いま、世のなかではかつてないほどに、「非対面・非接触」での社会活動の機運が高まっています。このメガトレンドは、働き方改革に起因するテレワーク・リモートワークの流れから端を発したわけですが、その動きを急加速させた要因として、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症が挙げられます。感染拡大防止のために、いかに人と会わないで生活するかが求められたことは、記憶に新しいのではないでしょうか。
非対面・非接触を前提とするニューノーマルな社会において、ARやVR技術はどのような役割を担うことになるのか。本記事では、ビジネスシーンから個人消費の領域まで、5G環境の整備によって活用の期待値が高まっているAR/VRが実現する非対面社会への期待値や現在地をお伝えします。
オフィスワーカーのテレワーク
AR/VRは、通勤していたオフィスワーカーの「テレワーク」支援ツールとして活用されることが期待されています。
たとえば、スマートグラスやARグラスによるバーチャルデスク・ソリューションが考えられます。ディスプレイとなるグラス上に、業務で必要となる各種情報を投影して操作することができるようになるので、物理的なデスク環境に左右されず、テレワークを実施することができるでしょう。
また、仮想空間上にオフィスを設置し、そこでアバターを使った業務コミュニケーションができるバーチャルオフィスの活用も、中長期的な活用方法として期待されています。物理的に離れていても、フリーアドレス制でその日の座席を決めたり、バーチャル空間上のホワイトボードやディスプレイを使って資料を投影して議論を進めるなど、リアルなオフィス環境の再現も可能になると考えられています。
なお、テレワークでのAR/VRの活用については、以下の記事も参照してください。
AR・VRを使ったテレワーク。非接触 × 遠隔での業務実施は、どこまで可能になっているのか
製造・建築現場支援
製造業や建築業においても、AR/VRの活用期待値は高まっています。背景にあるのは、現場対応できる人材の不足と、それにともなう技術継承の難しさ。特に後者については、「仕事は先輩の背中をみて覚える」という現場特有の空気感も相まって、マニュアルを作成して技術や技能を標準化する文化が薄く、それゆえに属人性から抜け出しにくい構造となっています。
これに対してAR/VRを活用すると、たとえばバーチャル空間上で熟練工の手の動きを再現して学ぶことができたり、リアルな空間に対してディスプレイ越しにマニュアルや注意事項など各情報を表示させ、ハンズフリーで学びと実践のアクティブラーニングを進めることができます。
たとえばアウトソーシングテクノロジーが提供する「AR匠(エーアールタクミ)」では、上記のようなARのメリットを活かし、ゴーグル型ウェアラブル端末装着によって訓練者が熟練工と視界をリアルタイムで共有して作業できるプラットフォームを提供しています。体を動かしながら仕事を学び、また遠隔から熟練工の指示を仰ぐことで、基本的な知識だけでなく、重さや音、色、温度など、五感を活用したノウハウを習得しやすい環境を構築することが可能です。
なお、製造業でのAR活用については、以下の記事もご参照ください。
ARは製造業をどう変えるのか?製造現場で活用できるARソリューションをご紹介
また、建築業でのVR活用については、以下の記事をご覧ください。
VR×建築の可能性とは?建築業界におけるVRの実用性やメリットを解説
さらに、上述のような現場作業を前提とする業界での「技術・技能伝承」問題に対するAR/VRの活用については、以下の記事が参考となるでしょう。
新たなる「技術・技能伝承」手法として注目されるAR/VRソリューションについて解説
観光や不動産見学など一般消費者向けサービス支援
ここまではビジネス領域における活用をみていきましたが、VR/AR技術は一般消費者向けサービスでも非対面ソリューションとして活躍します。
たとえば観光業界。HMDを装着してバーチャル空間上での旅行体験を提供する「VR旅行」は最もポピュラーな使い方ですし、旅行前の旅程イメージや現地訪問イメージをリッチ化させるようなVRの使い方も実践されています。ホテルの内部をVRで360度チェックできるサービスなどは、後者の用途タイプになるでしょう。
また、同じ要領でAR/VRの活用が進んでいるのが不動産業界。特に注目されているのが、VRによる内見・内覧の非対面化、現地への非訪問化です。入居後トラブル防止に向けて住まいの事前チェックは必要不可欠だからこそ、モデルルームを何ヶ所も回ることなく、VR内見でチェックできるのは、非対面の実現はもとより、時間の短縮化や効率化の観点でも大いに役立つことが期待されています。
