボット架台 | ||
ロボット周辺設備 | コンベア | 1,000万円※ |
安全柵 | ||
その他設備 | ||
システムインテグレーション関連費用 | 構想設計、リスクアセスメント | 1,800万円※ |
設置、調整、運搬 | ||
その他(安全講習費など) | ||
総額 | − | 4,000万円※ |
上記の図からわかるように、作業自動化を行うために必要な費用は、垂直多関節ロボットや双腕ロボットなどの「ロボット本体」だけではありません。ロボットを効果的かつ安全に活用するためには、「関連装置費」や「周辺設備」だけではなく、どのように導入するか設計する「システムインテグレーション関連費」などもかかります。
ロボットの導入数が作業員一人分か製造ライン全体かなど、自動化する規模によってそれぞれの費用は変わるものの、規模が大きくなるにつれて、ロボット本体以外の費用も増えることが一般的です。
産業用ロボット導入時の設計には、電源やスペースの確保、既存の製造ラインをどのように最適化させるかといった、システム全体の設計だけではなく、ロボットに作業動作をプログラムする「ティーチング」も必須です。こうした作業は、専門知識を有しているロボットSIer(システムインテグレータ)が担当することがほとんどであり、「システムインテグレーション関連費用」として計上されます。
このような費用を考慮すると、産業用ロボット導入費用の総額は、ロボット本体価格の数倍に及ぶこともあります。導入予算を試算する際は、ロボットの本体価格だけを参考にするのではなく、事前にロボットSIerへ相談するなど入念な調査が必要です。
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人件費がポイント。「回収期間」や「投資金額目安」の計算方法
産業用ロボットによる自動化を行うためには、決して安くない費用がかかることがわかりました。しかし、ロボットの高性能化や小型化が進んだことで、「欠員の出たライン作業に急遽1台だけ充当したい」「工場全体を自動化して生産性を上げたい」など、目的に応じた規模で自動化できるようになりました。
小規模な自動化であれば費用総額も小さくなりますが、それでも即断即決できない額となるでしょう。導入の意思決定をするときに重要なのが、「投資費用をいつ頃回収できるか見込みを立てること」です。
産業用ロボットが自動化するのは、人が行っていた手作業です。この作業コストは「人件費」に相当するため、回収期間の見込みを立てるための簡単な計算式は次のようになります。
また、以下のような状況を想定した場合、どのくらいの期間で回収できるのか実際に計算してみましょう。
【想定状況】
・年間の人件費800万円に相当する投資金額として4,000万円を見積もっている。
人件費:800万円/年(400万円/年×2名)
この状況の場合、5年で投資金額を回収できる見込みとなります。
計算したいのが回収期間ではなく、「投資金額の目安」を算出したい場合、人件費と想定の回収期間を使って次の計算式を活用できます。
こうした計算式はロボットSIerから見積もりを取ったときなどに、「適切な金額かどうか」の判断材料として活用するとよいかもしれません。
生産性向上がもたらす「利益増」で回収期間が早まることも
先ほどの計算式は、人件費をロボットに置き換えた単純なものでしかありません。しかし、産業用ロボットの価値は「生産性の向上」です。実際、ロボット導入によって生産性向上を実現し、利益を増加させることで、単純計算した期間よりも早く投資金額を回収できるケースも多いと言われています。
産業用ロボットがもたらす生産性向上がどのような形で利益に影響するのか、以下の表にまとめました。
コスト | 人材 | ロボット | 利益への影響 |
---|---|---|---|
稼働時間 |
休憩が必要、残業代と深夜割増がかかる |
休憩は不要、24時間稼働できる | 生産数増加 |
品質 | 不安定(作業者の熟練度に依存) | 安定(高精度を常に維持) | 不良率低下 |
表では取り上げていないものの、採用した従業員が一人前に働けるようになるまで、教育や研修などの「育成コスト」が必要です。さらに人材を採用するためには、求人媒体への掲載費用や面接などの「採用コスト」がかかるだけではなく、なんとか採用につながっても離職してしまうリスクもあるのです。離職を防ぐためには、社内環境の改善や給与アップ、福利厚生の充実など従業員満足度の向上も怠ってはいけません。
一方ロボットを導入した場合、一度プログラムを作ってしまえば、調整程度で台数増加も可能なため、人材ほど育成コストがかかりません。また、生産スピード上昇や高い作業精度も期待でき、「生産数増加」「不良率低下」などが見込めます。これまで解説してきたように、初期投資金額は決して安くありませんが、長期的な視点では人材を採用するよりも多くの利益を生み出せるようになります。
では、このようなロボット導入による「利益増」を考慮した上で、先ほどと同じ想定状況の回収期間を改めて計算してみましょう。
【想定状況】
・人件費800万円に相当する投資金額として4,000万円を見積もっている。単純計算だと5年で回収。(前項参照)
・生産数増加と不良率低下により、『2.5万円/日』の利益増が見込める
利益増:600万円/年(2.5万円×240営業日)
利益増も含めて計算した場合、人件費だけを考慮したケースより約2年も早く回収できることがわかりました。正確な導入予算や回収プランを作るときは、こうした利益増も念頭に置いた上で作成するとよいでしょう。
しかし、生産数や不良率などへの影響は、自動化する作業内容や規模、ロボットの型によって大きく異なります。こうした綿密な計算を行うためには、ロボットへの深い知識や作業自動化の経験が必要です。産業用ロボットの導入を本格的に検討しているときは、担当者のリサーチだけで終わらせず、ロボットSIerへの相談をおすすめします。
補助金を活用すればさらに負担を軽減できる
産業用ロボットの投資費用を計算する際は、まず「自動化する規模」を決め、それに相当する「人件費」を見積もることが重要です。そのあとに想定した「投資金額」から「回収期間」を算出したり、反対に「このくらいの期間で回収したい」という希望から「投資金額の目安」を見積もったりするとよいでしょう。
ロボットを活用した作業自動化には、決して安くない投資金額が必要になりますが、利益増も考慮した上で計算すると、想定よりも早く投資金額を回収することも可能です。
また、人口減少や少子高齢化による労働力不足から、国や各自治体は産業用ロボットの活用を推進しており、導入費用に補助金や助成金を支給しています。こうした制度を活用することで、導入費用をさらに抑えられるため、導入を検討しているのであれば一度確認してみましょう。
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