ものづくりの基本は、設計・製造・テストの3本が骨子となり、このプロセスは古くから変わりません。ただし、従来アナログと手作業で行われていたこれらのプロセスは、ITの発展に伴いコンピュータ支援のもと実施できるようになりました。今回は、近年のものづくりに欠かせない「CAD」と「CAM」というソフトウェア技術についての特色や機能、関連技術である「CAE」について詳しく解説します。
CADとは設計システム
CAD(Computer Aided Design)とは、コンピュータを使った図面設計やプロダクトデザインを行うためのソフトウェアやシステムを指します。従来は設計者がドラフター(製図台)に向き合い、図面上に手書きで製品の形状や必要な情報を記述するのが一般的でした。しかし、CADが一般企業にも普及し始めた1980年代以降からは、コンピュータ上での設計作業が常識になっていき、現在は学生やフリーランスでも気軽に使えるツールとして、製造業や建築業における必需品となっています。
続いて、CADの一般的な特徴を以下の3点にまとめます。
製図に特別な技術が不要
アナログで製図を行う場合、図面の寸分は線の1本1本まで正確でなければならないため、線の太さを一定に保つ技術が必要です。さらに、誤った線をひいてしまった場合、他の線を消さず、かつ紙を傷めないように修正するスキルも求められます。一方CADを使用すれば、線分コマンドの種類や印刷の設定方法を覚えるだけで、熟練者でなくても正確な製図が可能です。また、デジタル製図のため、ミスの修正もボタン一つで済みます。
図面の管理が簡単
CADで作成した設計図面は、データとして保存できるため、資材としての管理がアナログよりと比べると容易です。データは複製・共有可能なので、修正前と修正後の差異を比較することもでき、検証作業の質も向上します。
3Dモデリングを用いた設計も可能
CADには、設計図面を線分や円弧を用いて描画する2Dタイプと、球や直方体を用いてモデリングする3Dタイプの2種類が存在します。現在主に利用されているのは3DタイプのCADで、以下の点で優れた機能を持っています。
- 形状や部品の位置関係などを立体視できるため、製品の仕上がりをイメージしやすい
- 3Dの設計イメージから、2Dの図面を自動で計算して出力できる
- 3Dプリンターで使われている拡張子(STLやCEL)の3Dデータを作成できる
上記特徴に加えて、機械特化・建設特化などの分類がされていたり、無料で使える製品もあれば機能の充実度や操作感が上質な高額製品などさまざまな仕様が存在します。
CAMとは製造システム
CAM(Computer Aided Manufacturing)とは、CADで設計した図面に従って製造を行うためのソフトウェアの総称です。マシニングセンタなどの工作機械は、工具が移動する座標位置や進む速度などを指定したNC(数値制御)データによって動作します。データを直接入力すると時間や手間がかかりますが、CAMはCADが作成した製品の形状情報を入力することで、NCデータを自動で計算してくれます。
NCデータ計算の過程は、まずCAMの演算機能によって「ツールパス」と呼ばれる工具の軌跡情報を作成します。続いてツールパスを、CAMのポストプロセッサと呼ばれる翻訳機能によって、各工作機械が理解できる形式に変換し、適切なNCデータが出力します。なおツールパスは工作機械の動作確認に使用できるため、食い込みや削り残し、ワークへの干渉(工具が材料や機械に当たる)が起きるような問題のあるデータは事前に検知可能です。
CAMの主な機能
CAMには、主に下記の3つの機能があります。
加工モデルに穴や輪郭、ポケットを生成するための2D加工
XZ平面またはYZ平面で同一傾斜の加工が可能な2.5D加工も存在します。3D加工よりも低いコストで複雑な形状変形が可能です。
自動車のボディのような自由曲面を作るための3D加工
加工データには、曲面として計上形状を保持するサーフェス型と、細かい平面を集めて局面に近似した形状を保持するポリゴン型の2種類があります。それぞれの特徴は前者が高精度、後者が高速処理という点です。
4軸・5軸加工用ソフトを用いた複雑な形状処理
XYZの移動軸と、それぞれの軸を中心とした回転軸(ABC)の内1~2軸を稼働範囲とする工作機械の加工に使用します。2D/3D加工機能は加工対象の形状を計算しますが、工具軸の制御は実際の加工方法を計算する上で重要です。
ソフトによっては全機能をもつハイエンド製品もあれば、2D加工しかできない廉価製品もあります。ほかにも、簡易的な加工の範囲で簡単に操作できる全自動型と、製造方法や形状に合わせて加工の条件を自由かつ詳細に設定できる汎用型の分類があり、加工に必要な機能とコストのバランスを考えて選ぶ必要があります。
設計・製造を支援するCAEも
CAE(Computer Aided Engineering)とは、コンピュータを使用して、主に設計・開発段階の製品解析やシミュレーションを行うツールの総称です。CAEを用いることで、機械力学や材料力学といった物理工学に関する複雑な数値解析が可能となり、設計したモノが要求性能を満たすかどうかを、実際に製造する前にシミュレーションできます。
従来の製造業では、設計した製品の試作を行い、動作・実測試験を実施、その結果発見された不具合を修正して再テストするというサイクルを繰り返していました。しかしCAEを用いれば、物理的・時間的な制約の少ない品質検証が可能で、潜在的な問題を解決し、設計・開発の最適化やコスト削減に大きく貢献します。
CAD/CAMは産業用ロボットに応用可能
今回解説したCAD/CAMの適用対象はCNC工作機械に限定しましたが、近年では、産業用ロボットにもCADデータを元にして加工を効率化・自動化する考え方も出てきています。
工作機械と異なり、ロボットは一般的に6つの軸を複雑に制御し、かつ動作をティーチングする必要があるため、入力する加工用プログラムをマニュアルで作成するのは非常に困難です。そこで、CAMを応用した自動制御を可能にする「ロボット向けCAM」を実用化するための研究が行われています。
ロボット用CAMは、NCデータの代わりに、ハンドの手先位置・姿勢や回転軸の角度などを定義したロボット言語を読み込ませることで、動作の自動化を可能にします。ロボットシステム構築用プラットフォーム「ROS」や、コンピュータ上でティーチングを試験できる「オフラインティーチング」など、産業用ロボットに関する技術はこれまで着々と進歩しています。
参考記事:ロボット開発に不可欠なオープンソースソフトウェア『ROS』とは
参考記事:【資格取得が必須】産業用ロボットの主なティーチング方法4選
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