いま、AR(Augmented Reality:拡張現実感)の技術を活用したショッピング体験に熱い視線が集まっています。
ARでショッピング。なかなかイメージがつきにくいかもしれませんが、業界の構造変化が著しい米国の小売業界において、大いに注目が集まっている領域です。
ARショッピングとは具体的にどんな体験になるのでしょうか。なぜここまで注目されているのでしょうか。本記事では、ARショッピングの最新動向について解説します。
なお、VRやAR、MR等の違いや特徴についてご存知でない方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
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ARショッピングとはなにか?まずは特徴を解説

まずはARショッピングとはどんなものかを理解するために、その特徴を解説していきます。
どこにいても、実店舗のような買い物体験が可能
ARショッピング最大の特徴は、場所を問わない購買体験が可能だという点です。自宅にいても、AR確認用のデバイスとネット環境があれば、好きなお店で好きな商材をチェックして購入することができます。
持病がある方や高齢者の方、家の近くに店がない方でも、気軽に買い物を楽しむことが可能になるのです。
商品を3Dモデルで高精度にスキャニング
ARショッピングでは、3Dモデルでサイズを測ったり、すべての角度から商品を確認したりすることが可能です。
例えば2020年1月にVisualize株式会社が開発・発表した、高精度な3D足型採寸テクノロジー「Visualize(ヴィジュアライズ)」は、最新のAR技術を活用して、スマートフォンで足の形の3Dモデルを生成して採寸します。
スマホのカメラで足とその周囲を複数回撮影した後、足だけを周囲の背景から自動で検出して3Dモデルを生成し、視覚化します。高解像度の360度ビューで撮影した足型を可視化するため、指先からかかとまでの長さ、足幅、足囲などといったあらゆる箇所をスキャニングし、フットウェアのサイズ違いを防ぐことができるようになります。
部屋への実物モデルの配置が可能に
ARは購買対象だけを3D化するだけではありません。家具やインテリアなど、対象物を実物大で自分の家や部屋に表示させることができるようにもなります。
例えば株式会社リビングスタイルが提供する「RoomCo AR」はAR技術を使ったルーム・コーディネート・アプリで、家具やインテリアなど、大きくてなかなか実物では試せなかったものが、ARの活用によって、自身の部屋に置いた時のサイズ感、商品の色合いなどを確認することができます。
商品単価が高く、一度購入すると長期間利用することになる家具やインテリアは、ARの試し置きによって購入へのハードルが下がるようになりました。
実店舗への導入でも新しい購入体験が
アメリカの大手スーパーマーケット・ウォルマートでは、2018年11月に同社開発の公式アプリにAR機能を実装しました。アプリに搭載した「AR Scanner」を起動してから商品を読み込むと、商品の名前や価格はもとより、従来はオンラインストアでしかチェックできなかった商品レビューなどの詳細情報が、3DデータとしてAR空間に表示されます。
さらに、アプリ上で決済まで対応し、スキャンした商品の購入も即座に可能です。購入した商品は、無料で配達まで実施してくれるサービスもあるので、店舗でスキャンした商品を、店舗から直接持ち帰ることなく購入して自宅に配置することもできるようになります。
ARショッピングのビジネスへの導入パターン3選

このようにさまざまなメリットを享受できるARショッピング。続いては、ビジネスへの導入パターンについて解説します。
ECサイトのリッチ化
日本や米国で圧倒的な利用率を誇るECサイト・Amazon(アマゾン)では、2020年8月に新たなARショッピングツールである「Room Decorator」を導入しました。
Room Decoratorは、購入を検討している家具やインテリアを部屋の中に置いて見ることができるツールです。複数の製品を同時に部屋の中に持ってくることができるため、ユーザーは複数の候補から実際の配置を確認しつつ商品を選択できます。
アマゾンはこの他にも、2017年にARショッピングのシンプルバージョンを立ち上げていましたが、その目的は消費者が部屋に新しいインテリアを追加したときに、現在の装飾とどれくらいマッチするかを見て確かめることでした。今回バージョンアップしたRoom Decoratorは、同時に多くの商品を表示するだけでなく、ある時点の部屋のスナップショットを保存することもできるので、不在時でも変わらずARショッピングをすることが可能となっています。
このようなECサイトのリッチ化が、ARのビジネス導入として最もイメージしやすい事例の一つです。
モール型サービスへの出店・出品
ECサイトのリッチ化とは別の切り口となるのが、モール型サービスへの出店・出品です。
例えば2020年8月にサービススタートした3次元マーケティングプラットフォーム「ARaddin」では、専用アプリをダウンロードすることで、スマホ上に観葉植物店が現れ、部屋のあちこちに出現した観葉植物をつまむような体験で購入することができます。
また別の店舗では、敵のキャラクターが突然出現し、そのキャラクターを倒すことで商品が買えるようになる、といったゲームミフィケーションの要素を取り込んでいます。新型コロナウイルス感染症の影響で店頭の売り上げが落ち込む店舗が多いからこそ、そのようなお店が出店して新たな販売チャネルを創出する体験型バーチャルショッピングモールの実現基盤として、AR技術が期待されています。
リアル店舗での購入体験の多様化に活用
リアル店舗での購入体験も、AR技術によって多様化しています。リアル店舗でARを活用する際のキーワードは「体験の拡張」です。商品を陳列するための場所としての店舗から、ARを活用して新たな体験を拡張する流れが出てきているのです。
具体的には、ARコンテンツのスタートアップ「MESON」が大手アパレルの「オンワード樫山」とコラボし開催したARファッションショーの「PORTAL BY JOSEPH」がその一例になります。来場者が会場に展示されたARマーカーをiPadで読み込むと、ランウェイがARで表示され、ファッションショーを楽しむことができます。
ARの活用によって、大掛かりな機材を導入せずとも消費者にとってワクワクするような体験を提供することが可能となります。もちろん楽しいだけではなく、ランウェイ上で新製品をいち早くチェックし、QRコード経由で自分の端末に保存し、その場で購入することもできます。
ARを使って体験そのものを拡張する取り組みは、オフラインスペースを持っている店舗販売型小売業態の企業にとって、非常に有効なブランディング手法のひとつとなっていくことは間違いないでしょう。
ARショッピングを導入することによる事業者のメリット

