製造業において、商品を製造・販売するのは自社製品を持つ企業だけではありません。他社から技術やブランドを借り受けて、製造・販売を行うビジネスモデルも存在し、「ライセンス生産」はその一例です。今回は、ライセンス生産の基本情報や「OEM」「ノックダウン方式」などの類似する方式との違い、またライセンス生産の事例をご紹介します。
ライセンス生産とは?メリットは?
ライセンス生産とは、製品を開発・製造している企業が持つ知的財産権を、別の企業がライセンス契約を結ぶことで、同じ仕様の製品を生産する方式です。ここでの知的財産権とは、「製造に必要な技術・ノウハウ」や「ブランド・商標」のことで、使用許可を得るためには「ライセンス料・ロイヤリティ」や「技術・ブランドの使用料」を支払う必要があります。
ライセンス生産のメリット
ライセンス契約においては、一般的に許可を与える側を「ライセンサー」、与えられる側を「ライセンシー」と呼びます。ライセンス生産のメリットは、ライセンサーとライセンシーで異なるため、それぞれの立場から紹介します。
ライセンサー側のメリット
ライセンサーは、自ら生産せずに許可料を収益として得られるため、工場などの設備費や人件費などのコストがかかりません。また、アパレルや食品・飲料品などの消費者向け製品は特に、海外企業へライセンスを与えることで、自社ブランドを効果的に拡散する効果も期待できます。
ライセンシー側のメリット
ライセンシーは、他企業の製品を生産する過程で、ライセンサー側の技術やノウハウの獲得が見込めます。
ライセンス契約における注意点
ライセンス契約は、知的財産権の利用許可に関係するので、両者が契約内容を正確に取り決めておかなければ、法的なトラブルが発生しかねません。主に注意すべき点は以下の通りです。
- ライセンス対象の特定
- ライセンス利用可能範囲の特定
- 双方が納得のいくライセンス料の規定
- 侵害排除義務(※)の明確化
契約書に上記に関する要項について明記しておくことで、紛争を予防できます。
OEMやノックダウン方式との違い
自社製品を他社が製造するタイプの生産方式は、ライセンス生産だけではありません。今回は代表例として「OEM」と「ノックダウン方式」についてライセンス生産との相違点を解説します。
OEMとの違い
OEMとは、「Original Equipment Manufacturer」の略語で、製造メーカーが他社ブランドの製品を製造・販売する方式です。業務委託契約のひとつであり、委託者と受託者の2者が存在します。
OEM契約は、以下の2ケースに大別可能です。
- 委託者が受託者に仕様書、図面、サンプル、金型などを貸与し、それに従って受託者が製造する
- すでに受託者が製造・販売している製品に対し、何の変更も加えずに、委託者が自社の商標・ロゴを付与して販売する
前者は、「開発⇒設計⇒製造」の流れを2社で分業するイメージです。受託者は製造するだけの役割で、完成品のブランドは委託者に帰属し、販売も委託者が行います。一方で後者は、受託者の技術力と委託者のブランドを、互いに補完するように利益を生み出すビジネスモデルです。完成品のブランドが委託者に帰属するのは前者同様ですが、こちらは受託者が製造した製品のブランドが、委託者のブランドへと転換されるイメージです。
一方、ライセンス生産の場合は、ライセンサーの提供する知的財産権をもとにライセンシーが製造し、見かけ上はあくまでライセンサーが持つブランドのコピーとして販売を行います。
参考:「OEM契約とライセンス契約の違い:日本 | 貿易・投資相談Q&A – 国・地域別に見る」ジェトロ
ノックダウン方式との違い
ノックダウン方式とは、全ての部品、もしくは、主要部品を海外(製品を生産・販売している国の企業)から輸入し、現地で組み立てる生産方式です。
完成品を現地へ輸出すると、関税などの関係で輸送コストが高くなる、また、損傷品が発生した場合には損失費が上乗せされるなどのリスクが考えられます。そこで、一般的に労働賃金が安い新興国(いわゆる「現地」)へ、輸送コストの低い部品の状態で移送して組み立てることで、完成品のコスト削減を図るのです。
ノックダウン方式には、自社製品を持つメーカーが進出して現地工場を用意する場合と、現地の他メーカーと提携して製品を完成させる場合があります。後者は、他社に自社製品を製造させる点ではライセンス生産と同様です。ただし、製造側が期待する生産技術の獲得については、個々の部品に関する設計・製造の技術まで習得するのが難しいいため、ライセンス生産に軍配が上がると言えるでしょう。
参考:「ノックダウン方式|用語集|物流事例・お役立ち情報」大和物流株式会社
ライセンス生産の事例
ライセンス生産が行われている業界は多岐にわたります。今回は「航空機」「飲料品」の2つの事例をご紹介します。
【航空機】米ボーイングと三菱重工(F15-J戦闘機)
ライセンス生産の例として有名なのが、現在も日本の航空自衛隊が主力戦闘機として運用する「F-15J戦闘機」です。元機体は、米ボーイング社が制空戦闘機「F-15(現在はF-15Cイーグル)」として製造しています。
F-15Jを日本に導入した当時は、完成品輸入やノックダウン方式によって生産されていましたが、現在は三菱重工がライセンスを取得し、国産化に成功しています。
【飲料品】ハイネケンとキリンビール
ビールブランド「ハイネケン」は、日本国内でもよく見かけますが、元はオランダのビール醸造会社が製造・販売する商品です。しかし、現在国内で販売されているハイネケンは、キリンビールがライセンスを取得して生産・販売しています。
ハイネケンが公式スポンサーを務めた2019年ラグビーW杯日本大会では、ハイネケンの9~10月における販売数が前年の1.5倍以上に及び、大きな効果を生み出しました。ライセンサーであるハイネケンにとっては大規模な宣伝効果が得られ、ライセンシーであるキリンビールは売上を大きく伸ばすことができたのです。
参考:「ハイネケン」製造工程紹介 キリン横浜工場 ラグビーW杯で販売- 特集:ラグビーワールドカップ 2019 日本大会」読売新聞
参考:「ラグビーファンはやっぱりビール好き : 9~10月のハイネケンは282%」nippon.com
ライセンス生産はWin-Winの関係が理想
ライセンス生産は今回紹介した事例のように、ブランド拡散を狙うライセンサーと、技術力や販売力向上を狙うライセンシーの利害が一致すれば、市場に大きな利益が生まれる可能性があります。互いのメリットや契約内容を明確にした上で、Win-Winの関係を継続させたライセンス生産を行うことが望ましいと言えるでしょう。