製造現場の課題解決に注目が集まる産業用ロボット。しかし、産業用ロボットをはじめて活用する企業の方にとって、実際にどのようにロボットシステムを構築し実生産まで至るのか、イメージが湧きづらいものです。また導入や定期的なメンテナンスを自社ですべて行うためには、従業員の教育に時間がかかるという問題もあるでしょう。
産業用ロボットを導入する多くの企業は、ロボット導入の専門家「ロボットシステムインテグレータ」にサポートを受けています。今回は、ロボットシステムインテグレータの具体的なサポート内容、良い企業を選ぶポイント、ロボット導入時の補助金制度について、ご紹介します。
ロボットシステムインテグレータとは?
ロボットシステムインテグレータとは、ロボットを導入しようとする企業に対し、ロボットの活用を幅広くサポートをする事業者のことです。
企業が抱える課題の分析、システム構築、運用といった一連の流れをシステムインテグレーション(SI)と言います。これを行う企業がシステムインテグレータ、通称「SIer(エスアイアー)」です。SIerは「SE(システムエンジニア)」と混同されることがありますが、SIerが企業や事業者を指すことに対し、SEは個人を指します。
ロボットシステムインテグレータは、ロボットに特化したSIerです。ロボットを使った機械システムの導入提案や設計、組み立てなど、ロボット導入の計画時から実際の運用まで、幅広く担っています。
ロボットが生産ラインなどで活躍するためには、動き方のプログラムや周辺設備を整え、現場に合わせたシステムを創り上げなければなりません。自社における最適なシステムを構築するためには、ロボット導入のエキスパートであるロボットシステムインテグレータにサポートをお願いすると良いでしょう。
ロボット導入をシステムインテグレータに依頼した際のプロセス
ロボットシステムのスムーズな構築を目的として、一般社団法人日本ロボット工業会(JARA)は「ロボットシステムインテグレーション導入プロセス標準(RIPS)」を作成しています。
これはロボット導入時の作業工程や作成する書類など、誰もが使いやすいようにまとめられたものです。この流れを知ることで、依頼先との認識のずれから発生する作業の手戻りを防ぐことができる、進捗が分かりやすく問題発生時に速やかに対処できる、といったメリットがあります。
実際の導入において、各業者による細かい作業の違いはありますが、今回はRIPSで定められている自動化システム構築の基本プロセスに沿って、一連の流れをご紹介します。
参考:Robot system Integration Process Standard(『ロボットシステム インテグレーション 導入プロセス標準』)
引合
ロボット導入を検討している企業は、まず他社の事例などを参考にし、導入目的を明確にします。次に実務担当者が費用やスケジュールといった必要事項を検討します。これらの要件をまとめた資料が提案依頼書(RFP:Request For Proposal)です。
作成したRFPをもとに、依頼先企業からシステムイメージについて提案が行われます。この提案内容によって依頼先を決定すると良いでしょう。
関連記事:RFP(提案依頼書)を作成して産業用ロボットの導入をスムーズに
企画構想
現場確認やヒアリングなどを通して、ロボットシステムの企画構想が行われます。自動化の目的やシステム概要などが明確になると、導入の目的や実現方法、想定運用などがまとめられた見積仕様書が作成されます。その後、作業工程やスケジュールなどを決定するための正式見積もりが提示され、ここで依頼をすることでプロジェクト化となります。
仕様定義
産業用ロボットの運用イメージや作業内容などを検討する、最も重要なプロセスです。3D図面などのビジュアルツールを活用して、具体的な運用イメージが提示されます。また導入プロジェクトの進め方、運用におけるチェックポイント・処理方法などを依頼先とすり合わせます。この段階でシステムの全体像が明確になるため、必要に応じて見積もりの補正が行われます。
基本設計〜詳細設計
基本設計では、システムインテグレータが具体的なロボットシステムの方式や詳細の設計を行い、ロボットや必要部品を調達します。依頼主は自動化にかかわるリスクを確認し、安全対策について合意をすることで、設計に反映されます。詳細設計では、基本設計をもとに出荷前テスト仕様が作成され、出荷前の最終確認事項が明確になります。
