近年のICT(情報通信技術)、製品の小型化、省電力化などの技術発展にともない、「スマートシティ」という言葉を耳にするようになりました。
スマートシティは次世代に控えるデジタル社会の基盤になることが予想され、世界中の国家プロジェクトとしてその実現が推進されています。
新たなビジネスチャンスが生まれる領域でもあり、いまからでも注目すべきでしょう。
当記事ではスマートシティが秘める可能性に着目し、基礎概要や具体的なソリューション内容、必要となる技術的観点、xRの活用アイデアについて解説します。
スマートシティとは?インターネットを基盤とした都市設計
スマートシティとは、あらゆるITを駆使して都市全体をインターネットにつなげ、効率的に管理・運営する次世代の都市設計です。
ここでの「都市」は、人口の多い都市部だけでなく、地方創生を目的とする地方の町村なども含まれます。
まず都市という構造は、社会生活を営む住民や経済活動を営む企業、それらを管理する行政などが複雑に絡んでいます。
そして、その構造を機能・維持させるため、主に次のような都市インフラ(基盤)による下支えが欠かせません。
- 電気・ガス水道などのライフライン
- 住宅オフィス・商業ビルなどの建設物
- 道路・鉄道などの交通やそこを走るモビリティ
- 医療サービス
- 教育サービス
スマートシティにおいて「都市全体をインターネットにつなぐ」というのは、「都市インフラを情報通信で分野横断的に連携させる」と言い換えてもよいでしょう。
スマートシティの形式としては、広大な更地を開発して新たな都市を構築する場合もあれば、既存の都市に機能として付与する場合もあります。
スマートシティの実現で何が期待される?
スマートシティの実現は、社会全体にDX(デジタルトランスフォーメーション)の普及が進むことを意味します。
DXとは、ITによって人々の生活や社会を高度に進化させようという試みです。
近年日本の都市は、人口減少・高齢化、地震をはじめとした自然災害、感染症リスクなどの課題に直面しています。
これに対しITやデータを活用するテジタル化のアプローチをとることで、従来にはなかったシステムの効率化やサービスの提供が可能となり、それが課題解決の糸口となることが期待されます。
都市がかかえる課題解決に向けた動きは、「SDGs」が掲げる持続可能な社会にも大きく貢献するでしょう。
また、あらゆるものがインターネットでつながり、現実(フィジカル)空間と仮想(サイバー)空間が融合する「Society5.0」の足掛かりとしても、スマートシティの役割は重要です。
スマートシティにおける課題解決のアイデア
都市がスマートシティへと進化することで、都市内で起きているあらゆる事象を観測・管理・制御可能になるといわれています。
これにより、主に次のような課題解決のアイデアを実現できます。
- ヘルスケアや教育、観光などの分野における個人のニーズに応じたサービスの提供
- リアルタイムデータに基づく防災や防犯といったリスクへの迅速な対応
- 行政機関などにおける業務・プロセス・手続きの効率化
- 交通やエネルギーなどの分野におけるオペレーションの最適化
これらは抽象的な内容ですが、具体的なソリューションの構想も多く存在します。
なかでもすでに現実に導入済みであったり、実現に向けた動きが活発化しているアイデアについて以下にご紹介します。
スマートゴミ箱
スマートゴミ箱は、ゴミの蓄積状況をクラウド上でリアルタイムに把握し、満杯になったら通知を出すしくみによって収集作業を効率化する街頭ゴミ箱です。
ニューヨークのタイムズスクエアやフランス、イギリスなど世界50カ国以上の自治体で導入されており、街頭のゴミ問題の解決や、ゴミ収集トラックの出動回数を減らすなどの効果が期待されます。
日本では2020年に森永製菓株式会社が国内で初めて取り入れ、太陽光発電によってCO2コストを削減するスマートゴミ箱を都内数か所に設置しました。
スマートグリッド
スマートグリッドは、既存の電力網を新しく構築し、ITでリアルタイムなエネルギー需要を把握しながら効率良く送電するしくみです。
家庭やオフィス、工場などが消費している電力量を「スマートメーター」によって詳細に把握することで、それに応じたきめ細かな発電を行えるため、供給側は無駄な発電を行う必要がなくなります。
スマートグリッドは再生可能エネルギーや自然エネルギーを積極的に導入する構想も織り込まれており、従来の発電で発生するCO2を削減することで地球環境への貢献も期待されています。
現在は国際的に導入に向けた動きが活発になっており、日本でも太陽光発電制御やスマートメーターの普及などの取り組みを実施しています。
スマートシティの構築に必要となる技術は?
