目次
関連リンク：「食品工場」に関する記事一覧
関連リンク：「品質管理」に関する記事一覧
ISO22000の基本
ISO22000は、食品安全を体系的に管理するための国際規格です。食品業界で働く方はもちろん、日々の食品選びに関心を持つ消費者の方にとっても、知っておくと役立つ知識となります。まずは、この規格が何を目指しているのか、どのような構造になっているのかを見ていきましょう。
ISO22000とは何か
ISO22000は、国際標準化機構（ISO）が制定した食品安全マネジメントシステムの国際規格です。食品の製造、加工、流通、販売、調理、提供に至るまでのすべての段階で、食品安全に関するリスクを体系的に管理するための仕組みを定めています。この規格は2005年に初版が発行され、2018年には最新版であるISO22000:2018が公開されました。
この規格の特徴は、食品安全に関わるあらゆる組織に適用できる点にあります。大手食品メーカーだけでなく、レストランや学校給食、さらには食品の包装材を製造する会社や物流業者まで、食品に関わるすべての事業者が対象となります。つまり、食品が消費者の口に入るまでの「フードチェーン」全体をカバーする包括的な規格なのです。
ISO22000は、品質マネジメントシステムのISO9001と同じ構造を採用しているため、すでにISO9001を取得している企業は統合して管理しやすいというメリットもあります。これにより、品質管理と食品安全管理を一体的に運用できるのです。
3つの主要な構成要素
ISO22000は、大きく分けて3つの要素で構成されています。この3つの要素が組み合わさることで、効果的な食品安全管理が実現できるのです。
第一の要素は「マネジメントシステム」です。これは、経営層のリーダーシップのもと、食品安全に関する方針や目標を定め、計画を立てて実行し、その結果を評価して改善していくという、PDCAサイクルを回す仕組みです。経営者が積極的に関与することで、組織全体で食品安全に取り組む体制が整います。
第二の要素は「前提条件プログラム（PRP）」です。これは、食品安全の基礎となる衛生管理の基準を指します。具体的には、施設や設備の衛生管理、清掃や消毒の手順、害虫駆除、従業員の衛生教育、原材料の管理、製品のトレーサビリティなどが含まれます。PRPは、後述するHACCPを効果的に機能させるための土台となる重要な要素です。
関連リンク：HACCPの前提条件プログラム（PRPs）とは？運用課題と改善のヒントを事例で紹介
第三の要素は「HACCP（ハサップ）」です。HACCPは、製造工程のどこで食品安全上の危害が発生しやすいかを分析し、その危害を防止するための重要な管理点を定めて監視する手法です。7つの原則に基づいて運用され、科学的根拠に基づいた食品安全管理を可能にします。
関連リンク：【再入門】HACCP運用のつまずきポイントと改善事例｜食品衛生管理の継続的な取り組みとは
10章から成る規格の構造
ISO22000の要求事項は、10の章で体系的に整理されています。この構造は、他のISOマネジメントシステム規格と共通の「高次構造（HLS）」と呼ばれる形式を採用しており、複数のISO規格を統合して運用しやすくなっています。
序文から始まり、第1章では規格の適用範囲が示されます。第2章では引用規格、第3章では用語の定義が記載されています。第4章「組織の状況」では、自社を取り巻く内外の環境や関係者のニーズを理解することが求められます。第5章「リーダーシップ」では、経営トップが食品安全方針を定め、組織全体に浸透させる責任が明示されています。
第6章「計画」では、食品安全目標の設定やリスクへの対応計画を立てます。第7章「支援」では、必要な人材や設備、教育訓練、文書管理などの支援体制について規定しています。第8章「運用」では、実際にPRPやHACCPを実施し、緊急事態への対応手順を定めます。第9章「パフォーマンス評価」では、内部監査や管理レビューを通じて、システムが適切に機能しているかを確認します。最後の第10章「改善」では、不適合が見つかった場合の是正措置や、継続的な改善の取り組みについて述べられています。
ISO22000と他の規格との違い
食品安全に関する規格や認証制度は、ISO22000以外にも複数存在します。それぞれの特徴を理解し、自社や関心のある分野に最も適した規格を選ぶことが重要です。ここでは、代表的な規格との比較を通じて、ISO22000の独自性を明らかにしていきます。
HACCPとの違い
HACCPとISO22000は、しばしば混同されることがありますが、その性質は大きく異なります。HACCPは、製造工程における危害を分析し、重要管理点を定めて監視するという「手法」です。一方、ISO22000は、HACCPを含みながらも、組織全体のマネジメントシステムとして機能する「包括的な規格」なのです。
