目次
WBGT(暑さ指数)の基本的な理解
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症予防のために世界的に用いられている指標です。日本語では「暑さ指数」とも呼ばれ、人体が受ける熱ストレスを総合的に評価します。
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WBGTが考慮する3つの要素
WBGTは以下の3つの温度要素を組み合わせて算出されます。
1. 湿球温度:湿度と風速の影響を反映
2. 黒球温度:ふく射熱(直射日光や照り返しなど)の影響を反映
3. 乾球温度:通常の気温(日陰の気温)
これらの要素を考慮することで、実際に人体が感じる暑さをより正確に表現できるのです。同じ気温でも、湿度が高かったり、直射日光が強かったりすると、WBGT値は高くなります。
WBGTの算出方法
WBGTは、環境によって算出式が異なります。例えば、屋内と屋外では次のような算出方法を用います。
– 屋外(日向)の場合:
WBGT = 0.7×湿球温度 + 0.2×黒球温度 + 0.1×乾球温度
– 屋内(日陰)の場合:
WBGT = 0.7×湿球温度 + 0.3×黒球温度
一般の方が簡易的にWBGT値を知るには、気象庁や環境省が提供する情報を活用するのが便利です。また、市販の専用測定器を使えば、現場での測定も簡単に行えます。
WBGT値による熱中症リスクの段階
WBGT値は単なる数字ではなく、熱中症リスクを段階的に示す重要な指標です。環境省の指針では、WBGT値にもとづいて熱中症リスクを5段階に分類しています。
熱中症リスクの5段階区分
WBGT値 | 危険レベル | 注意事項 |
31℃以上 | 危険(レベル5) | 特別な場合を除き、運動は中止。外出は避け、涼しい室内に移動する。 |
28~31℃ | 厳重警戒(レベル4) | 激しい運動は中止。積極的に休息をとり、水分補給を欠かさない。 |
25~28℃ | 警戒(レベル3) | 積極的に休憩を取り入れる。激しい運動では、30分おきに休憩を。 |
21~25℃ | 注意(レベル2) | 積極的に水分補給。長時間の運動時には休憩を取る。 |
21℃未満 | ほぼ安全(レベル1) | 通常の活動可。必要に応じて水分補給を。 |
これらの区分を理解し、現場の状況に応じた対策を講じることが重要です。特に「厳重警戒」と「危険」の状態では、作業内容の見直しや中止を検討する必要があります。
WBGTと熱中症発生率の関係
研究データによると、WBGT値が28℃を超えると熱中症の発生率が急激に上昇します。特に31℃以上では、安静にしていても熱中症になるリスクがあるため、特に注意が必要です。
気温と異なり、湿度が高い環境では体からの熱の放散が妨げられるため、同じ気温でもWBGT値が高くなり、熱中症リスクも高まります。このことから、蒸し暑い日は特に警戒が必要だと言えるでしょう。
建設業におけるWBGTの重要性と熱中症リスク
建設業は、熱中症による労働災害が最も多い業種の一つです。屋外作業が多く、重労働がともなうため、WBGT管理が特に重要となります。
建設業の熱中症発生状況
厚生労働省の統計によると、熱中症による死亡災害の約4割が建設業で発生しています。特に7月から8月にかけての発生が顕著で、真夏日や猛暑日には発生リスクが急増します。
建設業の熱中症災害の特徴として、以下の点が挙げられます。
– 炎天下での作業が多い
– 体力を使う重労働が多い
– 熱を発する機械・器具を使用する
– 防護服・ヘルメットなどで放熱が妨げられる
– 水分補給のタイミングが限られる
これらの特徴を踏まえ、建設現場では特に徹底したWBGT管理が求められます。
熱中症による重大災害事例
次に、二つの熱中症事例を見ていきましょう。
A建設会社では7月の猛暑日、WBGT値の確認をせずに屋根工事を続行していました。作業員が体調不良を訴えるも休憩せず作業を続け、最終的に意識不明となり搬送先の病院で死亡が確認されました。
B土木会社では、8月の道路舗装工事中に作業員が倒れ、熱中症と診断されました。現場ではWBGT測定器はあったものの、調査を進めると定期的な確認と作業調整が行われていなかったことが明らかになりました。
