近年の製造業は、「IoT(モノのインターネット)」によって効率化・高度化される過渡期にあります。とりわけIoTが必要とする通信技術に「5G」が注目される場面が多いですが、すべての通信ニーズを5Gが満たすわけではありません。「高コストながら全能」の5Gに対し、「低コストで最低限」という表現が似合う「LPWA」という技術が存在します。
今回は、LPWAの技術概要や製造業との関係、そして実際の導入事例について詳しく解説していきます。
LPWAとは
LPWA(Low Power Wide Area)とは、無線通信を低消費電力かつ広域に利用可能なネットワーク技術です。これらの特徴を総括し、「Low Power Wide Area Network(通称LPWAN)」と呼ぶ場合もあります。基本的にLPWAは旧来から存在していた技術やその拡張によって実現されており、技術的には安定しているといえます。ベンダーやメーカーがさまざまな技術的アプローチで規格化に取り組み、現在では日本国内も含め商用サービスとして利用可能な状況となっています。
LPWAは規格が乱立している
「少ない情報量でkm単位の広範囲に通信できるようにした規格」という定義はあれど、具体的な電力量や帯域の範囲は定義されておらず、LPWAという枠組みに多くの規格が乱立しているのが現状です。
まずLPWAを大きく2つに分けると、携帯電話通信事業者のように「無線局免許」が必要な周波数帯を扱うライセンス系(セルラー系とも)と、免許が不要な周波数帯(900MHzや2.4GHz帯)が対象となるアンライセンス系に分けられます。
日本で多く用いられるのが、「LoRa」・「SIGFOX」・「Wi-SUN」などのアンライセンス系で、各種特徴をまとめると以下のようになります。
名称 | SIGFOX | LoRaWAN | Wi-SUN |
---|---|---|---|
推進団体 | 仏 SIGFOX社 | LoRa Alliance | Wi-SUN Alliance |
利用料金 | 必要 | 不要 | 不要 |
通信距離 | ~50km | ~10km | ~1km |
通信容量 | 1日1680バイト | 秒間数バイト程度 | 秒間50kバイト程度 |
利用料金が必要なSIGFOXでも、デバイス1台あたり年間100円からという破格の安さを誇ります。また、免許不要の帯域を利用するため、アンテナやRF製品も安価に済ませられます。
RFIDとIoTとの関係
LPWAを語る上で関連する「RFID」や「IoT」というワードについて、まずは簡単な概要をおさらいしましょう。
RFID(radio frequency identifier)とは、ID情報を埋め込んだRFタグから、電磁界や電波などを用いた近距離(数cm~数m)の無線通信によって情報をやりとりする技術です。そしてもうひとつ、IoT(Internet of Things)はいまや次世代社会に不可欠とされる、「モノとインターネットを繋げる」ための考え方や実際の技術を指します。
RFIDとLPWAは、IoTを実現するための必要な無線通信の一例です。また、RFIDが送受信できる距離をLPWAで増幅させれば、長距離でもICタグが使えるという発想もあり、2つの技術は密接に関係しています。
製造業におけるLPWA
近年の製造業においては、工場内に無数に存在するFA機器をネットワークにつなげる「IIoT(Industry IoT)」という考え方が普及しています。IIoTは、工場内の機器異常監視や生産情報データの収集・解析・活用など、より高度な産業の構築を実現し、自律型工場「スマートファクトリー」やドイツ主導のデジタル産業革命「インダストリー4.0」には欠かせない要素です。
関連記事:スマートファクトリーとは?メリット・デメリットを事例と一緒に解説
IIoTにおけるLPWAの立ち位置は、センサーやメーターなど、1回あたりのデータ通信量が小規模な代わりに端末が大量に存在する「Massive IoT」という分野です。ほかの無線通信技術として注目される5GやWi-Fiは高速&大容量を追及する一方、多くの電力を必要とします。LPWAは記事冒頭で定義したように、「電波を遠くへ、消費電力は少なく」というニッチな部分を埋め、Massive IoTのニーズに合致するのです。
例えば工場内で稼働している端末から情報を取得する場合、従来の方式は有線LAN(狭域/近距離のネットワーク)を用いてデータの送信を行うのが一般的ですが、配線の敷設にかかる工事費は決して安価ではありません。ここでLPWAを活用できれば、ゲートウェイ(通信の入り口)となる受信機向けの配線工事費はかかりますが、各機器は無線通信を行うために工事費用の削減が可能となります。
LPWAを用いた製造業での事例
実際にLPWAが製造業でどのように導入・運用されているのでしょうか。今回は事例を3つ紹介します。
予知保全支援システム
株式会社ケイ・オプティコム(現オプテージ)は、2018年にLPWA無線技術を利用したIoTソリューションをトータルでサポートすると発表しました。その一環として、製造業向けに工場・プラント設備の予知保全に寄与するセンサー、通信機器、アプリケーションをセットで提供するパッケージが含まれます。
IoTを活用した予兆検出は、稼働率の改善といった数値で効果が可視化しやすく、投資も比較的行いやすい分野のため、低コストで導入できるLPWAとは相性が良いといえます。
参考:「ワンストップIoTソリューションの本格提供開始について|プレスリリース」ケイ・オプティコム
LPWA×RFIDシステムの遠隔管理システム
LPWAに対応したSIGFOX通信用端末を販売するマスプロ電工株式会社は、農工業における温度・湿度管理を主な利用シーンとした上で、RFIDリーダなどの設備異常を遠隔で監視可能なシステムの提案も行っています。
システム例としては、SIGFOX通信端末とRFIDリーダが接続された状態で、リーダに異常が生じると基地局へその情報を無線送信します。そして基地局からインターネットを通じてクラウドアプリケーションへと連携され、異常があった機器をパソコンから確認できるようになります。遠隔地の異常をすばやく確認できるため、システム復旧の対応が迅速に可能です。
SIGFOX通信端末側が各々異なったインターフェイスを備えているために実現可能なシステムともいえます。
かんばん方式の電子化
デンソーエスアイとNTTドコモは、トヨタの誇る画期的な「かんばん方式」を電子化することでさらに効率化し、2018年2月に中京エリアの工場へ導入しました。
かんばん方式を簡単に説明すると、以下の順序を辿ります。
- 使用部品やその調達元の情報などを記載した「かんばん」と呼ばれる伝票にしたがって製造を行う
- 製造後はライン近くのポストに投函する
- 調達部門が「かんばん」に記載された通りに部品を発注する
- 1~3が繰り返されることで在庫量が最適化される
今回は、かんばんを投函するポストを、小型のカードリーダー「電子ポスト」に置き換え、かんばん記載の情報が即時に調達部門に送られる仕組みが構築されました。そして、その際の通信技術にLPWAの一種である「LoRaWAN」が採用されています。
参考:「NTTドコモ、LPWAを活用した工場のIoT化促進でかんばん方式向け無線インフラシステムの実証実験を開始」日本経済新聞
使用場面に応じて適切なLPWAを選択しよう
LPWAは、データ通信量が少ない端末に用いる場合はコスト面で優れた無線通信技術です。一方で、工作機械や産業用ロボットを無線通信で制御するとなると、LPWAではカバーし切れません。データ通信の規模が大きい場合は、LTEやWi-fFi、今後普及する5Gなどの通信技術が必要です。
関連記事:5Gが製造業をどう変えるのか?メリットや業界の動向も解説
製造業に無線通信を導入する場合、通信可能エリア(カバレッジ)や電力と通信速度のバランス、構築・運用コストと収益のバランスを考慮し、適切な通信手段を選択するようにしましょう。