産業用ロボットは、生産性向上や人手不足を解消する自動化設備です。ただし、ロボットは設置するだけで動かせるわけではなく、生産ラインでどう動かすかを教示(ティーチング)しなければなりません。
ティーチング方式はいくつか種類がありますが、今回はコンピュータのソフトウェアで実施する「オフラインティーチング」について取り上げます。
オフラインティーチングでは何が実現可能なのか、どんなメリットがあるのか、今後の製造業における重要性も含め解説していきます。
オフラインティーチングとは
オフラインティーチングとは、コンピュータのソフトウェアで産業用ロボット動作用のプログラムを作成し、それをロボットに転送するティーチング方法です。
ロボットシステムの実機環境を設置する前に、実際に生産ラインで稼働させたらどのような問題が発生するかをシミュレーションする目的でも利用されます。
現場で操作端末(ティーチングペンダント)とロボットをオンライン状態で繋げて行う「オンラインティーチング」と対比されます。
オフラインティーチングで実現・確認可能な事項
オフラインティーチングで実現・確認できる事項の具体例は、以下に挙げる通りです。
- 各設備やロボットの3Dデータ作成後(※)、生産ラインの一部を再現したデジタル環境に配置
- ロボットの動作基点座標にロボットハンドやエンドエフェクタを合成
- ロボット・ワークの位置や寸法のずれを微調整
- 完成した動作用プログラムやティーチング動作手順の実機への送信
※各ロボットメーカーがロボットの3Dデータを提供する場合がほとんどです。
- 作業対象物(ワーク)にロボット動作が届くかの確認(=ロボット動作リーチ確認)
- ロボット動作時の周辺設備または他ロボットとの干渉確認
- ロボットプログラミングの妥当性確認
- ロボット動作1サイクルに要する時間の確認
- ロボット動作姿勢の各軸の余裕の確認
ティーチング用ソフトウェアは、複数のメーカーによってさまざまな種類が存在します。
ソフトウェアによっては使える機能に若干の差があるため、実際に購入する場合は製品仕様を吟味しましょう。
オフラインティーチングは4種類存在
オフラインティーチングは4種類に大別可能です。以降に1つずつ種類の特徴を解説します。
シミュレータ型
デジタル設計技術「CAD」から派生したティーチング方式です。
コンピュータとロボットとの間で動作プログラムや座標などのデータ送受信ができ、座標の逆変換(座標の目標値をある座標系から別の座標系へ変換する制御)や3D画面表示と3Dモデル作成機能が揃っています。
また、プログラミングしたスクリプト言語(人間が読み書きできる言語)を、コンパイル言語(機械が読める言語)に変換するコンパイラによって、メーカーの異なるロボットに対応可能です。
エミュレータ型
現在多くのロボットメーカーが採用する方式です。特徴はシミュレータ型に似ていますが、コンパイル言語への変換が不要で、スクリプト言語を直接実行できる点では異なります。
また、ロボットの姿勢を計算するために、実機の制御装置をエミュレート(疑似環境で動作検証)するため、プログラム精度が高いというメリットがあります。
ただし、エミュレータとティーチングシステムは仕様上一体化するため、作成されたプログラムはそのメーカーのロボットでしか使えません。
自動ティーチングシステム
CADで作成した2Dおよび3Dデータと、その情報をもとに作成されたツールパスデータを用いて、動作プログラムを自動的に作成する方式です。
本来は工作機械やマシニングセンタを稼働させるCAMに対して入力する情報を、産業用ロボットに応用します。
現時点では複雑な制御を必要とするロボットの自動ティーチングは技術的に難易度が高く、実際の現場ではあまり採用されていません。
テキスト型
テキストエディタで動作プログラムを直接書く方式です。垂直多関節型のように複雑な動きをするロボットではなく、パレタイジング(積み下ろし)や搬送などの簡単な作業用ロボットのティーチングに使われます。
広義ではオフラインティーチングに属しますが、工作機械を稼働させるためのNCプログラミングに類似しており、やや例外的な立ち位置にある型です。
オフラインティーチングのメリット
産業用ロボットへの教示をオフラインティーチングで行った場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。下記3つの観点で解説します。
ロボット稼働後の問題点を事前に確認できる
オフラインティーチング最大の特徴は、実機を設置する前段階からロボットの動作を指示、ならびに動作時のラインの状況をシミュレーションできる点にあります。
各設備の配置を正確に再現できれば、ワークに対するロボット配置や周辺設備含めた全体の動作、ロボット動作に要する時間などに生じる問題点を洗い出し、生産ラインの最適化が可能です。
大きなリスクとなる稼働後のロボット同士、またはロボットと周辺機器の衝突による事故を防止する点でも有効です。
製造工程でタイムロスを削減できる
オンラインティーチングは、ロボットの稼働を停止しなければならない制約があります。
対してオフラインティーチングでは、PCやタブレットを使って仮想環境のロボットにティーチングを行うので、現実の生産ラインに影響が及びません。
ティーチング後の動作テストでも、位置補正(キャリブレーション)機能が搭載されたソフトウェアなら、わずかな修正のみで済みます。
結果としてオンラインよりもタイムロスの発生を抑えられ、無駄なコストの削減や納期短縮にもつながるのです。
ティーチングエンジニアの育成コストを下げやすい
従来はティーチングペンダントを用いたオンライン方式が主流で、一般的に1~2年の育成期間を経たティーチングエンジニアでなければ扱えない専門技術でした。
オフラインティーチングの場合、ロボット工学やプログラミング・CADの知識があれば、比較的状態でエンジニアの育成が可能です。
ソフトウェアによっては直感的な操作や便利機能が付属している製品もあります。
ティーチングそのものの時間短縮やティーチングエンジニアの育成コスト削減にも、オフラインティーチングは有効です。
オフラインティーチングは製造業に何をもたらすのか
オフラインティーチングは、日本の製造業でも少しずつ普及が進んでいます。
また、導入ハードルの低い協働ロボットの登場や、国や自治体が実施する補助金制度によって、中小企業でも産業用ロボットの導入を検討しやすくなっています。
関連記事:中小企業のロボット導入が可能になった背景や事例をわかりやすく解説
関連記事:【2020年度版・随時更新】産業用ロボット導入をサポートする補助金・助成金。「デジタル・ニューディール」の波に乗り遅れないためにも!
オフラインティーチングは、先に挙げたメリット以外にも、複雑な生産ラインのコントロールに有効なため、今後需要増加が予想される多品種少量生産の分野でも注目されています。
今後の製造業で生産性向上を図るために、産業用ロボット×オフラインティーチングが主流になるでしょう。この潮流に乗り遅れないためにも、ロボットシステム導入の検討を始めてみてはいかがでしょうか。
もしロボット活用や現場の課題についてお悩みの場合は、ぜひロボットSIerにご相談ください。問題点の抽出や改善施策のご提案、補助金申請のサポートまで、経験豊富なエンジニアが御社のお悩みを解消いたします。