製造業は特に生産性や業務効率が求められる業界であり、ECRS(イクルス)が非常に重要な役割を担ってくれます。
本記事では、製造業に焦点をあててECRSの特徴を踏まえ、製造業における実際の活用例について詳しく解説していきます。
ECRSの4原則とは
ECRSとは、業務改善や生産性向上を目的とし「排除(Eliminate)」「結合(Combine)」「交換(Rearrange)」「簡素化(Simplify)」など4つの要素を用いるフレームワークを指します。
特に製造業では、1つ1つの工程で少しの生産性や業務効率の低下が生じてしまうと、大きな損失につながりかねません。そのため「ECRSの4原則」に注目が集まっているのです。
それでは、製造業の現場におけるECRSの4原則についてご紹介していきます。
排除(Eliminate) 不要なものを洗い出し、排除を進める
まずは現状の作業の中で排除できる部分がないかを洗い出します。
製造業の作業の中には、意外に無くしても問題ない作業や、少しやり方を変えるだけで生産性が高まるケースが多くあります。
現状の作業の課題を洗い出す際には「工程」「作業」「動作」の分類で分けられ、主な例は以下の通りです。
<作業の洗い出し方>
- 工程:その工程自体が必要であるか
- 作業:工程の中で余分な作業がないか
- 動作:余計な動きをなく作業できているか
また、近年のIT技術の発展によって製造業界にもさまざまなITシステムやツールが導入されています。IT技術の導入によって排除できる作業の幅も広がっているため、生産性や作業効率の向上だけでなく人的コスト削減も可能となるのです。
結合(Combine) 類似する業務の統合
無駄な業務を排除した後は「結合」によって複数の業務を1つの工程で同時に行えないかという点を検討します。
製造業では主に分業制を導入しており、各工程や作業ごとに機械の設置や作業員の配置をしています。分業制によってそれぞれの分担に専念することができ、業務の精度を維持しつつ生産性が高められるとされていました。しかし、より業務効率を上げるには、できるだけ1つの工程で複数の業務を行えるに越したことはありません。
作業面の主な結合としては、複数の工程を1人の作業員で行うケースや、ライン分けして別々に行っていた作業を1つにまとめるケースなどが挙げられます。
それに加えて、これまでに複数の機械で分けていた作業を1つの機械でまとめるケースや複数枚で分けていた管理表を1枚にまとめるケースも考えられるでしょう。
このときに注意すべきは、1つにまとめずに複数に分けた方が作業効率の向上や管理がしやすい業務もあるため、業務内容や管理方法を考慮して検討する必要があるという点です。
交換(Rearrange) 作業順序の再構成
次は業務のなかでモノや順番などを変えられないか検討します。
従来取り組んでいた配置や流れが最適というケースは少なく、さまざまな機械やシステムが導入されつつある製造業においては最適の選択がその都度異なるのです。
特に製造業のように一連の流れに沿って作業を行う場合、モノの配置や流れの順番を変えるだけでも大きな業務効率向上につながるケースも多くあります。
たとえば、今までは「A、B、C、D」の順番で行っていた作業を「B、D、A、C」の順番に変えたり作業担当者や場所を変えたりすることで、今まで見つからなかった新たな手法が発見でき従来の手法よりも少ない工程で生産性を高めることもできるのです
簡素化(Simplify) 業務の簡易化を図る
最後のステップは、業務自体を簡単にできないかを検討します
製造業では作業員が一定の業務を反復して行うケースがほとんどであり、業務内容がシンプルであるほど作業のクオリティ維持や生産性向上の可能性が高くなりやすいのです。
また、業務を簡単かつシンプルにしてミスのリスクヘッジや属人化の防止にもつなげられます。
そのためには、年々技術が高まっているIT技術によって機械やシステムを導入し、業務の自動化が実現可能となるのです。
ECRSの導入例
ECRSの導入によって生産性や業務効率の向上を図る主な方法を「排除(Eliminate)」「結合(Combine)」「交換(Rearrange)」「簡素化(Simplify)」にわけてそれぞれご紹介していきます。
排除(Eliminate)
- 作業員を削減する
- 業務を外注に依頼する
- 社内でデータを共有する
- 必要以上の業務報告や会議を無くす
- 複数枚で管理していた書類を1枚にするもしくはデータ化する
このように、普段何気なく行っている業務や方針の中には、意外にも排除できる点は多くあり、小さな工夫ですぐに実行できるものが多くあります。
