目次
関連リンク：「騒音」に関する記事一覧
関連リンク：「体調管理」に関する記事一覧
※
本記事の内容は、2025年7月時点で公表されている法令・ガイドライン等にもとづいて執筆しています。
今後、法改正やガイドラインの更新等により内容が変更される可能性がありますので、最新情報は必ず公式情報をご確認ください。
騒音障害防止のためのガイドラインとは
騒音障害防止のためのガイドラインは、職場での騒音による健康被害、特に騒音性難聴を防止するために厚生労働省が策定した指針です。企業が適切な騒音対策を実施するための具体的な方法や基準が示されています。
ガイドラインの目的と背景
このガイドラインは1992年（平成4年）に初めて策定され、労働環境における騒音問題に対処するための基準として機能してきました。
ガイドラインの主な目的は、企業に騒音対策の重要性を認識させ、適切な措置を講じるよう促すことにあります。特に製造業や建設業など、騒音レベルが高い業種での対策が重視されています。
騒音性難聴とその影響
騒音性難聴とは、長時間または高レベルの騒音にさらされることで徐々に進行する聴覚障害です。最初は高音域の聴力低下から始まり、徐々に日常会話にも支障をきたすようになります。
この症状の特徴として、一度発症すると完全に回復することが非常に困難であることが挙げられます。そのため、予防策を講じることが何よりも重要になります。
騒音性難聴は職業病として認定される可能性もあり、企業にとっても労災リスクという観点から対策が必要です。職場での適切な騒音管理は、従業員の健康維持だけでなく、企業の社会的責任の一環としても捉えられています。
騒音障害防止のためのガイドラインが適用される作業場
騒音障害防止のためのガイドラインは、特定の作業場や業務に焦点を当てています。騒音レベルが高く、労働者の健康リスクが高い環境が主な対象となります。ここでは、対象とされる作業場や業務について詳しく解説します。
著しい騒音を発する作業場
著しい騒音を発する作業場とは、常に高いレベルの騒音が発生する環境を指します。これらの場所では騒音障害のリスクが特に高いため、積極的な対策が求められます。
具体的には、圧縮空気や動力を用いる機械の運転作業が含まれます。例えば、鋲打ち機やはつり機などの使用現場です。これらの機器は操作時に100dBを超える騒音を発生させることがあります。
また、金属の圧延作業や研磨作業も著しい騒音を発する代表的な例です。金属同士が激しく接触する際に生じる騒音は非常に高いレベルに達し、防護措置なしでの作業は聴覚に深刻なダメージを与える可能性があります。
木材の削皮や切削作業も同様に高い騒音を発することが知られています。製材所や家具工場などでは、これらの作業による騒音対策が特に重要です。
大きな騒音を発する可能性が高い作業場
「大きな騒音を発する可能性が高い作業場」は、必ずしも常時著しい騒音があるわけではありませんが、作業内容や状況によって高い騒音レベルになる可能性がある環境です。
例えば、プラスチックや紙の加工業務は、使用する機械や加工方法によっては高い騒音を発することがあります。特に高速で回転する機械や裁断機などは注意が必要です。
大きな音を発生させる機器などの使用作業も対象となります。たとえば、材料の欠陥を検出するために、高い音を発生させる機器が使われることがあります。
これらの作業場では、定期的に騒音レベルを測定し、基準値を超える騒音が確認された場合は適切な対策を講じる必要があります。業務の特性によって騒音レベルが変動するため、継続的なモニタリングが重要です。
騒音障害防止のためのガイドラインに基づく対策の基本
騒音障害を効果的に防止するためには、体系的かつ包括的なアプローチが必要です。ガイドラインでは、企業が実施すべき基本的な対策が明確に示されています。
職場の騒音対策体制整備
効果的な騒音対策を実施するためには、適切な管理体制を構築することが重要です。まず企業は、騒音対策を主導する専任の管理者を選任する必要があります。
この管理者は、職場の騒音状況を把握し、必要な対策を計画・実行する責任を担います。具体的には、騒音測定の実施、対策の立案、従業員への教育などを統括します。
管理体制の整備には、騒音対策についての明確な方針の策定も含まれます。企業として騒音対策に取り組む姿勢を明示し、全従業員に周知することで、組織全体での取り組みを促進できます。
また、騒音対策は一度実施して終わりではなく、継続的な評価と改善が求められるため、定期的な見直しと改善のためのプロセスも確立することも必要です。
作業環境の騒音管理方法
作業環境の騒音管理は、騒音レベルの測定から始まります。騒音のリスクが高い作業場では、等価騒音レベル（LAeq）を定期的に測定し、現状を把握することが必要です。
