ジェネレーティブデザインとは?人と機械が共同でデザインする技術
ジェネレーティブデザインとは、コンピュータによってなにもない状態から最適な製品設計を生み出すことができる技術です。この技術によって、人が頭と時間をつかって設計を行う負担を大幅に軽減することが期待できます。今回は、ジェネレーティブデザインの基礎知識やメリット、活用事例などを解説していきます。
近年、ITの発展によって製造業に革新と効率化がもたらされるようになりました。製造プロセスや在庫管理・生産管理など、さまざまな場面で自動化の波が広がっていますが、設計工程にもその技術が適用されはじめています。
今回は、コンピュータを用いて設計を大きく効率化する技術「ジェネレーティブデザイン」について紹介します。ジェネレーティブデザインの基礎知識やメリット、活用事例などを解説していきます。
ジェネレーティブデザインとは
ジェネレーティブデザインとは、設計者がコンピュータ上のソフトウェアに一定の情報を入力することで、なにもない状態から最適な製品設計を生み出すことができる技術です。
入力する情報は、使用したい材料やその重量、製造プロセスなどの各種パラメータを指し、人工知能(AI)が受け取ったパラメータから要件に当てはまる3Dモデルを生成します。
コンピュータが出す結果のパターンは多岐に渡るため、そこから最終版の候補を絞っていき、カスタムしていく流れが一般的です。
つまり、コンピュータと技術者・デザイナーが共同で設計開発を行う技術といえます。
製品開発の分野以外にも、建築・建設や航空宇宙などのさまざまな分野で応用されており、世界的に活用されるようになっています。
ジェネレーティブデザインのメリットは3つ
設計にジェネレーティブデザインを活用すると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
大きく分けて3つあるため、それぞれについて見てみましょう。
設計の初期段階から短時間で検討できる
たとえば、「軽くて丈夫で、形状がスタイリッシュな自転車」を設計する場合を考えてみましょう。
この場合、次のように複数のことについて検討しなければなりません。
- スタイリッシュと感じられるデザインとは何か
- 軽量かつ丈夫な素材に何を使うか
- どの素材をどの箇所に使うか
- どの部位をどれくらいの大きさや太さにするのか
これらの検討が終わったあとは、条件を満たす製品の設計図を書いたり、CADなどの支援ソフトで設計データを1からつくる必要があります。
ここまでの複雑な工程を経るとなると、多くの設計パターンを用意するのは難しいでしょう。しかし、ジェネレーティブデザインを活用すれば、設計要件に応じたデザインが数十種から数百種にわたって自動的に生成されます。
これによって、設計について検討する時間が早期から大幅に短縮されるのです。
先入観にとらわれない新しい設計案が創造できる
経験豊富な技術者なデザイナーは、自分がこれまで蓄積してきたものによって先入観が生まれている可能性があります。
個人の経験や先人の知恵にしたがえば、たしかにミスが少なく良質な設計を実現しやすいでしょう。しかし強い先入観は、革新的なアイデアが生まれるのを知らずのうちに妨害しているかもしれません。
ジェネレーティブデザインでは、設計物のデザインを人工知能が計算によって導き出します。つまり、誰も思いつかないような革新的なデザインが結果に現れる可能性があります。
これをベースに設計を進めることで、先入観にとらわれない新しい製品が開発できるかもしれないのです。
若手のサポートや育成に役立つ
ジェネレーティブデザインを活用した作業は、ソフトウェアの操作がわかっていて、入力する数値さえわかっていれば熟練した技術が必要ありません。
したがって、経験の少ない若手であっても迅速な設計が可能になります。
それ以外にも、若手の技術者が設計に比較的容易にかかわることで、自らが設計する感覚を掴むきっかけにもなり、育成ツールとしてとらえることも可能です。
トポロジー最適化とジェネレーティブデザインの違い
ジェネレーティブデザインと似ている言葉として、「トポロジー最適化」という技術があげられます。