そのほかにも、結婚式でのVR活用や、ショピングでのAR活用など、私たちの生活のさまざまなシーンで、AR/VRの活用による社会の非対面化は進んでいるといえます。
ショッピング領域でのAR活用については、以下の記事もご参照ください。
ARショッピングがネットの買い物をどのように変えるのか!?導入事例から学ぶ活用のポイントとは
医療支援
非対面化トレンドは医療領域においても進んでいます。特にコロナ禍によって遠隔医療へのニーズは高まり続けているといえます。
医療でのAR/VR活用としては、以下の用途が考えられます。
- 手術支援・遠隔支援:手術を執刀する医師やチームをサポートするための手段として
- 診察・患者説明:一般的な診察シーンや、インフォームドコンセントにもとづいた患者への症状や術式の説明手段として
- 治療・リハビリ:トレーナーごとの訓練内容等を均質化し、適切なタイミングでの介入を支援する手段として
- 教育・研修・訓練:「失敗しても大丈夫」な臨床や手術の訓練手段として
たとえば最初の「手術支援・遠隔支援」の活用例として、執刀医が装着したARゴーグル経由で遠隔地からリアルタイムの手術状況および各種生体データを確認することができるので、複数医師による遠隔支援を実現することができるでしょう。手術の現場における密な環境を回避する非対面ソリューションとして、医療でのAR/VR活用は期待値が高まっています。
なお、領域領域でのxR活用については、以下の記事もご参照ください。
医療分野で活用できるAR/VR/MRソリューションとは?外科手術支援から心療内科まで活用事例8選を解説
教育支援
ここまでは主に産業界でのAR/VR活用をみていきましたが、教育領域においての利用も進んでいるといえます。
たとえばARを公教育に取り入れると、現実の世界に被せる形で目の前に3Dコンテンツを表示させることができるので、これまで教科書の平面的な写真をもとに自分の頭でイメージするしかできなかった事象を、よりリアルな形で追体験して学ぶことができるようになります。
これは教室内における集合学習に現場はもちろん、ARグラスやVR-HMDなどを持ち帰ることで、自宅でもリッチコンテンツによる学びを享受することができるようになるでしょう。
また座学のみならず、たとえば校外学習のようなケースでも、教室のメンバー全員で遠足に出るといった手段の他に、全員でVR-HMDを装着することで、遠隔でも自然や遠足先の都市・地域の様子を楽しむことができるようにもなるでしょう。
もちろん、情操教育の観点では対面教育の貴重さはいわずもがなですが、非対面での実施に優先順位がある場合は、AR/VRは非常に有効な手段であるといえます。
エンタテインメントの遠隔提供支援
最後に忘れてはいけないのが、エンタテインメント領域における非対面ソリューションとしてのAR/VRです。
たとえばスポーツ観戦においては、VR-HMDを装着することでスタジアムで観客席に座っている状態と変わらない視点・視野でスポーツ観戦をすることができるので、テレビなどよりも臨場感のある形で応援ができます。また、気になった選手の情報を同一ディスプレイ上に表示させてチェックすることもできるので、シームレスな情報取得を通じて、より豊かな試合鑑賞を楽しむことができるでしょう。
スポーツ観戦領域でのVR活用については、以下の記事もご参照ください。
VRでスポーツ観戦するメリットや具体事例を解説!バーチャル空間ならではの視点や演出が可能に
また、アート鑑賞のような施設での展示系イベントシーンでも、普段は近づけない展示物が間近で見られたり、作品の内部構造や、超拡大した際の素材の様子など、普通は肉眼で見れないような視点からの鑑賞も可能とします。
アート鑑賞領域でののAR/VR活用については、以下の記事もご参照ください。
アート・イベントシーンで拡大するxR活用
この他にも、VR映画やVRライブなども着々と提供ケースが増えてきており、非対面でのエンタメ消費も、一種の文化として一定の認知が広がり始めています。
コロナ禍だからこそAR/VRへの期待値が高まっている
以上、今回は非対面社会を実現するソリューションの一つとして、さまざまな業種業態におけるAR/VR活用についてまとめていきました。社会全体で5G導入などの通信環境整備が急速に進みつつある状況だからこそ、その注目度も高まっており、具体的なソリューションおよび活用事例も増えてきている印象です。
コロナ禍を経たニューノーマル社会では人との接触が従来よりも憚れる状況だからこそ、AR/VRを活用したリッチなバーチャルコンテンツを生活に導入してみてはいかがでしょう?