近年、デジタル・トランスフォーメーション(DX)は、企業の活動を加速させるために活用されるようになりました。AIに代表される技術の進化や、ソリューションの成熟により、DXに取り組む敷居は下がっており、従来は「費用対効果が見合わない」などの理由で見送られていた小規模な業務改善も、今では費用対効果が見込めるようになってきいます。
また、「技術者がいないから実施できない」と見送らざるを得なかった改善策も、「ノーコード」「ローコード」ツールなどの登場により、現場の担当者が自らDX化を推進していくことが可能となっています。この記事では、企業の現場の担当者がDXに取り組むためにどのようなスタートを切ったのかについて事例でご紹介します。
化学品など材料事業での事例
従来仕入先からの注文書の種類が多く、目視や手入力のための工数や手間がかかっていました。そこで、AI-OCR(AI技術を取り入れた光学文字認識機能)の精度と実用性を知りテスト導入することにしました。あらかじめ人手による工数も正しく把握したうえで注文書の読み取り検証をおこなった結果、工数は33%圧縮され、年間300時間の削減を達成。今後は、より多くの業務に範囲を広げていく予定です。
DXへの変革ポイントは受発注システムの導入や全社導入など「あるべき論」にこだわり過ぎずに、できることからスモールスタートで取り組んだ点、事前に人手による工数を把握し、導入効果を明確にしている点が導入のしやすさになっているようです。
作業服小売業のエクセル経営事例
従来、在庫の数量データがなかったことで在庫管理のあり方に課題がありました。仕入れや販売の数字を手作業で計算し、棚にある在庫量を目視で判断していたため、販売動向を把握することができなかったそうです。このままでは業界は拡大しないため、全社員一人ひとりが自分でデータを仮説検証する企業風土を醸成することにしました。
具体的には全社員の35%が、それぞれの現場にあわせた分析ツールをエクセルで作れるようにし、全社員がその分析されたデータを活用できる状態を目標にしているそうです。
販売のほか、製品開発や出荷計画などさまざまな分野で自発的に分析ツールが作られており、その数は200ほどになっています。数多くの分析ツールのうち、優れたものは全社で共有するようになったそうです。
発動機、農機等の製造販売企業の「草の根DX活動」事例
デジタルを活用し、次世代IT経営基盤を構築するという目標に向かって、『顧客価値創造企業』への変革を中期計画に掲げています。ものづくりだけに捉われず、既存の顧客に加えて、新しい顧客の課題を解決する商品やサービスの提供を目指しています。その柱のひとつが、デジタルを活用した次世代IT経営基盤の構築です。
この活動のひとつが「草の根DX活動」です。これは、目立たないながらもデジタルを活用して業務改善をしている人たちによる草の根のDX活動であり、会社としてこれをグループ全体で盛り上げようという取り組みです。
社内を見渡すと多くの社員が製造や営業の最前線でアプリなどをノーコード開発し、業務の効率化につなげていましたが、周囲への共有がなされていませんでした。
そこでコミュニティを作り、部門をまたいだ交流の場を設け、アプリ開発のノウハウなどを教え合い共有し、本社としてきっちりサポートしていくことを始めたそうです。
最終的には「全社員のデジタル人材化」を目指していますが、直近はコアとなる人材を伸ばしたいと考えているそうです。
草の根で始めたAI活用の取り組みが全社に拡大
世界で愛されるスモールカーづくりを目指し、軽自動車を中心としたラインナップで、人々の生活や仕事を支える同社では、「100 年に一度」と言われる自動車業界の変革期にあたって、2019 年から本格的な AI を活用した業務改善の取り組みを開始しました。
当初は職場の有志3人で始めた草の根の活動が、経営層のバックアップ社内のさまざまなキーパーソンの助言を得て、現在では全社的な活動に拡大。
具体的にはAI統合プラットフォームを導入し、2カ月ごとにAI の実装事例をつくる研修を実施しながら全員のAI 活用スキル向上を目指しており、社内における「AI の民主化」を目指した学習や実践の機会づくり、そして AI 人材育成に向けた 体制づくりを着々と進めています
※「AIの民主化」については、以下の記事でも事例をご紹介しています。あわせてごらんください。
AI民主化によるビジネス活用事例6選とAI活用の成否を決めるポイントとは?