トポロジー最適化は、コンピュータを用いて既存の設計データから不要な形状を削り取るための手法です。
モデリングした形状から機能上必要な部分を指定し、荷重条件や応力・変形量といった制約条件を設定することで、自動的に最適な形が算出されます。
「コンピュータによって設計を最適化できる」という点では、ジェネレーティブデザインとトポロジー最適化は混同しやすいかもしれません。
しかしトポロジー最適化の場合、ジェネレーティブデザインと違って既存の設計モデルが必要となります。また、コンピュータは入力に対して単一のパターンしか答えを返しません。
トポロジー最適化は「0より大きい数字から引き算する技術」であり、ジェネレーティブデザインは「0から大きな数字を複数パターン生み出す技術」と考えましょう。
ジェネレーティブデザインを取り扱えるソフトの代表例
ジェネレーティブデザインの機能を提供しているソフトウェアは、AUTODESK社の「fusion 360」が代表例として挙げられます。
「fusion 360」は、高機能クラウド型3DCADソフトとして販売され、3DCAMやレンダリング、解析などの多くの機能を搭載しています。
「ジェネレーティブデザイン」という言葉を世界的に広めるきっかけになったソフトともいわれており、先進的かつ影響力の高い商品です。
トポロジー最適化の機能もあり、コンピュータが生成したモデルは「Brepモデル」と呼ばれ、そのまま解析やCADによる編集が可能となります。
参考:
ジェネレーティブ デザインとは | ツールとソフトウェア
ジェネレーティブデザインを活用した事例
では、実際にジェネレーティブデザインを製造に活用した事例にはどのようなものがあるのでしょうか。この技術ならではの革新的な事例を3つご紹介します。
【エアバス社】旅客機のパーテーション
オランダに拠点を置く航空宇宙機器開発のエアバス社は、ジェネレーティブデザインを用いて旅客機の客室に使うパーテーションを開発しました。
伝統的なエンジニアリングの手法から大きく離れることで、既存のパーテーションより大幅に軽量化され、航空機の重量削減という目標の達成に成功しています。
参考:
エアバスのジェネレーティブ デザイン | ユーザ事例 | オートデスク
【ハック・ロッド社】仮想環境で設計するレーシングカー
ロサンゼルスのレース用自動車メーカーであるハック・ロッド社は、人工知能によって仮想環境で設計された世界初の自動車を開発することを目指しています。
この製造技術の中核にあるのがジェネレーティブデザインです。
3Dモデリングはもちろん、車体と運転手に数百個のセンサを取り付けて行うテストから得られたデータを使い、運転中の負荷を極限まで減らすデザインが追及されています。
参考:
VRと自動車製造の融合:AIが生み出した世界初の自動車「Hack Rod」でGPUを利用
【アンダーアーマー社】3Dプリントでつくるシューズ
アメリカのスポーツ用品メーカーであるアンダーアーマー社は、運動中の負荷を減らすための革新的なランニングシューズの開発にジェネレーティブデザインを活用しました。
まず、開発チームのひとりが、ミッドソールのクッション機構に「樹木の根の構造」を応用することを着想します。そして、ジェネレーティブデザインが提案する無数のパターンやデザインの着想をヒントに、何度もテストや検証が行われました。
その結果、3Dプリンターで製造可能な格子構造のデザインをもち、クッション性と安定性が両立したシューズが完成したのです。
参考:
アンダーアーマーがジェネレーティブ デザインと 3D プリントシューズでフットウェアの世界を変革 – Redshift JP
ジェネレーティブデザインの可能性を活かすのは人の仕事
ジェネレーティブデザインは、設計要件をもとに0から無数の可能性を生み出す革新的なツールといえるでしょう。しかし、コンピュータの仕事はあくまでデザインの提案であり、そこから優れた製品開発を行うのは人の役目です。
また、欲しい形状を得るためには、顧客ニーズの本質を理解したうえで、具体的な要件を定義する必要があります。CADや力学や材料、さらに加工の知識も必要となるでしょう。コンピュータの可能性を活かすのは、最終的には人であることを自覚することがもっとも重要なのです。