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実現可能?ARコンタクトレンズの課題と、国内外の動向を解説

実現可能?ARコンタクトレンズの課題と、国内外の動向を解説

現実世界の視野に対して、さまざまなデジタル情報を重ねあわせて見せるAR技術。これまではヘッドマウントディスプレイ(HMD)やメガネ型ディスプレイ、もしくはスマホ画面など、どうしても物理的なスペースや装着感のあるデバイスが前提となっていたわけですが、ここ数年で飛躍的に期待値が高まっているのが、ARコンタクトレンズです。 しかし、いまだに実用化に至っていないのも事実。具体的にどのような仕組みの技術で、現状どのような課題があるのか、国内外の具体事例とともにご紹介します。

現実世界の視野に対して、さまざまなデジタル情報を重ねあわせて見せるAR技術。これまではヘッドマウントディスプレイ(HMD)やメガネ型ディスプレイ、もしくはスマホ画面など、どうしても物理的なスペースや装着感のあるデバイスが前提となっていたわけですが、ここ数年で飛躍的に期待値が高まっているのが、ARコンタクトレンズです。

しかし、いまだに実用化に至っていないのも事実。具体的にどのような仕組みの技術で、現状どのような課題があるのか、国内外の具体事例とともにご紹介します。

なお、そもそもARという技術・概念の詳細について確認されたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。

ARとは? VR・MR・xRとの違いやビジネスでの活用を解説!!

スマートコンタクトの一形態であるARコンタクトレンズ

そもそも、ARコンタクトを理解するためには、まずスマートコンタクトレンズの概念を把握する必要があります。

スマートコンタクトレンズとは、ウェアラブルデバイス(手首や頭など人間の身体に装着することが想定されたコンピューターデバイス)の一種で、大きく以下2種類の機能系統が存在します。

  • 表示用
  • センシング用

表示用スマートコンタクトレンズとは、装着することでさまざまなデジタル情報を視界に「表示」することを目的にしたデバイスです。

一方でセンシング用スマートコンタクトレンズとは、装着することで様々な身体情報をデジタルデータとして「取得」することを目的にしたデバイスです。

後者のセンシング用については、たとえば米テック大手のGoogleが2014年1月に発表した「Google Contact Lens(Google コンタクトレンズ)」が挙げられます。こちらは医療用スマートコンタクトレンズとして2012年頃から開発が進められていたもので、私たちが目から流す涙(涙液)に含まれるグルコースレベルから血糖値を測定し、糖尿病患者の体調管理を支援することを想定したものでした。結果、グルコースレベルと血糖値には相関がないことからプロジェクトは打ち切りとなりましたが、スマートコンタクトレンズの可能性を示すには十分な取り組みと発信だったと言えるでしょう。

一方で、前者の表示用スマートコンタクトレンズとして研究開発が進んでいるのが、本記事のテーマである「ARコンタクトレンズ」となります。

ARコンタクトレンズとは?

ARコンタクトレンズとは、コンタクトレンズの内部にディスプレイやデータ通信用のワイヤレスリンク、それからモーションセンサーなどを搭載し、通常のコンタクトレンズのように装着することで視界に文字や画像などのデジタル情報を浮かび上がらせることのできる技術です。

ARコンタクトレンズでは究極のハンズフリー操作が実現する

ARコンタクトレンズを装着するメリットはたくさんありますが、その中でもっとも特徴的なことは、一切の手動操作を不要とすることが前提になる点でしょう。

もちろん、既存のARグラスやヘッドマウントディスプレイでもハンズフリーの操作を前提に機能を実装することは可能なのでしょうが、往々にして付属するボタンやタッチ型センサーなど、手動操作ができる余白が存在します。それゆえに、どうしてもオペレーション動線を考える上で手動操作実装の力学が働くことになります。

一方でARコンタクトレンズを考えると、眼球にはめ込んだレンズをオペレーションとして触るわけにはいかないため、必然的にハンズフリー操作が前提になると言えます。また、遠近のピントを切り替えたり、暗闇でも明度や色彩をコントロールすることで視界全体をクリアにするなど、メガネ型ARデバイスと比較しても大きなメリットがあると言えるでしょう。

もちろん、最初はスマホやPCとの連携でレンズ上のデジタルデータを投影するという仕様が現時点では最も有力な形とされていますので、そちらのデバイス操作が最初のうちはどうしても必要になるでしょう。ただ、いずれは音声認識や眼球運動による選択など、何かしらの手動操作を前提としないオペレーション技術が進んでいくことが期待されています。

ARコンタクトレンズの活用が期待できる分野とは

ARコンタクトレンズはさまざまな分野での活用が期待されています。これまでPROTRUDEでは、AR技術における様々な産業への応用ケースを考えてきましたが、それらは全てARコンタクトレンズの活用先としても期待できます。

