膨大なデータを学習し分析する、あるいは新たなデータを生み出すことが可能なAIは、徐々にビジネスにおいて活用され、さまざまな恩恵をもたらしています。たとえば議事録の作成や新たなアイデアの創出など、生成AIを含むAIの活用事例が後を絶ちません。
その中で、特におすすめできる活用法のひとつが「AIを用いた文書検索」です。本記事では、文書検索にAIを用いるメリットや、導入のポイントについて解説します。
文書検索の仕組み
文書検索とAIの関係性を説明する前に、普段何気なく行なっている「情報の検索」がどのようなメカニズムで実行されているのかを知っておきましょう。
情報検索のメカニズム
膨大な情報データから条件に合致するデータを抽出する一連の流れには、以下の5つの要素が関わっています。
- データベース:検索する「場所」であるデータの集合体
- 個別のデータ:検索する「対象」となる個々のデータ
- メタデータ:あるデータにもとづいて生成された、「データの内容」を表すデータ
- 検索アルゴリズム:ユーザーの目的に合致するデータを抽出する仕組み
- インターフェース:検索キーワードなど条件を入力し、また検索されたデータを確認する画面
具体的な情報検索の過程は次の通りです。
- ユーザーがインターフェースに検索語句や条件を入力する
- 検索アルゴリズムがデータベースに存在する個別のデータ、およびメタデータを参照し、条件に合致するデータを抽出する
- 抽出されたデータがインターフェースに表示され、ユーザーが確認できる状態になる
以上が情報検索のメカニズムですが、その中で特に文書データを検索する場合を指して文書検索と呼びます。そして文書検索システムの大半には、文書データの一部ではなく、文書全体を参照したうえで条件に合致するかを判断する「全文検索」が用いられています。
全文検索の方式
文書検索の要となる全文検索ですが、さらに細かく見ていくと大きく分けて2つの方式があります。
逐次検索(grep型)
逐次検索は、検索が実行された都度対象となるデータの全文を参照し、条件に合致するかを判断する検索方式です。高い精度でデータを検索することができますが、1回の検索で大量のデータを処理するため、検索対象となるデータが多いほど検索に時間を要します。
このような特性上、リアルタイムにデータが変動し、かつ対象となるデータ数が限られている場合に使用されるケースが多い方式です。代表例として、ソーシャルメディアや、ニュースメディアにおける検索があげられます。
索引検索(インデックス型/索引型)
索引検索は、事前にデータの全文を参照し作成された索引を頼りに、条件に合致するかを判断する検索方式。索引はインデックスとも呼ばれ、そのデータに含まれる単語や、記載されている内容を分析し、集約したメタデータの一種です。
逐次検索とは異なり、検索の都度データの全文を処理するわけではないため、処理速度が速い点が特徴としてあげられます。Google等の検索エンジンをはじめ、検索対象となるデータが多く、かつ速度が求められる検索システムの多くが採用しているのも索引検索です。
ただし本来のデータではなく、二次的に作成した索引を検索の対象としているため、逐次検索と比較して精度は落ちる傾向にあります。また、索引検索が採用されている環境では本来のデータに加えて索引の生成が伴うため、データの容量が増加し、保存領域を圧迫する点がデメリットです。
文書検索における問題点
さまざまな要素が組み合わさって実行される文書検索ですが、目的としているデータが存在するにもかかわらず、うまく検索結果に表示されない場合があるかもしれません。文書検索には、このような状況を引き起こす問題点が残っています。
一例として、「Aというトラブルの対処方法」を調べるため「A 対処法」というキーワードで検索した場合を考えてみましょう。本来目的としているデータに次のような表現が用いられている場合、検索システムの精度によっては、「Aの対処法」が書かれたデータであっても条件に合致していないと認識される可能性があります。
Aの対応方法 | 検索キーワードと完全に一致する文書のみを抽出するシステムの場合、類似する単語を見逃してしまう |
Aの後処理 | 類似する単語を判別できる場合も、「類語」の判定基準によっては見逃されてしまう |
Aについて Aの解説 | 内容に対処法が含まれる場合も、検索キーワードと類似した表現がないと「対処法である」と判別できない |
deal with A | 検索キーワードと同じ言語で書かれていない場合、類義語であっても認識できない |
