日本人にとって、ロボットは昔からアニメや映画などで親しみがある機械です。なかには、小さな体でも強い力を出すロボットもいます。ロボットは人に足りない部分を補ったり、負担を減らすために作られたもの。正確な動作を高速で繰り返せるなど、人にはない強みを多く持っています。
産業用ロボットは、製造現場が抱える課題を解決するために生み出され、人材不足や生産性向上といった、多くの課題を解決してくれるロボットです。適切な利用方法で用いれば、製造現場の課題解決に大きく貢献してくれます。
しかし産業用ロボットを扱うときは、充分な注意が必要です。動作中の産業用ロボットと人が接触してしまった場合、大きな事故につながる可能性があります。こうした事故を防ぐために、産業用ロボットを導入するためには、定められた安全対策を施す必要があります。
今回は、産業用ロボットを適切に扱うための安全対策について、理解を深めましょう。
不用意に使用すると死亡事故も起こる。産業用ロボットの危険性
適切に活用すれば、作業の効率化に貢献してくれる産業用ロボット。しかし、安全への配慮を怠ると、大きな事故を引き起こすリスクをはらんでいます。実際に、過失には以下のような事故が発生しています。
過失事例1.産業用ロボットの可動範囲内に立ち入り、マニピュレータに挟まれ死亡
夜勤の従事者が、ブラウン管パネルの製造ラインで監視業務をしていたところ、コンベア内にパネルの破片が落ちていることを発見。コンベアに近づいて手作業で破片を取り除いたものの、稼働中の産業用ロボットのマニピュレータと減速機の間に頭部を挟まれ亡くなった事故です。このマニピュレータは吸着器を有していたため、不意に触れてしまうと作業に巻き込まれる危険性が極めて高いものでした。
この事例では、ロボットを停止させずに破片を取り除いたことや、手作業で行ったことが事故につながってしまいました。また、夜間の一人作業をしており、安全管理への配慮が不足していたといえます。動作中の産業用ロボットに近づく際は、予め動作を停止し、安全確認を複数人で行うといった配慮が重要です。
過失事例2.半製品の搬送用ロボットに挟まれ死亡
経験年数4年の鋳造工が、車のシリンダーヘッド鋳造ラインの工程で、半製品を搬送するロボットに挟まれ亡くなる事故が発生しました。本来、搬送ロボットの動作中は、動作範囲内に立ち入ってはいけません。しかし、鋳造工は異常を発見して身を乗り入れ、それが原因でロボットに挟まれてしまいました。操作盤の電源スイッチは、通常のまま自動運転の状態で稼働していたことが分かりました。
この事例でも、電源を切って製造ラインを停止させることなく危険区域に立ち入ったため、労働者が亡くなるという悲劇が起こりました。
ロボットは、正しく活用できれば頼もしいパートナーになりますが、安全への配慮を怠ると、命を脅かす機械に変わってしまうのです。
安全対策を定める法律と規格について知る
産業用ロボットにはこうした危険性があるため、安全に扱うための法律と規格が定められています。
労働安全衛生規則第150条の4
産業用ロボットを運転する場合、労働者との接触の危険性をはらむ恐れがあるときは、柵や囲いを設ける必要があると定められています。また、危険を防止するために必要な「措置」を講じなければなりません。例えば、事業者は物理的な柵以外に、ロボットを安全に運転させるためのルールを策定する必要があります。
ISO10218(JIS B 8433)
この規格には、ロボットの設計や製造における安全性の保障や、ロボットに関する基本的な危険源や関連するリスクを低減するための要求事項が記載されています。
ロボットの安全性とは、ロボット本体の安全性だけでなく、設置場所や他の機器との組み合わせ、運転などを含めた総合的な運用を指します。このような全ての対象への安全防護指針も定めています。
JIS B 8433は2015年3月に一部改訂され、JIS B 8433-1、JIS B 8433-2が新たに発行されました。
安全対策が一部緩和され、協働ロボットが誕生
従来、産業用ロボットが労働者と接触することにより危険が生ずる恐れがあるときは、さく又は囲いなどの設置が必須とされていました。しかし、産業用ロボットと人との協働作業が可能かどうかは明記されていませんでした。
そこで平成25年12月に、「労働安全衛生規則第150条の4」が一部改正され、産業用ロボットと人との協働作業を可能とする安全基準が次の通り明確化されました。
(1)労働安全衛生法第28条の2による危険性等の調査に基づく措置を実施し、産業用ロボットに接触することにより労働者に危険の生ずるおそれが無くなったと評価できるときは、本条の「労働者に危険が生ずるおそれのあるとき」に該当しないものとする(以下省略)
(2)「さく又は囲いを設ける等」の「等」には、次の措置が含まれること
国際標準化機構(ISO)による産業用ロボットの規格(ISO10218-1:2011及びISO10218-2:2011)によりそれぞれ設計、製造および設置された産業用ロボットを、その使用条件に基づき適切に使用すること(以下省略)
上記2点が改正され、定められた安全基準を満たし、労働者の危険を排除することができれば、産業用ロボットと人との協働作業が承認されるようになりました。
しかし、事業者も従業員も産業用ロボットの運用には危険を伴うという認識を常に持ち、労働安全衛生規則を遵守しなければなりません。産業用ロボットを安全に運用するためには、作業員へ教育を施すなど、安全への徹底した取り組みが求められます。
安全対策は安全柵かセンサーの設置が一般的
80W以上の出力を持つロボットは、まだ安全対策が必要とされています。安全対策の主な手法は、「安全柵の設置」と「センサーによる安全確保」です。この2つの安全対策が、それぞれどのように異なるのか解説します。
安全柵設置の概要
産業用ロボットの周りに柵を設置することで、作業範囲に人が侵入できないようにします。この場合でも、作業員がアクセスするための開口部やドアが存在する囲いであれば、侵入を検知するためのドアスイッチやアラームランプが用いられます。
また、柵の内部に人がいるときにロボットが起動してしまうリスクもふまえ、「起動および再起動」の際には安全性について配慮が必要です。
センサー設置の概要
柵を設置しない場合、産業用ロボットが作業する一定の空間に人が侵入した場合、検知して知らせるセンサーを設置します。物理的な柵がないために目視することはできませんが、侵入を検知するセーフティーレーザースキャナの開発が進み、誤検知が改善しています。
安全柵とセンサーのいずれにしても、人が安全に運用できる措置を施すことが重要です。「安全柵があるから大丈夫」と安心せずに、事業者は安全ルールの策定、作業者は常に危険への意識が必要になります。
安全対策だけでなく、特別教育も必須。併せて確認しよう
産業用ロボットを安全に活用するには、安全柵やセンサーの設置、ルールの策定などが定められています。また、ロボットについて正しい知識を備えておくことも必要です。
産業用ロボットを導入するためには、安全対策を実施するだけでなく、作業にかかわる全員が産業用ロボットについて特別教育を受けることも法律で定められています。特別教育の講義は、各都道府県の労働基準協会連合会で実施されているので、導入を検討している企業は必ず作業員を受講させるようにしましょう。
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産業用ロボットの危険性や安全柵の設置など、手間のかかる面をご紹介しました。しかし、産業用ロボットは、正しく活用すれば現場の課題を解消し、生産性を大きく向上させてくれます。ロボットのメリットだけでなく、デメリットも正しく理解することが、導入を成功させる第一歩になるはずです。