近年xR分野で取り上げられることの多いマイクロソフト社の「HoloLens(ホロレンズ)」では、ディスプレイ越しにCGなどの情報を映し出し、目の前に本来存在しないはずの物体を見ることができます。
このように現実に仮想の情報を重ねあわせる技術をMR(複合現実)といいますが、「目の前に何らかの映像を映し出す」という観点では、「3Dホログラム」というアプローチもあります。
当記事では、3Dホログラムの基礎知識と技術的なしくみ、ビジネス活用の現況や製品・サービス事例までを解説します。
3Dホログラムとは?
3Dホログラムとは、現実空間において360度あらゆる角度から見える立体映像です。
テレビやパソコン、スマートフォンのディスプレイといった平面の中に映る立体映像とは一線を画し、まるで本物のオブジェクトが目の前にあるかのように見ることができます。
現実にデジタルデータや仮想オブジェクトを反映させる意味では、AR(拡張現実)やMR(複合現実)と似ていますが、3Dホログラムを見る場合はスマートグラスなどの媒体が必要ありません。
肉眼でも空間上の立体映像を見られるようにするため、「xR」とは区別して考えられるのが一般的です。
ただし何もないところで、どこでも利用可能というわけではなく、映像を空間に投影するためのしくみは必要となります。
簡単な原理としては、平面のディスプレイの中に映像を映すのではなく、空間の中に映像を浮かび上がらせるイメージです。
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3Dホログラムはなぜ立体的に見える?
3Dホログラムでは、なぜ映し出される映像が立体的に見えるのでしょうか。
これには、人間が映像を脳内で処理する際のしくみが関係します。
人間が何かを目で見て認識する際は、光源から物体を介して反射される光(物体光)を網膜に像として映し出し、これを外界からの情報として処理します。
光は波の性質を持っており、波の振れ幅(振幅)によって光の強さを、波の長さ(波長)によって色を、また位相によって光が来る方向を表します。
これらの情報を処理することで、空間上にある物体が「目の前にある」と感じることができるのです。
映像のしくみも光を利用していますが、平面のディスプレイでは位相まで表現できません。
これに対して3Dホログラムでは、光の振幅・波長・位相がすべて記録されているため、臨場感のある立体映像を映し出せるのです。
光の記録と再生のしくみ
3Dホログラムの正体は、位相を含む光の照射によって生まれる立体像です。
そのため3Dホログラムを実現させるためには、物体から反射する光の記録と、それを照射することで再生する一連のしくみが必要となります。
まず、ホログラムにする物体と記憶媒体となる物質にそれぞれレーザー光(参照光)を照射し、反射してきたふたつの光が干渉するポイント(干渉縞:かんしょうじま)を記録します。
そして記録した干渉縞に対し、記録時とまったく同じ参照光を当てると、そこから回析した光が物体から反射する光を再現します。
ここでの回析光が立体像となり、あらゆる角度から物体を見ることができるのです。
このようなしくみは「ホログラフィ」と呼ばれます。
物体をその立体ごと記録する手段としては、「ボリュメトリックビデオ」という技術もあげられます。
3Dホログラムとボリュメトリックビデオは混同しやすいですが、前者は「現実空間に浮かび上がらせる映像」、後者は「現実空間をデジタルデータ化する技術」と区別しましょう。
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現状の3Dホログラム技術は疑似的な映像表現がメイン
現在の技術では、振幅・波長・位相の3つの光を記録・再生できる高度なしくみは一般的に普及していません。
しかし、3Dホログラムに近い映像表現を可能とする技術はすでにいくつか確立されています。
たとえば、半透明のスクリーンやガラスなどに映像を透過させる「ペッパーズ・ゴースト」や、水蒸気に光を反射させる「水蒸気型ホログラム」などがあげられるでしょう。
ただし、ペッパーズ・ゴーストは立体的に見えるだけで、見る角度に制限があったり、水蒸気型ホログラムは風などで映像が乱れやすいといった課題が指摘されています。
そこで近年注目されているのが「ブレード型3Dホログラム」です。
この方式は、光源がついたブレードを高速回転させ、光源が生み出す残像によって空中に3Dホログラムを投影できるしくみとなっています。
ブレードの高速回転は人の目には見えないため、どの角度からでも見える3Dホログラムを安定して再生することが可能です。
3Dホログラムが活躍するのはどのような場面?