測定の結果、騒音レベルが85dB以上であることが確認された場合、改善措置を講じる必要があります。これには、低騒音型の機器への切り替えや、騒音源の隔離、遮音壁の設置などが含まれます。
また、作業場のレイアウトも騒音管理において重要な要素です。騒音源をできるだけ一か所に集め、他の作業エリアとの距離を確保することで、騒音の影響を最小限に抑えることができます。
定期的なメンテナンスも騒音管理において重要です。機械設備の適切な保守点検を行うことで、摩耗や劣化による騒音の増加を防ぐことができます。
騒音障害防止のためのガイドラインに基づく実践的対策
騒音障害を効果的に防止するためには、理論だけでなく実践的な対策が不可欠です。ガイドラインでは、日々の業務の中で実施すべき具体的な対策が示されています。ここでは、ガイドラインに基づく具体的な対策について解説します。
作業内容の管理と騒音軽減策
作業内容の管理は、騒音の影響を抑えるうえで非常に重要です。特に、騒音レベルの高い作業については、作業時間を制限するなどの対策が推奨されます。
例えば、騒音レベルが85〜100dBの範囲にある場合は、連続して作業できる時間に制限を設けることが望ましいとされています。95dB前後の環境では、2時間ごとに静かな場所で休憩を取るなどの工夫が効果的です。
さらに、騒音の大きい作業と静かな環境が求められる作業とを時間帯で分ける方法も有効です。例えば、午前中は騒音を伴う加工作業を行い、午後は比較的静かな組立作業を行うといったスケジュール調整が考えられます。
作業方法の見直しによっても、騒音を軽減することが可能です。たとえば、金属部品の落下による衝撃音を防ぐためにゴムマットを敷く、機械操作の手順を見直して不要な音の発生を防ぐなどの対策が挙げられます。
労働者の聴覚保護具の選定と使用法
適切な聴覚保護具の選定と正しい使用は、騒音性難聴予防の最後の砦となります。ガイドラインでは、JIS規格に基づいた聴覚保護具の選定が推奨されています。
聴覚保護具には主に耳栓と耳覆い（イヤーマフ）があり、作業環境や騒音レベルに応じて適切なものを選ぶ必要があります。特に100dBを超える環境では、両方を併用することが効果的な場合もあります。
選定の際には、遮音性能だけでなく、装着感や作業への適合性も考慮することが重要です。不快感がある保護具は正しく使用されない傾向があるため、労働者の意見も取り入れながら選定するとよいでしょう。
正しい使用方法についての教育も欠かせません。例えば、耳栓は正しく装着しないと効果が大幅に減少します。定期的な教育訓練を通じて、適切な装着方法を全ての作業者に理解してもらうことが必要です。
また、聴覚保護具の定期的な点検と交換も重要です。特に耳栓は使用によって劣化するため、定期的な交換が必要となります。
騒音障害防止のためのガイドラインにおける健康管理
騒音障害防止のためのガイドラインでは、労働者の健康を守るための定期的な健康管理も重要とされています。適切な健康診断と事後措置によって、騒音性難聴の早期発見と進行防止が可能になります。
騒音健康診断の実施と評価
騒音健康診断は、騒音作業に従事する労働者の聴力状態を定期的に確認するための重要な取り組みです。ガイドラインでは、85dB以上の騒音環境で働く労働者に対して定期的な健康診断を実施することが推奨されています。
健康診断の主な検査項目には、問診（既往歴や自覚症状の確認）、聴力検査（オージオメーターによる気導純音聴力検査）などがあります。特に改定後のガイドラインでは、4,000Hzと6,000Hzの聴力検査が追加され、より早期の騒音性難聴の発見が可能になりました。
健康診断の結果は、専門医によって適切に評価される必要があります。特に聴力の経時的変化に注目し、わずかな聴力低下でも見逃さないようにすることが重要です。
また、健康診断の記録は5年間保管することが求められています。これにより、長期的な聴力変化の追跡が可能になり、騒音対策の効果検証にも役立ちます。
健康診断結果に基づく事後措置
健康診断で異常が見つかった場合、適切な事後措置を講じることが重要です。まず、軽度の聴力低下が認められた場合でも、二次検査を実施して詳細な評価を行うべきです。
聴力低下が確認された労働者に対しては、作業環境の見直しや配置転換などの措置を検討する必要があります。特に騒音レベルの高い作業からより静かな環境への異動は、これ以上の聴力低下を防ぐ効果的な対策となります。
また、聴覚保護具の着用を徹底させるとともに、より遮音性の高い保護具への変更も検討すべきです。労働者本人に聴力保護の重要性を再認識させる教育も重要な事後措置の一つです。
健康診断の結果から、職場全体の騒音対策の見直しにつなげることも大切です。複数の労働者に聴力低下が見られる場合は、作業環境自体の改善が必要かもしれません。