索引検索ではデータの全文から索引を生成し、さらにその索引をキーワードをもとに検索するため、「索引が内容を正確に反映していない場合」と「検索時に索引を正しく判別できない場合」の二重のリスクがあります。逐次検索であれば索引生成時のリスクはありませんが、検索時のリスクは残るため、時間をかけて逐次検索を実施すれば必ずしも正確な検索結果が得られるというわけではありません。
文書検索にAIを用いるメリット
文書検索の仕組みと問題点を踏まえ、AIを用いるメリットを見ていきましょう。文書検索にAIを導入することで、次の3つのメリットが期待できます。
検索の精度が上がる
AIが判別できるのは、文書に含まれる単語やその類語だけではありません。前後の文脈や、日本語/英語等の違いも含めた文書の「意味」を汲み取れるため、表現が違えど意味するところが同じであり、検索条件、あるいは検索の目的に合致している情報をより正確に抽出することができます。
また、あるキーワードに対する検索結果の中で多くのユーザーに閲覧されている、つまり検索目的により合致している文書を学習し、優先的に表示させるといった最適化もAIに期待できる機能です。
検索の幅が広がる
AIを導入することで、検索される文書だけでなく、検索キーワードから意図を読み取る精度も向上します。入力された単語を軸とする検索システムでは難しい「○○な時には何をしないといけない?」といった口語的な検索も、AIを用いれば可能です。
AIと音声認識システムと組み合わせることで、誰かに質問するような感覚で文書を検索する音声検索が実現できます。音声入力だけでなく、文書データそのものや、文書が含まれる画像データを提示することで内容や検索の意図を理解し、関連するデータを検索するといった検索方法もAIならではのものです。
より有益な検索結果を得られる
AIは、あるデータを検索したユーザーの属性や検索前後の行動を学習し「似たユーザーが他に見るべき情報」を提案することが可能です。たとえば、「AI」というキーワードを検索したユーザーが直後に「DX」に関するデータを検索するケースが多い場合、別のユーザーが「AI」と検索した際に「AI」に関連する文書と「DX」に関する文書を同時に表示するといった形で、ユーザーがより有益な検索結果を得ることができます。
文書検索にAIを導入する方法
実際に文書検索にAIを導入する場合、どのような方法が考えられるのでしょうか。AIの導入に際しては、主に2つの方法が考えられます。
パッケージシステムの導入
さまざまな企業への導入を前提に、AIを組み込んだパッケージシステムを提供している会社は少なくありません。パッケージシステムは、自社の業務に即した初期設定を行うだけで運用できる、開発コストを抑えられるなど導入時の負担が少ないうえ、管理や保守もシステムベンダーが速やかに対応できる点がメリットです。
文書検索に特化したシステムだけでなく、チャットボット機能やデータの分析機能など、「AIを用いた業務効率化ツール」の機能のひとつとして文書検索が可能なシステムもあります。導入を検討する場合、コストはもちろん、「システムを利用する部署・ユーザー」や「導入によって効率化したい業務」の範囲を明確にしたうえで、適切なシステムを選定すべきでしょう。
独自開発
既製のパッケージシステムを用いるのではなく、自社の業務に最適な機能を揃えた独自のシステムを開発することも可能です。既存のデータベースにAIを連携させる、データベースとAIを組み合わせたシステムを新たに開発するなどの方法が考えられるでしょう。
AI開発会社や、ITコンサルティング会社の支援を受けるのが一般的ですが、システムの規模や自社のリソースによってはインハウスでの開発を検討できる場合もあります。
導入時のコストや時間は必要となるものの、独自かつ複雑な機能が求められる、既存のシステムのリプレイスが難しいといった際に適しているのが独自開発です。一方で、自社の業務フローや必要な機能、システム利用者の要望を正確に洗い出し要件定義を行う、要件にそった開発やテスト、保守管理を実施するといった高度な知識が求められることは押さえておかなければなりません。
何気ない「検索」がAIで進化する
PCやスマートフォンといった情報端末が発達した現代、「情報を検索する」という行動はビジネスだけでなく、日常生活でも必須であると言って過言ではないでしょう。そして誰もが、思うような情報が見つからず不満を感じる可能性があります。
ビジネスにおいて必要な情報が出てきた、トラブルが発生したといった際、必要な情報を見つけることができなければ、時間的にも金銭的にも大きな損失を招くかもしれません。そのような場合でなくとも、知りたい情報をすぐに得られる環境は、業務の効率化、ひいては製品やサービスの品質に直結します。
事業が長期化し、ノウハウを中心としたデータが蓄積するほど必要となる文書検索を大きく変えるAI。DXの第一歩として検討するのはいかがでしょうか。