たとえば、昨今の社会で課題となっている「技術・技能伝承」の手法として、ARコンタクトレンズは活用できるでしょう。従来の紙やタブレットで参照していたマニュアルを網膜状に直接投影し、司会と連動させる形でリアルタイムに必要な情報が変遷していくことで、よりスピーディーに、かつマニュアル参照のための視線移動によるストレスなく、作業を進めて技術および技能の伝承を効率的に進めることができると考えられます。

また産業領域での活用のみならず、災害のような緊急時の対応が必要なケースでの活用も期待されています。たとえば両手を使わないと移動できないような災害現場においては、連絡のためとはいえ片手をふさぐスマホのようなデバイスは危険を伴う可能性があります。それに対してARコンタクトレンズを装着した場合、ハンズフリーで必要な情報を授受や、視界情報(ピントや明度)のコントロールができるので、より安全・安心に作業などをおこなうことができます。

ここに挙げたケースはほんの一例で、ARコンタクトレンズが生活者に普及すると、あらゆる業界や領域での活用が進むと言えます。以下に、スマートグラスやARグラスというくくりでさまざまな産業への活用ケースをまとめています。

スマートグラスやARグラスで遠隔支援を実現。各業界の活用事例を解説

ARコンタクトレンズの先端を走る「Mojo Lens」

ARコンタクトレンズの研究自体は、従来のAR技術や通常のコンタクトレンズの開発研究とともに昔からおこなわれています。しかし“実際に使えるもの”としての期待値を一気に高めたのは、米カリフォルニアに本社があるMojo Vision社が2020年1月に発表した「Mojo Lens」でしょう。

そもそもMojo Vision社は、アイデアや情報の融合、そして人の交流を再構築する製品やプラットフォームの開発を専門としており、Invisible Computing(インビジブル・コンピューティング)という概念を追求する企業です。

同社が展開する事業の核となるInvisible Computingは同社によると、物理的な場所を問わず、どこにいたとしても“地元にいるような感覚・体験”を提供し、あらゆる世界に関わることができるものだとしています。

その世界観を体現する同社初のプロダクトがMojo Lensということです。Mojo Lensは、「世界初の真のスマートコンタクトレンズ」という標語が掲げられているプロダクトです。まだ研究中&実証実験中で発売時期も未定ですが、2021年6月に実施された記者発表会にて同社CTOのMike Wiemer氏は「2023年の製品化を目指す」と発言しており、遠くない未来には私たちの手元にも届くことが期待されています。

具体的には、極小で最高密度のダイナミックディスプレイをはじめ、高帯域幅の低電力無線通信器や超省電力イメージセンサー、高精度のアイトラッキング技術など、100以上の特許をもとにした先端技術が詰め込まれています。

2020年12月にはコンタクトレンズメーカーの株式会社メニコンとの共同開発契約の締結も発表しており、スマートコンタクトレンズに関するレンズ素材やレンズケア、フィッティングを中心とした領域の研究開発を加速させています。

ARコンタクトレンズが抱える課題と、解決を試みる日本の研究

ここまでARコンタクトレンズのメリットや具体的なプロダクトをご紹介しましたが、まだ課題も多く存在します。なかでも技術的な課題として挙げられるのが、コンタクトレンズ内に表示した画像に対して、目がピント合わせできないということです。ピントを合わせられないため、網膜に像を結ぶことができないなどの弊害が発生することになるわけです。

この課題に対して、Mojo Vision社とは別のアプローチで解決を試みているのが、国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の高木康博教授の研究グループ(以下、同研究グループ)です。同研究グループは2021年3月に、「ホログラフィック・コンタクトレンズディスプレイ」の開発に成功したことを発表しました(プレスリリース はこちら)。この開発は、同研究グループが取り組む“コンピューター・ホログラフィー技術”への研究を応用する形で開発されたもので、レンズに内蔵したディスプレイに表示した画像に対して、目が自然にピント合わせできるようにするものです。

具体的には下図のとおり、これまでの「ピントが合わない」という課題(下図a)を解決するために、従来ではLEDにマイクロレンズを取り付け網膜に光を集光する方法(下図b)での対応が提案されていました。

しかしこの方法では、目が外界の物体にピント合わせすることで目の焦点距離が変化するため、光の集光がうまくいかなくなる問題が新たに発生します。

これに対して、同研究グループのコンピューター・ホログラフィー技術を活用することで、物体からの“波面”をコンタクトレンズ内の表示デバイスに発生させ、目が立体像に対して自然にピント合わせできるようになります(上図c)。

この研究開発成果をベースにして、同研究グループは今後、「表示デバイスや通信デバイスに関する研究者や眼科の医師などと協力して、コンタクトレンズディスプレイの実用化に向けて研究を進めたい」としています。

来たるミラーワールド社会に向けて

先述したとおり、ARコンタクトが生活者に普及すると、そのデバイスにフィットしたデジタルコンテンツも次々と登場してくることになるでしょう。特に「目」に映る情報をリアルタイムで同期することが可能になるので、連続性の高いメタバースプラットフォーム、つまりはミラーワールドとのシームレスな連携が加速することになると期待できます。

昨今の技術進歩は著しく早いため、ほんの数年先には、そんな未来が待っているかもしれません。

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