これらの事例から、WBGT値の測定だけでなく、その値にもとづいた適切な作業管理が不可欠だということが分かります。
WBGTにもとづく作業管理基準と中止判断
効果的な熱中症予防のためには、WBGT値に応じた具体的な作業管理基準が必要です。厚生労働省のガイドライン(※)では、作業強度や暑熱順化(体が暑さに慣れている状態)に応じた基準値が示されています。
※https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000633853.pdf
作業強度別WBGT基準値
作業区分 | WBGT基準値 | 作業例 |
軽作業 | 31.0℃ | 座り作業、軽い手作業など |
中程度の作業 | 28.0℃ | 通常の歩行、軽い運搬作業など |
重作業 | 26.0℃ | 掘削、ハンマー作業など |
極めて重い作業 | 25.0℃ | 階段の上り下り、重い荷物の運搬など |
これらの基準値は、熱に順化した作業者を想定しています。作業開始から1週間程度は体が暑さに慣れていないため、基準値を1~2℃下げて管理することが推奨されます。
作業中止・制限の判断基準
WBGT値が基準値を超えた場合の対応指針は以下の通りです。
– 基準値±1℃程度:1時間当たり15分以上の休憩
– 基準値±2℃程度:30分以上の休憩
– 基準値±3℃程度:45分以上の休憩
– 基準値±4℃以上:作業中止
これらの基準は目安であり、作業環境や作業者の体調、暑熱順化の程度によって柔軟に対応する必要があります。特に、WBGT値が31℃を超える「危険」レベルでは、原則として作業を中止し、涼しい環境に移動させることが推奨されます。
猛暑日を考慮した工期設定とWBGT活用
近年の猛暑傾向を踏まえ、国土交通省は工期設定指針を改訂し、猛暑日を作業不能日として考慮することを推奨しています。これにより、無理な工期設定による熱中症リスクの増加を防ぐことができます。
猛暑日の定義と工期への影響
猛暑日とは一般に、WBGT値が31℃以上の日を指します。このような日は熱中症リスクが極めて高く、屋外作業は原則として避けるべきです。
国土交通省の工期設定指針では、過去5年間の気象データをもとに猛暑日数を予測し、工期に反映させることを推奨しています。例えば、ある地域で8月に平均5日の猛暑日が予測される場合、その5日分を作業不能日として工期に組み込みます。
WBGT予測情報の活用方法
効果的な作業計画のためには、WBGT予測情報の活用が欠かせません。WBGT予測情報を活用するには、以下の情報源が役立ちます。
1. 環境省熱中症予防情報サイト:全国主要地点のWBGT予測値を提供
2. 気象庁ホームページ:暑さ指数(WBGT)の予測情報を公開
3. 民間気象会社のサービス:より詳細な地点別WBGT予測を提供
これらの情報を活用し、翌日以降のWBGT値が危険レベルとなる時間帯を予測して、作業計画を柔軟に調整することが重要です。例えば、WBGT値が高くなる13時~15時頃を休憩時間にするなどの工夫が考えられます。
デジタルツールを活用したWBGT管理と熱中症対策
現代では、デジタル技術の発展により、より効果的なWBGT管理と熱中症対策が可能になっています。これらのツールを活用することで、現場の安全性を高めることができます。
ウェアラブルデバイスによる体調監視
ウェアラブルデバイスは、作業員の体調をリアルタイムで監視し、熱中症のリスクを早期に察知できる革新的なツールです。心拍数や体温のリアルタイム監視機能を搭載し、熱ストレスのレベルを検知して警告を発することができます。さらに、位置情報の把握や異常時の自動アラート機能を備え、作業員が気づかない体調の変化を早期に発見し、重症化を防ぎます。
クラウド型WBGT監視システム
近年、現場のWBGT(暑さ指数)をリアルタイムで監視し、クラウドで一元管理できるシステムの導入が進んでいます。複数地点のWBGT値を同時に監視し、危険レベルに達すると自動で警告を発する機能を備えています。また、現場の状況を可視化して記録し、スマートフォンから遠隔で確認できるため、責任者は気温の変化に迅速に対応し、適切なタイミングで休憩や作業中止の判断が可能になります。
デジタルサイネージによる情報共有