HACCPの7原則には、危害分析、重要管理点の決定、管理基準の設定、モニタリング方法の確立、是正措置の設定、検証手順の設定、記録と文書化の手順の確立が含まれます。ISO22000では、このHACCPの原則に加えて、経営層の関与、内部監査、管理レビュー、継続的改善といったマネジメントシステムの要素が組み込まれています。これにより、現場レベルの衛生管理だけでなく、経営戦略として食品安全に取り組む体制が整うのです。
日本では、食品衛生法によりHACCPに沿った衛生管理が義務化されていますが、これは基本的な衛生管理を求めるものです。ISO22000は、この法的義務を満たすだけでなく、さらに高度な食品安全管理を目指す企業のための規格と言えます。
FSSC22000との関係
FSSC22000は、ISO22000を基盤として構築された認証スキームです。ISO22000がマネジメントシステムの「規格」であるのに対し、FSSC22000は具体的な「認証プログラム」として機能します。FSSC22000は、GFSI（世界食品安全イニシアチブ）に承認されており、グローバルなサプライチェーンで高く評価されています。
FSSC22000は、ISO22000の要求事項に加えて、ISO/TS 22002シリーズという前提条件プログラムの技術仕様書と、独自の追加要求事項を含んでいます。追加要求事項には、食品防御、食品偽装対策、アレルゲン管理の強化、サプライヤー管理などが含まれます。これらは、近年の食品業界が直面する新たなリスクに対応するために設けられたものです。
したがって、ISO22000が食品安全マネジメントの基本的な枠組みを提供するのに対し、FSSC22000はより実務的で詳細な要求事項を含む、より厳格な認証制度と位置づけられます。大手食品メーカーや国際的な取引を行う企業では、FSSC22000の取得を求められることが多くなっています。
ISO9001との比較
ISO9001は、品質マネジメントシステムの国際規格です。製品やサービスの品質を継続的に向上させ、顧客満足を高めることを目的としています。一方、ISO22000は食品安全に特化した規格であり、食品の安全性確保を最優先の目的としています。
両規格とも、高次構造（HLS）を採用しているため、構造は非常に似ています。このため、ISO9001とISO22000を統合して運用することが可能であり、実際に多くの企業が統合マネジメントシステムとして運用しています。品質と食品安全の両面から製品を管理することで、より高いレベルの顧客信頼を獲得できるのです。
ただし、ISO9001では顧客の要求事項を満たすことが重視されるのに対し、ISO22000では法規制や科学的根拠に基づいた食品安全要件を満たすことが最優先されます。つまり、ISO9001は「顧客が求める品質」、ISO22000は「安全な食品」を保証するための規格と言えるでしょう。
国内規格JFS-Cとの違い
JFS-Cは、一般財団法人食品安全マネジメント協会が運営する日本独自の食品安全マネジメント規格です。ISO22000と同様に、FSM（食品安全マネジメント）、HACCP、GMP（適正製造規範）の3つの要素で構成されています。
JFS-Cの最大の特徴は、日本の食品衛生法や関連法規との整合性が高く、日本国内の食品事業者が取り組みやすい点です。また、中小企業向けの支援プログラムが充実しており、認証取得のハードルが比較的低いとされています。一方で、国際的な認知度ではISO22000やFSSC22000に及ばないため、輸出を視野に入れる企業にとっては選択肢として慎重な検討が必要です。
国内市場を主なターゲットとする中小食品企業にとっては、JFS-Cは実務的で取り組みやすい選択肢となります。一方、グローバル展開を目指す企業や大手取引先から国際規格の取得を求められる企業には、ISO22000やFSSC22000が適していると言えるでしょう。
ISO22000認証取得のメリットと課題
ISO22000の認証を取得することには、多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。企業にとっては、投資に見合う効果が得られるかを慎重に検討する必要がありますし、消費者にとっては認証の意味を正しく理解することが大切です。
認証取得のメリット
ISO22000認証を取得する最大のメリットは、食品安全管理体制が国際的に認められた水準に達していることを対外的に証明できる点です。これにより、取引先や消費者からの信頼が大きく向上します。特に、大手スーパーマーケットや外食チェーンとの取引では、ISO22000やFSSC22000の認証が取引条件となっているケースも多く、ビジネスチャンスの拡大につながります。
また、内部的なメリットも見逃せません。認証取得のプロセスを通じて、組織全体で食品安全に対する意識が高まります。従業員一人ひとりが自分の役割を理解し、責任を持って業務に取り組むようになるため、組織文化の向上にも寄与します。さらに、定期的な内部監査や管理レビューを実施することで、問題点を早期に発見し、継続的な改善が可能になります。