定期的なフォローアップ検査を実施し、事後措置の効果を確認することも忘れてはなりません。聴力低下が進行しているようであれば、さらに踏み込んだ対策が必要です。
騒音障害防止のためのガイドラインにおける教育と啓発
騒音障害を効果的に防止するためには、技術的な対策だけでなく、労働者自身の意識向上と正しい知識の習得が不可欠です。ガイドラインでは、教育と啓発の重要性が強調されています。
管理者向け教育プログラムの内容
騒音対策の管理者には、より専門的な知識と管理能力が求められます。まず、騒音の測定方法や評価基準について詳しく学ぶ必要があります。等価騒音レベル（LAeq）の概念や測定器の正しい使用法などの技術的知識が重要です。
また、騒音障害の発生メカニズムや健康影響についての医学的知識も必要です。騒音性難聴がどのように進行するか、どのような初期症状に注意すべきかなどを理解することで、適切な予防策を講じることができます。
関連法令やガイドラインの内容を正確に把握することも管理者の重要な責務です。労働安全衛生法や騒音障害防止のためのガイドラインの要求事項を理解し、確実に実施することが求められます。
作業者向け教育と意識向上の取り組み
作業者向けの教育では、まず騒音障害の危険性と予防の重要性について基礎的な知識を提供することが大切です。特に騒音性難聴が不可逆的な障害であることを強調し、予防の重要性を認識させることが重要です。
聴覚保護具の正しい選択と使用方法に関する実践的な教育も必須です。特に耳栓の正しい装着方法は実技を交えて指導し、効果を最大限に引き出せるようにすることが大切です。
定期的な意識向上キャンペーンの実施も有効です。ポスターの掲示やミーティングでの注意喚起、聴力保護の重要性を訴えるイベントなどを通じて、騒音対策の意識を職場全体で高めることができます。
改定ガイドラインの重要ポイント
令和5年4月に改定された騒音障害防止のためのガイドラインには、いくつかの重要な変更点があります。これらの改定ポイントを理解し、実践することで、より効果的な騒音対策が可能になります。
騒音管理体制の強化と専任管理者の役割
改定されたガイドラインでは、騒音対策における管理体制の強化が強調されています。特に注目すべき点は、騒音障害防止対策を実施する専任の管理者の選任が明確に求められるようになったことです。
この専任管理者は、騒音測定の実施計画の策定や結果の評価、必要な対策の立案と実施、そして労働者への教育訓練など、騒音対策全般を統括する役割を担います。単なる形式的な任命ではなく、実質的に機能する体制づくりが求められています。
管理者には、騒音に関する専門知識と管理能力が必要とされます。そのため、適切な研修や教育を受けさせることも企業の重要な責務となります。
また、管理体制を機能させるためには、経営層のサポートも不可欠です。騒音対策に必要な予算や人員の確保、組織的な取り組みの推進など、管理者が実効性のある対策を講じられる環境を整えることが重要です。
騒音測定方法の拡充と精度向上
改定ガイドラインでは、騒音測定方法が大幅に拡充され、より正確な騒音評価が可能になりました。新たに追加された測定方法には、個人ばく露測定と推計測定があります。
個人ばく露測定は、労働者が実際に作業中に受ける騒音レベルを直接測定する方法です。小型の騒音計を作業者に装着して測定するため、その労働者が実際に浴びている騒音を正確に把握できるという大きなメリットがあります。
推計測定は、実測データと作業時間などから労働者の騒音ばく露量を推計する方法です。様々な作業を行う労働者の一日を通しての騒音ばく露を評価する際に有効です。
これらの新しい測定方法は、従来の作業場の環境測定を補完するものとして位置づけられています。状況に応じて最適な測定方法を選択することで、より効果的な騒音対策につなげることができます。
また、測定の精度向上のため、騒音計の校正や測定条件の標準化などについても、より詳細な規定が設けられました。これにより、信頼性の高い測定結果に基づいた対策立案が可能になります。
聴覚保護具の選定基準の明確化
改定ガイドラインでは、聴覚保護具の選定基準がJIS規格に基づいて明確化されました。これにより、作業環境に適した適切な保護具の選定が容易になります。
具体的には、JIS T 8161（耳栓）とJIS T 8161-2（耳覆い）の規格に基づいて、遮音性能（SNR値：Single Number Rating）を考慮した選定が求められるようになりました。騒音レベルに応じた適切な遮音性能を持つ保護具を選ぶことが重要です。
また、保護具の選定においては、遮音性能だけでなく、装着の快適性や作業内容との適合性も考慮することが明示されました。労働者が違和感なく継続して使用できる保護具を選ぶことが、実効性のある対策につながります。
