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産業用ロボットの事故件数が増加中。事例と責任の所在を解説

産業用ロボットの事故件数が増加中。事例と責任の所在を解説

多くの恩恵をもたらす産業用ロボットですが、運用を誤ってしまうと深刻な人災を招いてしまいます。ロボットを安全かつ効果的に運用するためには、経営者には保守運用や定期的なメンテナンス、また取り扱いに関する教育など、さまざまな配慮が求められます。今回は、産業用ロボットで発生した事故事例や、その責任はどこにあるのかなどを解説します。

産業用ロボットを導入するメリットの認知拡大、それに伴う補助金などの制度が充実し、ロボットの普及はますます進んでいます。産業用ロボットは製造技術や品質の向上に貢献するほか、ニーズに見合った作業を担うことでより大きな恩恵をもたらします。しかしその普及が進むにつれ、事故件数の増加が懸念されています。

多くの恩恵をもたらす産業用ロボットですが、運用を誤ってしまうと深刻な人災を招いてしまいます。ロボットを安全かつ効果的に運用するためには、経営者には保守運用や定期的なメンテナンス、また取り扱いに関する教育など、さまざまな配慮が求められているのです。今回は、産業用ロボットで発生した事故事例や、その責任はどこにあるのかなどを解説します。

製造業の事故件数が微増。「はさまれ・巻き込まれ」が最多

参考:労働災害統計(平成29年)

厚生労働省が発表した「平成29年における労働災害発生状況(確定)」によると、製造業における労働災害による死傷者数は、前年より0.8%増加しました。産業用ロボットの普及にともなって事故件数も増えています。

産業用ロボットを導入する際は、ロボットの業務にかかわるすべての作業員が厚生労働省が定めた教育を受け、十分な知識や技術を習得したことを証明する資格の取得が義務付けられています。製造業の作業現場では、人の体よりも大きく重量のある機械を使って、製品の加工や運搬を行います。安全柵や囲いの設置があったとしても、作業員一人ひとりの十分な危機管理能力がなければ、安全に作業を行うことができないからです。事故件数が前年よりも増えていることが、使用する人々が危機管理能力を持つことの重要性を示しています。

参考:労働災害統計(平成29年)

上記のグラフを見ると、ほかの業種に比べて製造業で発生しやすい事故は、機械による「はさまれ・巻き込まれ」事故です。人と協働することを前提に作られている産業用ロボットは、万が一接触しても緩衝材が組み込まれていたり、人感センサーで動作を停止する措置が用いられたりしています。しかし出力の高いロボットは、隔離されたスペースで使用することが義務付けられているものの、万が一機械にはさまれたり、ローラーに巻き込まれたりすると甚大な被害をもたらします。

2番目に多い事故は転倒です。製造業では水を使う食品の工場や、様々な部品が足元に飛び散ることがある部品工場では、転倒事故には注意を払う必要があります。食品加工の製造現場では、油の混じった水を扱うこともあり、床が滑りやすい環境です。その周囲では産業用ロボットが稼働し、人の何倍もの出力で作業を進めています。ロボットとの不慮な接触を防ぐためにも、製造現場では常に荷物を整理するなど、足場には気を遣い、転倒事故防止に努めることが重要です。

産業用ロボットの事故は人命にかかわる。3つの災害事例を紹介

産業用ロボットによる事故は「労働災害」と呼ばれています。その労働災害はどのような場面で起こり、どれほどの被害をもたらすのでしょうか、増加する製造現場の労働災害事例をご紹介します。

ロボットのモーターを取り外したところ、アームが動き、アームの先端を支えていたジャッキ台車とともに後方に転倒

プレス工場内で材料を搬送するロボットのモーターが故障したため、予備ロボットのモーターと付け変えることになりました。モーター上部のボルト2本を外してモーターを引き出したところ、予備ロボットのアームが動いてジャッキ台車が倒壊。ジャッキ台車を支えていた被災者は、左足が挟まった状態で後方に転倒して後頭部を強打する事故になりました。

この事故の原因は、作業者がロボットの構造に関する専門知識をもっていなかった点、モーター交換における作業手順書を作成していなかった点など、現場の準備不足があげられます。今後の対策としては、ロボットの構造について十分な知識を持った作業員を指揮者として選任することや、モーター交換作業の手順書を作成し、周知と教育を徹底するなどの配慮が求められます。

引用:職場のあんぜんサイト

産業用ロボットの可動範囲内に立ち入り、マニピュレータに挟まれる

この災害は、製造ラインのコンベア内に散ったパネル破片を取り除く作業中に発生しました。稼働中している産業用ロボットと減速機の間に作業者の頭部が挟まれ、作業員が亡くなってしまった事例です。作業員がロボットの運転を停止せずにコンベア内に侵入した点、ロボットとの接触防止策が講じられていなかった点、夜勤における1人作業ゆえに安全管理が不十分であった点などが原因としてあげられます。

