デジタル世界でバーチャル体験ができるVRと合わせて注目されているのが、現実世界にデジタル情報を投影するARです。ARと一口にいっても、技術的な分類をすると複数の種類があり、それぞれの特徴に違いがあります。
今回は、その分類のひとつ「マーカーレスAR」について、基本的な特徴や最新技術の「WEB AR」から、マーカーレスAR/WEB ARを活用したサービス事例を解説します。
マーカーレスARとは?AR技術の分類上どこに位置する?
まず、AR技術を大きくわけると、GPSなどの位置情報と連動して情報を表示するロケーションベース型と、カメラやセンサーが画像や空間を認識して情報を表示するビジョンベース型の2種類が存在します。ビジョンベース型はさらに、マーカーARとマーカーレスARの2種類に分類されます。
ここでいうマーカーとは、端末のカメラに認識させるための決まった形の図形です。たとえば、黒い四角形のマーカーがプリントされたカードをカメラで読み込むと、映像に情報が表示されるといったしくみがマーカーARの特徴となります。
一方で、マーカーレスARは、文字通りマーカーを使用しません。すなわちマーカーレスARとは、撮影している空間をリアルタイムに解析し、物体の形や地形に応じて映像に情報を表示する技術です。
リアルタイムな解析とマッピングが求められるマーカーレスARは、以前は計算コストの高さを理由に実用性が低いとされていました。しかし、PTAMやSmartARをはじめとする技術が確立したことで普及が進んでいます。
マーカーレスARとマーカーARの違い
マーカーレスARとマーカーARの違いは、主に技術の複雑さとAR体験の質の2点にあります。マーカーARは、マーカーのある場所でしかAR体験ができませんが、比較的簡単にARが実現できるのが特徴です。
マーカーレスARは、マーカーというわかりやすい目印がなく、映像の解析に高度な技術が必要となりますが、場所の制限なく高品質のAR体験を提供できるのが特徴となります。
マーカーレスARの種類
マーカーレスARにも種類があり、カメラやセンサーが現実世界の何を認識するかによって2つに分類できます。
空間認識型
空間認識型は、奥行きや大きさ、平面といった現実世界の特徴を認識し、映像内に溶け込むような3Dオブジェクトを表示するタイプです。空間の特徴さえ認識できれば、あらゆる場所に自由にオブジェクトを出現させることができます。
物体認識型
物体認識型は、現実世界のあらゆる立体物を認識し、その物体を映像内で加工するタイプです。たとえば、カメラでかざした商品の説明を映像内に表示したり、スマホで撮影中の人物を自動認識してさまざまな加工を施すといった利用が考えられます。
ARがより身近に!最新技術 マーカーレスWEB ARとは?
ここまでで解説したマーカーレスARは、スマホやタブレットなどのデバイスに専用のアプリケーションを導入することが前提です。しかし最近では、アプリのダウンロードすら不要な技術「マーカーレスWEB AR」が注目されています。一体どんな技術なのでしょうか。
マーカーレスWEB ARとは
マーカーレスWEB ARとは、SafariやGoogle ChromeなどのWEBブラウザでマーカーレスAR体験を可能とする技術です。WEB ARでは、ブラウザを使って専用のページにアクセスし、デバイスのカメラを起動してAR情報を表示します。
現在すでにマーカーレスWEB ARを活用したコンテンツは数多く世に出ており、QRコードの読み取りなどで簡単にサービスを利用できます。
マーカーレスWEB ARのメリット・デメリット
マーカーレスWEB ARは、利用者と開発者の両方にメリットがあります。
まず利用者目線では、専用アプリのダウンロードが不要なため、ダウンロードにかかる手間や通信料、デバイス容量の圧迫といった不便を感じずに済む点が挙げられます。WEBブラウザーは、ほとんどの場合デバイスに最初からインストールされているため、誰でもこのメリットを受けることができます。
次に開発者目線では、専用アプリ開発に伴うiOS10S版とAndroid版の作り分けや、iOS版の場合におけるAppleの審査をスキップできるのが大きな利点です。つまり、専用アプリを開発するより、低コストかつ早いスケジュールで開発が可能となります。
マーカーレスWEB ARのデメリットは、簡潔にいうと「まだ発展途上である」点です。
まず、WEB AR自体が2017年に発展しはじめたため、それ以前に発売されたデバイスの機種やOSのバージョンでは対応していない可能性があります。
また、ブラウザを使用する性質上、ネットワークの通信状況によってAR体験の質に影響が出てしまうため、場合によってはストレスの原因になってしまうかもしれません。マーカーレスWEB ARは、これから伸びていく分野と予想されるため、さらなる普及と課題の改善に期待しましょう。
マーカーレスARを活用した事例 アプリ編
マーカーレスARを活用したスマホ・タブレット専用アプリについて、ふたつの事例をご紹介します。
IKEA PLACE
スウェーデン発祥の家具メーカー「IKEA」が2017年にリリースした「IKEA PLACE」は、スマートフォンをかざすことで、部屋の中に実寸大のデジタル家具を配置できるアプリです。
アプリを使用することで、購入を検討している商品が自分の部屋に合うかどうかを簡単にシミュレーションできます。
Google翻訳のWord Lens
Googleが2017年にリリースした「Word Lens」は、翻訳したい文字にスマートフォンをかざすと、自動的にテキストを検出し、翻訳結果を対象の文字に重ねて表示できるアプリです。
カメラに映った翻訳結果をそのまま読めるため、海外旅行中にレストランのメニューや標識に書いてある内容がわからなくて困った時などに便利です。
マーカーレスARを活用した事例 WEB編
続いて、マーカーレスWEB ARを活用したサービスについて、代表的な事例を3つご紹介します。
Google 動物検索AR
Googleが検索機能に追加した「動物検索AR」とは、ネコやトラなどの動物をGoogleで検索し、検索結果からその動物の3DオブジェクトをAR表示できるサービスです。
現時点で日本語検索にも対応しており、対象は陸上の動物だけではなく、水中・湿地の動物、鳥類などさまざまです。目の前の空間にARで動物を呼び出すことで、大きさを直感的に知ることができます。
シュウウエムラ バーチャルメイク
「バーチャルメイク」は、日本ロレアルの化粧品ブランド「シュウ ウエムラ」が、公式オンラインショップにおいて提供するバーチャルメイクアップ機能です。
この機能では、口紅やファンデーションなどの商品を選択し、自分の顔写真でメイクを試すことができます。AR技術によって写真の顔を認識し、口紅なら口元くちびるに、ファンデーウションなら肌全体にメイクが自動で行われるしくみです。
スターバックス(さくら)
コーヒーチェーンのスターバックスは、商品を購入したレシートのQRコードをスマートフォンで読み込むと、カメラで撮影中の映像内に桜のジオラマが出現する期間限定のARコンテンツを2020年春に提供しました。
誰でも簡単に利用でき、購入した商品を撮るユーザーがより楽しめるような、WEB ARならではのコンテンツといえるでしょう。
マーカーレスARのさらなる発展に期待
AR技術はさまざまな種類があり、なかでも画像や空間を認識するタイプで、かつ認識用の目印(マーカー)がなくてもARコンテンツを提供できるのがマーカーレスARです。
あらゆる場所で使える点や、スマートフォンとWEB ARの相性を考えると、マーカーレスARは今後さらに発展し、普及していくことが予想されます。
今回ご紹介したように、マーカーレスARを活用したサービスやコンテンツはすでに数多くリリースされています。興味のある方は、まずどのような体験ができるのか試してみてはいかがでしょうか。