VR(仮想現実)の分野は、その没入感からエンターテイメントに活用される場面が多くみられますが、近年ではソーシャル領域での活用にも注目が集まっています。
ソーシャル領域でのVR活用全般を「ソーシャルVR」と呼び、近年ではプラットフォームやそれを利用するユーザーが増えているのです。
当記事では、ソーシャルVRの基礎知識や関連マーケットの拡大背景、現在の主要なプラットフォーム3選までを解説していきます。
ソーシャルVRとは?新しいコミュニケーションのかたち
ソーシャルVRとは、バーチャル空間のなかでユーザー同士が交流できるサービスです。
VR内で楽しむSNSという意味で「VRSNS」と呼ばれることや、現実社会とは別の世界という意味で「メタバース」と呼ばれることもあります。
ソーシャルVRのユーザーは、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのデバイスを装着し、サービスが提供するバーチャル空間へアクセスするのが一般的です。
そして、主観視点から他ユーザーの姿をみながらコミュニケーションを楽しむことができます。
ユーザー同士の交流は会話やライブパフォーマンスへの参加、ゲームプレイなどさまざまで、全世界からいつでも空間の共有ができるのが特徴です。
ソーシャルVRは、物理的な制約を受けない新しいコミュニケーションの形といえるでしょう。
ソーシャルVRを構成するふたつの要素
ソーシャルVRを構成するうえで欠かせないのが、次のふたつの要素です。
- アバター
- ワールド
プラットフォームによって呼び方が異なる場合もありますが、基本的な特徴は共通します。
では、それぞれの特徴についてみていきましょう。
アバター
アバターとは、バーチャル空間上で自分が存在するための仮の姿です。
3DCGで表現されるキャラクターで、各ソーシャルVRの世界観によって人や動物などの多種多様なデザインが用意されます。
バーチャル空間内では、ユーザー同士がアバターでお互いの位置を確認しながら、ボイスチャットなどを利用して会話するのが一般的です。
VRデバイスが現実空間での動きをアバターに反映できるトラッキング機能に対応していれば、アバターの頭や腕などを動かすジェスチャーでのコミュニケーションもできます。
ワールド
ワールドは、ソーシャルVR内でアバターが自由に移動したりアクションを起こせる場所であり、バーチャル空間そのものです。
小さな部屋からライブ会場のような広い場所や広大な屋外エリアまで、サービスの用途にあった多種多様なワールドが存在します。
ワールドは基本的にプラットフォーム側であらかじめ用意されますが、個人で作成できる場合もあり、だれでも自由に入れるパブリックなワールドや招待者しか呼べないプライベートなワールドといったすみわけが可能です。
ソーシャルVRのマーケットは近年拡大傾向に。その背景とは?
近年、ワールド内でのライブイベントやデジタルデータの展示即売会といったイベント開催状況や、著名なプラットフォームの利用者数の推移などをかんがみると、ソーシャルVR関連のマーケットは拡大傾向にあります。
この背景は主に2点あり、1点目がVRデバイスの導入ハードルが低くなったこと、2点目がコロナ禍でリアルイベントが開催できない状況があげられるでしょう。
1点目については、もともとVRを楽しむためには高スペックのPCとヘッドセットが必要であり、いずれも高価で導入ハードルは高いというのが一般的な認識でした。
しかし、2020年10月にフェイスブック・テクノロジー社から発売された「Oculus Quest 2」を筆頭に、比較的安価でコンピュータとヘッドセットの一体型デバイスが普及するようになります。
将来的にヘッドセットの軽量化やさらなる価格低下が可能になれば、ソーシャルVRの利用者は今後さらに増加するでしょう。
2点目については、新型コロナウイルスの感染拡大が社会問題となるなか、感染リスクのないバーチャル空間でのイベント需要が増加しています。
この動きはコロナ禍が収束することで終わってしまう一時的なものではなく、「バーチャル空間でイベントを楽しむ」というニューノーマルのひとつになるとみられます。
ソーシャルVRの生活実態を明らかにする大規模なアンケート調査も
こうしたソーシャルVRの利用者増加の傾向を受け、ユーザーの生活実態を明らかにするための大規模な調査も行われています。