災害の対策としては、稼働中のロボットに立ち入る際は運転を停止させること、ロボットとの接触を防ぐために安全対策として囲いを設けること、夜間などの作業員が少数になる際の安全管理のルールを策定することなど、危険認識の強化が必要でしょう。

引用:職場のあんぜんサイト

溶接用ロボットの教示等の作業中に挟まれる

この災害は、ほかの作業者の不安全行動が原因で、溶接ロボットの教示(ティーチング)作業員が負傷した事例です。教示作業員がロボットの稼働をOFFにして、もうひとりの作業員に指示を出していました。そのふたりとは別の作業員が確認作業のため、ロボットの操作をONにして作業をしました。この時、稼働させたロボットだけでなく、教示作業員が携わっている場所も稼働してしまいました。その結果、教示作業員が全治2カ月の裂傷を負う事故になりました。

これは、作業の連携不足や教示作業などに関する知識不足が原因です。その対策として、複数の作業員でロボットの教示などをする場合の綿密な連携の取り決め、ロボットの作業にかかる作業者は特別教育の実施が災害防止に繋がります。

引用:職場のあんぜんサイト

事故が発生した時の責任の所在は?各関係者が遵守すべき内容

どれだけ災害防止に配慮しても、完全には防止できません。ロボットが起こした事故の責任を取るのはメーカーか事業主か、それとも個人なのか。今でも議論が起こり、法整備が進んでいます。

責任の所在が問われる際、基準となるのは下記の大原則を遵守しているかどうかです。

対象者 内容
全ての関係者 リスクアセスメントの実施
メーカー(主としてISO10218−1) フェイルセフ設計、安全対策部品の適正装備、正しく使えるような明快な表記等
システムインテグレータとエンドユーザ(主としてISO10218−2) 安全策設置、各種安全装置の設計や安全措置、使用者に対する安全教育、管理監督の実施等

ISO10218は、ロボットの安全指針について詳しく記載されている規格です。過去に制定されたISO10218-1と、これを改定したISO10228-2があります。(JIS B 8433-1)(JIS B 8433-2)

ISO10218-1
ロボットの設計や製造において、安全性をどのように保証するか検討するための手引きとされ、リスク除去の要求事項について記載
参考:JIS B 8433(ISO10218-1)


ISO10218-2
ロボットインテグレーション、設置、機能試験、その他各安全防護の指針について記載
参考:JIS B 8433(ISO10218-2)

事故が発生した際は、こうしたリスクアセスメントの不備がなかったかどうか、上記の規格をもとに各関係者の対応に不備がなかったかを確認します。特別教育等の運用ルールを遵守していないなど、運用者側に問題がなかったのかが焦点となり、逆にロボットの損傷や破損が認められた場合はメーカー側に問題があるとされます。よって不備があると判断された関係者が責任を負うことになります。

危険性と安全対策については、以下の記事で詳しく解説しています。
事故を起こさないために。産業用ロボットの危険性と安全対策を正しく理解しよう

特別教育を受けていない作業員が死亡…責任者が書類送検された事例も

産業用ロボットの検査に関する特別教育を行わなかったとして、自動車メーカーと役員が安全衛生法第59条の違反の容疑で書類送検された事例を紹介します。

労働所が調べたところ、特別教育を受けていない責任者がロボットの修理を行っていたことが発覚しました。確かな知識を持ち合わせていないが故に、清掃作業員が動き出したロボットに挟まれるという事故が起こり続けています。この際、事業者が責任を問われて起訴されるケースは少なくありません。ロボットの作業にかかるすべての作業員は経営者を含めて特別教育は必ず行うようにしましょう。

引用:製造ラインで産業用ロボットに挟まれ死亡 自動車部品製造業者を送検 浜松労基署

経営者や責任者だけでなく、全社員の危険意識を醸成する

産業用ロボットは大きな効果をもたらしますが、運用方法の安全管理や特別教育を施していない場合は、取り返しのつかない事態を招きます。労働災害という深刻な事態を発生するだけでなく、書類送検などが起こると社会的信用の失墜も生じます。

産業用ロボットの導入を検討している場合は、経営者や現場の責任者は産業用ロボットのメリットだけでなく、ロボットが原因で会社を危険な状態にしてしまうリスクの認識も必要です。ロボットの導入が決定したら、全社員への徹底的なリスク周知や、ロボット作業を担当する可能性が少しでもある社員の教育は、必ず行いましょう。

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