「中国製造2025」とは?現状と今後の展望は
「中国製造2025」とは、中国政府が自国の製造業を発展させるため、2015年7月に打ち出した経済戦略です。世界各国で技術変革が打ち立てられるなか、中国はどのような戦略を立案し、実行しているのでしょうか。今回は「中国製造2025」の計画内容や、戦略立案にいたった歴史的背景、そして現在の動向や日本をふくめた今後の展望について解説します。
世界の製造業は、AIやIoTなどの次世代情報技術との融合により、大きな変化のなかにあります。
新しい技術変革の動きとしては、ドイツが主導する「インダストリー4.0」に続き、世界各国でさまざまなコンセプトが打ち立てられています。
こうした国際情勢のなか、中国の製造業も大がかりな国家戦略「中国製造2025」を2015年に公表しました。
今回は、「中国製造2025」の計画内容や、戦略立案にいたった歴史的背景、そして現在の動向や日本をふくめた今後の展望について解説します。
「中国製造2025」とは?「製造強国」をめざす中国の戦略
「中国製造2025(Made in China 2025)」とは、中国政府が自国の製造業を発展させるため、2015年7月に打ち出した経済戦略です。
戦略の目標は、次の3つのステップに分けられています。
ステップ1:2025年までに製造強国へ仲間入りを果たす
ステップ2:2035年までに製造強国の中位へ到達する
ステップ3:建国100周年の2049年までに製造強国のリーダー的な地位を確立する
「製造強国」という言葉に明確な定義はありませんが、次のように理解しておくとよいでしょう。
- 主にイノベーションや情報化などが高いレベルでおこなわれている国
- 高品質かつ高効率で付加価値の高い製品を製造できる国
つまり中国は、これまでの量で圧倒する「製造大国」から、質や技術を重視する「製造強国」への転換をねらっているのです。
参考:
平成29年度製造基盤技術実態等調査
「中国製造2025」における9つの重点戦略と10大産業について
「中国製造2025」では、目標達成のために必要な9つの重点戦略を掲げています。
- 国家の製造イノベーション能力の向上
- 情報化と産業化のさらなる融合
- 産業の基礎能力の強化
- 品質・ブランド力の強化
- グリーン製造の全面的推進
- 重点分野における飛躍的発展の実現
- 製造業の構造統制のさらなる推進
- サービス型製造と生産者型サービス業の発展促進
- 製造業の国際化発展レベルの向上
これら戦略のなかでは、とりわけ目標2の「情報化・産業化のさらなる融合」を主軸に置くことが明確にされています。
つまり、ビッグデータやクラウドコンピューティング、IoTなどを活用したスマート製造が強く推進されるということです。
目標6にある「重点分野」は、10大産業として次のように分類されます。
- 次世代情報通信技術「5G」
- 航空・宇宙装備
- 最先端のデジタル制御工作機械・ロボット
- 先端のレール交通装備
- 海洋エンジニアリング装備とハイテク船舶
- 省エネ自動車・次世代自動車
- 電力装備
- 新素材
- 農業機械
- バイオ医療・ハイテク医療設備
各分野で生産する品目ごとには国産比率の目標があり、関連産業に対する金融支援や、基盤技術の向上支援などのさまざまな施策が打ち出されています。
とくに次世代通信規格「5G」で重要となる通信設備の国産比率は、2025年に中国市場で80%、世界市場では40%という高い数値です。
参考:
「中国製造 2025」の公布に関する国務院の通知の全訳
なぜ改革をすすめる?歴史的背景をふくめて解説
「中国製造2025」が推進される理由は、近年の中国が世界の工場としての地位を失いかねない状況下にあるからです。
中国では、これまで製造業・インフラ・不動産などにおける大量の投資が経済成長に大きく貢献してきました。
製造業では、廉価な労働力や外資の積極的な導入で、大規模かつ大量な生産を実現し、国外への輸出を重視するスタンスをとってきたのです。
しかし近年、過剰な生産能力や人件費などの生産コストの上昇などにより、製造業の成長が鈍化していることが指摘されています。
それだけでなく、イノベーションや付加価値の創出では先進国に遅れを取っており、重要技術の国外依存度も高いというのが現状です。
中国におけるIT技術は、ネットショッピングや決済などのサービス産業では発展しているものの、製造業での活用ケースはまだ多いとはいえません。
ITによる製造業の高度化をはじめとして、中国は高い技術力やブランド力を身につけ、「製造強国」として世界へアピールしなければならないのです。
