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オリフィスとは?流量測定における基本原理
オリフィスとは、配管内に設置する穴の開いた薄い板(絞り板)のことを指します。この板によって流路を絞ることで、流体の圧力と速度の関係を利用して流量を測定する「差圧式流量計」の主要な構成要素です。オリフィスによる流量測定は、構造がシンプルで可動部がなく、高温・高圧・腐食性流体にも対応できるため、化学プラントや石油精製、食品製造など幅広い産業分野で採用されています。
ベルヌーイの定理
オリフィスによる流量測定は、ベルヌーイの定理に基づいて流体のエネルギー保存則を利用し、圧力差から流量を算出する仕組みです。ベルヌーイの定理では、流体が流れる際に圧力エネルギー、運動エネルギー、位置エネルギーの総和が一定に保たれるという原理が示されています。
オリフィス板によって流路が絞られると、流体の速度が増加し、その結果として圧力が低下します。この圧力低下(差圧)を測定することで、流量を間接的に求めることができるのです。

オリフィス板の構造と設置位置
オリフィス板は、配管内径よりも小さな円形の穴が中央に開けられた薄い金属板で、通常はステンレス鋼や合金鋼などの耐食性・耐久性に優れた材料で製作されます。板の厚さや穴の形状は流量係数や圧力損失に影響を与えるため、用途に応じて適切に設計する必要があります。
オリフィス板の設置位置は、流量測定精度に大きく影響します。一般的に、オリフィス板の上流側と下流側には十分な直管部を確保し、流れの乱れや偏流を最小限に抑えることが求められます。また、圧力測定タップの位置も重要で、フランジタップ、コーナータップ、D-D/2タップなど複数の方式があり、測定対象や配管サイズに応じて選定されます。
流量係数と収縮係数の役割
流量係数(C)は、実際の流量と理論流量の比を示す補正係数であり、オリフィス板の形状や流体の性質、レイノルズ数などによって変化します。理想的な流体では理論式通りに流量が算出できますが、実際の流体では粘性や摩擦、流れの収縮などの影響を受けるため、流量係数による補正が不可欠です。
収縮係数は、オリフィス板通過後の流体が最も収縮する位置(縮流部)における断面積と、オリフィス開口部の断面積との比を表します。流体はオリフィスを通過する際に慣性によって収縮し、下流側で最小断面積に達した後、徐々に元の配管断面積へと広がります。この収縮現象を考慮することで、より正確な流量測定が可能になります。
| パラメーター | 定義 | 影響要因 |
|---|---|---|
| 流量係数(C) | 実際流量と理論流量の比 | オリフィス形状、レイノルズ数、表面粗さ |
| 収縮係数 | 縮流部断面積とオリフィス開口部断面積の比 | 開口比、板厚、エッジ形状 |
| 差圧(ΔP) | オリフィス前後の圧力差 | 流量、流体密度、配管径 |
流量係数は実験データやISO規格に基づく標準値が用いられることが多く、適切な係数を選定することで測定精度を±1〜2%程度に保つことが可能です。
ベンチュリ管とオリフィスの違い
ベンチュリ管もオリフィスと同様に差圧式流量計の一種ですが、その構造と性能特性には明確な違いがあります。両者は流量測定の原理こそ共通していますが、圧力損失、測定精度、設置スペース、コスト、メンテナンス性などの点で異なるため、用途に応じて使い分ける必要があります。
ベンチュリ管の構造と動作原理
ベンチュリ管は、配管の一部を滑らかに絞り込み、再び元の径に戻す形状を持つ流量測定装置です。入口部(収束部)、喉部(最も絞られた部分)、出口部(拡散部)の3つのセクションで構成され、流体は滑らかな曲線に沿って流れます。
ベンチュリ管の最大の特徴は、流体の圧力回復が優れており、オリフィスに比べて圧力損失が大幅に小さいことです。拡散部の設計により、喉部で失われた圧力の約80〜90%が回復するため、ポンプ動力の削減やエネルギーコストの低減に貢献します。
圧力損失と測定精度の比較
