近年、さまざまな企業で導入が著しい産業用ロボット。「人件費を最適化したい」、「業務の効率化をはかりたい」といった課題を解決する手助けとなるため、興味を持っている方も多いでしょう。
しかし、法律や費用、従業員への安全対策といった事前に知っておくべき物事も多く、興味は持っているものの検討段階にまで至っていない方もいるかもしれません。
今回は、産業用ロボットの導入を検討する前に最低限押さえておくべき代表的な知識を「法律」「お金」「実務」の面に分けて簡単にご紹介します。
【法律】法律にもとづいた「特別教育」や「安全対策」が必須
産業用ロボットを導入するうえで、法務面でのルールや、従業員の安全面での配慮について把握しておくことは重要です。
産業用ロボットは、一歩間違えれば人が命を失う深刻な人災を招く可能性も大いに考えられます。目先の利益だけで安易に導入を決めた結果、保守運用ができておらず事故が発生してしまった、という事態を回避するためにも、安全面への配慮を徹底しておきましょう。
参考記事:産業用ロボットの事故件数が増加中。事例と責任の所在を解説
大前提のルール「労働安全衛生法」と「労働安全衛生規則」
最初に押さえておきたいのは、「労働安全衛生法」です。労働安全衛生法は産業用ロボットを安全に扱うための法律と規格として、主に以下の3点で定められました。
- 危険防止のために必要な措置
- 安全衛生教育や就業にあたって必要な措置
- 労働者の健康保持や増進の措置
また、労働安全衛生法をさらに詳細な事項として落とし込んだのが、「労働安全規則」です。
たとえば、労働安全規則(第150条の4)により、産業用ロボットは当初柵や囲いによって完全に人と分離しなければいけませんでした。
しかし平成25年12月25日、上記の規則は一部改正が行われます。その結果、出力が80W未満の産業用ロボットであれば、ロボットの周囲に安全策を設置する必要がなくなり、作業員とロボットが協働で業務に取り組める「協働ロボット」の普及が始まったのです。
参考記事:産業用ロボットを導入する時に知っておくべき法律や規則の全知識
参考記事:協働ロボットのメリットとは?流行の背景や定義などの全知識
産業用ロボット業務に携わる“全員”が受ける「特別教育」
産業用ロボットには、不注意による誤操作やメンテナンス不足など、一瞬のミスによって、作業員が命を失う危険性もつきまといます。そのため、産業用ロボットを取り扱う可能性が少しでもある作業員は、「特別教育」を受ける必要があることが法律(労働安全衛生法第59条第3項)で定められています。
「特別教育」とは、ロボットのリスクや日々の運用方法をはじめとした、十分な知識と技術を習得するための講義です。事業者(経営者)は、特別教育を作業員に必ず実施しなければならず、もし怠ると法律で罰せられます。
特別教育の講座は、各都道府県の労働基準協会連合会やメーカーによって定期的に開講されています。産業用ロボットの導入を検討している場合、開催日時や場所、費用などを必ず確認しておきましょう。
参考記事:産業用ロボットの作業には資格が必須。特別教育の講座内容も解説
事故を起こさないための工夫「安全対策」
特別教育は、労働安全衛生法で定められている「安全衛生教育や就業にあたって必要な措置」であり、「危険防止のために必要な措置」に相当するのが、安全対策です。
産業用ロボットによる事故の可能性をゼロに近づけるためにも、企業には安全対策を徹底する必要があります。「安全柵の設置」と「センサーによる安全確保」が、安全対策の主な手法です。
安全柵の設置は、作業員とロボットを分離でき、安全性が確保されます。ただ、作業員が点検などで柵の中に入る必要があることも多々あるため、開口部やドアに危険エリア侵入を検知、警告するためのセンサーが求められます。このように、ロボット活用にあたって、常に危険性を回避できるような環境を整えることも必須です。
参考記事:事故を起こさないために。産業用ロボットの危険性と安全対策を正しく理解しよう
【お金】産業用ロボットの減価償却と耐用年数
経営者は、安全への対策を講じることはもちろん、産業用ロボットの導入費用をしっかり回収できるプランを考える必要があります。「どのくらいの期間でコストを回収して利益が生まれるのか」この計算をするときに必要な考えが、「減価償却」と「耐用年数」です。
産業用ロボットのような高額な設備を購入したとき、その全額を費用として計上してしまうと、その年度だけ支出が極端に増え、利益も大幅に低くなります。しかし、その翌年からロボット活用によって利益の増加が見込めるでしょう。
これでは企業の正しい業績動向がつかめず、経営の計画を立てるのが困難になってしまいます。そこで「設備の利用期間をもとに、費用を分散して計上する」減価償却が重要なのです。
減価償却は、「資産が利用に耐える」とされる「耐用年数」をもとに計算が行われます。これは財務省が「法定耐用年数」として定めていますが、ロボットの耐用年数は種類や作業内容によって異なります。
「今の財政状況ではどれほどの期間で導入費を回収できるのか」を念頭に置いて、減価償却の計算を行わなければいけません。
参考記事:産業用ロボットの耐用年数は?固定資産の減価償却を正しく理解する
【実務】産業用ロボットの業務は専門性が高い。ロボットSlerの重要性
産業用ロボットは、本体を購入すればすぐに使えるわけではありません。「どのような作業を行うのか」プログラミングする、「ティーチング」と呼ばれる作業が必要です。
ティーチング方法はロボットによって異なります。PC上でプログラミングを行う方法だけでなく、ロボット本体に接続しているコントローラーを使ったり、アーム部分を直接動かしたりするなど、操作感や難易度もさまざまです。また、ティーチングを行う際は「産業用ロボットへの教示当作業者」という特別な教育を修了しなければなりません。
しかし実際のティーチング作業では、プログラミングの専門知識が要求されたり、ロボット複数台の動作やタイミングを正確に合わせて制御させたりする必要があります。
簡単な教育を受けた従業員であれば、ロボットの日常的な点検作業などはできるようになるかもしれませんが、ティーチングをはじめとしたプログラミングや自動化システム全体の構築といった業務は難しいでしょう。
こうしたロボットにまつわる専門知識や技術を有しているのが「ロボットSIer(システムインテグレータ)」です。自動化システムの導入設計やロボットの組み立て、ティーチング作業などを行ってくれます。
産業用ロボットを導入するほとんどの企業は、過去に導入経験がありません。こうした企業の不安や悩みに寄り添い、最適な提案をすることもロボットSIerの役割です。「ロボットの導入に興味があるが、わからないことがある」という方は、ロボットSlerへ相談をしてみるとよいかもしれません。
参考記事:ロボットシステムインテグレータとは?導入プロセスや補助金を紹介
参考記事:【資格取得が必須】産業用ロボットの主なティーチング方法4選
さまざまな視点から情報を収集し、ロボット導入の検討材料にする
産業用ロボットは、費用面でも運用面でも安易に導入を決められるものではありません。その反面、最適な規模で導入ができれば、作業効率を飛躍させられるほか、利益を生み出せる可能性を秘めています。
産業用ロボットを自社に導入すべきか検討するためにも、法律面や金銭面、実務面など、さまざまな視点から情報を収集しましょう。