さらに、保護具の適切な管理や交換時期についても言及されています。特に使い捨て型の耳栓は衛生面から適切な交換が必要であり、耳覆いも定期的な点検と部品交換が重要であることが強調されています。
騒音健康診断の拡充と早期発見の取り組み
改定ガイドラインでは、騒音健康診断の検査項目が拡充され、騒音性難聴の早期発見がより可能になりました。特に重要な変更点は、聴力検査における4,000Hzと6,000Hzの追加です。
これらの周波数帯は騒音性難聴の初期症状が現れやすい領域であり、従来の検査項目に加えてこれらの周波数での検査を実施することで、より早い段階での異常検出が可能になります。早期発見は早期対応につながり、重度の難聴への進行を防ぐことができます。
また、健康診断の事後措置についてもより具体的な指針が示されました。軽度の聴力低下が確認された段階での適切な対応が強調され、二次検査の実施や作業環境の見直し、聴覚保護具の使用徹底などが推奨されています。
そして、健康診断の結果を活用した職場全体の騒音対策の見直しについても言及されています。個々の労働者の健康状態を単に管理するだけでなく、職場環境の改善にもつなげていくという総合的なアプローチが求められています。
これから取り組む企業のためのガイドライン活用法
騒音障害防止対策を新たに始める、または強化したいと考えている企業にとって、どのように取り組みを進めればよいのかを具体的に解説します。効果的な対策実施のためのアプローチ方法を紹介します。
企業規模別の取り組み方のポイント
中小企業と大企業では、利用できるリソースや組織構造が異なるため、それぞれに適した取り組み方があります。まず中小企業の場合、限られたリソースで効果的な対策を講じることが重要です。
中小企業では、まず騒音の現状把握から始めるとよいでしょう。専門機関のレンタル機器を利用した簡易測定でも十分な場合が多いです。測定結果に基づき、特に騒音レベルの高い作業や場所を特定し、優先的に対策を講じます。
専任管理者については、兼任でも構いませんが、必要な知識を身につけるための研修の受講は必須です。地域の労働基準監督署や産業保健総合支援センターが提供する無料または低コストの研修を活用するとよいでしょう。
一方、大企業では、より体系的なアプローチが効果的です。各部門に騒音管理責任者を置き、全社的な騒音管理システムを構築します。騒音測定や対策立案、効果検証までを一連のプロセスとして管理する仕組みづくりが重要です。
コスト効率の高い対策の進め方
騒音対策は必ずしも高額な投資を必要とするわけではありません。効果的かつコスト効率の高い対策を進める必要があります。
まず重要なのは「低コスト・高効果」の対策から始めることです。例えば、機械設備の定期的なメンテナンスは比較的低コストで騒音低減効果が高い取り組みです。ベアリングの交換や潤滑油の補充などの基本的なメンテナンスで、騒音レベルが数dB下がることも珍しくありません。
作業方法の見直しもコストをかけずに効果を上げられる施策です。例えば、金属部品の取り扱い方法を変えるだけで、衝撃音を大幅に減らせる場合があります。作業者からの提案を積極的に取り入れることで、現場に即した改善が可能になります。
設備投資が必要な場合は、優先順位をつけて段階的に実施するとよいでしょう。特に騒音レベルの高い機器や多くの作業者に影響を与える騒音源から対策を進めることで、投資効果が最大化します。
また、補助金や助成金の活用も検討すべきです。厚生労働省や地方自治体が提供する労働環境改善のための支援制度を利用することで、企業の負担を軽減できる可能性があります。
まとめ
騒音障害防止のためのガイドラインは、労働者の聴覚を守るための重要な指針です。改定されたガイドラインでは、専任管理者の選任、測定方法の拡充、聴覚保護具の選定基準の明確化など、より実効性の高い対策が求められるようになりました。
職場の騒音対策は、単なる法令遵守の問題ではなく、従業員の健康と安全を守り、生産性向上にもつながる重要な取り組みです。特に騒音性難聴は一度発症すると回復が難しいため、予防が何よりも重要となります。企業の規模や業種に合わせた効果的な対策を計画的に実施していくことが大切です。
ぜひ、騒音対策に適切に取り組むことで、安全で快適な職場環境の実現と企業価値の向上につなげてください。騒音障害防止への積極的な取り組みが、企業と従業員の双方にとって大きなメリットをもたらすでしょう。
関連リンク：「騒音」に関する記事一覧
関連リンク：「体調管理」に関する記事一覧
参考文献
https://sangyoui.m3career.com/service/blog/01022/