オリフィスとベンチュリ管の最も大きな違いは、圧力損失の大きさです。オリフィスでは、絞り板通過後の流れが急激に拡大するため、圧力回復が不十分で全圧力損失の約50〜70%が失われます。一方、ベンチュリ管では滑らかな拡散部により圧力回復が効率的に行われ、全圧力損失は10〜30%程度に抑えられます。
測定精度の面では、両者とも適切に設計・設置されていれば±1〜2%程度の精度を実現できます。ただし、ベンチュリ管は流れの乱れに強く、直管部の確保が困難な場合でも比較的安定した測定が可能です。オリフィスは、設置条件や流体条件に敏感で、適切な直管長の確保が精度維持の鍵となります。
コストとメンテナンス性の違い
オリフィスは構造がシンプルで製造コストが低く、設置も容易なため、初期投資を抑えたい場合に適しています。可動部がないためメンテナンスも比較的簡単ですが、エッジ部分の摩耗や汚れによる精度低下に注意が必要です。
一方、ベンチュリ管は精密な加工が必要で、大型化するほどコストが高くなります。また、設置に必要なスペースも長くなるため、既設配管への設置が難しい場合があります。しかし、長期的な運用ではポンプ動力の削減による省エネ効果が期待でき、トータルコストではメリットが出る場合もあります。
| 比較項目 | オリフィス | ベンチュリ管 |
|---|---|---|
| 圧力損失 | 大(50〜70%損失) | 小(10〜30%損失) |
| 測定精度 | ±1〜2%(条件次第) | ±1〜2%(安定性高) |
| 初期コスト | 低 | 高 |
| 設置スペース | 小 | 大 |
| メンテナンス | 容易(摩耗注意) | 容易(汚れに強い) |
| 適用流体 | 清浄流体、気体・液体 | 固形物含む流体、スラリー |
これらの違いを踏まえ、圧力損失が許容できない用途や長期運用でのエネルギーコスト削減を重視する場合はベンチュリ管を、初期コストやスペースに制約がある場合はオリフィスを選定するのが基本的な考え方です。
オリフィスの種類と特徴
オリフィス板には、エッジ形状や板厚、開口部の設計によっていくつかの種類があります。それぞれの形状には固有の流量係数や圧力損失特性があり、測定対象の流体や運用条件に応じて最適なタイプを選定することが重要です。ここでは、代表的なオリフィスの種類とその特徴について解説します。
シャープエッジオリフィス
シャープエッジオリフィスは、最も一般的に使用されるオリフィスで、上流側の開口部エッジが鋭角に仕上げられています。この鋭利なエッジによって、流体は明確に収縮し、安定した差圧が得られるため、測定精度が高いという特徴があります。
シャープエッジオリフィスは、ISO 5167などの国際規格で標準化されており、流量係数のデータも豊富に整備されているため、設計や校正が容易です。ただし、エッジ部分は摩耗しやすく、固形物を含む流体や高速流では経年劣化による測定誤差が生じる可能性があるため、定期的な点検とメンテナンスが求められます。
フラット型オリフィス
フラット型オリフィスは、板厚が比較的厚く、開口部の両側が平坦な形状をしています。シャープエッジオリフィスに比べてエッジの摩耗に強く、耐久性に優れているため、固形物や粘性の高い流体の測定に適しています。
一方で、流量係数がシャープエッジオリフィスとは異なるため、専用の補正式や実験データが必要となります。また、圧力損失がやや大きくなる傾向があるため、エネルギー効率を重視する用途では注意が必要です。
ラッパ型(コニカル型)オリフィス
ラッパ型オリフィスは、開口部の下流側が徐々に広がるテーパー形状を持つタイプです。この形状により、流体の圧力回復が促進され、圧力損失を低減できるという利点があります。
ラッパ型オリフィスは、圧力損失を最小限に抑えたい用途や、ポンプの負荷を軽減したい場合に有効です。ただし、製造コストが高く、流量係数の標準データが限られているため、導入時には実験による校正や専門家の助言が必要となる場合があります。
- シャープエッジオリフィス:高精度、標準化、メンテナンス頻度やや高
