自律的に考える工場「スマートファクトリー」には工作機械のスマート化が不可欠とされ、「umati(ユーマティ、ウマティ)」はその下支えとなる重要なインタフェース規格です。現時点で正式な規格化はされていませんが、製造業における通信インフラの次期スタンダードと噂されています。今回は、umatiの概要やスマートファクトリーとの深い関連、具体的な技術内容を解説します。
umatiとは?工作機械のインターフェース
umati(universal machine tool interface)とは、工作機械がネットワークを介して上位のITシステムと接続し、データ交換をするための共通インタフェース規格です。
ここでのインタフェースとは、ハードウェア機器同士を接続するためのコネクターに関する形状の規格や送受信の方法、ソフトウェア間でデータのやり取りをする際の形式(API)を共通化する技術を指します。
現在、VDW (ドイツ工作機械工業会)が主体となり、多くの工作機械メーカーや制御装置メーカーが参画してumatiの策定に取り組んでいます。
規格化の背景は「スマートファクトリー」
umati策定の背景には、産業界が実現を目指す「スマートファクトリー」が大きく関係しています。スマートファクトリーは、あらゆる機器や設備、作業などのデータを「つなげる(収集・解析・活用)」ことで、新たな付加価値を生み出す工場です。
近年の工作機械は技術進歩により、CNC(コンピュータ数値制御)による加工自動化や外部システムとの連携、ソフトウェアによる稼働監視など、生産性向上を目的としたデータ通信が可能になりました。
しかし、工作機械がシステムと接続する方法やデータフォーマットはメーカーによって異なります。その場合、複数メーカーの工作機械を導入している工場は、それぞれの機械メーカーの接続方式やデータフォーマットに対応した通信ソフトを開発しなければなりません。
裏を返せば、さまざまな工作機械がシステムに接続する方法、つまりインタフェースの規格が共通化されれば、個別に通信ソフトを開発せずともスマートファクトリーの実現につながると言えます。
こうした背景から、工作機械用のインターフェース共通規格となるumati策定に関する議論が始まったのです。
参考記事:スマートファクトリーとは?メリット・デメリットを事例と一緒に解説
umati規格に沿ったデータ通信構成
umati規格に沿った工場のデータ通信構成について詳しく見ていきましょう。この構成には、以下3つの機能が存在します。
- データ管理機能
工場で稼働している工作機械の運転状態や、CNCが保有するパラメータ(制御方法や状態を管理するコンピュータ上の値)など、制御装置や関連ソフトウェアが保有するデータを保管・管理する機能です。 - データ取得機能
保管・管理されているデータにアクセスして、工場の状態に関する情報を取得する機能です。制御装置は動的に変化し続ける情報を管理するだけで、その情報を利用するためには、データにアクセス可能なクライアント端末が必要となります。 - データ変換機能
クライアント端末によって取得したデータを、umati規格のデータフォーマットに変換する機能です。取得元のデータは、制御装置や機械のメーカーが異なると、その形式もメーカーに依存します。
例えば、CNCにおけるプログラム開始を意味するパラメータや、自動・マニュアルなどの運転方法を決定するパラメータなどの設定値は、メーカーごとに数値の統一性がない場合がほとんどです。umatiでは、特定の制御に紐づくパラメータを全ての機器で統一することになります。
外部システムへのデータ送信には「OPC-UA」
umati規格が実現する上記3機能によって構成されたデータは、ネットワークを通じて生産管理・受注管理・監視制御などの外部システムや、他の工場・営業所といった外部拠点へ送信することで、最大限活用可能な情報資源となります。そこで、外部へのデータ送信に使われるのが「OPC-UA」という通信規格(プロトコル)です。
OPC-UAは、汎用的な有線規格のイーサネット(TCP/IP)で送受信でき、セキュリティを考慮した通信も可能にします。さらに、OS(WindowsやMacなど)に依存せず、構造化された理解しやすいデータを扱うことも可能です。
OPC-UAは「安全・簡単・わかりやすい」の3要素が揃った情報連携を実現するため、umati構成と連携するプロトコルとして採用されました。
参考記事:OPC UAはインダストリー4.0時代の新規格。特徴や導入事例を紹介
データは下流から上流への一方通行
umatiを用いた具体的な機器構成例としては、工作機械自身がumatiの機能を備える場合と、umati機能専用の中央制御装置が工作機械からデータを吸い上げる場合があります。
いずれの場合にも、データの流れは下流の工作機械から上流の外部システムへの一方通行です。現時点の仕様では、外部システム側からumatiを用いた機器制御を行うことはできません。
本質的には、工場の稼働情報を利用し、生産をコントロールする仕組みが別に必要です。したがって、umatiはツールではなく、インフラと捉える方が適切でしょう。
参考:『工作機械の共通インタフェース「umati」とは何か? 』 MONOist
umatiはリリース間近。製造業の常識は変わる
ドイツのハノーバーで開催された工作機械の国際見本市「EMO2019」では、特別企画『umati@EMO2019』が話題となりました。
この企画に出展した工作機械メーカー約50社以上が、各々の工作機械計110台を持ち寄り、umati規格を用いた接続に成功しています。
日本からも三菱電機やファナック、村田製作所などの大手企業が参加し、世界へのアピールに成功しました。企画が行われた2019年9月時点では、既にumatiが正式にリリースされる準備段階にあることが明らかになっています。
参考:『UMATI (Frankfurt am Main) 』 EMO 2019
今後はumatiに対応した工作機械やITシステムが増加していく見通しです。工作機械に付属するパレットチェンジャーや産業用ロボット、またこれらを統合した自動化システムなどの情報も取り扱い可能なバージョンアップが検討されています。
さらに、umatiは基本的に無料で誰でも同じインタフェースが使えるため、中小企業でもこの新たな枠組みに参加できます。umatiによって工場内のあらゆる情報を監視し、それを元に最適な生産管理が可能になれば、スマートファクトリーが製造業の常識となる時代は遠くはありません。
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