国際市場への展開を考える企業にとっても、ISO22000は強力な武器となります。海外の取引先に対して、自社の食品安全管理レベルを客観的に示すことができるため、輸出取引の交渉がスムーズに進むことが期待できます。実際に、ISO22000認証取得後、海外市場への展開に成功し、売上を大きく伸ばした企業の事例も多数報告されています。
認証取得と維持の課題
一方で、ISO22000の認証取得には、相応のコストと労力が必要です。コンサルタントの支援を受ける場合、その費用は数百万円規模になることもあります。また、認証機関による審査費用や、認証取得後の定期的なサーベイランス審査の費用も継続的に発生します。特に中小企業にとっては、これらのコスト負担が大きな課題となります。
さらに、文書作成や記録管理の負担も無視できません。ISO22000では、食品安全方針、手順書、作業指示書、記録など、多くの文書を整備し、適切に管理することが求められます。これらの文書を作成し、更新し続けるためには、専任の担当者が必要になることもあります。現場の作業員にとっても、これまで以上に詳細な記録を残す必要があるため、業務負担が増加する可能性があります。
また、認証取得が目的化してしまい、実際の食品安全管理がおろそかになるリスクも指摘されています。文書は完璧に整備されているものの、現場での実践が伴わない場合、認証審査で重大な不適合が発覚し、認証の取り消しや一時停止といった事態に陥ることもあります。形式的な対応に終始せず、実質的な食品安全管理を実践することが何より重要です。
ISO22000認証取得の流れと準備
ISO22000の認証を取得するには、計画的な準備と段階的な取り組みが必要です。ここでは、認証取得までの一般的なプロセスと、各段階で必要となる準備について詳しく説明していきます。
認証取得までのステップ
ISO22000認証取得までのプロセスは、一般的に以下のステップで進みます。まず、経営層が認証取得の意思決定を行い、プロジェクトチームを編成します。チームには、各部門の代表者を含めることで、組織全体での取り組みを促進します。次に、現状の食品安全管理体制を分析し、ISO22000の要求事項とのギャップを明確にします。
ギャップ分析の結果を基に、必要な改善計画を立てます。この段階で、コンサルタントの支援を受けるかどうかを検討することもあります。コンサルタントは、認証取得の経験が豊富で、効率的に準備を進めるためのノウハウを提供してくれます。ただし、コストがかかるため、自社のリソースと照らし合わせて判断する必要があります。
計画に沿って、食品安全マネジメントシステムの構築を進めます。具体的には、食品安全方針の策定、食品安全目標の設定、PRPとHACCPプランの作成、必要な手順書や作業指示書の整備、記録様式の作成などを行います。これらの文書は、現場で実際に使いやすい形にすることが重要です。
システムが整ったら、試験運用を開始します。数か月間、実際に運用してみて、問題点や改善の余地がないかを確認します。この期間中に、従業員への教育訓練も実施し、全員がシステムを理解し、実践できるようにします。内部監査を実施して、システムが適切に機能しているかをチェックし、必要に応じて修正を加えます。
十分な準備が整ったら、認証機関に審査を申し込みます。審査は通常、第一段階審査（文書審査）と第二段階審査（現地審査）の二段階で行われます。第一段階審査では、文書がISO22000の要求事項を満たしているかを確認します。第二段階審査では、実際に現場を訪問し、文書通りに運用されているかを審査します。審査で不適合が指摘された場合は、是正措置を講じて再審査を受けます。すべての要求事項を満たしていると判断されれば、認証が授与されます。
必要な文書と記録の準備
ISO22000では、多くの文書と記録の整備が求められます。主な文書には、食品安全方針、組織図、食品安全チームの役割と責任、食品安全目標、フローダイアグラム（工程図）、ハザード分析表、HACCP計画、PRP手順書、緊急事態対応手順、内部監査手順、管理レビュー手順などがあります。
これらの文書は、単に要求事項を満たすためだけでなく、実際の業務に役立つものでなければなりません。現場の従業員が理解しやすく、実践しやすい内容にすることで、システムが形骸化せず、実効性のある食品安全管理が実現します。文書作成の際は、現場の意見を積極的に取り入れることが成功の鍵となります。
記録については、CCPの監視記録、PRPの実施記録、是正措置の記録、内部監査の記録、管理レビューの記録、従業員教育訓練の記録、原材料の受入検査記録、製品の出荷検査記録などが必要です。これらの記録は、食品安全管理が適切に行われていることを証明する重要な証拠となります。記録は正確に、かつタイムリーに作成し、適切に保管することが求められます。
従業員教育と意識向上
ISO22000の成功には、従業員全員の理解と協力が不可欠です。特に、現場で直接食品を扱う作業員の意識と技能が、食品安全管理の質を左右します。そのため、認証取得の準備段階から、計画的な教育訓練を実施することが重要です。
