「製造現場が抱える課題を解決できる」と注目が集まる産業用ロボット。産業用ロボットにはいくつかの型があり、それぞれ強みが異なります。
垂直多関節ロボットは、現在の製造現場において主流の型です。その垂直多関節ロボットが大幅な進化を遂げており、日本だけでなく世界中の製造業者が垂直多関節ロボットに関心を寄せています。
今回は、垂直多関節ロボットに注目が集まっている理由だけでなく、構造やメリット、実際の用途などもご紹介します。
製造現場へのロボット導入を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
技術の進歩で垂直多関節ロボットの性能が著しく上昇
産業用ロボットは人間の代わりに単純作業を行わせるために生み出されました。産業用ロボットは、生み出された当初から人に代わって作業を行っていたものの、当時の性能は導入コストに見合っているとは言えませんでした。
しかし、技術の進歩に伴い、ロボットの性能が格段に上昇。また、人材不足と人件費高騰の問題も相まって、産業用ロボットを導入するメリットが増えました。
産業用ロボットのなかでも、垂直多関節型が人気を集める理由は、人間に近い動きが可能だからです。構造が人の腕に似ているので、人の動きに近い精密な作業を得意としています。
以前の垂直多関節ロボットは、駆動源に油圧を使用していましたが、近年はモーターが主流になり、モーターを電子制御することで緻密な作業ができるようになりました。
同時に、センサーの精度が上昇して正確な情報を取得できるようになり、こうした情報を処理するCPUの性能も格段に上がったため、これまで人にしかできない作業も担えるようになったのです。
多くの軸と関節を活用。人に近い動きを可能にする構造
次に垂直多関節ロボットの構造についてご紹介します。このロボットは、「6軸ロボット」や「5軸ロボット」とも呼ばれています。産業用ロボットのなかでも軸が多いのが特徴です。
ロボットの軸は人間の関節に近い役割を担っており、軸が多いほど自由に動けます。例えば、6軸の垂直多関節ロボットは以下の軸にわかれて動作しています。
- 腕を上下するための軸。人の上腕機能。
- 腕を回転させるための軸。手首の旋回機能。
- 手首を回転させるための軸。手首の回転機能。
- 手首を上下に動かすための軸。手首を曲げる機能。
- 体を前後に動かすための軸。下腕機能。
- 体を回転させるための軸。全体を旋回させる機能。
こうした多くの軸を持っていることで、縦、横、斜めと自由に動けます。この動作の自由度を活かせば、複数のロボットに異なる作業を行わせることで、人のような共同作業が可能です。こうした自由度に加えて、ロボットの先端部分「エンドエフェクタ」を使い分けることで、同じロボットでも搬送から組み立て、溶接などの目的に応じた作業を行えます。
しかし精密な作業ができるようになった反面、ティーチングの負担は増加。それぞれのロボットに正確なティーチングを施さなければ、誤動作などによる事故発生リスクが高まります。そのうえ、ロボットが生産ラインの主軸を担っていると、事故による被害も甚大です。
こうした課題をカバーするために、アームにセンサーを搭載して正確な位置をティーチングできるようにしたり、コントローラに液晶画面を搭載して視覚的に動かしたりするなど、操作方法もいろいろな工夫がなされています。
垂直多関節ロボットのメリットは「汎用性の高さ」にあり
精密な動作を生み出す軸の多さが魅力の垂直多関節ロボット。こうした構造上の魅力は、導入にあたってどのようなメリットがあるのでしょうか。
垂直多関節ロボットは、複数の関節を曲げることで姿勢を柔軟に変えられるため、設置面積が小さくなります。設置面積が小さければ、限られたスペースに複数のロボットを導入でき、作業効率を最大化できます。今では可搬1㎏ほどの卓上小型ロボットから、可搬500kgを超える巨大ロボットもあり、目的に合わせたシステムを構築できるようになりました。
産業用ロボットの需要が高まるにつれ、小型軽量化、低価格化も進んでいます。これまで導入コスト、ランニングコストの点から導入をためらっていた中小企業でも購入できる価格のロボットも増加。人材不足が深刻な中小企業の課題解決にも一役買っています。
また技術の進歩に伴い、デメリットも解消されつつあります。これまで垂直多関節ロボットは、水平多関節ロボット(スカラロボット)に比べ、動作スピードが遅いとされてきました。しかし最近は、モーターの性能向上や軽量化などで、高速で動作するロボットが増えているため、さらに汎用性が高くなったと言えます。
「搬送」や「検査」などの幅広い用途に対応
以前と比べて汎用性が高くなった垂直多関節ロボットは、さまざまな用途で活用されています。垂直多関節ロボットが製造現場でどのように活用されているのか、いくつかの事例とともにご紹介します。
1.単純作業にもかかわらず過酷な「搬送」
搬送は単純作業でありながら、体力と集中力が長時間必要なため、人にとって想像以上に過酷な作業。こういった理由から、搬送作業はロボット化されやすいという背景があります。
ある鋳造会社では炉から鋳造物を出し入れする作業で課題を抱えていました。従業員は高温かつ騒音のなかでの作業を強いられ、就労意欲と生産性が低下。そこで、この作業にロボットを導入したところ、作業環境の改善だけでなく、生産性を安定させることにも成功しました。
搬送物は軽量のものであっても、環境次第では過酷な作業になりえます。ロボットが最も活躍できる作業なので、自社の搬送作業に課題を抱えているなら、ロボットの導入を検討してもよいでしょう。
2.精密な作業が可能にした「組み立て」
垂直多関節ロボットの性能が向上して精密な作業が可能になったことで、これまで人の手に頼っていた細かい部品の組み立て作業も行えるようになりました。
ある自動車工場では、熟練作業員の腕に頼っていた組み立て作業をロボット化しました。属人性を排除し、人の手で作業を行ううえで絶対に免れない人為的ミスも低下。ロボット導入前は男性の熟練作業員2名で担当していた作業を、導入後には未熟練の女性作業員1名でまかなえるようになったといいます。
3.高度なセンサー精度による「検査」
高精度なセンサーと高い情報処理能力によって、ロボットを使った製品チェックを行う会社も増えています。製品の検査も属人化しやすい作業です。センサーを活用すれば、人の目では判別できない要素も検出できます。
部品工場の完成品チェックを人による目視で行っていた工場は、ロボットの導入によって属人化していた製品の品質チェックを安定化させました。
垂直多関節ロボットが行える作業は、こうした「搬送」「組み立て」「検査」だけではありません。「溶接」や「塗布」などの作業も行うことができ、設計とティーチング次第で多くの作業が可能になります。
メリットだけでなくリスクも考慮して活用する
今回は、垂直多関節ロボットについてご紹介してきました。こうしたロボットを上手に活用することで、自社の課題を解決できます。
しかし、ロボットを使用するリスクも忘れてはいけません。誤操作や暴走などにより発生する事故被害は、人為的ミス以上に大きくなる可能性があります。そのため、安全防護柵での囲いを設けるなど、それぞれのシステムに合わせた安全対策を施すことが大切です。
自社の製造現場に課題を抱えているなら、ロボット導入を検討してみてはいかがでしょうか。