クレジットカード会社の「働き方改革」まずは草の根活動から!
同社には、「働きやすさ」だけではなく「働きがい」のある職場作りを目指す組織があります。主な活動は、社員の「本当の声」を吸い上げる、ボトムアップ型の働き方改革です。女性社員が大半を占める同社では、もともと産前産後休暇の手続きや規定が充実しており、産休・育休中であったり、短時間勤務を利用したりしている社員の活躍の幅を、女性目線で広げていくことが、ひとつのテーマでした。現状の人事制度では対応しきれていない課題に目をむけ、部門横断型プロジェクトだからこそできる新たな働き方を模索することにしました。
現行の制度のなかでできることを、まずはミニマムに、その活動を通じて課題を抽出し、改善を加え、成果が出たものは正式に人事部で制度化を進める、という活動を行いました。必ずしも人事制度と関わらない課題も多くあるため、それらは、担当部に直接掛け合って、解決に向けて活動するそうです。
事例として従業員のヒアリングを行い古いPCの刷新やテレワーク制度の導入を進めトライアルを行った結果、時間を有効活用でき、業務の効率化にも繋がったそうです。
社内横断的に役職や部門に関係なく社員が集まり、立場を越えて何かを実施できる場があることは、ダイバーシティ&インクルージョンの実現につながる、そしてそれは必ず会社の成長につながるとの考え方です。草の根活動から働き方改革や業務効率化を行っている事例です。
DX推進の進め方
上記は、業務効率化や顧客体験の向上、従業員満足度の向上など草の根DX事例になります。しかし、デジタル技術を取り入れるだけでは思うような結果は得られません。ではどうしたら目的を達成できるDX推進ができるのでしょうか。ここではDX推進する際のポイントを解説します。
DXを推進する目的を明確にする
まず初めに何を目的としてDXを推進するのか明確にしましょう。業界や置かれている状況によってDX推進を行う目的は多様であると考えられます。目的によって導入するシステムや方法は異なります。目的が明確でない場合、自社に合わないシステムを構築してしまうなど、失敗してしまう可能性が高まります。
経営レベルの意識改革を行う
現場社員レベルでDXを進めようと思っても一部署の取り組みで終わってしまい、全体としてはDXが進まない可能性があります。草の根の活動からでも部分最適に終わらせることが無いよう会社全体が認識しサポートしていくことが重要です。
DX推進体制を構築する
DXが確実に推進されるような体制を構築しましょう。通常業務と並行して進めるのでは、DX推進は上手く進まない可能性があります。DX推進を専門とする部署を立ち上げ、社内から適切な人材を配置しましょう。社内に適切な人材がいない場合は、外部採用も検討しましょう。また、DX推進を憂いなく進めるための予算確保も重要です。予算を気にして、抜本的なDX推進ができないと、目的達成が不十分のままに終わってしまう可能性があります。
スモールスタートから大きく育てる「伴走型支援」パートナー
「草の根DX」にかぎらず、DXの最重要ポイントともいえのが「スモールスタート」、そして、その拡大も踏まえた「運用体制の構築」、これが非常になることはもう皆さまお気づきでしょう。
その一方、特定のアプリケーションのベンダーやSIer主導は、その対応領域や費用・規模などに制約があり、「提案規模が大きすぎて始められない」「始めたけど広げられない」といったことに陥りがちです。
弊社アウトソーシングテクノロジーはベンダーフリーで、派遣社員1名から大規模プロジェクトまで、皆さまのDXの目的と進展状況にあわせた最適な支援体制をご提供することが可能です。「草の根DX」についてお困りのことなどございましたら、ぜひ弊社までご相談ください。