IoTやAI、DXなど、「ビジネスをデジタル技術で変革させる」という概念が、コロナ禍以降大きな広がりを見せています。とりわけ製造業においては、製造拠点の自動化により生産性向上を図るFA(ファクトリーオートメーション)の波もあり、その影響は無視できません。
AIを用いた画像解析もその1つで、異常箇所の早期検出や精密部品の測定など導入の目的を定めやすく、製造現場を大きく変える可能性を秘めた技術です。本記事では、画像解析技術の概要や活用法、メリットを踏まえつつ、大小さまざまな製造業の導入事例を紹介します。
製造業における画像解析・画像認識技術の主な活用法
従来の画像処理システムやセンサーを始めとした画像解析技術は精密性に欠けるため、あくまで作業員の補助的な役割に使われてきました。
しかし近年ではAIの搭載をはじめとした技術の向上によって、画像認識技術のレベルが飛躍的に向上しました。すでに補助機器ではなく、自動機器として業務を任せられる水準だと言っても過言ではないでしょう。
具体的には、製造プロセスにおいて以下を中心とした役割を担うことができます。
- 物体や製造物の測定・分析
- 検査・異常検知
- 在庫や設備の管理
- 環境・状況把握
物体や製造物の測定・分析
画像解析により、物体の外観からわかる特徴にもとづく詳細なデータを得ることが可能です。単純なサイズの測定はもちろん、表面画像から素材や原材料、その特性を判別し品質改善に活かすといった役割が期待できます。
測定・分析において、近年製造業で特に注目を集めているのが「3Dスキャン技術」です。物体を平面で捉える従来の画像処理システムと違い、3Dスキャンでは対象を立体として認識し、形状や材質をより精密に測定します。
複雑な形状の物体でも高速かつ精密に測定・分析できるため、製造業に限らず医療や建設の現場での活用も期待されている役割です。
検査・異常検知
製造品・作業機器の検査や異常検知も、画像処理システムが得意とする業務のひとつです。たとえばAIを用いた画像認識システムにより、無数の製品画像からサイズや規格に沿わない規格外品、不良品をピックアップすることができます。
また製造物だけでなく、製造設備や測定機器をモニタリングし異常を検知するといった、設備管理への活用も可能です。これによりダウンタイムの軽減や不具合の前兆のキャッチ、管理コストの削減などさまざまなメリットが期待できます。
IoT技術との組み合わせにより生産ラインの稼働状況を一元管理することで、拠点全体の生産性をより改善できるでしょう。
在庫や設備の管理
在庫状況は本来、仕入れ・出荷・歩留まりを正しく管理することで自ずと把握できますが、システムエラーや人的ミスによる実数値との乖離が避けられません。そのため、人の目による確認や棚卸など地道で負担の大きい作業が必要不可欠となっています。在庫管理業務に負担を感じている、あるいは苦手意識を抱いている従業員も少なくないでしょう。
そんな在庫管理も、画像解析や画像認識AIなどデジタルテクノロジーで自動化できる業務です。たとえば在庫状況をカメラに映してAIに在庫状況別の画像を学習させることで、在庫が少なくなった状態を自動で判別するなど、リアルタイムでの在庫把握をより短時間、低コスト、高精度で実現できます。
勤務状況の把握と危険予知
多くの従業員が勤務し、さまざまな設備が稼働する製造拠点は危険と隣り合わせです。労働災害防止において重要となる安全管理業務も画像解析・認識技術により自動化できます。
たとえば監視カメラにIoTやAIなど画像認識システムを搭載することで、作業員、製造機器、モニターに映る周辺環境をリアルタイムに把握し、事故が起こりかねない「イレギュラーな状況」を自動で通知するといった仕組みを構築することができます。
画像解析・画像認識を活用するメリット
製造拠点での画像解析・認識システムの導入には、さまざまなメリットが存在します。生産ラインの効率や作業環境で課題を抱えている場合、画像処理システムの導入で課題を解決できるかもしれません。
コスト削減・人的負担の軽減
検査を中心とした人の目による確認作業は、シンプルながら多くの人出が必要となる工程で、1ラインに5人以上の人員を割くケースも珍しくありません。
しかし画像解析・認識システムを導入すれば、必要人員を削減する、ひいては検査を完全自動化できる場合があります。3Dスキャナや光電センサー、AIを適切に活用することで、人の目以上に高い精度で検査できるでしょう。
また、検査作業は集中を強いられる、目を酷使するなど肉体的な負担も大きい工程です。人的負担のかかりやすい工程を画像処理システムに代用させることで、人件費やスタッフの負担を大きく軽減することができます。
品質の向上
人の目で原料や製造物をチェックする場合、不具合を見逃してしまうリスクがあります。また、人によって判断基準は微妙に異なるため、たとえ検査基準を定めたとしてもチェック者による品質のばらつきが避けられません。
画像解析・認識システムにより機械的に判断をすることで、不良品の混入やチェック漏れを防止し、品質の向上や均一化が期待できます。
製造拠点全体の環境改善
画像認識技術を用いることで、製造拠点の環境やリスクをリアルタイムかつ俯瞰的にチェックすることができます。特に規模の大きい拠点ほど管理業務にかかる負担や監視に必要な人員が多いため、管理体制の自動化や一元化は多くの現場で求められている技術です。