スマートシティを構築するためには、以下4つの技術的な要素が不可欠となります。
- 現実世界のデータを取り込む技術
- 取り込んだデータを通信する技術
- データを処理(蓄積・加工・分析)する技術
- 処理された情報を現実世界へ活用する技術
つまり、都市(現実世界)で起きている事象をデータ化し、そのデータを再び現実世界へフィードバックするサイクルが重要です。
この構図の中心となるのが、「デジタルツイン」という概念です。
デジタルツインは、現実世界(フィジカル空間)の情報をリアルタイムに取得し、仮想世界(サイバー空間)に再現するしくみです。
このしくみのなかで、3DスキャンやIoTなどのセンシング技術がデータの入り口となり、5Gによるデータの高速通信、クラウドによるデータ蓄積やAIによるビッグデータ解析などがそれぞれの役割をこなします。
これらの技術によって、都市が現実世界と仮想世界の二面性をもつようになり、あらゆるインフラ・サービスがスマートシティとして統合されるのです。
デジタルツインとは?VRと何が違う?国交省による「Project PLATEAU」など個別事例も解説
VRをはじめとしたxRの活用
デジタルツインで仮想化した都市のデータは、あらゆる活用の可能性を秘めています。
なかでも、VR(仮想現実)をはじめとした「xR」の活用アイデアがあることにも注目です。
xRのくわしい解説は以下の関連記事からご覧ください。
xRとは?AR・VR・MR・SRの総称|それぞれの共通点と違いを解説
では、実際にスマートシティにxRを活用する事例をご紹介します。
現実のオフィスをVR空間に再現
近年普及が進むテレワークは、社内ネットワークへのリモート接続やWeb会議アプリによるコミュニケーションツールによって実現しています。
移動時間の削減というメリットがある一方、従業員間のコミュニケーションの減少や会社への帰属意識の低下などのデメリットが考えられます。
そこで次なるテレワークの形として考えられているのが、VR空間に再現したオフィスに自宅にいながら通勤するというアイデアです。
従業員が自分とそっくりなアバターでVRのオフィスを移動するようなイメージで、疑似的に直接のコミュニケーションをとれます。
オフィスワークとテレワークが融合した新しい働き方といえるでしょう。
オフィスの再現には、現実のオフィスを空間ごと撮影する「ボリュメトリックビデオ」と呼ばれる撮影技術が主流になるとみられます。
ボリュメトリックビデオとは?エンターテイメントやアートでの応用事例を紹介
スマホをかざすと街の情報がわかるAR
スマートシティでは街に関する情報がすべてデータ化されます。つまり、スマートフォンのカメラやスマートグラスなどのデバイスを通して、そのデータを「見える化」できるAR技術と相性がよいと言えるでしょう。
たとえば、街の建物にスマホのカメラをかざすと、その建物の情報を表示してくれるアプリなどが活用例です。
オフィスビル内部をARで道案内してくれるアプリはすでに存在し、今後は観光地や商業施設、ひいては街全体にも応用できると考えられます。
街全体を対象とする取り組みとしては、東京都で現在進行中の「西新宿スマートシティプロジェクト」における、西新宿全域を対象としたARナビがあります。
このように、移動の効率性と街でのQOL(生活の質)を向上させるARの道案内は今後普及していくでしょう。
スマートグラスができることは?単眼式と両眼式の違いや、代表的な製品についても解説
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VR用3Dモデルでまちづくりとスマートシティ運用をワンストップに
電設資材や住設建材、建築事業などを領域とするパナソニック・ライフソリューションズ社
は、VRで都市計画をサポートする「環境計画支援VR」をサービスとして提供しています。
同サービスは、3D化した都市空間や建築物をVRによってさまざまな角度から確認でき、建設や都市の再開発などのプロジェクトで設計・検証に活用できます。
まちづくりは複数事業者が共同で検討するため、高品質な完成イメージを共有することで、短期間での合意形成をはかることが可能です。
開発に使用した3Dモデルは、施工後の運用・運営のために流用することで、各種スマートサービスのプラットフォームにする構想もあります。
都市全体が3Dモデル化されれば、VRデバイスを用いて現実とバーチャルの街を行き来できる未来もやって来るかもしれません。
都市のデジタル化でxR活用の可能性も広がる
スマートシティは、現実世界のあらゆる情報を取り込み、デジタルの世界にもうひとつの都市を構築する考え方がベースとなります。
そしてデジタル化された都市が、現実世界で複雑に絡みあう都市インフラを最適に制御・運用するのが理想的です。
ARで現実世界から都市のデータを見える化したり、VRでバーチャル化された3Dの都市が生活の一部になったりと、xR分野の活用可能性も広がります。
単体での技術やソリューションは少しずつ実現しており、これらがスマートシティとして統合される未来に期待しましょう。