教育内容としては、まず食品安全の基本的な考え方、ISO22000の概要、PRPとHACCPの原則などの基礎知識を全員に周知するとよいでしょう。その上で、各自の役割に応じた具体的な手順を学ぶ実務教育を行います。例えば、製造ラインの作業員には、CCPの監視方法や記録の付け方を詳しく教育しましょう。
教育は一度だけでなく、定期的に実施することが大切です。新入社員への導入教育はもちろん、既存の従業員に対しても、年に一度は復習の機会を設けるとよいでしょう。また、教育の効果を確認するため、理解度テストや実技試験を実施し、必要に応じて追加教育を行います。教育訓練の記録は必ず残し、誰がいつどのような教育を受けたかを把握できるようにしておきましょう。
認証取得後の維持と継続的改善
ISO22000の認証を取得することは、ゴールではなく、むしろスタートです。認証を維持し、さらに食品安全管理のレベルを向上させていくためには、日々の運用と継続的な改善が欠かせません。
定期審査とサーベイランス
ISO22000の認証は、通常3年間有効です。しかし、その間も認証機関による定期的なサーベイランス審査が行われます。一般的には、年に一度または二度、現地審査が実施され、システムが適切に維持されているかを確認されます。サーベイランス審査では、前回の審査以降の改善状況や、不適合が再発していないかなどがチェックされます。
3年ごとに、更新審査が行われます。更新審査は、初回の認証審査と同程度の詳細さで実施され、システム全体が引き続きISO22000の要求事項を満たしているかを総合的に評価されます。更新審査に合格すれば、さらに3年間認証が継続されます。
これらの審査に備えるためには、日常的に記録を正確に作成し、保管しておくことが重要です。また、内部監査を定期的に実施し、問題点を事前に発見して是正しておくことで、外部審査をスムーズに通過できます。審査を単なる「チェック」と考えるのではなく、改善のための貴重なフィードバックの機会と捉えることが大切です。
内部監査と管理レビュー
ISO22000では、組織自らが定期的に内部監査を実施することが求められます。内部監査は、システムが計画通りに運用されているか、要求事項を満たしているかを確認するためのものです。監査員は、監査対象部門から独立した立場の人が務めることが推奨されます。つまり、自分の部門を自分で監査するのではなく、他部門の担当者が監査を行うことで、客観性が保たれます。
内部監査の結果は、管理レビューで経営層に報告されます。管理レビューは、経営トップが主宰する会議で、食品安全マネジメントシステムの全体的なパフォーマンスを評価し、今後の方向性を決定する重要な場です。管理レビューでは、内部監査の結果、顧客からのフィードバック、食品安全目標の達成状況、是正措置の実施状況、外部審査の結果などが検討され、必要な改善策が決定されます。
管理レビューは、単なる報告会ではなく、経営層がリーダーシップを発揮し、組織全体の食品安全管理を向上させるための意思決定の場です。経営層が積極的に関与し、必要な資源を配分することで、システムの継続的な改善が実現します。
継続的改善の実践
ISO22000の最も重要な要素の一つが、継続的改善です。これは、現状に満足することなく、常により良い食品安全管理を目指す姿勢を意味します。継続的改善を実践するためには、PDCAサイクルを確実に回すことが基本となります。
計画では、現状の分析とリスクの評価を行い、改善目標を設定します。実施では、計画に沿って改善活動を実行し、確認では、内部監査や日常の監視を通じて、改善の効果を測定します。処置では、結果を評価し、さらなる改善策を検討して次のサイクルにつなげます。
具体的な改善活動としては、新しい衛生管理技術の導入、設備の更新、作業手順の見直し、従業員のスキル向上、サプライヤーとのコミュニケーション強化などが考えられます。また、ヒヤリハット事例や顧客からのクレーム情報を積極的に収集し、予防措置に活かすことも有効です。
改善活動は、大がかりなものだけでなく、小さな改善の積み重ねも重要です。現場の従業員一人ひとりが、日々の業務の中で気づいた改善点を提案し、実践できる文化を育てることが、組織全体の食品安全レベルを底上げすることにつながります。
まとめ
ISO22000は、食品の製造から消費者の手に届くまでのすべての過程で、安全性を確保するための国際的な規格です。HACCPの手法を基盤としながら、組織全体のマネジメントシステムとして機能し、継続的な改善を実現する仕組みが整っています。認証を取得することで、企業は国際的な信頼を得られ、ビジネスチャンスの拡大や組織文化の向上といった多くのメリットを享受できます。
デジタル技術の進化やサステナビリティへの関心の高まりにより、ISO22000の役割も今後さらに拡大していくでしょう。食品業界に関わるすべての人々が、ISO22000の意義を理解し、食品安全の向上に貢献することで、より安心で豊かな食生活が実現されるでしょう。
関連リンク：「食品工場」に関する記事一覧
関連リンク：「品質管理」に関する記事一覧