IoTやAIを搭載した監視カメラや製造機器の異常動作を検知するセンサーカメラなど、画像処理システムから送信される客観的なデータをもとに、製造拠点の環境改善に取り組めることも大きなメリットと言えるでしょう。
製造業で画像解析を導入している企業の事例
実際に製造業において画像解析・認識技術を活用し、さまざまな課題解決を実現した事例を7つご紹介します。
①キユーピー株式会社
キューピー株式会社は従業員の検査作業の負担軽減を目的として、2019年1月から惣菜に使うカット野菜の原料検査装置にAIを用いた画像解析システムを導入しました。
この原料検査装置は、カット野菜の良品をAIに学習させ、良品と判別したもの以外を全て不良品として検出するのが特徴です。また、ボタン1つで操作できるようシンプルかつコンパクトな設計になっており、機械慣れしていない従業員でも操作できるようにしています。
参考:AIを活用した原料検査装置をグループに展開 | ニュースリリース | キユーピー
②日立建機株式会社
株式会社日立製作所の関連会社である日立建機株式会社は、建設機械の製造における安全性と生産性向上を目的に、AI画像認識技術を活用した不適切姿勢の検知システムを導入しました。
この検知システムでは、作業員が前屈やそんきょなど体に高負荷な姿勢をとった際にアラートをカメラに表示。その後データを収集してレポートとして現場で共有し現場の安全意識の改善に役立てています。
参考:一般社団法人日本経済団体連合会-最新技術を活用した 労災防止対策事例集 p.10-11
③出光興産株式会社
出光興産株式会社は2020年2月、国内28拠点の油槽所在庫の適正化を目的として、AI型の在庫管理システムの利用を開始しました。
本システムは油槽所や外部のデータからシステムが出荷数量を予測し、ガソリンの需要と油槽所の在庫の誤差を適正化する仕組みです。この在庫システムによって同社は、2週間分のガソリンの出荷実績と予測の誤差を5%程度まで縮めることに成功しています。
参考:AI技術を活用した石油製品の在庫管理を開始、国内28拠点の油槽所で:製造IT導入事例
④JFEスチール株式会社
JFEスチール株式会社は鉄鋼の生産を一貫して担う企業です。その中でも鋼管製造を専門とする知多製造所では、2018年より従業員の安全性向上を目的として、AIによる画像認識を搭載した監視システムの活用に取り組んでいます。
本監視システムでは、特定のエリアに人が侵入した場合や保護具の着用忘れをカメラが検知し、警告する仕組みになっています。
参考:【特集2】AI活用による安全衛生管理 画像認識で安全行動を見守る 保護具の着装判定して注意喚起へ/JFEスチール知多製造所|安全スタッフ 特集|労働新聞社
⑤GEヘルスケア
医療機器メーカーのGEヘルスケア東京日野工場では、製造ライン効率化の一環として、品質検査オペレーションのモニタリングシステムを導入しました。
本システムは検査作業の始まりから終わりまでにかかる時間を点で表すボックスプロット形式で表示し、作業員毎の所用時間のバラつきを計測します。これにより従来の人の目ではわからなかった改善点が見える化し、製造時間のさらなる短縮に成功しました。
参考:工場デジタル化”の実際を大公開!――「カイゼンを倍速に」 GEヘルスケア日野工場 | GE Reports Japan
⑥株式会社ヨシズミプレス
株式会社ヨシズミプレスでは、自社で製造するレーザーダイオード部品の検査作業に、AIを用いた画像認識システムを導入しました。
本システムにより従来なら目視検査で10日間かかっていた作業時間がおよそ40%減少、従業員の作業負担を大幅に減らすことに成功しています。
⑦栄電子工業株式会社
プリント配線基板の各種表面処理を主な事業とする栄電子工業株式会社では、金めっきにおける不具合の流出を課題として抱えていました。そこで同社では製造品の外観検査を目視からAIの画像認識システムに移行し、作業の自動化を図っています。
また、画像認識システムは外注せず、個人で買える撮影ボックスやカメラを使用し、実施コストを抑えているのも特徴です。
政府や地方自治体でも事例が紹介されている
中小企業を中心とした製造業のAI導入事例は、政府や地方自治体・各種関連団体においても多数紹介されています。事例としての参考はもとより、補助金を活用した事例も掲載されています。
参考:一般社団法人日本経済団体連合会-最新技術を活用した 労災防止対策事例集
製造業の画像認識は低予算でも構築できる
製造技術の水準が上がった現代では、画像解析・認識技術が生産ラインの効率化や自動化に重要な役割を果たします。導入には大きな費用がかかると思われがちですが、画像認識システムの構築自体は、必ずしも高額な費用がかかるとは限りません。
画像認識システムを導入した企業の中には、個人で買えるような機器だけで生産効率をアップさせた企業も多数見られます。予算を大きく割けない中小企業にこそ、画像認識システムは有用です。「従業員の負担を増やさず生産性を高めたい。でも予算は限られている。」そんな悩みを持つ方は、ぜひ画像認識技術を導入してみてはいかがでしょうか。