製造業に限らず、全業界で取り組みが求められている「生産性向上」。ツールを導入したり、作業内容を変更したりすることで、生産性向上を果たそうとしている企業が数多くあります。製造業では、産業用ロボットを活用した作業自動化が注目を集めており、ロボット市場も急成長しているため、その需要の大きさがわかります。
製造業の企業で、生産性を向上する役割を担う職種が「生産技術職」です。企業によっては「生産技術職」という名称が無いケースもありますが、ほとんどの企業で「生産性向上」を目的とする職種が存在しています。
今回は、生産技術職に求められる役割や能力の一端をご紹介します。
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生産技術職は「資本生産性」と「労働生産性」を向上させる役割を担う
生産技術職の業務は多岐にわたりますが、大別すると2つに分けられます。工業製品をはじめとした「もの」の生産プロセス全体を設計すること、一つひとつの工程を調整しながら品質や生産性を向上させることです。
この業務の役割は、それぞれ「資本生産性」と「労働生産性」の向上です。2つの生産性は指している内容が異なるため、この違いについて解説します。
【資本生産性】資本(設備)基準で利益を数値化したもの
中小企業庁によると、資本生産性は以下のように定義されています。
”付加価値額を資本ストック(有形固定資産)で除したもの”
【公式】
資本生産性=付加価値額÷資本ストック(有形固定資産)
引用:『第1部 平成29年度(2017年度)の小規模事業者の動向』中小企業庁
資本ストックは有形固定資産を指しているため、産業用ロボットや生産ラインの設備費、土地代などが主な該当項目です。付加価値額とは、「その企業が生み出す価値」を指しており、売上総利益や粗利益とほぼ同じ概念です。さまざまな公式があるため、最もわかりやすい公式と、中小企業庁による公式をご紹介します。
【最もわかりやすい公式】
付加価値額=売上-売上原価
【中小企業庁による公式】
付加価値額=営業純利益(営業利益-支払利息等)+給与総額{役員給与+従業員給与(含む賞与)}+福利厚生費+動産・不動産賃借料+支払利息等+租税公課
簡単に解説すると、50円の原材料費で100円の製品を製作したときは、原価を差し引いた50円が付加価値額となります。つまり、資本生産性は、自社の設備資本からどれだけ効率的に利益を上げられたかを数値化したものです。
【労働生産性】労働力(人件費)基準で利益を数値化したもの
資本生産性は「設備をどれだけ効率的に使えたか」を指す数値でしたが、労働生産性は、「人をどれだけ効率的に使えたか」を示す数値です。労働生産性を導く公式は以下になります。
一般的な「生産性」はこちらの労働生産性を指すことが多いですが、生産技術職が意識すべき生産性は、「労働生産性」と「資本生産性」の両方です。生産技術職は、限られた予算や時間のなかで、生産性向上を可能な限り実現する重要な役割を担っています。この役割を全うするためには、それぞれの違いを明確に区別しておかなければなりません。
「全体を把握して設計する」生産技術職の主な業務内容
生産技術職は「資本生産性」と「労働生産性」を向上するために具体的にどのような業務を行うのでしょうか。次は、生産技術職に求められる主な業務内容を解説します。
生産プロセスの設計と改善
生産技術職の代表的な業務は、製品の開発から出荷までのプロセス全体を管理し、必要に応じて改善することです。それぞれの工程でどのような作業が行われているか把握し、必要に応じて作業内容の変更を行います。
しかし、生産プロセスの中で変更の余地がある要素は作業だけではありません。作業員や機械設備に加え、材料も変更があると製品に影響を及ぼす要素です。課題を解決して「労働生産性」を向上させるために、どの要素を改善すべきか、適切な判断が求められます。
新商品の開発や生産体制の構築
新しい商品の開発も生産技術の業務です。限られた時間や予算のなかで、自社の売上や利益を最大化できる新商品を開発します。
しかし、生産技術職にとっては、新商品を考えて終わりではありません。目標の利益を達成するためには、どの商品の生産数を減らして新商品をどれだけ生産すべきか算出しなければならないからです。限られた人員や設備のなかで、必要な生産ラインや人員を確保するだけではなく、新商品を生産するための作業内容やプロセス設計も生産技術職の業務として挙げられます。
生産技術職の役割は、「ふたつの生産性を向上すること」ですが、新商品を生産するときは、「資本生産性」を特に意識しましょう。
生産技術職の役割を果たすために磨くべき「2つの能力」
生産技術職の業務は、生産プロセス全体にかかわります。製造業の現場では手を動かす作業や能力を求められるケースが多いですが、生産技術の業務を遂行するために必要な能力は「考える力」です。ひとつの業務スキルを研鑽するのではなく、全体を把握し、目的に応じて適切に対応する能力が必要になります。
最後に、生産技術職が「生産性向上」を果たすために必要な能力をご紹介します。
物事を多角的に捉えて判断する「考える能力」
製造業を営む企業において、主な業務は「つくること」です。多くの従業員は、手を動かして製品をつくる業務を行っており、能力の上昇は、業務スピードアップや不良品を出さない安定性の向上などを指しています。
一方、生産技術職はこうした手作業を行う従業員が、どれだけ効率的に業務を遂行できるかを「考えること」が主な業務です。考える力を養うことが成果につながりますが、考える力は経験に応じて自然に身につくわけではありません。考える手法や手順を学ぶことで、目的を達成するために適した考え方や判断ができるようになります。
「生産管理のQCD」や「品質管理の4M」といった、企業の生産性向上をサポートする専門用語もあるため、生産技術職はこうした用語を学び実践することで、「考える能力」を磨けるでしょう。
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部署間の連携をスムーズにする「コミュニケーション力」
生産技術職は商品の開発段階から出荷されるまでの全工程にかかわるため、商品企画から現場の作業員まで、数多くの部署と連携する必要があります。適切なプロセスを設計しても、部署間の連携が上手くいかなければ、想定していた成果を出せないでしょう。
生産技術職は部署間の連携をスムーズにするために、綿密なコミュニケーションを取る姿勢が求められます。考える力だけではなく、人と上手に付き合えるコミュニケーション力があると業務を効率的に遂行しやすくなるはずです。
生産性向上が必須の時代。社内外を有効活用する
売上や利益の増加を目指す製造業の企業にとって、生産技術職は重要な役割を担う職種です。担当者は、「資本生産性」と「労働生産性」の両方を向上するために、考え方を学んだり、気持ちのよいコミュニケーションを心掛けたりするとよいでしょう。
また、生産性向上は利益増加の観点だけではなく、従業員の働きやすさにスポットがあたる社会背景からも重要と言えます。国内人口減少による労働力人口は、人材獲得競争の激化を招いています。これからも企業が成長を続けていくためには、安定した労働力の確保は欠かせません。生産性向上は、企業にとっても従業員にとっても、重要な取り組みなのです。
自社だけで生産性向上に取り組むことが難しい場合、SIer(システムインテグレータ)をはじめとした製造業の生産性向上を専門とする事業者に相談すると、成果が出やすくなるでしょう。社内外の知見を最大限活用し、「資本生産性」と「労働生産性」2つの生産性向上に取り組んでみてください。