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近年、深刻な社会問題として挙げられている、労働人口減少への対応策として、産業用ロボットの導入を検討する企業が増加しています。しかし数ある業界の中でも、食品や医薬品、化粧品の生産において、産業用ロボットの導入が遅れていることはご存知でしょうか。
今回はその中でも「食品業界」に注目し、産業用ロボットの導入に関する課題や導入のメリット、参考となる事例にご紹介します。
産業用ロボットが食品業界から求められている理由
農林水産省食料産業局の調査によれば、食品製造業の欠員率は製造業全体と比べて2倍以上高いことが明らかになっています。
食品製造業は製造や点検、包装といった工程では人の目や手作業に頼らざるを得ないケースも多く、人手が必要となる傾向にあります。しかし、労働時間の超過や労働災害の発生といった印象から人が集まらず、食品製造業の欠員率は高くなってしまうという課題が生じているのです。
また、近年のライフスタイルの変化とともに、食をめぐる市場も大きな変化を迎えています。その要因のひとつとして、女性の社会進出が挙げられます。
厚生労働省の調査によれば、平成28年の女性の労働力人口は前年よりも41万人も増加し、労働力人口総数に占める女性の割合は43.4%にものぼることが明らかになりました。
働く女性の増加とともに「料理に時間をかけたくない」、「手早く食事を済ませたい」という需要が高まった結果、調理済みの料理を買って自宅で食べる「中食」の市場が拡大することとなりました。
惣菜や弁当といった盛り付け作業が不可欠な食品の需要が高まるなか、人手不足の課題を解消するために、安定した作業効率が得られる産業用ロボットの導入が求められています。
参考:食品製造業における働き方の現状と課題について – 農林水産食料産業局
参考:2018年版惣菜白書 -ダイジェスト版-
衛生面で不安が……食品業界での普及にも課題
産業用ロボットの導入を検討する企業も多いなか、食品工場でロボットが作業するためには、依然として課題も残っているのが現状です。そこで、産業用ロボットが抱えている代表的な課題をご紹介します。
課題1.衛生管理が難しい
食品工場では、徹底した衛生管理により食の安心・安全が確保されています。人であれば決められたルールに基づいた手洗いや殺菌消毒により衛生状態が保たれますが、ロボットは作業中に飛び散った食品の破片が機体に付着したまま作業を続けてしまう恐れもあります。人の口に入り、場合によっては健康被害が生じる食品を取り扱う以上、衛生管理が人と同様に常にチェックできるかどうかも、大きな課題となっているのです。
課題2.多岐にわたる作業品目に対応するのが難しい
季節の商品や人気商品など、コンビニでは取り扱う商品が日によって異なることも珍しくありません。昨日まで生産していた商品は取り扱いが終了、今日からは全く異なる商品を生産するといったように、生産現場は臨機応変さが求められます。
また食品工場では、ご飯や果物といった、柔らかいものも多く取り扱っています。ロボットが柔らかいものを取り扱うためには、適したアームに取り替えなければならないケースもあります。
作業工程を確認し、柔軟に対応出来る人とは異なり、ロボットは動作設定やアームなどをその都度変更しなければならず、ロボット管理者の負担が大きくなってしまうのです。
産業用ロボットの導入で、食品工場はこう変わる!
食品業界への導入において課題も残る産業用ロボットですが、さまざまなメーカーが現場の問題を解決できるロボットを開発しています。
食品工場における産業用ロボットの課題には、「柔軟に対応できる人の方が適している」という考えも多くあります。その一方で、産業用ロボットだからこそ現場にもたらせるメリットを再確認してみましょう。
導入メリット1.正確な作業を行い、作業効率が上がる
産業用ロボットが人よりも特化しているポイントは、正確な作業をすばやく反復できる点にあります。
この強みが活かせる作業のひとつは、商品の箱詰めです。同一の数の商品を指定の箱に詰める際、人のライン作業では高い集中力が長時間必要になるため、ミスが生じる可能性も高くなります。しかしロボットであれば、作業時間に関係なく、正確な箱詰め作業を高速で行えます。
この作業に適しているのは、高速で精密な動作を可能とする、「パラレルリンクロボット」です。パラレルリンクロボットは可搬重力が小さい点がデメリットとも言われていますが、食品はひとつひとつが軽量であることから問題となりません。高い精度と速度を保ちながら、長時間の稼働で作業効率を上げるのにも役立ちます。
関連記事:高速かつ精密な動きを実現!パラレルリンクロボットの特徴や用途、事例を紹介
導入のメリット2.人件費のスリム化
各社が食品工場への導入を目的に開発している産業用ロボットの中には、人の代わりとして活用できるロボットもあります。食材を自動で認識し、人と同じような力加減で盛り付けるといった作業を再現できれば、育成コストや退職リスクがある新人を雇用するよりも、ロボット導入のほうがコストパフォーマンスが高くなることもあります。
人と同様の作業を実行するのに適しているロボットは、「双腕ロボット」です。出力が80W未満に抑えられていることから人と同じ空間で作業ができるほか、片方の腕で食材をつかみ、残りの腕で容器に押さえながら盛り付けることも可能です。
関連記事:小スペースで高難度の作業ができる。双腕ロボットのメリットと事例を紹介
食品業界で活躍する産業用ロボットの事例
最後に、実際に食品工場に産業用ロボットを導入した事例をご紹介します。どんな課題を産業用ロボットで解消し、どのような結果が得られたのでしょうか。
事例1.協働ロボットが人手の足りない作業に対応
ある食品工場では、「ざる蕎麦」生産ラインに協働ロボットを導入、作業の効率化を実現しました。
わさびや海苔を詰めていく作業にロボットを導入した理由は、麺よりもピッキングが容易であり、衛生面も確保できたからです。安全柵のいらない協働ロボットであったため、人手の足りない作業に導入してすぐに対応でき、生産効率を維持できたとのことです。
参考:人とロボットが協調したチルド麺盛付工程の実現
関連記事:協働ロボットのメリットとは?流行の背景や定義などの全知識
導入事例2.作業の自動化で品質の安定化を実現
パンの製造を行う企業では、ロボットの導入により「発酵させた生地を適した量に分け、食パンの焼き型に入れる」という業務を自動化させました。
柔らかい食パンの生地は、人が取り扱う際も細心の注意が求められます。しかしハンド部分の形状や材質を向上させた産業用ロボットの開発により、安定した力で掴むことを可能としました。
この企業では省人化はもちろん、ロボットの導入により、一定の作業環境で安定した品質を保つこと、毛髪をはじめとする異物の混入をも防いでいます。
これからの動向に注目が集まる、食品工場へのロボット導入
食品工場での産業用ロボット導入は、課題も多く残ります。しかし課題を解決するために、使いやすさと高い性能を両立したロボットの開発も続けられています。人口が減少してもなお、安心できる食品が求められるため、今後も生産工場の効率化は避けられないでしょう。
活躍の幅がより見込まれる産業用ロボットは、用途もさまざまです。それぞれの特徴や適した作業内容を踏まえ、導入を検討してはいかがでしょうか。