結合(Combine)
- 実績や進捗の確認を紙媒体からデータにして可視化する
- それぞれのマニュアルを1つにまとめる
- 個別報告ではなく常に社内に全体共有をする(口頭で個別ではなくオンラインのチャットなど)
- 業務場所を一定範囲内でまとめる
このように従来ではそれぞれの業務や工程を別の場所で行っていたものを1つにまとめることで、余分な業務や業務のための移動時間、報告に要する時間の削減が可能となるのです。
そのため、少しでも同じような作業や1度に社内全体に通知する方法はないか考えてみるといいでしょう。
交換(Rearrange)
- 業務の一部もしくはすべてを外注に依頼する
- 作業員やモノの配置変更
- 紙の管理からシステムで管理する
- 営業ルートの入れ替え
先述したように、従来からの手法が現在もベストであるというケースは少なく、さまざまなツールやシステムを導入することで最適解が異なるのです。そのため、従来のやり方や方針にとらわれずに一度大きく視点を変えてみることで、より高い生産性や業務効率化が実現可能となります。
簡素化(Simplify)
- 作業のマニュアルを作る
- 社内で使いこなせるシステムを活用する
- 見やすいようにデータをまとめて共有しておく
製造業では、一連の工程の業務効率だけでなく「属人化の脱却」や「情報共有の体制見直し」が必要となります。
「同じ業務でも特定の作業員によって大きく成果が異なる」というケースでは、高い制度と生産性が維持できません。また、全体で共有できるツールやシステムがなければ、社内でスムーズな情報共有ができず、時に誤った情報が浸透してしまうリスクもあるのです。
ECRSの改善効果
ECRSによってさまざまな効果が得られますが、中でも代表的なのが「業務の効率化」「生産性の向上」「人的コストの削減」でしょう。
この3点は製造業において非常に重要な要素であり、いかに無駄なくコストパフォーマンスが高い業務を実現できるかによって、企業の経営面にも大きく影響します。
ECRSのメリット
前述のように、ECRSはその改善効果からいくつかのメリットが得られます。
ECRSによって生じる主なメリットは次の通りです。
業務や社内体制の見直しができる
ECRSによってより高い生産性や業務効率化を図るには、まず現状把握が必要不可欠です。意図的に現状を客観視しなければ、日ごろ行っている業務に対して見直すことは難しいといえるでしょう。「当初に教わったからなんとなく取り組んでいる」というケースがほとんどです。
その点、ECRSによって現状の課題や問題点を分析することで、新たな視点から業務の見直しができ、従来では気づかなかった点を多く発見できます。
コストパフォーマンスが上がる
企業経営において高い売上を出してもその分のコストが高ければ利益は少なくなってしまいます。業務の利益率を上げるには売上を伸ばすだけでなく、削減できるコストは削減し続けなければいけません。
その点、ECRSによって余分なコストを削減し、企業の利益率向上にも繋がるのです。
ECRSの注意点
上記のメリットに対して、注意するべき点もあります。ECRSによって生じる主な注意点は次の通りです。
すぐに改善できるとは限らない
ECRSでは「複数の書類を1つにまとめる」や「作業のマニュアルを作る」など、すぐにでも実行でき、短期での効果を期待できるものがあります。しかし、それに対して「ツールやシステムを導入する」のようにすぐにでは実行できないものも存在します。
そのため、比較的結果が出始めるのに期間を要するケースが多く、すぐにでも改善が実現できるとは限りません。
プロだからこそ気づかないこともある
ECRSによってさまざまな分析や課題解決が必要となり、プロだからこその発想や視点があるでしょう。しかし、逆にプロだからこそ見落としてしまう点や固定観念から特定の発想に縛られてしまうというケースも少なくありません。
そのため、もし自社内で良い改善策等が見つからない場合は、一度専門家に相談してみるのも1つの方法といえるでしょう。
製造業の業務効率に貢献する「XR」
今回は製造業におけるECRSに焦点をあてて「業務の効率化」や「生産性の向上」について解説してきました。
ここまでで解説したように、ECRSによってさまざまなメリットが得られるため導入することで大きな効果が得られるでしょう。しかし、近年ではIT技術の発展によって「XR」の技術も製造業に貢献し始めています。
XRは現実世界と仮想世界を融合させる技術であり、設備を設置する際のシミュレーションや保守・点検にも活用可能です。
これからのECRSやXR技術活用も視野にいれるとよいでしょう。