現場全体でWBGT情報を共有するためには、デジタルサイネージの活用が効果的です。現在のWBGT値や危険レベルを表示し、適切な休憩タイミングや水分補給を促すメッセージを配信できます。さらに、熱中症予防のアドバイスをリアルタイムで伝えることで、作業員一人ひとりがリスクを意識し、適切な対策を取ることができます。
これらの最新技術を活用することで、作業環境の安全性を高め、熱中症リスクを最小限に抑えることが可能になります。
効果的なWBGT管理のための現場での実践ポイント
WBGT値の数値を知るだけでなく、それを現場での具体的な対策に結びつけることが重要です。ここでは、実践的なポイントをそれぞれまとめていきます。
WBGTに応じた休憩環境の整備
WBGT値が高い日は、適切な休憩環境を整えることが不可欠です。特に、冷房設備の整った休憩所を用意し、作業員が適切に体温を下げられる環境を確保することが重要です。エアコンが難しい場合は、テントや日よけを設置し、送風機を活用することで、風通しの良い休憩スペースを作ることができます。保冷剤や冷却タオル、冷水などの冷却グッズを準備し、体を冷やす手段を提供することも有効です。また経口補水液やスポーツドリンクを常備し、作業員がこまめに水分と塩分を補給できる環境を整えることも欠かせません。
休憩中に体温を効果的に下げることで、作業再開後の熱ストレスを軽減し、安全な作業を維持できます。
適切な作業計画と負荷分散
WBGT予測を活用し、作業計画を工夫することも重要です。例えば、早朝や夕方など比較的涼しい時間帯に作業を集中させることで、暑さの影響を最小限に抑えることができます。また、同じ作業者が長時間働かないよう交代制を導入し、体力の消耗を防ぐことも効果的です。さらに、WBGT値が高い時間帯は作業強度を抑え、軽作業へ切り替えることで、体への負担を軽減できます。加えて、人力作業を機械化することで、作業者への負荷を減らし、安全性を高めることも可能です。
特に、WBGT値が28℃を超える「厳重警戒」レベル以上では、作業計画の大幅な見直しが求められます。事前に適切な対策を講じることで、作業員の健康と安全を確保しながら、生産性を維持することができます。
現場作業員への教育と意識づけ
熱中症予防には、作業員自身の意識向上も欠かせません。朝礼などでその日のWBGT予測を共有し、必要な対策を徹底することで、危険を未然に防ぐことができます。また、こまめな水分補給を推奨し、体調が優れない場合は無理をせず申告するよう促すことも重要です。
さらに、作業員同士で相互に体調を確認し合う習慣をつけることで、異変に早く気づくことができます。特に、熱中症の初期症状を全員が理解し、異常を感じた際にすぐに対処できるよう教育することが大切です。熱中症は初期症状を見逃すと急速に悪化するため、「少し具合が悪い」と感じた時点で適切な対応が取れる環境を整えることが求められます。
まとめ
WBGTは、気温だけでなく湿度やふく射熱も考慮した総合的な熱ストレス指標であり、熱中症対策の基本となるものです。特に建設業など屋外作業が多い現場では、このWBGT値を適切に管理し活用することで、熱中症リスクを大幅に軽減できます。
抑えるべき重要ポイントは、まず、WBGT値は31℃以上で「危険」、28℃以上で「厳重警戒」レベルとなることを理解することです。また、建設業は熱中症リスクが特に高く、適切なWBGT管理が不可欠です。そのため、作業強度に応じたWBGT基準値を設け、基準値を超えた場合は休憩・作業中止を検討しましょう。たとえば猛暑日(WBGT31℃以上)は、工期設定に「作業不能日」として組み込むことが推奨されています。個人の対策も同時に進め、ウェアラブルデバイスやクラウド型監視システムなどのデジタルツールを活用するとより効果的に暑さを凌ぐことが可能になります。
現場の安全を守るためには、WBGT値を単に測定するだけでなく、その値にもとづいた具体的な対策を講じることが重要です。定期的なWBGT測定、適切な休憩環境の整備、作業計画の柔軟な調整、そして作業員への教育を組み合わせた総合的なアプローチを実践しましょう。
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参考文献:
https://news.build-app.jp/article/20388/