近年、ARやVRなどのバーチャルコンテンツは総じて「xR」として注目されており、関連市場も拡大傾向にあります。
いま盛り上がりをみせるxRのなかでも、現時点では知名度が低く発展途上であるのが「SR(代替現実)」です。
SRはほかのxR技術とは性質が大きく異なり、同時に大きな可能性を秘めています。
当記事では、SRの基礎知識やAR、VRとの違い、活用が期待される分野について解説します。
代替現実(SR)とは?虚構を現実にみせかける技術
SR(Substitutional Reality:代替現実)とは、「現実とは違う事象を現実であるかのように認識する感覚」を生み出す技術です。
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などとともに「xR」のひとつに数えられますが、SRは一般的な認知度が低く、実用化のアイデアも発展途上の段階にあります。
しかし、SRを体験するためのシステム自体はすでに存在するため、以下に簡単なしくみをご紹介します。
SRに必要なのは、現実世界であらかじめ記録した映像や音声といった過去の情報です。
そして、SRの体験者は360度パノラマカメラ付きのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、目の前の現実空間をカメラ越しにみることになります。
その映像に対して記録された過去の情報を現実の情報と混在させることで、体験者本人が過去の出来事をいま目の前で起きている現実だと錯覚するのです。
通常、人は記録された映像をみるとき、「これは過去の出来事だ」と認識できます。
しかし、その認識を編すことができてはじめてSRと呼べるコンテンツとなるのです。
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SRが発案された背景とは?
SRの概念自体は2000年代前半から存在しており、もともとは人間の認知・心理についての謎を解き明かすために生まれました。
人間の脳には、認知に関する上位概念である「メタ認知」と呼ばれる高次認知機能が備わっています。
メタ認知は自分の知覚や記憶などの認知を客観的に把握でき、「認知を認知する」ことを可能にします。たとえば、映画をみて感動しているとき、「感動している自分に気づく」ような瞬間は、メタ認知が機能しています。
しかし、メタ認知は詳しいメカニズムが解明されていない部分の多い領域です。
そこで、「目の前に限りなく現実に近い虚構をみせたら人はどう認知するのか」という疑問のもと、虚構を現実のように思い込ませるSRの技術が発案されました。
2012年に理化学研究所 脳神経科学研究センターの研究チームが研究成果を発表して以降、VRやARなどとは異なる体験を提供するヒューマンインターフェースとしてSRが注目されるようになったのです。
SRはAR、VRとはどのように違うのか?
SRは、ARやVRなどのすでに一般的に普及したxR技術と具体的にどう違うのでしょうか。
まず、ARとVRそれぞれの特徴をおさらいしておきましょう。
AR、VRそれぞれの特徴
ARは、スマートフォンのカメラやスマートグラスなどのディスプレイを通して、視界に映る現実空間に仮想情報を投影させる技術です。
たとえば、スマホカメラに映った自分の部屋に欲しい家具のオブジェクトを試し置きしたり、スマートグラスをかけて目の前にパソコンの仮想ディスプレイを表示させたりと、現実空間を仮想情報で拡張するのが特徴といえるでしょう。
VRは、HMDなどのゴーグル型のディスプレイを通じて、視界全体にデジタルデータで構構成された仮想空間を投影する技術です。
たとえば、仮想の会議室で同療や上司のアバターと会話したり、主人公の一人称視点でゲームの世界に没入したりと、現実空間に近い感覚で仮想空間を体感するのが特徴といえるでしょう。
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SR最大の特徴は「錯覚」
SRは、ゴーグル型ディスプレイを介して現実空間へ仮想の情報を投影する形式であるため、一見してARに近い印象を受けるかもしれません。
しかし、SR最大の特徴は「体験者が目の前の仮想情報を現実のものと錯覚する」という点であり、ARやVRとは決定的に異なる点でもあります。
ARやVRでは、体験者が目の前の仮想情報に対し「これは仮想情報だ」と気づくことができる前提があります。
SRの場合、体験者は自身がSRを体験中である認識がありながらも、目の前に投影される仮想情報をほとんど現実の情報と同じ感覚で捉えるのです。
この感覚を実現するためには、映像や音声の質感の高さだけでなく、SRを体験できる状況づくりの工夫も必要となります。
つまり、バーチャルコンテンツを提供するアプローチの観点でも、ARやVRなどとは異なるといえるでしょう。
SRはどのような分野に活用される可能性がある?
SRはxR関連分野として注目されてはいるものの
一般的な市場への普及はまだ先の話となるでしょう。
では、現段階でSRはどのような分野に活用される可能性があるのでしょうか。
主に考えられるのは、「脳科学の研究」と「エンターテイメントへの応用」のふたつです。
脳科学の研究
もともとSRは、人のメタ認知について研究するための装置として考案されました。
理化学研究所の研究チームが開発したSRシステムも、あくまで認知の隙をついたトリックをみせ、被験者の脳の働きなどを調べるためのものです。
SRは人の認知機能が深く関係するため、今後デジタルコンテンツとして実用化していく上でも、当面はメタ認知をはじめとした脳科学の研究に活用されるでしょう。
エンターテイメントへの応用
SRをデジタルコンテンツとして実用化する場合、第一にゲームやアート、スポーツなどのエンターテイメント分野に活用される可能性が高いといわれています。
すでに第一人者である理化学研究所は、日本科学未来館でSRを用いた舞台「MIRAGE」を公開していたり、理化学研究所発のxRベンチャーである株式会社ハコスコはSRを応用したダンスパフォーマンス「Neighbor」を公演しています。
このように、目の前の現実を編集することによるエンターテイメントは模索が始まっている段階です。
現在のSR技術では、ARのように目の前の現実空間を編集するまでが限界とされます。
しかし、将来的にはVRのように自分がいる場所と異なる空間へ入り込み、かつそこで現実と同じ体感を得られるレベルにまで進化する可能性を秘めています。
その頃にはコンテンツとしてのSRが浸透し、現在のARやVRのような巨大マーケットとなるでしょう。
SRは近未来の現実を大きく拡張するコンテンツに
SRは人間の認知機能が高度で複雑だからこそ生まれた技術です。
人間の脳の謎から生まれたSRは、主にその謎を解明するための研究に使用されています。
研究が進みSRが実用・サービス化されるレベルまで達すれば、夢の世界に現実の感覚で入り込んだり、電脳空間をもうーつの現実として行き来したりと、近未来SFのような世界が実現するかもしれません。
その頃には関連市場の裾野も広くなり、新たなビジネスチャンスのフィールドにもなり得ます。
現実の可能性を大きく拡張することが期待されるSRの今後に注目しましょう。