「中国製造2025」の実現には半導体自給率がカギとなる
「中国製造2025」の主軸を担うのは、ITによる製造業の高度化です。
ここでの「IT」に関する品目としては、次のようなものが挙げられます。
- EV(電気自動車)
- スマートフォンなどのウェアラブルデバイス
- 次世代通信規格「5G」の通信機器
- IoTやインフラに必須となるセンサー類
こうした品目の生産には、電子機器や装置の頭脳部分にあたる「半導体*」の存在が欠かせません。
*半導体を用いた電子部品やそれらを集積したICやLSIの総称として定義しています。
現在の中国では、半導体の国内消費量にたいして国内供給量は低く、自給率を改善するのが喫緊の課題です。
事実として、「中国製造2025」には半導体自給率を2020年までに40%、2025年までに70%に引き上げるという計画があります。
参考:
中国半導体産業はサプライチェーン上の脅威か|日本総研
現在の「中国製造2025」にかかわる動向
2021年現在における「中国製造2025」の動向について、3つの観点に分けて解説します。
5大プロジェクトの進捗
「中国製造2025」には、目標や戦略の実現のために5大プロジェクトを推進し、全国に企業モデルケースから都市モデルテストまでを展開しています。
【5大プロジェクト】
- 製造業イノベーションセンター設立
- スマート製造
- 工業基礎力強化
- グリーン製造
- ハイエンド設備イノベーション
なかでも中核にあたるスマート製造については、2015~2018年までの4年間で305件(233社)にのぼるモデル事業が実施されました。
このプロジェクトだけでも、すでに約1千億元(約16兆円)の投資が誘発されています。
また、事業テストの前後を比較して、生産性は37.6%増、製品開発期間は30.8%短縮、製品の不良率は25.6%減、といった効果が確認されたとのことです。
参考:
中国の次世代産業政策の変化 ~「中国製造2025」から「産業インターネット」へ~ : 富士通総研
国外企業との提携状況
既存の中国企業だけで高度な生産技術をただちに手に入れるのは困難です。
そのため中国では、資本提携や企業買収で国外からのリソースを取り込み、「中国製造2025」に向けた活動がおこなわれています。
一例としては、2018年に三菱電機や富士通などの日本企業と中国の政府系研究機関が戦略的パートナーシップを結んだことが挙げられます。
パートナーシップは、日本企業側が最新の製品や技術を提供し、スマート製造への適用を日中が共同で検証するという内容です。
中国は目標達成に向けた技術支援を受け、日本は将来の市場開拓につなげる布石を打てるため、両者にメリットがあります。
参考:
三菱電機 ニュースリリース 中国・機械工業儀器儀表綜合技術経済研究所と戦略的パートナーシップを締結
ファーウェイ(HUAWEI)排除による打撃
「中国製造2025」の重要な担い手として半導体設計をリードしているのは、ファーウェイ(HUAWEI)とZTEの2社として知られています。
しかし、2020年に制裁の一環として、この2社の機器やサービスの購入・利用がアメリカ国内で禁止されました。
これを発端として、イギリスやインド、日本などの各国が、事実上ファーウェイ製品を排除する意向を相次いで示しています。
「5G」を巡る世界のハイテク覇権争いで中国は劣勢となり、「中国製造2025」の計画自体を見直す必要があると指摘されているのです。
日本企業も「中国製造2025」や政府の動向に注目した戦略検討を
「中国製造2025」を中心とした中国製造業の動向は、貿易や海外投資などを通じ、日本や世界経済にも大きな影響を与えるでしょう。
とりわけキーワードとなるのは「半導体の確保」です。今後あらゆる産業がデジタル化する見通しのなか、重要基盤となる半導体は不可欠となります。
アメリカの妨害がありつつも、このまま中国が半導体産業を発展させていけば、日本企業の存在感は薄れていく可能性があります。
また、アメリカや中国から日本の半導体関連メーカー(製造装置や素材など)が誘致されるようになると、国内生産に空洞化が起きかねません。
こうした国際情勢の変化による日本企業の危機を受け、政府は必要な半導体工場の新設と改修を国家事業として主体的に進める方針を示しています。
とくに半導体産業やIT産業にかかわる日本のメーカーは、今後の「中国製造2025」や政府の動向に注視し、戦略検討していくことが必要になるでしょう。
参考:
経済産業省「半導体戦略」