2021年8月、「バーチャル美少女ねむ」名義のVTuber*とスイス・ジュネーブ大の人類学者「Mila」が、「ソーシャルVR国勢調査2021」と題する世界初の大規模アンケート調査プロジェクトを開始しました。
*バーチャルアバターを用いてネット上で配信やライブ活動を行うタレント
この調査では、VRでの生活実態や「ファントムセンス(VR感覚)*」などにスポットを当て、世界のユーザーを対象に行い、国・地域ごとの傾向の違いを分析するとのことです。
*視聴覚しか再現されないはずのVRで様々な感覚を擬似的に感じる現象
バーチャルと社会が融合することで起こる人間のアイデンティティやコミュニケーションの変化に注目する内容となっており、今後発表予定となる結果レポートの内容に注目です。
ソーシャルVRの主要なプラットフォーム3選
現在ソーシャルVRのプラットフォームはアメリカを中心に複数展開されており、すでに多くのユーザーを抱えるものもあります。
今回は、とりわけ主要とみられるプラットフォームを3つピックアップしてご紹介します。
Facebook Horizon
Facebook Horizonは、近年VR/AR事業に力を入れているアメリカのフェイスブック社が提供するソーシャルVRサービスです。
子会社であるフェイスブック・テクノロジー社の「oculus」デバイス専用のプラットフォームであり、サービスへの参加自体は無料となっています。
人型のアバターとなってテーマパークのようにエリアが分かれたワールドヘアクセスしユーザー同士での会話や自由なオブジェクトのクリエイト、協力あるいは対戦が可能なミニゲームなどを楽しめます。
2019年にサービスの発表があり、2020年から招待制のベータテストが開始している状況で、現段階ではサービス利用中の不具合解析や、モデレーターによる監視とプライバシーのバランス調整といった課題に対応しているとのことです。
サービスが正式にリリースされる頃には、フェイスブック社が展開するその他のVRサービスにとって、ハブのような存在になる可能性が高いでしょう。
VRChat
VRchatは、アメリ力のVRchat社が2018年2月にリリースし、現在最もユーザー人口が多いソーシャルVRプラットフォームです。
アバターやワールドのカスタムの自由度が高く、ユーザーがプラットフォームを活性化させるタイプのサービスといえます。
PCのみで遊べる「デスクトップモード」も用意されておりユーザーの間口が広いのも特徴です。
定期的に開催されるバーチャルマーケット(Vket)では、100万を超える来場者や1000人規模のクリエイターが参加するほどの規模を誇ります。
2021年9月現在で日本語への対応はされていないものの、現在のVRサービスのなかでも日本コミュニティが活発なため、国内デジタルマーケットを世界に発信する場としても注目すべきでしょう。
Rec Room
Rec Roomは、アメリカ・シアトルのVRスタジオ「Against Gravity」が開発するPlayStation®4用ソフトウェアです。
ポップな雰囲気のワールドでパーティーゲームやコミュニケーションを楽しむことができ、一般的なユーザーであれば対象年齢は低めの傾向にあります。
一方、ユーザーのなかにはRec Roomを活躍の場とするクリエイターの存在もあり、ユーザーと運営の双方の働きかけでプラットフォームの充実が続いている点に注目です。
たとえば、録音ツールを運営が新たに発表した際、とあるユーザーが自分で録音した音声をルーム内でガイドやAIコンパニオンの声として聞かせられる仕様をつくりだした一例があります。
このように、運営側が新しいツールを発表すると、一部ユーザーは豊かな発想でゲーム内での使い方を模索するのです。
このしくみができたことで、クリエイターにゲーム内通貨をUSドルに換金するサービスも始まっています。
ソーシャルVRは今後巨大なマーケットとなる
物理的制約を受けずにイベントやコミュニケーションが楽しめるソーシャルVRは、VRデバイスの進化やプラットフォームの増加によって今後さらに主流になっていく見通しです。
Facebook Horizonのような巨大プラットフォームが一般的に認知・普及されていけば、全体のユーザーも増えていきマーケットも拡大していくでしょう。
政策面としては「スマートシティ」構想でVR都市を行き来するアイデアもあります。
いまはゲームやエンターテイメントを主軸とするソーシャルVRですが、より広域にわたってバーチャル空間に独自の社会が形成される鍵となるでしょう。