出荷前テスト
加工や組み立てなどの製造工程後、ロボット単体の動作確認があり、さらにシステム全体での動作検証が行われます。またシステムインテグレータによる出荷前テスト後、工場の経営者も一緒に組み上がったシステムを確認する立会検査が行われます。立会検査が完了したロボットシステムは実際に稼働する場所に移送・据付されます。
総合テスト
立会検査が済んだロボットシステムが実稼働環境に搬入され、据付・調整が完了すると、動作検証が行われます。検証項目は基本設計にて立案した内容です。基本的に、実稼働環境でも出荷前のテストと同じように動くかチェックしています。依頼先のシステムインテグレータが行う最後のテストであり、これ以降は依頼主が主体となって行います。
ユーザーテスト
ロボットシステムを使った実生産をはじめる前に、対象数量を減らして、実際に製造を行い動作確認をします。チェックをする内容には、性能、運用性、信頼性、安全性、メンテナンス性だけでなく、不具合があった際の対応方法なども含まれます。問題が無ければ、本来の製造予定数量にて本稼働をしましょう。
保守サポート
ロボットシステム稼動後、電圧点検など日々の点検、フィルター清掃といった軽微なメンテナンスは依頼主側で行う必要があります。依頼先企業から受けられるサポートとしては、定期点検、定例会の実施、システム不具合の修正などが挙げられます。
システムインテグレータの育成にも活用にも補助金がある
人材不足をはじめとした多くの課題を抱える製造業。こうした問題を解決するために、公的機関はロボット導入を検討している企業に対し、補助金を支給しています。ここでは、経済産業省と日本ロボット工業会が実施している制度をふたつご紹介します。
ロボット導入促進のためのシステムインテグレータ育成事業
「ロボット導入促進のためのシステムインテグレータ育成事業」は、ロボットシステムインテグレーション(SI)事業に関わる企業であれば、経費の一部を助成してもらえる制度です。
ロボット導入の需要が高まる一方で、中小企業などでは、従業員の教育に時間がかかることから自社でシステム構築ができない企業が多いのが現状です。そこで、ロボットシステムインテグレータ不足の深刻化を背景として、この制度ができました。
この制度に申請できる対象は、以下の通りです。
- ロボットSI事業を始める、あるいはすでに営んでいる者
- 協業等によりロボットSI事業を行う連携体
- 地域でロボット導入提案を行う公設試験研究機関・地方自治体
この制度では、ロボットSI事業を行うのに必要な知識や技能などの習得、環境整備、ロボットシステムのモデル構築などを目的とした、経費の一部を助成します。具体的には、ロボット本体や周辺装置などの購入費や製作費、ソフトウェアの使用料・購入費、人件費、安全講習の受講料などが該当します。
ロボット導入実証事業
ロボット導入実証事業では、ものづくり分野やサービス分野におけるロボット活用の支援をしています。2017年度の公募要領によると、補助対象の事業は以下の3つの領域に分かれています。
- まだロボットが活用されていない三品産業(食品・化粧品・医薬品産業)、またはサービス産業におけるロボット導入実証
- 商業施設やテーマパーク、ホテル、飲食店、空港といった公共空間において、接客などのサービスを行うロボットを導入するための実証
- ロボットシステムの導入におけるシステムインテグレーションのコストを削減する設計手法の実証
主に製造業へのロボット活用を支援しているので、導入を検討するなら、チェックしておきたい支援事業です。
参考:「ロボット導入実証事業」の事業者公募を開始します
関連記事:ロボット導入は補助金を活用!知っておきたい受給対象事業と申請時のポイント
導入プロセスを理解した上でシステムインテグレータに依頼する
ロボットは単体では機能しないため、自社で最適なシステム構築ができない場合、ロボット導入を総合的にサポートするシステムインテグレータの存在が欠かせません。
導入を検討している際は、まずロボットシステムインテグレータに相談してみてください。はじめて自動化を検討する企業の方で、わからないことが多い場合は、提案依頼書(RFP)を作成する段階で質問をしたり、依頼先候補の企業と一緒に書類を作成したりしましょう。
また自動化の目的を明確にするのはもちろん、導入プロセスや活用できる補助金制度についても、事前に確認しておくことで、スムーズにロボット導入を進められるでしょう。