- フラット型オリフィス:耐久性高、固形物対応、流量係数補正必要
- ラッパ型オリフィス:圧力損失小、コスト高、校正データ少
これらの特徴を理解し、現場の流体特性や運用条件に合わせて適切なオリフィスを選定することが、長期的な測定精度と設備寿命の確保につながります。
流量計選定時のポイントと注意点
オリフィスやベンチュリ管などの差圧式流量計を選定する際には、測定対象の流体特性、設置環境、運用コスト、メンテナンス性など、多角的な視点から検討する必要があります。適切な選定を行うことで、測定精度の維持、設備トラブルの回避、ランニングコストの最適化が実現できます。
流体の種類と物性による選定
流量測定の対象となる流体の種類(気体、液体、蒸気)や物性(粘度、密度、温度、圧力、腐食性、固形物の有無)は、流量計選定の最も重要な要素です。清浄な流体であればオリフィスで十分な測定精度が得られますが、固形物を含むスラリーや粘性の高い流体では、ベンチュリ管やフラット型オリフィスの方が適している場合があります。
流体の温度や圧力が高い場合、材質の選定や差圧計の耐圧性能にも注意が必要であり、腐食性流体では耐食性材料の使用が不可欠です。また、流体密度の変動が大きい場合は、密度補正機能を持つ流量計や、質量流量計への変更も検討する必要があります。
圧力損失許容値と配管設計
差圧式流量計は原理上、必ず圧力損失が発生します。この圧力損失が配管システム全体に与える影響を事前に評価し、許容範囲内に収まるかを確認することが重要です。特に、ポンプ容量に余裕がない場合や、末端での圧力確保が必要な場合は、圧力損失の小さいベンチュリ管を選定するか、配管径を大きくするなどの対策が必要です。
また、流量計の上流・下流には規定の直管長を確保し、流れの乱れや偏流を最小限に抑えることが測定精度の維持に不可欠です。曲がり部やバルブ、ポンプの直後などには設置を避け、整流器の使用も検討します。
設置スペースとコストバランス
ベンチュリ管は圧力損失が小さい反面、設置に必要な配管長が長くなるため、既設設備への追加設置やスペースに制約がある場合には不向きです。オリフィスは設置スペースが小さく、フランジ間に挟み込むだけで設置できるため、改造工事の規模を最小限に抑えられます。
初期コストだけでなく、ポンプ動力や保守コストを含めたライフサイクルコストで比較することが、長期的な経済性の判断には重要です。圧力損失によるエネルギーロスが大きい場合、初期投資が高くてもベンチュリ管の方がトータルコストで有利になるケースもあります。
- 流体特性(粘度、固形物、腐食性)を正確に把握する
- 圧力損失許容値を事前に計算し、システム全体への影響を評価する
- 設置スペース、直管長の確保可能性を現場で確認する
- 初期コストとランニングコストのバランスで判断する
- メンテナンス頻度とアクセス性を考慮する
これらのポイントを総合的に評価し、現場の実情に即した最適な流量計を選定することが、安定した生産運用と品質管理の実現につながります。
まとめ
オリフィスとベンチュリ管は、いずれも差圧式流量計として幅広い産業分野で活用されていますが、圧力損失、コスト、設置スペース、メンテナンス性などの点で明確な違いがあります。オリフィスは構造がシンプルで低コスト、省スペースであり、清浄な流体の測定に適しています。一方、ベンチュリ管は圧力損失が小さく、固形物を含む流体にも対応できるため、エネルギー効率や長期運用コストを重視する場合に有利です。
流量計の選定においては、測定対象の流体特性、設置環境、運用条件を正確に把握し、初期コストだけでなくライフサイクルコスト全体で評価することが重要です。適切な選定フローに沿って検討を進めることで、測定精度の維持、設備トラブルの回避、コスト最適化を実現し、安定した生産運用と製品品質の向上につなげることができます。
本記事で解説した基本原理、選定ポイント、注意点を参考に、自社の現場に最適な流量測定システムを構築してください。
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