以上から、企業がARショッピングを導入することのメリットは、大きく2点あげることができます。
顧客体験の向上によるコンバージョン率向上
アメリカの家具販売サイト「Houzz」では、自社ECサイトにARを導入。ARを使って家具を試し置きしたユーザーとそうでないユーザーを比較して、購入率が11倍も高かったとレポートしています。
これまで、現物でサイズの確認や試着ができないという課題を抱えていたネットショッピングですが、ARの活用によって大幅に顧客体験を改善することができ、結果としてサイト上でのコンバージョン率向上に寄与しているといえます。
ブランディングを通じたオンライン上のファンマーケティング活動
ECサイトに掲載されている商品は、基本的には画像や動画といった2次元情報でしか表現できないため、企業は自社商品の持つブランドイメージやストーリーを的確に消費者へと伝えるのに苦労しています。たとえば自動車業界を考えてみると、ショールームでの展示や販売によって、製品だけでなくブランドイメージを消費者へと伝える努力を継続しているといえます。
しかしユーザー目線で考えると、ショールームに行くのは手間がかかるうえに、敷居が高いと感じるケースも多いといえます。
そこで、ファンマーケティング施策の一環として活用されるのがAR技術です。高級自動車メーカー・アウディでは、顧客とのリアルコミュニケーションの垣根を超えるためにARを活用し、アウディの最新モデルを目の前に表示させる工夫を凝らしました。この3Dモデルの再現が精巧だったことにより、従来の方法と比べものにならないほどユーザーへの訴求力が向上しました。
このように、 ARは単なる販売促進ツールのみならず、ブランディングも含めた中長期的なファンマーケティングを支援する手法としても活用できます。
ARショッピングの活用事例をご紹介

最後に、ARショッピングの活用事例を3つご紹介します。
ARワインアプリ「Vivino(ヴィヴィノ)」
多くの方が愛飲するワインですが、詳しくない人にとっては名称やラベル、ブドウ品種などからどのようなテイストや特徴があるかを判別することは難しく、十分に楽しめていないというのが現状です。
このような嗜好上の課題をAR技術によって解決を試みているのが、デンマーク発のVivino社が提供するARアプリ「Vivino」です。
VivinoはVuforia EngineをベースにしたARアプリ。Vuforiaとは、スマホやウェアラブルデバイス等に対応したAR開発用ライブラリのことを指します。
Vivinoでは、手にとったワインボトルのラベルをスマホカメラで読み込むと、ワインの評価やレビュー、平均価格などの情報が表示されます。他ARアプリのように特別なAR画像が表示されるわけではありませんが、 ラベルを写すといった単純なオペレーションだけでワインを認識し、上述の情報を簡単にチェックできるのはVuforiaだからこその機能だといえます 。
Vivinoは全世界で2,000万人以上のユーザーを抱えており、このアプリを通して得られたデータをもとにして、消費者に人気のワインをリストにまとめるなどのデータ活用も、積極的に進めています。
AR作成ツール「COCOAR(ココアル)」
家庭用階段昇降機の製造・販売等を行うティッセンクルップ・アクセス・ジャパン株式会社では、自社の商品カタログにAR作成ツール「COCOAR(ココアル)」を活用しています。COCOARとは、低コストでオリジナルARコンテンツを簡単に作成できる点が特徴のサービスです。
営業マンが商品の説明をする際にARで実際の設置イメージや大きさ、移動スピードなど、カタログだけでは伝えきれない製品のイメージを伝えることができるので、より具体的なイメージを顧客に持ってもらえるというARならではのメリットを最大限に活かしています。
レンタルウォッチサービス「KARITOKE(カリトケ)」
レンタルウォッチサービス「KARITOKE(カリトケ)」は、1,000種類以上の腕時計を自宅で “視” 着できるAR機能をリリースしました。
ARマーカーとなる腕時計型の専用メジャーを腕に着用後、サイトの中から試着したい腕時計を選んで「ARで試着する」ボタンをタップ。その後ARアプリ「scale post viewer AR」を起動し、専用メジャーを読み込むと、画面に映し出された自分の腕に、該当の腕時計が現れるというサービスです。
「AR×腕時計」の事例は増えており、同社以外にもCITIZENが店舗へ訪れるきっかけを作るために、自宅やカフェで気軽にCITIZENの時計を体感してもらえるARサービスを実施しています。
ARショッピングは、既存販売チャネルのデメリットを解消する
このようにAR技術は、実店舗やECサイトといった販売チャネルでのデメリットを解消して強みを創出するという、小売業界において非常に有用なツールです。
一方で、「とりあえずARを使って何かしよう」といったように、ARの利用そのものが目的化してしまうケースも多くあります。導入することによってどのような効果がもたらされるのかを事前に検証し、自社にとって最も効果的な方法での利用がおすすめです。
今回ご紹介したARの利用方法や導入事例を参考に、ぜひARを活用してみてください。