3Dホログラムによる立体映像は、ビジネスにおいてどのような場面で活用されるのでしょうか。
主に3Dホログラムが活躍すると想定される2つの分野についてご紹介します。
新しいデジタルサイネージの表現
3Dホログラムが主に活躍するとみられるのは、イベントや広告におけるデジタルサイネージ*の分野です。
*ディスプレイを通じてさまざまな情報を発信するシステム
デジタルサイネージは、簡易的な電光掲示板からプロジェクションマッピングまで数々の進化を遂げてきましたが、3Dホログラムがその次の形として注目されています。
3Dホログラムを映像コンテンツとして活用することで、ターゲットへの強烈なインパクトと訴求力を発揮し、広告として高い効果が期待されます。
また、現在空間演出として高い印象効果を与えられるのはプロジェクションマッピングとされていますが、大規模な制作と継続的な利用にコストがかかりやすいのがデメリットです。
これに対し3Dホログラムは、比較的小規模のコストでプロジェクションマッピングと同等の印象効果を発揮できるといわれています。
リアリティのあるリモートコミュニケーション
お互いが顔をみながらリモートでコミュニケーションをとる手段としては、ビデオ通話が現在の主流です。
とりわけリモートワークがニューノーマルになりつつある昨今では、ビデオ会議を利用する企業が増えています。
しかし、テレビ会議の場合とオフィスで対面して行う場合では、後者の方が相手の細かい表情の変化に気づきやすかったり、話す間合いが取りやすかったりと情報を豊富に得られると感じる人も多いでしょう。
そこで、3Dホログラム通話というアイデアが注目されています。
互いの立体映像を見ながら会話することで、物理的な制約を受けず、 対応に近いリアリティのあるやり取りが可能になるのです。
3Dホログラムの製品・サービス化事例
3Dホログラムを活用したビジネスイメージをより具体的にするため、近年企業がどういった製品やサービスを提供しているかをみてみましょう。
いずれも360度からみられる完全な3Dホログラムには至りませんが、その実現に着々と歩んでいることがわかる内容となっています。
NTTコミュニケーションズ「エアリアルUIソリューション」
NTTコミュニケーションズ株式会社が提供する 「エアリアルUIソリューション」は、特殊ガラスに立体を映し出す3Dホログラム技術です。
2019年4月の一部期間で日本航空株式会(JAL)がトライアル導入しており、空港のラウンジで3Dホログラムの従業員がリモートで顧客対応する業務が実施されました。
このように長期間の受付業務が必要となる場面で、3Dホログラムがスタッフの負担減少に寄与する効果が期待できます。
そのほか、同社のコンサルティングを受けながらの導入となるため、専門知識も不要で幅広い活用シーンに対応できるでしょう。
Life is Style「3D Phantom」
株式会社Life is Styleの「3D Phantom」は、LED光源のついたブレード型3Dホログラムディスプレイです。
立体映像はもちろん音も組み合わせて出すことができ、ブランドロゴや商品の映像などの映像広告に適しています。
同製品は現在3Dホログラム映写機として国内有数の導入社数を誇り、今後は公共交通機関や商業施設で立体広告を目にする機会が増えるかもしれません。
世界初の個人向け3Dホログラフィック・ディスプレイ「Looking Glass Portrait」
2020年12月、アメリカ・ブルックリンに拠点を置くLooking Glass Factory社は、世界初という個人向け3Dホログラフィック・ディスプレイ「Looking Glass Portrait」を発表しました。
同製品は独自の光学系を搭載することで、ディスプレイを通して浮かび上がる画像を立体的に閲覧することができます。
映し出せるホログラフは、クリエイターによって制作されたオブジェクトから、ホログラフィック対応のカメラで撮影した画像までさまざまです。
ヘッドセットなどの関連機器が不要なことや、一部モデルによってはスタンドアロン*であるため、一般消費者向けに普及しやすいモデルとなっています。
*外部のコンピュータや情報機器と接続しなくても単体で動作する環境
2021年7月にはより大きい画面の新モデルが登場するなど、今後のラインナップに注目です。
3Dホログラムは次世代の空間演出やコミュニケーションの手段となる
光の記録と再生による高品質な3Dホログラムの実現時期は未知数ですが、ダイナミックな表現方法としてホログラムを活用したビジネスはすでに存在します。
将来的には街や商業施設を歩くと立体広告を目にする機会は増えるでしょうし、ホログラムでコミュニケーションが可能なパソコンやスマートフォンの普及もありえるでしょう。
ホログラム風のデジタル映像はMRがいち早く可能にすると予想されますが、裸眼で楽しめる次世代の空間演出やコミュニケーション関連のツールとして、3Dホログラム技術の動向にも注目です。